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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(384)

第六章 「血と技」(384)

 優雅に紅茶を喫しながらソラで荒野の個人教授をする沙織、その沙織から時折水を向けられる時以外、黙々と自習を続ける香也。香也は、沙織に問いかけられる時に、疑問点をまとめて質問していたので、荒野は「やはり、こういう自習状態に慣れているのだな」という認識を新たにした。そして、茅の方はというと、いつの間にか身を乗り出している源吉へかなり熱を入れた様子で、なにやら難しそうな専門用語を並べ立てている。簡単な英単語が荒野の耳にも聞き取れたから、半分くらいはプログラム関係の用語だと思うのだが、後の大半は荒野にも聞き取れない、耳慣れない用語だった。意外なことに、源吉の方も茅の説明する内容にかなり身を入れて聞き入っているようだった。
「……はいはい。
 荒野くんは、自分の勉強……」
 周囲の状況に注意を奪われていると、意外に聡い沙織に即座に気取られ、注意を即されることになる。
 こうした注意を受けるのも、もう何度目かになる。
 香也への呼びかけと区別するために、沙織の荒野の呼び方はいつの間にか「荒野くん」になってしまっていた。当然、香也のことは「狩野くん」になるわけだが……楓が、荒野のことを「加納様」と姓で呼び、香也のことを「香也様」と名で呼ぶのとちょうど正反対になるわけだが……楓が荒野のことを「家名」で呼ぶことにはそれなりの必然性があるが、沙織にはなんの制約もない。
 沙織は茅と仲がいいから、親しみを込めてくれるのかも知らないな……と、漠然と荒野は思う。荒野の知る限り、日本人はよぼど親しくならないと、名前で呼ぶことはない。
 観察力があるというか、注意力が鋭いというか、これで沙織もなかなか隙がない。荒野の注意力が散漫になると、すかさずこうして声をかけてくる。
 ……こういうところは、茅と似ているよな……と、荒野は思う。
 茅も、特に荒野の内心や挙動の変化に対しては、実に聡いところがある。
 当然のことながら、沙織の鋭さ、というのは、茅の場合とはまた別種のものなのだろうが……。
『……やっぱ、体質っていうのも……』
 大きいんだろうな、と思わざる得ない。沙織も、先天的な「佐久間の体質」を少なからず受け継いでいる、という話しだった。荒野にはっきりとわかっているのは完全記憶能力だけだったが、それ以外の、例えば五感の鋭敏さなどを沙織が受け継いでいても、別段不思議ではない。
「……茅ちゃん忙しそうだし、自分でお茶いれていいかしら?」
 しばらくそんな状態が続いた後、沙織が、小声で荒野に尋ねた。
 茅の方に目をやると……いまやノートパソコンの一つの前に陣取っている源吉とともに、二人でなにやら言い合いながら猛烈な勢いでキーボードをタイプし続けている。
 このような状態になった茅の集中力については、荒野にも思い当たることがあった。
 つまり、感心事意外の雑事に関して、極端に注意が向かなくなるのだ。
「あ。
 いいんじゃないっすか。
 てか、すいません。お客さんなのに……」
 荒野は、あわてて、やはり小声で答える。
「いいのいいの。
 わたしも、ここ、いいお葉を使っているからついつい飲み過ぎちゃって……」
 ……なんだかんだいって、この中で沙織が一番くつろいでいるじゃないか……と、荒野は思った。
「ごめんなさいなの」
 ノートパソコンから顔もあげずに、茅が沙織に声をあげた。
「今、手が放せなくて……。
 気に入ったのなら、お茶葉、帰りにいくらか持っていくといいの。
 先輩なら、おいしくいれられると思うから……」
 茅の言葉に、荒野は内心で「やはりな」と頷く。
 おそらく……沙織は、茅がお茶をいれる手順をみていた……ということ以外に、沙織は、茅と同じように「細かな温度の変化」についても、何の器具も使わずに、正確に読みとれるのせはないか……と、そこまで考えて、荒野は、
『やめておこう』
 と、それ以上推測することを止めた。
 沙織自身が、また、沙織の祖父である源吉が、沙織が一般人として生きる道を望んでいる以上、荒野としてもあまり踏みいった詮索をするべきではない……と、荒野は思う。
 そう。
 ややこしいことに関わらない、という選択肢が残されているのなら……荒野自身、今のような複雑な境遇に好んで身を置いていたかどうか、かなり微妙なところでもあった。

 しばらくして、沙織がいれてくれた紅茶は、荒野が想像していたとおり、茅がいれてくれたものと遜色がない味と香りがした。

 数時間が経過し、夕方といっていい時刻になると、荒野は沙織に向かって、
「送っていきますか?」
 と声をかけた。
 荒野なりに気を利かせたつもりだったが……。
「まだ、全然かまわないけど。
 帰っても、誰もいないし」
 沙織の返答はむしろ素っ気ないくらいのものだった。
「荒野くんにはいってなかったっけ?
 今、うち、母子家庭で、母の帰りはかなり遅いし……」
 ……あー。
 そういえば、なんか、沙織の両親が離婚したばかりとか、そんなようなことをどこかで聞いた記憶が……かなりおぼろげではあるが、あったような気がする……。
「じゃあ、食事とかどうです。
 今日のお礼もしたいし……」
 沙織自身が申し出てくれたこととはいえ、こうしてわざわざ荒野たちの面倒を見に来てくれているのだから、それくらいのことをしても罰はあたらないだろう。
 帰宅しても誰もいない……ということなら、なおさらだ。
「それがいいの」
 茅も椅子から立ち上がって荒野の言葉に同意する。
「今から、準備するから……」
「そう、ですね」
 荒野は、沙織がなにか言い出す前に、茅の言葉に被せるように茅の言葉を引き取った。
「ここから先、先輩は、お客さんでください。
 今日だけでも、先輩に随分お世話になってますから……」
「応援も呼んであるの」
 茅がそういうのと、
「「買い出し部隊、帰投しました!」」
 といって荷物を抱えた酒見姉妹が玄関に入ってくるのは、ほぼ同時だった。
 荒野が無言で茅の方に顔を向けると、茅は、
「メールで、買い出しをお願いしておいたの」
 と説明した。


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