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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(381)

第六章 「血と技」(381)

 結局、茅、佐久間沙織のほかに、香也、楓、孫子の三名を加えた大人数での下校となった。テスト期間中は原則として課外活動が禁止されているので、学年や所属している部活にかかわらず、下校する時刻は一致しているわけで……当然といえば当然の成り行きなのかも知れない。
「……まあ、詳しく聞かなくとも、おおよその察しはついたけどな……」
 歩きつつ、「昨日のいきさつ」とやらを聞いた荒野は、少しげんなりとした様子でそう感想を漏らした。
「……しかし、まあ……お前らも、飽きないよな……」
 と付け加えたのは、楓と孫子に対する当てこすりでもある。
 茅にも釘を刺されたばかりだし、荒野自身もまた、他人の色恋沙汰に好んで介入するほど酔狂ではないのだが、学校の昇降口で、香也を中心として三人で揉み合っている……という状態は、いささか目立ち過ぎる。
 いや、そろそろ、「香也」という存在も、校内的には「そういう人」と見なされていても、おかしくはないのだが……。
 香也自身がいかに目立たない生徒だっても、香也に纏わり付いている楓とか孫子の個性が、なにしろ強すぎる。この二人に公然と纏わりつかれている限り、 香也自身の意志と個性にかかわらず、香也の知名度も高まっている……と、考えてもいいのかも知れなかった。
 楓たちと話しつつ、ちらりと確認をしてみれば、沙織は、
「ね。茅ちゃん。
この子たちって、やっぱりそういう関係なの?」
 などと小声で茅に確認をしていたりする。
 沙織ににしてみれば、内緒話し程度に声をひそめたつもりなのかもしれないが……人並より少々敏感な荒野の耳には、囁き程度の沙織の声も、はっきりと聞き取ることができた。
 沙織と香也、楓、孫子は、荒野が知る限り、はっきりと名乗りあったりしたことはない筈だったが、何かと校内の事情に詳しい沙織なら、誰に紹介されなくとも三人のことを知っていてもおかしくはない。
 いや。
 例の学習システム構築の際、事実上、茅の片腕として活躍中の楓となら、沙織と接点があってもおかしくはないのだが……他の二人、香也と孫子は、沙織と直に知り合う機会は、なかった筈だ。
「……そっかぁ。
いろいろ、複雑なのね……」
 茅の簡潔な説明を聞いた沙織が、なんだか妙に納得した表情でうんうんと頷いている。
 荒野は、「沙織さんも、やっぱ女だな……こういう色恋沙汰の話題にはくいつくのか……」などと、ひどく凡庸な感想を抱きつつ、何故だか知らないけど、とてもいやぁ~な予感を覚えた。
「……ちょっとそこの狩野君。狩野香也君……。
って、ちょっとややこしいわね?」
 沙織は、やおら香也に語りかけてから、ちらりと荒野の方に視線をやっていい直す。
「音だけは同姓同名」という事実を重々承知している荒野の方は、特に感慨はない。
「茅は、こっちの方を絵描きと呼んでいるの」
 茅が、したり顔で沙織に説明をした。
「ええと……それじゃあ、絵を描いている方の、狩野君。
 話しは、大体のところ、把握しました。
 君は、イロイロな女性に囲まれて、イロイロと困ったことになっている……ということで、間違いはないのですね?」
 しごく真面目な表情で沙織が問いただすと、香也はぶんぶんと風切り音をだす勢いで、首を縦に振った。
「特に昨日は、その、そちらの松島さんと仲良くし過ぎたので、そちらの才賀さんが神経過敏になっている」
 沙織がそう確認すると、「仲良くし過ぎた」というところで楓の肩がビクンと震え、「神経過敏」というところで、孫子が何かいいたげに身を乗り出そうとした。
 荒野は、孫子が何ごとかいう前に孫子の目前に手を広げて孫子を制し、最後まで沙織の話しを聞くよう、身振りで示す。
「松島さんと才賀さんとの間で、絵を描く方の狩野君の取り合いが起こっている、ということですね。それで、狩野君の方は、今のところ、どちらかを選ぶつもりはない……」
 沙織は、とうとうと先を続ける。
 間違った理解ではないのだが、十全な理解でもない。香也を取り合っているのはこの二人だけではないのだが……校内のこと以外は把握する術がない沙織にとっては、そういう認識になってしまうのであろう。
 茅にしてみても、この場でざっとかい摘まんで説明をしただけだから、すべての情報を沙織に与える必要性を感じなかったのだろう。
 第一……常識的に考えて、香也のような地味な生徒が、この二人以外の少女たちにかなり情熱的に慕われている……というのは、流石の沙織にしてみても、予想外だったろう。
「……それでは、話しは簡単です。
 三人の関係については、三人が自分の見識で解決する問題ですから口を挟むつもりはありませんが……この試験期間中に限り、こっちの狩野君の勉強は、わたしが見ることにいたしましょう。
 そうすれば、無用の摩擦は回避されるし、狩野君の精神衛生上にも問題が少ない筈です……」
 続いて沙織の口から放たれた言葉は、まさに晴天の霹靂だった。少なくとも、香也、楓、孫子の三人にとっては……。
「……幸い、わたしも受験を終えた身で、時間はむしろ余っています。それに、卒業までの短い時間でも、やや落ちこぼれ気味の生徒を一人でも救えると思えば、むしろやり甲斐があるというものです……」
 普段の、むしろおとなしい印象のある沙織が、自信に満ちあふれた口調で滔々と語り出すと、香也は、露骨にほっとした表情をしはじめる。
「……それに、松島さんも才賀さんも、同じ学生の身。こちらの狩野君のことにばかりかまけているより、試験期間中は自分の勉強に専念するべきです……」
 最初、瞠目していた楓は、沙織の言葉を聞くうちに、かなりおどおどした様子になり、しきりに周囲に視線を走らせていていた。
「……才賀さん。そんなに怖い顔をしないの。誰も、あなたの狩野君を取りはしないから。
 この子、わたしの好みではないし……それに、別に二人っきりでする、ともいっていないから……」
 今にも沙織に食ってかかりそうな形相していた孫子に向かって、沙織はにっこりとほほ笑んで見せた。
 その後、沙織はやおら、それまで見物を決め込んでいた荒野に向かって、矛先を変える。
「……茅ちゃんから聞いたわよ、こっちの、加納君……。
 試験勉強を理由に、茅ちゃんをないがしろにしたそうね……」
 笑顔でそういった沙織の目が、笑っていなかった。
「……今後、そういう口実が使えないように、加納君と狩野君、二人まとめて、この先輩がみっちりと面倒を見ますから……」
 ……なんだか、予想外の方向に話しが飛んでいっていないか……などと思いつつも、荒野は、笑顔の沙織に気圧されて抗弁できないのであった。


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