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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(411)

第六章 「血と技」(411)

 なんだかんだでそのまま二十分ほども立ち話しをしてしまった。
 このままでは香也と約束した時間に遅れる、ということで、昼食はマンションに帰ってから作るのではなく、どこかで調達していこう、ということになり、荒野が駅前まで出て牛丼弁当を買ってくることになった。牛丼にしたのは、茅からのリクエストがあったためだった。
 茅と沙織は、その間にマンドゴドラに寄ってくる、という。たまには顔を見せにいきたいし、お茶うけになる菓子も欲しい、といったところだろう。あるいは、日参してくれる酒見姉妹へのお礼代わり、というニュアンスも含んでいるのかもしれない。
 そのようなわけで一度、荒野は茅、沙織の二人と別れた。といっても、駅前もマンドゴドラもすぐそこで、いくらもしないうちにマンションで合流する予定ではあったが。
 荒野は商店街のアーケードを抜け、目当ての牛丼屋をめざす。ひさしぶり、というほどでもないのだが、期末試験に入ってからこっち、荒野は商店街に来ていなかった。こうして平日の昼間に見る商店街は、普段利用する夕方と比べても、よほど閑散としてみえる。

 駅前のチェーン展開している牛丼屋で特盛り弁当四つを購入し、来た道を戻っていくと、商店街アーケードの中程で作業服姿の孫子と出会った。
「よう」
 荒野は、何人かの男たちに、二トントラックから足場材を降ろす作業をしているらしい孫子に、とりあえず声をかけてみる。
「何やってんだ、こんなところで?」
「え?
 あっ。加納か……」
 背後から声をかけられ、振り向いた孫子は、事務的な口調で説明をしはじめる。
「……試験休みと春休みを利用して、香也様に、商店街のシャッターに絵を描いてもらうことになっています。そのための、下準備です……」
「……あー……。
 そんな話しも、していたっけかなぁ……そういや……」
 荒野も詳しく聞いたわけではなく、何かの雑談のおりに、小耳に挟んだ、という程度だったが……いわれてみれば確かに、そんな話しも聞いたような気がする。
「でも、彼……覚えているかな?」
 荒野はそういって首を傾げた。
「たとえ忘れていても、絵に関する約束を香也様が反故にするはずがありません」
 孫子は、やけに自信たっぷりな物言いをした。
 ……そんなものかも知れないな……と、荒野も納得をする。
「……そのかわり、香也様が不自由をしないように、こちらの方々に話しを通して、足場を組んで、塗料を用意して……細々とした下準備はすべてこちらで用意するわけですから……」
 そういう細かな雑事を厭わない、という側面も、これで孫子は持ちあわせている。
「……試験期間中なのに、ご苦労なことだな……」
 揶揄しているわけではなく、本気で荒野は孫子にねぎらいの言葉をかけた。
「試験直前に慌てて勉強をする必要がある、というのは、普段さぼっている証拠です」
 孫子は、きっぱりといいきる。
「普段からなすべきことをなしていれば、直前に慌てる必要はありません」
「……そういうことは、玉木あたりにじっくりと言い聞かせてくれ……」
 荒野はそういって孫子に別れを告げ、マンションへと向かう。

「……って感じで、才賀のやつも、休みにむけていろいろ画策しているみたいだった……」
 牛丼特盛り弁当をみんなで囲みながら、荒野はついさっきの出来事を報告する。普段、食卓を囲みながらあれやこれやを茅に報告・相談するのが習いになっていたので、荒野にしてみれば違和感がなかった。
「才賀の令嬢が、ですか……」
 源吉が、なんともいえない微妙な表情になる。
「あの方も……難儀な性格ですなぁ……」
 どうやら、この土地にとどまって涼治に報告するための監視活動をしているらしい源吉は、当然、孫子の詳細についても知っているわけだった。
「鋼造さん、あいつを普通の庶民にしたくて……それが無理でも、そういう感覚を学ばせたくて、こっちに住まわせているのに……」
 荒野も、頷く。
「……絶対、普通の範疇に収まっているたまではないよな、あいつ……」
「荒野君も……」
 ここで、沙織がくすりと笑った。
「……人のこといえないじゃない」
「いや……そういわれると、そうなんだけど……」
 今度は荒野が、なんとも微妙な表情になる。
「……少なくともおれは、普通になろうと努力はしているんですよ。
 これでも……」
「どう振る舞おうとも……」
 今度は茅が、口を挟んだ。
「荒野は、荒野なのに……」
「羊の皮を被っても、狼は狼、というわけですな」
 源吉も、茅の言葉に頷く。
「若の……その、一般人社会にとけ込もうとする努力自体は、大切だとは思いますが……」
「……あー。
 源吉さんまで、そんなこというかなー……」
 荒野は故意に、少し不機嫌な声を出す。
「……これでも、それなりにうまくやっていると思うんですけどねー。
 むしろ、うまくいきすぎていて怖い、っていうか……」
「……荒野、いつもそんなこといっているの」
 茅が、即座につけ加えた。
「そうした幸運を呼び込んでいるのも、荒野自身の行動なのに……」
「荒野君は、何でも自分でやりたがるタイプね。意外と」
 沙織が、荒野の分析をする。
「自分の目の届かないところでいろいろ動いていると、とたんに不安になるタイプ。
 リーダーなんてものは、細かいところは他人任せにして、あとはどーんと構えていればいいのに……」
「……最近は、そういうのにも慣れようとしているの」
 茅が、荒野を評する。
「荒野は……まだまだ……他人任せにしていることに、フラストレーションを感じているの」
「この年で、そんなに悟れやしません」
 荒野はそういって胸を張り、湯呑みのお茶をずずずとすすった。
「あっ……。
 たまの日本茶も、いいなあ……」
 試供品として静流の店のチラシに付属していたものを、早速使っていた。
「……香りも味も、いいよね、これ……」
 沙織も、湯呑みを両手に抱えるようにして、傾ける。
「牛丼みたいに味が濃い食べものに負けていないんだから、そうとうなものよ。
 帰りに買っていこうかな?」
「……野呂の姫が、ねぇ……」
 源吉は源吉で、またまた複雑な表情になる。
「あっ。そうだ。
 源吉さん。静流さんとジュリエッタさんの対決映像、ありますよ。
 ネットに繋げばすぐに見ることができますけど、あとで見ますか?」
「あっ。
 それ、わたしも見たい」
 荒野が提案すると、源吉が答える前に沙織が応じる。



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