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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(385)

第六章 「血と技」(385)

『……ちょっと、なんでここに長老が飼っていた佐久間がいたりするわけ?』
『しかも、難しい顔してジャガイモの皮、剥いているし……』
 酒見姉妹は、夕食の準備をする茅の手伝いをしながら小声で囁きあっている。
 非常に、居心地が悪そうだった。
「覚えておくとよいぞ、若いの」
 顔もあげずに、源吉が、ぼそりと呟く。
「お主らが佐久間に接する機会は少ないかと思うが……佐久間は、他の術者と比べても、目も耳も聡い」
 酒見姉妹にしてみれば、感情の籠もっていない声が、なおさら不気味だった。
 死んだ筈の者がじつは生きていた……というのは、この世界ではさほど珍しくないが……長老直属、ということになれば、話しは別である。
「源吉は先輩のおじいさんなの」
 たん、と、茅が包丁を使っていた手を止めた。
「それだけ。
 だから、源吉のことは他言無用。必要以上に関わらない方がいいの」
「そ、それは、もう……」
「滅相もない……」
 酒見姉妹は、すっかり及び腰になっている。
「わたしたち、佐久間というと、現象のポンコツとかしか知らなかったもんだから……」
「本物の佐久間って、どうなんかなーって興味があるだけで……」

「……荒野くんのところ、いつもこんな調子なの?」
 すぐ背後で展開される会話を聞きながら、沙織が荒野に話しかける。
 沙織は、「お客さん」ということで、茅の一存で夕食づくりからははずされていた。源吉は、「自分の都合で押しかけてきているから」と自分で手伝いを買って出た形だ。
「それはもう、賑やかなもんですよ。
 それこそ、疲れるくらいに……」
 荒野は自嘲混じりにそう答えるしかなかった。
「うちらの内部でもいろいろあるし、その中で共存とかしつけができてないガキどもとか、問題がいろいろと山積みってやつで……」
「その割には、まだ余裕があるようだけど……」
 沙織は、ふっと笑って荒野に指摘した。
「荒野くんの場合……そういうのより、私生活の方が大変だったりして」
 荒野は、しばらく二の句が継げなかった。
「そ……そういや、彼、もう一人の狩野くんの方の印象はどうです?」
 ということで、荒野としては不器用にでも話題を逸らしにかかる。
 香也は、「もう晩ご飯だし、あんまり長居しても」ということで、すでにこの場を辞していた。
「……んー。
 彼もなかなか、面白い子ねー……。
 彼、絵を描いているんだっけ?
 そのせいかどおうかわからないけど、今の時点での成績はともかく、集中力はすごいと思うし……」
 沙織は、おそらく荒野が露骨に話題を逸らしたのに気づきいるのだろうが、それでもそれに乗ってくれる。
「でも、驚きました」
 酒見姉妹の……おそらく、妹の粋の方だ。
 その、酒見姉妹のうちの一人が、サラダの大皿をテーブルに持ってきつつ、荒野と沙織に話しかける。
 最近になってようやく、荒野にもこの二人の見分けがつくようになってきている。
「加納様の学校に佐久間の血縁者がいて、茅様とこうして親しくしているなんて……」
「おれも、先輩と知り合った時はかなり驚いたけどな……あの時はあの時で、それなりにバタバタしたし……」
 そこまでいって、荒野は、ひとつの可能性に思い当たった。
「……源吉さん。
 源吉さんがここにいるのって、本当にうちのじじいの差し金じゃないんでしょうね?」
 仮にそうだったとしたら、素直に答えるとも思えないのだが……むしろ、酒見姉妹や沙織に聞かせるためのパフォーマンスとして、あえて尋ねてみる。
「命じられた仕事はこなしておりますが、私事についていちいち報告する義務はありません。
 涼治は、わしが今、ここにいることも知りません」
 荒野の問いには直接答えていない、どうとでも解釈が可能な回答だった。
 そのことに沙織も思い当たったのか、「ふっ」と軽く息を抜く。
 酒見姉妹は、源吉が「長老」を敬称抜きの名前で呼んだことに驚いて、その場で身をすくめて一瞬、体を硬直させた。
「……そっかぁ……」
 沙織は、どこか楽しそう顔になった。
「おじいさん、こういう世界で、こういう仕事していたんだぁ……」
 沙織にしてみれば、茅や荒野の……というより、「今まで知らなかった祖父の一面」を知ったことの方が、嬉しいのかも知れない。
『いろいろ、家庭内であるようだし……』
 沙織にとって源吉の存在とは、自分の家族が幸福だった時の記憶に直結しているのかも知れない……と、荒野は勝手に納得をする。
 そんなやりとりをしているうちに、涼治がテーブルに戻ってくる。
「もういいの?」
 荒野が気軽な口調で尋ねると、
「後は煮込んで、アクをとるだけなの」
 源吉ではなく、茅が答えた。
「今日は姫から、いろいろと勉強になるものを見させて貰いました」
 テーブルに着くと同時に、源吉は荒野に話しかける。
「姫がなにをやろうとしているのか……はじめて、理解した気がします。
 これを見越して仁明が姫を育てたのだとしたら、実にたいしたものですが……」
 いきなり仁明……父の名が出てきて、荒野は少し動揺したが……動揺した、という事実を自分でも不可解に思ったが……内心の乱れを外側には出さないように努めながら、荒野は源吉に指摘する。
「あのシステム、確かに茅とか楓がメインでやっているようだけど、それ以外にもうちの学校のパソコン部の部員とか……それに、沙織先輩も関わって、とにかく、みんなで構築したもんだから。
 とにかく、特に茅だけの、って話しでもないんだけどね……」
「そういうおじいさんも、さっき茅ちゃんを手伝をしていたじゃない」
 澄ました顔で、沙織も荒野の言葉を補足する。
「もはや……」
 源吉は、破顔した。
「われらの時代では、ないのですな……」
 源吉のその一言は、荒野にはひどく重く響いた。
 荒野や茅が今、この土地で行ってきていることは……確実に、古い一族の在り方を終わらせようとしている行為なのだ。
 一族全体にとって、それがいいことなのかどうか……これまで成り行きに引きずられて来た荒野には、客観的な判断を下すことのできる立場には、ない。
「……そういや、源吉さんは……」
 荒野は、話題を変えることにした。
「おれのおやじのこと……知っているんだよね?」
 源吉が活躍していた時期と仁明が活躍していた時期とは、時代的にいっても重なっている。源吉はさっき仁明の名を出したばかりだし……。
「……仁明、ですか……」
 源吉が、懐かしそうな顔になる。
「あれは……随一の、曲者でしたな……。
 最強がただ一人、届かなかった相手……」 


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