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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(396)

第六章 「血と技」(396)

 初っぱなにシルヴィと静流という予想外の来訪者はあったものの、その日の午後も平穏無事に過ぎていく。夕方頃、食材を抱えた酒見姉妹が転がり込んできて、入れ替わりに香也が隣の家に帰っていくのも、昨日と同じだった。まだ二日目ではあったが、試験時の生活パターンというものがすでに出来てしまっている。
「お前ら、向こうの家は留守にしていいのか?」
 茅と一緒に夕食の支度をしている酒見姉妹に、荒野は尋ねてみる。
 ようは、向こうの家……つまり、現象とその監視人たちの様子が知りたかったわけだが……。
「……問題、ありません……」
「……あのへっぽこ佐久間めは、最近ではめっきりおとなしいもんでございます……」
「……おとなしい、というか……」
「……朝から遅くまで、あちこちに飛び回っている有様でして……」
 荒野自身も何度か顔を合わせたりしているので、最近の現象が、独自の路線を目指して動き出している……ということは、知ってはいる。
 ただ、今の時点では、この土地に流れてきた一族の者たちと普通に接している、ということ、それに、昼間は徳川の工場に出入りして、テン、ガク、ノリたちの活動を子細に見学はじめたことなどは、荒野も掴んではいるのだが……。
「……舎人さんたちがあれだけべったりくっついていれば、間違いは起こらないだろうけどさ……」
 荒野が聞きたいことは、そういうことではない。
「あいつ……こっちで……つまり、春から通いはじめる学校で、うまくやれそうか?」
 それなりに非常識な面を持つ酒見姉妹にこういうことを聞くのもなんなのだが……参考意見は、今のうちに聞いおいた方がいい。
 何しろ、今度の春から、現象たちは荒野と同じ学校に通うことになる。現象がなにかしでかせば、荒野たちにも少なからず影響が及んでくる可能性が大きいわけで……だから、荒野は、現象についての情報が欲しかった。
 ようは……現象は、普通の日常生活がおくれるくらいには、常識的な振る舞いをすることが出来るのか……ということを、確認しておきたかった。
「「……その点は……」」
 荒野の意図をようやく察して、酒見姉妹は顔を見合わせる。
「……おそらく、心配はないかと……」
「現象は、どうも、本気で……」
「「一般人の中にとけ込もうとしているようです……」」
 二人の見解は、荒野が断片的に集めてきた情報から推察できる結論と一致する。
 もちろん、現象なりの目算なりがあっての選択なのだろうが……。
『たとえ当面のことであっても……おとなしくしてくれるのであれば、歓迎すべきか……』
 荒野は、そう思う。少なくとものべつなく問題を起こされるよりは、いくらかマシというものだ。
「ねぇねぇ……」
 沙織が、荒野に予想外の興味を示してきた。
「……さっきからぽんこつとかへっぽことかいわれている、その、現象って人? その子、佐久間ってことだけど……その佐久間って、おじいさんと同じ佐久間ってこと?
 そんな人がここに来ている……来年から、うちの学校に通うっていうこと?」
 沙織の目が、輝いている。
『……そういえば、この人……』
 荒野は、昼間、沙織がイザベラの話しにくいついてきたことを思い出す。その後沙織は、シルヴィから強引にイザベラの居場所を聞き出してもいた。
 荒野も、今日まで知らなかったのだが……どうも沙織には、「ヘンな人間マニア」という側面があるらしかった。
 荒野はちらりと源吉に視線を走らせ、源吉が軽く頷くのを確認してから、沙織に現象のことを話しはじめる。
「……現象は、佐久間っていっても、かなりイレギュラーな存在で……。
 純粋な佐久間というより、茅たちに近い。
 オーソドックスな佐久間は、どちらかというと現象本人よりも、現象の監視役としてついてきている梢の方で……」
 そもそもの最初……現象が、学校を襲ってきた前後のことから、生い立ちから最近の様子まで……荒野は、簡単に説明しはじめる。行きがかり上、茅やテン、ガク、ノリの出自にも触れないわけにいかなかったわけが……その段になってアイコンタクトをとると、茅ははっきりと大きく頷いたので、荒野は下手な省略やごまかしをせず、正直に説明することにする。つい先頃、真理に対して行った説明と重複する部分が多かったせいもあって、荒野の口はなめらかだった。沙織に以外の、この場にいる全員にとっては既知の情報だったが、荒野の説明を遮る者はいなかった。茅などは時折、荒野の説明でわかりにくかったりしたところを、補足説明したりする。

「ぽんこつでへっぽこの佐久間、現象君、かぁ……」
 準備を含めた夕食の時間を半ば費やし、長々とした説明を終えると、沙織は軽くため息をついた。
「……昼間いってた、放蕩娘のイザベラさんといい……荒野君も、大変ねぇ……」
「ええ。まぁ」
 荒野は、頷く。
「問題児の抑制が、ここでのおれの仕事……みたいなもんだと、思っていますから……」
 当然のことながら、荒野は……それでも、現象の背後にいた謎の襲撃者、悪餓鬼どもについては、沙織には、伏せたままにしておいた。
 一般人である沙織を、これ以上、危ない方面に巻き込むわけには、いかない。
 荒野や香也の勉強をみてやるのとは、リスクが違いすぎる以上……こっち方面の情報を下手にちらつかせて、沙織に興味を持ってもらっては、困るのだった。
「イザベラさんには、近いうちに……そうね。
 試験休みでも、ご挨拶に伺うこととして……」
 沙織は、不穏なことをさらりと口にした。
「……その、現象という子にも、そのうち会う機会はあると思うの……」
「……って、先輩っ!」
 荒野は、すかさずつっこむ。
「先輩……今年で、卒業でしょう?」
「もちろん、卒業はするけどぉ……」
 沙織は、ことさらゆっくりとした口調で、荒野に答える。
「……ボランティアとかの活動も、あるからぁ……。
 茅ちゃんとはこれからもおつき合いさせていただくわけだし、特に春休みとか試験休みとかの長期休暇の時は、徳川君の工場にお邪魔することもありえるしぃ……。
 そこでばったっり現象君と梢さんに出会って、仲良くなることは、十分にありえるわよねぇ……」
 荒野の額に、たらりと汗が滲む。
 案外……沙織先輩は、荒野が考えていた以上に、一筋縄ではいかない人……なのかも知れない……。

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