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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(379)

第六章 「血と技」(380)

 期末試験初日の教室は、やはり、普段とは違う緊張感に包まれていた。いつもはあまり勉強や試験などに真面目に取り組んでいるようには見えない連中までもが、一応はノートや教科書を開いて真面目な顔をしている。クラスの三分の一くらいが、玉木ほどは酷くはないが、一目で寝不足と分かる血色の悪い顔をしている。
 現実的に考えても、試験の直前だけそんなことをしても、たいして知識は頭には入らないのではないか……と、荒野にしても思うわけだが、それでも、教室内に充満しているピリピリとした緊張感までは否定できない。
「なあ、いつもこんな感じなのか? 試験前って?」
 とりあえず、荒野は近くにいた飯島舞花に話しかけてみる。
 樋口明日樹は玉木ほどで極端ではないにしろ、緊張と疲労の色がはた目にそうとすぐわかるほどに色濃く、なんとなく話しかけづらい雰囲気を漂わせているし、才賀孫子はというと、色々な意味で例外的な存在であり、「日本の平均的な学生」としての参考意見には、なりがたい気がする。
「……だいたいは、こんなもんだと思うけど……」
 飯島舞花は、軽く首を振って教室内をぐるりと見回した後、荒野にそう答えた。
「今までは、もう少し、なんていうか、ポーズだけとか急場しのぎな感じのが、多かった気がするけど……今回は、流石に切羽詰まった感じのが……」
 ようは、「生徒たちの様子が、今までに比べると、心持ち真剣味が増して来ている」ということらしい。
「……まあ、実際問題として、今回の試験の結果くらいから、本格的に志望校の絞り込みがはじまる訳だから、緊張するのもわかるけど……」
 実は細かいところまで気が回る、という側面も持ち合わせている舞花は、日本の事情にまだまだ疎いところがある荒野に向けて、そう付け加えることも忘れない。
「ああ。受験、ね……」
 荒野は、軽く頷く。
「……そうか……。
 今ごろの成績から、もう志望校が決まっちゃうのか……」
「いや、決まっちゃう、ってわけでもない……と、思うけど……」
 舞花は苦笑いを浮かべつつ、補足説明をする。
「……これから先、全国的に同じ学年の人たちが一斉に、一生懸命勉強していくわけだし、そうなると、偏差値の方も上、げづらくなっていく。ほら、偏差値って、相対評価だから……。
 だから、三年になる前に、少しでもって焦りが出てくるんじゃないかな?」
「……その理屈でいうと、もっと前……それこそ、一年の頃から、計画的に学習して必要な知識を詰め込んでいくのが、一番合理的な方法なんじゃないかな……」
 舞花の説明に頷きながらも、荒野はぽつりと思ったことを素直に口にした。
 受験に必要とされる情報の「量」は限定されているわけで、三年ほどの猶予期間があれば、多少、量的に膨大でではあっても、計画的に頭の中にたたき込むことは、荒野の基準からしてみれば、さほど無理な仕事だとも思えなかった。
「それ、正論は正論だと思うし、実際、よその進学校とか塾ではそういうのを当たり前にやっているのかもしれないけど……」
 舞花は、苦笑いを浮かべながらゆっくりと首を左右に振る。
「あいにくとここは、進学校でなんでもない、片田舎ののんびりとした学校なんだ……。
 そういう、しっかりした目的意識をもった人は、いないとはいないけど、ごく少数だと思う……」
 そんなものか、と、荒野は納得することにした。
 どんな国にいっても、教育や収入についての地域格差というのは存在する。荒野はまだ日本での「そうした感覚」について、あまり鋭敏ではなかったが……「貧しい」とはいえないものの、これといった産業もなく、お世辞にも景気がいいとはいえない……というこのあたりの実態を考えてみれば、現状で子どもたちの境遇もそれなりに想像がつくというものだ。
「……あと、ね……」
 舞花が、荒野の耳元に口を寄せて、小声で囁く。
「時期的ってもの以外に、茅ちゃんがはじめたアレ、案外、起爆剤になっているらしい。
 それまでになかった競争心を煽っているっていうか……」
 荒野は軽く背をそらして、舞花の顔をまじまじと見つめる。
「そう……なのか?」
「そう」
 舞花は、結構まじめな顔をして頷いてみせた。
「だって、ほら……あんまり受験とか勉強とかに興味ない人も、あんだけ真剣になっているし……」
 舞花はそうっいって、教室内をぐるりと腕で示して荒野の視線を誘導する。
 舞花のいう、「茅ちゃんがはじめたアレ」とは、茅が中心になって学校のサーバに構築した学習システムのことだった。その機能の一部である、携帯を利用した英単語記憶ゲームのスコアを競うことが、一部でちょっとしたブームになっていることは、荒野も何度か目の当たりにして実感してはいたが……。
「だって、あれ……はじめてから、まだ、いくらもたっていないだろ?」
「でも、開発途中からデータをどんどん公開しているし、資料整理とかの作業を手伝っている生徒も、以外に多い」
 戸惑ったような声を出す荒野に、舞花は指摘した。
「今では、学年とかクラスの垣根を越えて、かなりの生徒がなんらかの形で協力しているし……」
 実は、茅が構築したシステムの小テストの点数を、クラス対抗とかクラブ対抗、あるいは、個人対個人で競い合うような風潮も、出はじめている……と、舞花は教えてくれた。
「この辺は、あれ、真面目な学校の勉強というよりも、本当にゲーム感覚なんだけどね……」
「そう……だったの、か……」
 荒野はうめき声交じりに嘆息した。
 校内での茅の影響力は、今では、荒野が想像していた以上に膨れ上がっているらしい。
 三学期開始と同時に転入して来て、ごく短い期間でこの有り様である……ということを考慮すると……。
『……このまま放置して……』
 何年か、茅にやりたい放題にさせておくと……結果として、茅は、一般人社会に対して、とんでもない影響を与えてしまうのではないか……。
 漠然と、荒野はそんなことを考えはじめる。
 例えば、事態がこのまま推移して、後何年かして、この学校の卒業生が、社会に出てそれなりの地位についたとしたら……その時まで、茅が、周囲への影響力を増大し続けたとしたら……。
 荒野は軽い目眩と、それに、背筋が震えるような感覚を同時に感じた。
 それが、戦慄によるものなのか、期待によるものなのか、荒野自身にも判然とはしなかったが。


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