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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(386)

第六章 「血と技」(386)

「あ。おいし」
 一口、食べただけで、佐織はそう声をあげる。
 お世辞をいっている口調ではない。
「茅、カレーが好きだから」
 荒野はすぐに応じる。
「週に一回以上は作るし」
「むぅ」
 茅は、少しむくれた。
「うまいんだから、いいじゃないか」
 荒野は慌てて取り繕う。
「はい」
「茅様は本当に、お料理がお上手で……」
 なんだかんだで頻繁にこの部屋で食事をしていく酒見姉妹が、荒野の言葉に追随する。
 お世辞か本心か、といったら、どちらかといえば本心だろう。
「レシピに書いてある通りに作ればいいだけだから、料理は簡単なの」
 茅にとってはそうなのだろうな……と、荒野は思う。
「……これも、どこかにレシピが載っていたのか?」
 荒野は、真面目な顔をしてルゥを乗せたスプーンを持ち上げる。
 本日のメニュー。ひじきと白菜のカレー。
「茅のオリジナルなの」
「そうだと思った」
「和風だしのカレーというのも、なかなか乙なものですな」
 源吉も、しごく真面目な顔で頷く。
「カレーうどんの例からもわかるよに、カレーと鰹節は、案外相性がいいの」
 茅も、真面目な顔をして頷く。
「具は、いろいろ工夫した方が飽きないし、栄養的にもいいの」
「……確かに失敗しにくいけどね、カレー」
 この面子でカレー談義……という状況も、現在荒野が置かれている立場の複雑さを物語っている……ような、気がする。
「時に姫様。
 昼間のシステムのことですが、及ばずながらこの源吉もお手伝いさせていただきますぞ。
 昼間の説明でおおよその概要は把握しましたし、この姿を人目に晒すわけにはいきませぬが、ネットを介しての強力ならば、問題もないし造作もない」
 涼治が、そんなことをいいはじめる。
「……昼間のシステムって……学校のアレ?」
 沙織が軽く首を傾げた。
「学校のと、あと、地域ボランティアのも、源吉にみてもらったの」
 茅が沙織の問いに答える。
「コードはともかく、構想はなかなかのものです」
 源吉が、荒野に頷いてみせる。
「一般人との共生を目指す若の理念とも合致しますし……このまま参加人数が増え続ければ、実質、この町をすっぽりと覆う監視網としても機能する可能性があります」
「ボランティアの方、人数、増えているの?」
 荒野は、茅に確認する。
 源吉が指摘したことは、荒野が以前、考えたことでもある。期せずして同じ結論に達した、ということだろう。
「ぼちぼちなの」
 茅は簡単な説明をしはじめる。
「生徒の家族とか商店街の経由で、ペースはさほどではないけど、じわじわと増加しているの」
 現在は倉庫街の一部に点在する放置ゴミの処理を中心にやっているわけだが……宇働たちが中心になって分別方法のマニュアルをしっかりと整備したことと、二十四時間体制で数名の一族の者を配置して治安を維持し、ボランティアの人たちに的確な指示を出せるようにしたこと、電子予約制度で、参加する時間を自由に選択できるようにしたこと、ゴミが撤去された場所については、リアルタイムでネット上でレポートしているので、誰にでも進捗状況が確認できる透明性……などの諸要素が互いに影響しあって、定期的に手を貸してくれる人は増えているらしい。
「……以外に、女性の参加者が多いの……」
 野外での、いわゆる3K仕事であるが、希望者には孫子の会社のロゴが入った作業着を貸し出していることもあって、フィットネスやジムにでも通う感覚で気軽に参加する人が少なくない……らしい。
 もちろん、本当の力仕事は男性や一族の者が担当するわけだが。
「今では、一族と一般人……だけではなく、普段はあまり接触する機会がない、倉庫街の人たちと町の人たちのが接触する場にもなっているの」
 接触点……一種の、ゆるやかなコミュニティらしきものが、できつつあるらしかった。
「……そんなに頻繁に参加しない人でも、SNSには参加できるの。
 ボランティアのSNSに参加しようする人は、地縁や人の縁がある人で……」
「ボランティアに参加しなくても、情報源としては機能する、と……」
 沙織が、頷く。
「何か変わったことがあれば、知らせてくれるの」
 茅は説明を続けた。
「それとなく、防犯のために不審者を見かけたら教えあおう、みたいな呼びかけも行っているし……そういう情報操作を得意とする人もいるの」
「しかしまあ……学校に通いながら、よくそこまで把握できるもんだ」
 だいたいの説明を聞き終えた荒野は、半ばあきれた。
 最近、茅がパソコンを操作する時間が増えていたのは、そうした情報収集をする必要があったため……でも、あるらしいかった。
「実際に動いているのは、有働や才賀、一族の者たち、地元の人たち……。
 今の茅にできるは、全体像を把握することくらいなの……」
「……いや、実質、おれよりはよっぽど働いていると思うけど……」
 荒野が今まで、この土地で何をやってきたのか……というと……。
「……トラブル処理、っていえば聞こえはいいけど、ようするにその場しのぎの対症療法だけだもんなぁ……」
 こうして改めて考えてみると、茅の勤勉さに頭が下がる思いだった。
「荒野は、荒野にしか出来ない仕事をやっているから、今のままでいいの。
 一族関係のトラブルは、荒野しか抑えられないことが多いの」
「いや……確かに、それはそうなんだけど……」
 一族が相手なら、たいていは、荒野自身が出向けば何とか事が収まる。
 言い換えれば……。
『おれは……自分の出自にあぐらをかいているようなもんか……』
 一族の中で荒野が一目置かれるのは、だいたいにおいてその血筋が理由となる。副次的には、「最強の弟子」という肩書きから、実力を認めてくれる。
 しかし、茅が誰かに一目置かれるとすれば……それは……。
『茅が、茅自身だからだろう……』
 と、荒野は、思う。
 荒野は……以前、隣家のプレハブで香也の絵を見つけた時に感じたような、不意に自分の足下の地面が不確かにような、心細さを感じていた。
「荒野くんは、荒野くんでしょう」
 沙織が、荒野の不安を見透かしたかのような言葉をかける。
「誰でも、結局、自分にしか出来ない仕事は自分で見つけるしかないのよ」



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