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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(389)

第六章 「血と技」(389)

 いつものように、全裸になって二人で抱き合って眠る。
 荒野と同年輩の日本人は、こんな状態で異性と抱き合って寝るものではない、という常識くらいは荒野にもあったが、今となってはこれこそが荒野の日常、なのであった。
 いつもと違うのは……。
『……なんだか……』
 荒野がいつもより、茅の心音と体温とを、強く意識してしまっている……ということだった。
 ただし、欲情……というのとは、少し、違うらしい。自分の体の状態を鑑みて、荒野はそう結論する。荒野のソコは、そこそこの充血をしていたが、完全に硬直しておらず、ぐんやりとしている。また、心理的にみても、茅や他の女性を欲する飢餓にも、覚えがない。どちらかというと、最近の荒野は性行為に食傷気味でさえある、
「……荒野……」
 めざとく、茅は、荒野の目が冴えていることを感じ取ったようだった。
「……眠れないの?」
「うん。ちょっと」
 荒野は、茅の言葉を素直に肯定する。
 ひときわ鋭敏な知覚を持つ茅に、こんなことで嘘をつくのが無駄なことは、荒野も重々わきまえている。
「なんだか……いろいろなことを考えちゃって……」
 荒野に考えごとが多いのは今にはじまったことでもないのだが、とりあえず、そういっておく。
 実のところ、荒野自身にも、何故今夜に限って目が冴えているのか、よくわかっていない。
 どちらかというと……。
『まだまだとっちらかってはいるけど……』
 問題児も含めて、だが、一族の関係者が多数、流入し、一般人社会との融和が、限定的にではあるが、始まってしまっている。また、荒神や静流など、六主家の本家筋の者もきているので、荒野以外に求心力となる人が来てくれている。などなど……。
 少し前と比較すれば……荒野自身の負担は、大幅に軽減しているのだ。
『……どちらかというと、楽をしているんだよなぁ……。
 おれ……』
 というのが、偽りない荒野の本心だったりする。
「……立場の割に……何にもしてないよな……」
 ぽつり、と、荒野が小声で呟く。
「今のこの状態を呼び込んだのは、荒野自身なの」
 茅は、もぞもぞと体を動かし、自分の胸に荒野の首を押しつけるようにして、抱く。
「子供の頃……」
 茅は、囁いた。
「……寝つけない時、仁明が、こうしてくれたの」
 この体勢だと、茅の心音が、やけに大きく聞こえた。
「茅の……鼓動が、聞こえる」
「そう」
 茅は、荒野の髪の毛を、指でやさしく梳く。
「この音を聞くと、ひどく落ち着くの」
 ……だから、荒野も……このまま寝ていいの……という茅の声を聞き終える前に、荒野はすとんと眠りに落ちている。
 思えば、前夜、荒野はろくに寝ていないのであった。

「……あれ?」
 目が覚めると、窓の外がいつもよりも明るくなっている。慌てて時刻を確認すると、普段の起床時間より一時間以上、遅い。学校へは余裕で間に合うけど、朝のランニングへは、いけない。
 上半身を起こしてベッドの上をみると、茅の姿はない。
 どうやら、先に起きているようだった。そもそも、荒野自身も、起きるべき時刻には自然に目が覚めるよう、体を作ってきているつもりだったのだが……。
『……それなら……』
 なんで、荒野も起こさないのか……と、疑問に思いながらも荒野は起き上がり、着替えてリビングにでる。
 リビングでは茅が、素知らぬ顔をして朝食を作っていた。お馴染みの、トーストと紅茶の香り。
「あー……茅」
 荒野は、挨拶もそこそこに、話しかける。
「その、ランニング、は?」
 何故か、及び腰になってしまう。
「試験期間中は、自粛なの」
 打てば響くようなタイミングで、茅は答えた。
「外聞……ご近所の目もあるから、試験期間中は休むの」
「まあ……ご近所の目は、大切だしな……」
 そういういわれ方をすると、荒野としても納得するより他ない。
 実際、大勢で毎朝走っている……それも、どうみても未成年者にしか見えない者も混ざっている荒野たちの一団は、目立つか目立たないかといえば、どう贔屓目にみても目立つのである。早朝の時間帯にしか団体で動かないのと、早々に河原という人目が極端に少ない場所に移動するから、まだしも話題性がないだけであり……それに、毎朝、顔を合わせる少数の人々には、愛想良く挨拶をしているから、変に噂にはなっていないのだが……。
 世間の評判は、大切にしなければならない……というのは、荒野たちが目指していることを考えれば、一番の大前提なのだった。
「それに……荒野。
 今朝はよく寝ていたの」
「それについては、わかったけど……」
 荒野は、軽く眉間を指でもんだ。
「……朝っぱらから裸エプロンはやめてくれ、茅……。 
 頼むから、普通に服を着て……」
 荒野は、今でも時折、茅の思考形態をトレースできなくなる。いや、荒野のキャパシティでは理解しきれない部分があるのは以前からだったが……最近では、それに拍車がかかってきているような……。
 そう。
 茅自身が自分の判断で動き出すようになって、事務的な作業や他人との共同作業にあてる時間が増えいた。学校にいる時間と、そうし作業にあてる時間は、流石に茅も奇行に走るわけにはいかないのだろうが……。
 逆にいうと、それ以外のプライベートな時間では、茅は、自分の奇行をセーブしようとはしない。
 で、その茅のプライベートな時間、というのは、だいたいのところ、荒野が一緒にいる時間……ということになるのだった。
『もうすぐ、試験休みと、春休み……なんだよなぁ……』
 今の期末試験が終われば、自動的に学校は休みに入る。そうすると、茅と一緒に過ごす時間は、格段に増えることになるだろう。
『それはそれで、嬉しいことなんだけど……』
 同時に、今よりも格段に気疲れをすることになるだろうな……おそらく、きっと……。
 などと、荒野はそんなことを考えている。
 何のことはない。
 荒野にとって、一番の関心事は、一族や新種、悪餓鬼たち……といった事柄よりも、茅のご機嫌をとること、なのであった。
 そして荒野自身は、そのことをあまり自覚していない。


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