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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(382)

第六章 「血と技」(382)

 ……なんで、こうなるのだ?
 とか思いながら、荒野はキッチンで昼食を調理中の茅と沙織の後ろ姿を眺めている。茅は毎度お馴染みのメイド服姿であり、沙織は荒野のエプロンを借りてそれを着用している。
 香也の方は、一度自宅に帰って昼食を済ませ、着替えてからこっちに来る、ということになっていた。その際、「気が散るから」という理由で、楓と孫子には同行をご遠慮願った。というか、沙織の希望を荒野が後押しする形で、無理に二人を納得させた。
 沙織がやろうとしていることは、いいことか悪いことかといったら、断然前者なわけであり、荒野としても断る理由がない。それ以前に、これといった理由もなく沙織や茅の頼み事を断れるタイプの果断さは、荒野にはなかった。
「これは、何事ですかな?」
 そんなことを考えていると、いきなり耳元で声がしたので、荒野は危うく驚愕の声を出しそうになった。慌てて振り返ると、佐久間源吉が真面目な顔をして立っている。
「……沙織がこちらにお邪魔する様子を確認しましたもので……」
 荒野にそうと気取られずに背後に忍び寄ることが出来る者は、そうそう多くはいない。涼治が頼りにするほどの術者であった源吉は、やはり相応の練達の士なのであった。
「何事か、って、そりゃあ……」
 おれの方が説明して貰いたい、といいたいところをぐっと我慢して、荒野は、淡々と「沙織が荒野と香也の勉強を見ることになった」といった意味のことを説明する。
 その声を聞いた沙織は振り返り、そこに突如出現していた源吉の姿を認めても、特に驚いた様子もみせず、
「あら。おじいさんも来たの?
 ご飯、一緒に食べていきます?」
 などと、平然とした態度で尋ねてきた。
「若の方さえ、よろしければ」
 断られるとは思っていないのか、源吉はというと、すっかり「孫を見る祖父」の顔になっていた。
「いいけど」
 荒野は、短く答えた。
「茅ちゃん、いい?」
 沙織は、今度は茅に確認する。
「いいの」
 ポットの中に温度計を差し込んでお湯の温度を確認していた茅は、振り向きもせず沙織の問いかけを肯定した。
「おかず、もう何品か、作るの」
 不意の来客が意外に多いこともあり、食材は常に余分に買っておく習慣があった。
「沙織の手料理ですか……」
 源吉はというと、すっかり相好を崩して勧められてもいないのに、テーブルの椅子を引いて腰掛けようとしていた。
 ま……平和だから、いいか……と、荒野は思った。

「……んー……」
 一時間ほどして、勉強道具を携えてマンションを訪れた香也は、見慣れない顔である義眼の老人の方に視線をやり、荒野に向かって、
「この人は?」
 と、短く尋ねる。
「沙織先輩のおじいさん。
 邪魔はしないで隅で見ているだけ、だそうだから、気にしないで。
 単なる……あー。見学者だから」
 気にするな、といっても無理かも知れないが……と心中で付け加えながら、荒野は、一応、そう答えておく。
 学校の成績が悪いから、女性関係が不安定だから……などという、ただでさえ決まりの悪い原因が重なって今回の仕儀とあいなった香也は、さらに見慣れない見学者にバックをとられて、傍目にもそれとわかるほど動揺し、落ち着かない様子だった。
「狩野君。
 こちらの加納君のいうとり、外野は気にしないで……」
 一方、沙織の方は、香也とは対照的に平静な精神状態を維持しており、しごく落ち着いた口調で話しはじめる。
「……一応、茅ちゃんから聞いてはいますけど、理解度の確認のため、これから二人に質問をしていきます。明日の試験の範囲内から問題を出すので、答えを口頭で、あるいは、紙に書いて提示してください……」
 事務的な口調で前置きをすると、茅がいれた紅茶のカップを手にしただけの沙織は、ソラで一年と二年の、複数の科目から、何問かの応用問題を交互にしゃべりだした。
 荒野は比較的冷静に回答することができた。答えられる問題にはテキパキと答え、少し考えてわからない問題には、すぐに「わかりません」と正直に答えた。理解度を測るための問題なら、気負わず素直に答えられる問題だけを答えればいい……と、荒野は判断したのだった。
 香也の方はといえば、不慣れな状況に焦りを感じているのか、ところどころつっかえたりしどろもどろなりながらも、それでも懸命に沙織の質問に答えようとする。香也が答えにつまると、すかさず沙織は、
「それでは、これは分かりますか?」
 と、よりハードルが低い問題をだし、香也がどこまで理解をしているのか、正確に計測しようとする。
 四十分ほどそうした質疑応答を続けると、最初のうち、ガチガチに緊張していた香也の態度も、幾分か和らいできた。
 あ。うまいな……と、荒野は思う。
 沙織による質疑応答は、荒野や香也の理解度を測る以外に、より多くの会話を交わすことで、相手の緊張をほぐす……という効果もあるのか、と、荒野は理解する。
 香也は、沙織の顔ぐらい走っていたかも知れないが、実質的には今回が初対面である、といってもいい。実際に対面して会話を交わす……というのは、初対面の相手をリラックスさせるには、いい手段だろう。
 香也にしてみれば、次々と繰り出される沙織の問題に答えるのが精一杯で、当初気にしていた源吉の存在など、途中から、念頭から去ったようだった。
 ましてや、沙織はティーカップを掌で包みこんでいるだけの、手ぶらだ。
 目前の相手が教科書もノートも持っていない、ともなれば、「勉強をしている/させられている」という意識もかなり希薄になってくる。沙織の記憶力がなければ出来ない芸当だったが……視覚から受ける印象、というのは、これで心理的には、かなり強い。

「……お二人が今回の試験の範囲をどの程度理解しているのかは、だいたい、把握しました」
 一通りの質疑応答を終えた後、沙織は二人に向かってそう告げる。
「加納君の方は、理解している科目とそうでない科目との間に、かなり格差がありますね。
 こちらの狩野君の方は、細かいところまでは憶えきれていないようですが、基本的な重要事項は、かなり憶えているようです……」


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[つづき]
目次



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ああ、更新していたのか
楽しんで読ませてもらってます

  • 2008/10/13(Mon) 19:50 
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