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2007-05

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(323)

第六章 「血と技」(323)

「特に、加納の姫。
 お前は、誰にも教えられる前から、見よう見真似で、このぼくを出し抜いている。少しコツを教えてやれば十分という気もするが……この呼吸法は、精神を統一のトレーニングも兼ねているので、習得しておいて損にはならないだろう……」
 言い終わるや否や、現象は、一気に茅との間合いを詰め、茅の腹部に掌を強く押し当て……怪訝な表情になった。
「……お前……」
 現象が何かを言い終える前に、テンが、いきなり茅の身体に触った現象に向け、手足を振り上げる。
「……無駄だ。
 ここ二、三日、そこいらにたむろしている連中に、さんざん小突かれたんでな……。
 おかげで、不意打ちや攻撃を見切るのだけは、随分と上達した……」
 現象は、わずかに身体を反らして、テンの攻撃をなんなくかわす。
「それに……別に、姫に危害を加えるつもりはない。呼吸法を教えるに当たって、こうして直接、腹部に触れて確かめながら行った方が、手っ取り早いというだけだ……」
 現象は、かすかに眉をひそめただけで、自分を攻撃したテンに向かって、そう言い放った。
「しかし、姫……。
 お前は……見かけによらず……鍛えているんだな……」
 現象の驚愕は、直に触れてみた茅の腹部が、柔らかな脂肪層に包まれながらも、その奥にしっかりと硬くなった筋肉を内包していたから……だった。
「鍛えているの」
 茅は、淡々とした口調で答える。
「誰の……荒野の邪魔に、足手まといにならないために、必死になって鍛えたの」
 現象と茅のやりとりを間近に見たテンは、振り上げた手を降ろして……二人の様子を、もう少しの間、見守ることにした。
「姫……。
 このままの状態で、これからぼくがいうことを、繰り返し、いってみろ……」
 そう前置きしてから、現象は、
「あぁー、いぃー、おぉー……」
 と、妙な高低をつけて、母音ばかりを、腹式呼吸で腹の底から域を吐き出しながら、口にする。
「あぁー、いぃー、おぉー……」
 茅も、現象に腹を押さえられながら、現象のいうとおりに、奇妙な発声練習繰り返して見せた。
「……ぁおぃえぉあぁー……」
「……ぁおぃえぉあぁー……」
「……ぅぉあぁぃえぉぅえぉぃぁぃぁぇぉぇあぁー……」
「……ぅぉあぁぃえぉぅえぉぃぁぃぁぇぉぇあぁー……」
 現象が示す見本は、徐々に複雑さを増していくなか、徐々に、二人は確かに喉の奥から息を吐きながらも、「音」として聞こえてこない部分が増えていった。
「……ぅえぉ……ぃあぃ……ぇぉ……ぃぉぃ……」
「……ぅえぉ……ぃあぃ……ぇぉ……ぃぉぃ……」
 茅は、額に汗を浮かべながら、懸命に、現象がいった通りの発声を、反復しようとしている。
 二人の様子を見守っているテンは、眉を顰めながら、神経を集中させて、二人の「声」を、聞き取ろうとしていた。
 二人の声は、今や、常人の可聴音域から外れていることが多く……それどころか、テンが一心不乱に聞き取ろうとしても、聞き取れない部分の方が、多くなってきている。
 今の現象と茅の様子を、何も事情を知らされていない一般人がみたら、二人がやけに真剣な面持ちで向かい合い、口パクをしているように見えたことだろう。
 しかし……二人の奇妙な「発声練習」に聞き耳を立てていたテンは……。
『……あ、あれ……』
 ……こめかみの血管が、どくどくと脈打っているのを感じていた。
 顔が、熱っぽい。頭に血が昇っていくの、テンは自覚する。
 どくん、と、テンの視界が大きく揺れた……ような、気がした。
 ……錯覚だ……と、即座にテンは断じる。
 二人の「声なき声」を聞き取ろうとしている間に……テンの知覚が、一気に拡大した。
 テンの知覚系が、短時間のうちに、急速に拡大したため……視界が、揺らめいたように錯覚したのだ……と、テンは、瞬時に「理解」した。
『……音が、導く……』
 ここに至って……テンは、佐久間が人外の知覚を手に入れるためにメソッドが、効果的であることを、認める。
 ぐん、と、また、テンの知覚系が、「深く」……ほんの数分前よりも、もっとより細かい部分まで、周囲の状況を感知している……と、テンは感じる。
 ただ……二人の「声」を聞き逃すまい……と、神経を集中していたテンでさえ、これほどの変化が現れているとすると……。
『……茅さんは……』
 実際に、変化/成長を促進する「声」を発している茅は……もっと劇的な変化を、体験しているのではないか……と、テンは予測する。
『……昨日のガクの様子が……』
 納得できるな……と、テンは思う。
 こめかみは、相変わらずずきずきと脈打ち、鼓動と脈拍が、劇的に早くなっていることを自覚しながら……それでも、テンは、周囲の状況がテン見えている光景が、肌に触れる空気の些細な温度差や感触が……格段に細かく感じ取れるようになっており、そこのことが、テンをハイにさせている。二人の「声」を聞き取ろうとしている聴覚だけが、「拡大」を自覚できなかった。
 例えるなら……目にするもの全ての解像度が、一気に跳ね上がった気分、とでもいうのか……。
『……世界、って……』
 こんなに精巧で、明るかったんだ……と、テンは思う。

 そして、テンがふと気づくと、茅が、その場に膝をついて、肩で息をしていた。
「……はじめてにしては、上出来だ。
 流石は、加納の姫……といったところか……」
 そういう現象も、額にうっすらと汗を浮かべている。
「……これは……もう、憶えたの……」
 立ち上がる気力もないのか、膝をついたまま、茅は、毅然とした表情で現象を見上げた。
「……憶えたからには……再現できる。
 他の三人にも、茅が、同じことを、教えてあげられる……」




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彼女はくノ一! 第六話(64)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(64)

「……納得いかぁーんっ!」
 香也にしても、朝、教室って自分の席につくなり、口泡を飛ばして怒鳴られたのは、はじめての経験だった。
「……朝っぱらから、メイド眼鏡ロリと楓ちゃんと才賀先輩を一緒にぐるぐぐると回りやがってこの野郎!
 この町中の美少女を一人のこらず独占するつもりか! 誰でもいいから一人くらいこっちにまわせ! まわして、紹介してください、先生! 頼むから、お願いだから!」
 朝っぱらから香也の机の両手をついて身を乗り出して力説する柊誠二に、登校していた生徒たちが一斉に注目する。柊は、最初のうちこそ香也を非難する口調だったが、そのうち、懇願する口調に変わり、しまいには顔を伏せて肩を震わせはじめる。
「……んー……」
 香也は、どう反応していいのもか、しばらく思案したが、すぐに楓の方に顔を向け、
「こういっているけど……どうする?」
 と、尋ねてみる。
 香也の声に反応して、柊が顔をあげ、香也が声をかけた方をみて、ぎくり、と身体を強張らせた。
「……柊君……」
 困惑顔で苦笑いをしている楓の隣で、柏あんなが指の骨をポキリポキリと鳴らしている。その他に、このクラスの女子が、ほぼ全員、総動員で柊をは半円状に取り囲んでいた。
「向こうで、ちょっとお話ししましょうか……」
 幼少時から空手を習っている柏あんなが、凄みのある笑顔を浮かべて柊の首根っこを掴んで、教室の隅に引きずっていく。
 それから朝のホームルームがはじまるまでの約五分間、柊は、教室の後ろでクラスの女子に取り囲まれ、集中「口」撃を浴びて過ごすことになった。
「……正直で、素直すぎる。
 まるっきり……お馬鹿だ」
 その光景を目の当たりにした男子某は、実感の籠もった声で誰にともなくそう論評した。柊に対して下されたその評価は、香也を含め、成り行きを見守っていた男子生徒たち全員の気持ちを代弁していた。

 そういった椿事はそうそう起こるものではなく、その朝の小さな騒動を除けば、香也のその一日は昨日とほぼ同じことを繰り返す、平々凡々たる一日となった。
 つまり、内容こそ微妙に違えど、いつもと同じように授業を受け、合間の休み時間に有働が訪れる。校内の各所に香也の絵が飾られていることもあり、上級生である有働が頻繁に下級生の香也の元を訪れて詳細な打ち合わせてして帰って行くここ数日の光景も、このクラスの中の空気に、すでに馴染んでしまっていた。他のクラスメイトたちに、「香也は、そういう生徒である」という印象が、強く刻まれてしまった形である。
 だから、有働と香也が机の上に製作途中のポスターを広げ、それなりに白熱した議論を交わすようになっても、意外に思うものは少なかった。むしろ、「香也なら……」こういう流れも、納得ができる……と思っている生徒が、大半を占める。香也が有働にそういう扱いを受けていることについて、「意外」というよりは「やっぱり」という感想を持つものが多かった。
 三学期がはじまった時、多くの生徒たちが香也の家に来訪し、膨大な香也の絵を見ていった。地味で目立たず、あまり、他人としゃべりたがらない香也が、その実、黙々と絵を描き続けていることは、このクラス内では周知の事実であり……また、ボランティア活動のため、香也が依頼されて描いた絵が目立つ場所に張り出されたおかげで、現在は、その認識が全校規模に拡大されようとしている最中であった。
 口数が少なく、たまに口を開けばもごもごと不明瞭なことしかいわない香也も、こと、絵に関することになると、なかなか雄弁になっていた。多少は、印刷関係の用語や概念について知識を得たことで、勢いづいている部分もあったろうし、打ち合わせの際の有働の誘導がうまく、なかなか自分の意見を言おうとしない香也の本音を、巧妙に引き出している、ともいえる。

 その日の六時限目の授業も、実力テストに割り当てられていた。が、香也のクラスの生徒たちの間には、前日、前々日と比較すると、かなりリラックスした様子でテストに臨むことができた。さらに細かい補足をしておくなら、初日であった月曜日には、大半の生徒たちがテスト前にはかなり緊張していたものだが、火曜日、前日、今日……と、いくにしたがって、明らかに緊張がほぐれていた。
 放課後ごとの茅の講義が、徐々に奏功しているのだった。
 茅は、テストの範囲内から予想される出題傾向を勘案し、その中から、配点が大きそうな順に問題を予想し、みんなに教えていた。全学年の学習内容を丸暗記し、以前より自習のための教材作りをしている茅にしてみれば、そのあたりの目安はかなり明瞭に見えている。
 そして、茅に教えられた生徒たちは、テストの回数を追うごとに、茅の予測が確かであり、茅が指摘した部分を重点的に記憶すれば、効率的に点数を取れる……という確かな手応えを感じるようになっていた。一昨日、半信半疑で参加した生徒か昨日のテストで成果を確認し、その後、昨日の放課後には、どうしても外せない用事や部活がある生徒を除いて、このクラスの生徒のほとんどが自主的に残って茅の講義を聴いた。用事があり出席できなかった生徒も、後で学校のサーバ上にアップされた茅の映像を見たり、人づてに重点を教えて貰ったりしている。
 だから、この日、香也のクラスの生徒たちは、試験直前になっても、比較的余裕を持った態度でいることができた。

 最後の授業時間が当てられた試験とその後の掃除当番が終わると、昨日と同じように、撮影に必要な機材を抱えた放送部の部員たちが教室内に入ってきて、教壇にレンズを向けて三脚でカメラを固定した。
 この茅のと、それに、二年生の教室で行われている佐久間沙織の講義は、リアルタイムでネット配信される他、後でいつでも参照できるよう、学校のサーバ上にも動画データがアップされている。中継データは当然、編集されていないままだったが、茅や沙織が二つの講義を同時進行させたりしていたので、一晩の置くと無編集版の他に、放送部員の手により、わかりやすく編集されたヴァージョンの動画ファイルもアップされた。自宅にPCやブロードバンド環境がなかったりする生徒のために、そうした動画データをDVDーRなどのメディアに焼いて友人に配布したりする生徒も現れはじめている。
 また、放送部以外の一年生、二年生の中にも、撮影作業や編集などの手伝いを申し出てくる生徒が出はじめたのも、ここ数日の傾向だった。こうした生徒たちは、自宅から埃を被っていたホームビデオを持ち込んだり、学校のサーバ上にアップされた動画を編集して再アップしたり……といった活動を、自主的に行いはじめている。
 機材や人手は常に不足しがちだったので、こうした「手助け」は、誰もが歓迎した。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(322)

第六章 「血と技」(322)

「……いつまでも、こうして音を聞きわけているだけ?」
 しばらくして、テンが不満そうな声をあげる。
「そうですね……」
 ノートパソコンの画面をチェックしていた梢が思案顔で頷き、現象の顔をみる。
「テンさんと茅様は、このまま次の段階に進んでも問題はないと思いますが……」
「……いいだろう。
 二人には、音の出し方を教えよう……」
 現象は、面倒くさそうな表情して梢に応じた。
「……ボクは?」
 今度はガクが、口唇を尖らせる。
「お前は、まだ安定してねーだろ……」
 現象は、不機嫌さを隠そうとしない口調でガクに答える。
「今の状態が一時的な昂揚ではないことを確認してからだ」
「……今日計測した成績でいえば、ガクさんは、茅様やテンさんに迫る勢いです」
 梢が、現象の言葉を補足する。
「ですが……やはり、もう少し様子を見ましょう。
 昨日の今日ですし……ガクさんの情報処理系が、しっかりと回路を固定してからの方が、覚えも早い筈です。
 今のままですと、まだまだ身体への負担も大きい筈ですし……」
 梢は、現象によって無理矢理喚起されたガクの神経系統が、すぐに元に状態に復元してしまう……という可能性を、故意に口にしなかった。
「……焦るな、ガク……」
 ノリが、不満そうな顔をしたまのガクの肩に手を置いた。
「ガクは、いつも真っ先に突っ走っていくけど……たまには、人の背中を追うのもいいもんだよ……」
 ガクはノリの方に顔を向け、何かをいおうとしたが、結局、ノリの言葉に頷いた。
「そう……だね。
 たまには……人の後を追うのも、いいか……」

 四人は、テンと茅、ガクとノリの二組に分かれて、以後の教習を受けることになる。
 とはいえ、ガクとノリのグループは、ノートパソコンのスピーカーから流れてくる、聞こえるか聞こえないかという、微妙な音程の響きに、凝っと耳を傾けているだけだ。

 テンと茅の前に、現象がゆらりと立ち上がる。
「音、といったが……便宜的にそう呼んでいるだけで、実際には、空気の振動ではない」
 二人の前にふさがった現象は、まず、そう前置きする。
「お前ら……昨日、チビの脳みそをけっ飛ばした時……ぼくがあいつの頭に延ばした手を、観てただろう?」
 テンと茅は、無言で頷く。
 隠す必要は、なかった。昨日、現象がガクに仕掛けた時、二人の視線が虚空を捕らえていたことは、現象も見逃さなかっただろう。
「……あれは……お前らにどう見えていたのかまでは知らないが、現実にそこにあったものではない。
 ぼくが駆使した能力をお前らの知覚系が感知して……しかし、通常の五感では感知できない筈のモノだったので、お前らの記憶にある形に翻訳したんだ。
 お前らの頭が……無形のものに形を与えた。
 同様に、これから教える音も、本当の音ではない……」
「わたしたち、佐久間の者は、最初に覚えるコレを、あうん、とか、こおう、と呼び習わしていますが……」
 現象の隣にならんだ梢は、空中に指で「阿吽」と「呼応」という漢字を書いてみせた。
「……その呼び名の通り、意志を疎通するための呼吸を、ここで学ぶわけです」
「音ではない、意志の疎通方法……って……」
 テンが、首を傾げる。
「いわゆる、テレパシーってやつ?」
「千里眼や他人の心を読み取る存在の説話は、世界各地にあります」
 梢は、そういって頷く。
「素養があり、最初の呼吸さえ飲み込んでしまえば、さほど難しい技ではないので……佐久間のように、独自のメソッドに基づいて技を修練する、という形ではなく、自然とそのような真似が出来るようになった者も、過去に、一定の割合で出現したんでしょう。
 多くは、一代限りで消えていったのでしょうけど……」
 佐久間がどのような事を出来るのか……という実例を何度か目撃してきている茅やテンは、その言葉を否定することが出来なかった。
「説明したとおり、実際に、声帯を震わせて音を出すわけではないが……」
 現象は、テンと茅に、一歩近寄った。
「……未開拓の知覚系を鍛えるのに聴覚を利用するように、そのあうんやこおうを覚えさせるためにも、まず、発声の練習から入る。このメソッドは、呼吸法も一体となっていて……思うに、神仙術とかの流れを汲んだ修練法なんじゃないのか?」
 現象は、梢に向かってそう確認した。
「……嘘か本当かは確認のしようがありませんが、仙人になるための呼吸法から来た……と、伝えられています」
 梢は、頷く。
「特定の方法で呼吸することで、特殊な能力を得たり長寿になったり……という伝承も、割と普遍的ですね……」
「……生まれる前のことなど、どうでもいいがな……」
 梢に確認しておいて、現象は、吐き捨てるような口調で一蹴する。
「重要なのは、この呼吸法を習得することによって、他人の意識をスキャンしたり、操作したり……といった作業が、容易になるということだ。
 もっとも……」
 ……長期間、同じ呼吸法を持続して行うことにより、神経系に特殊な回路が開かれ、ようやく効果が現れる。決して、即効性のある鍛錬法ではないし、先天的な素質がない者が同じ事をしても、まるで効果がない……などという事実を、現象は明かした。
「お前ら二人は、もう、その呼吸法が効果を示す段階にまで、開発されている……ということだ……」
 そういって、現象は、自分のこめかみを指で軽く叩いた。




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彼女はくノ一! 第六話(63)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(63)

 翌朝、香也は、むちゅっ、と口を塞がれる感触で、目を覚ました。より正確にいうのなら、息苦しさを自覚して目をさまし、寝起きで混濁した意識の中で、自分の口唇がべったりと塞がれていることを知った。ねっとりと硬く熱い舌が、香也の口の中に侵入し、蹂躙する。しなやかな感触の細い、しかし、適度な弾力のある身体がのしかかって、蒲団越しに香也の身体に押しつけられる。
 目を覚ました香也は、あやうくパニックを起かけ、「んーっ! んーっ! んーっ!」と、口が塞がれているため、声にならない声を出しながら、窒息するんじゃないかと思ってじたばたと手足を動かして抵抗したが、そうした香也の抵抗する意志を挫こうと、香也に覆い被さっていた人物は、香也の首に腕を回して、さらに香也に身体を密着させた。
 香也が暴れたために、それに件の人物がそれとなく手足を使って、掛け布団はほとんど剥がされており、それをいいことに、香也に覆い被さった人物はさらに香也に密着し、抱き、口を吸う。香也の口を吸いながら、すりすりと、自分の胸を香也の胸板にすり付けるように動いた。パジャマの薄い布地と相手の服越しに、小さめの、しかし、張りのある感触の乳房が、香也の身体に押しつけられる。
 息苦しさも限界になってきた香也は、ようやく意識が明瞭になり、今、自分の身になにが起こっているのかを理解し、また、鼻の穴で呼吸することを思いだし、すーはーすーはー、と、今ままで不足していた酸素を体内に取り込むため、鼻息を荒くした。
 香也の吐息が首筋にかかり、香也に抱きついてきた人物は「…ん……はぁぅっ…」と、軽く身じろぎをする。
 その際、香也の首に回された腕の力がわずかにゆるんだので、すかさず、香也は、強引に身体の前に自分の腕を潜り込ませ、密着しているその人物の身体を、力づくで離す。香也が腕のつっぱり、その分、蒲団の上を滑って、その人物からずりずりと遠ざかり、ようやく数十センチほどの距離を開けることができた。
「……ノ……ノリ、ちゃん……」
 ぜはぜはと肩で息をしながら、香也は、ようやく引き剥がした少女の名前を呼んだ。
「なんで……こんなことを……」
「……も、モーニング・キス……」
 ノリは、上気した顔を伏せ気味にして、上目遣いで香也の顔を見ながら、答えた。胸元が乱れたメイド服を着て、恥ずかしそうに顔を伏せているノリは、妙に、色っぽくみえた。もみ合いになることを予測していたのか、眼鏡はかけていない。
「おにーちゃん……興奮した?」
「……んー……」
 香也は、がっくりとうなだれる。
「……死ぬかと、思った……。
 興奮とか、そういう余裕、なかった……」
 おそらく……ノリに悪気は、ないのだろうなぁ……と、香也は、思った。

「……わはははははっ」
 マンションの前に集合した時、メイド服姿のノリをみて、舞花は爆笑した。
「今度は、ノリちゃんか!
 日替わりメイド隊だ!」
「まーねー、はしゃぎすぎ……」
 栗田精一が、そんな舞花を窘める。

「……わはははははっ」
 途中で合流してきた玉木も、ノリの姿をみて、大声で笑う。
「……すっげーっ!
 今日は眼鏡っ子ロリメイドだぁー!
 わははははははははっ!
 これで、校内でも不動の地位を確立したなぁ、絵描き君!」
 舞花と同じく、この状況を無責任に楽しんでいた玉木は、楓と孫子に睨まれて、「ひっ」と小さな悲鳴をあげて顔色を無くす。
「いやいやいや。
 その、わたし個人の意見というよりは、一般論だよ、一般論っ!
 ちょっと考えれば、わかるでしょ? 日替わりでメイドコスの妹キャラに送られて登校していたら、どういう目で見られるかって……」
 玉木を睨んでいた楓と孫子が、同時に香也を振り返る。
「……んー……」
 香也は、のほほんとした調子で呻いた。
「ぼくは、別に、気にしないけど……」
 香也の場合、謙遜でも衒いでもなく、字義通りに「自分が周囲にどういう目で見られているのか」ということなど、まったく気にしていない……というより、自分を取り巻く世間、というものが、香也にとったはひどく遠く感じられ、具体的に想像できない、というだけなのだが……。
「……おにーちゃんっ!」
 約一名、そんな香也の態度に対して、本気で感激し、抱きついている少女がいた。
「おにーちゃん、そんなに、ボクたちのことをっ!」
 香也の背中にぎゅうーっと抱きついたノリは、感極まった声でそんなことを喚きながら、香也の背中に頬ずりをする。
 楓と孫子は、そんなノリを香也から引き離そうと、二人で一体となっている香也とノリにとりつき、二人を引き離そうとしはじめた。
 香也を楯にして、二人の迫撃を巧妙にかわすノリと、楓と孫子の攻防がはじまる。
 玉木が合流してくる商店街付近、といえば、学校もほど近い場所である。そこの往来、といえば、通学路でもあるわけで、時間帯からいっても多くの生徒たちが通りかかっている。
 たまたま通りかかった生徒たちは、香也を中心としてぐるぐる回りながら言い合いをしているノリ、楓、孫子、中心にいて、困惑した顔をしながらも、なさるがままで、積極的に事態を打開しようとしてない香也……の姿をみて、忍び笑いを漏らしたり、小声で何かを話し合ったりしていた。
「……ほら、やっぱり、目立ってる……」
 玉木は、傍らにいた舞花に、そうした反応を見せている生徒たちを指さして、自説の正しさを主張した。
「……ほら、じゃなくて……」
 舞花は、気の抜けた声を出して玉木に応じた。
「止めよう……」
「……どうやって?
 相手は、あの子たちだよ?」
 玉木が、ぎゃーぎゃー喚きながら、いぜんとしてぐるぐる回っている四人を指さす。
 楓、孫子、ノリ……ときては、普通の学生でしかない玉木や舞花では、どうにも手の出しようがない。
「……あー……」
 舞花は、視線を上に逸らして数秒考えた後、
「……カッコいい荒野君、頼む……」
 結局、荒野に下駄を預けた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(321)

第六章 「血と技」(321)

 佐久間の技を習いにこの家に来るも、これが二度目になる。今夜は、羽生が車を出してくれたので、昨夜のように自分の足で走る必要はなかった。
 車で庭に乗り付けると、出迎えにでていた二宮舎人は、恐縮した様子で、しきりに羽生に頭を下げていた。車から降りるなり、羽生が、「これ、おみやげ」と舎人に大きな風呂敷包みを手渡したから、かも知れないが。
「真理さんから、って。
 この間、ご馳走になったお礼に、って……」
「これは、どうも」
 舎人は、丁重に頭を下げて、包みを受け取る。
「ところで……ここで、なにやってるの?
 夜な夜な、若い少女集めて……」
 羽生は、周囲を見渡して、舎人に尋ねた。
「あー……」
 舎人は、一瞬、答えに詰まる。
「……そんな、いかがわしいことでも……ない、と……思うんですが……。
 一種の、能力開発です」
 一般人である羽生に、どう説明したものか迷った舎人は、結局、そんな表層的な表現をして、お茶を濁した。
「せっかく、ここまで足を運んだんだし……なんなら、見学していきますか?」
 舎人は、羽生にそう尋ねる。
 羽生は、目をしばたいてから、尋ね返した。
「……いいんすか?」
「まあ、羽生さんは、こいつらと一緒に住んでいるわけだし……ここで、どういうことやっているのか、確かめておいた方がいいとも、思うし……」
 舎人は、手近にいたテンの頭に掌を乗せ、ぽんぽん、と軽くたたきながら、そういい、
「……それに、今日もはもう、別口の見学者がいますから……」
 と、続けた。
「……はぁーいっ!」
 家の中から出てきたシルヴィ・姉崎が、羽生や茅たちに向かって、手を振った。 
「……おおっ!
 シルヴィさん……」
 羽生も、手を振り返した。
「姉崎が視察に来るのは、不思議ではないの」
 茅が、呟く。独り言のような口調だったが、羽生に聞かせるために、故意に声に出したのかも、知れない。
「佐久間の技に関する情報が欲しいのは、他の六主家も、同じ。
 むしろ、現象たちが、見学を許す事の方が、不思議……」
「……そうはいっても、二宮のおれも、こうしてみているしなぁ……」
 舎人が、頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。
「野呂の平三さんも、どこかに潜んでみているし……。
 佐久間の方も、漏れることは承知の上で、人をよこしたんじゃねーのか……」
 昔気質の平三は、監視対象である現象たちとなれ合うことを避け、この間、荒野の前に姿を見せたのを例外として、身を潜めている……といった意味のことを、舎人は説明した。
「第一、佐久間である現象たちが、好きに見ろっていってるしな……」
 舎人は、そういいながらも、羽生、茅、テン、ガク、ノリを家の中に招き入れる。

 前の時と同じく、家の中にはいってすぐの土間に、現象と梢が待ちかまえていた。
 羽生は、物珍しそうに周囲をきょろきょろ見渡しながら、「うわぁっ、レトロ」とか、呟く。
 舎人は羽生を囲炉裏端に案内し、羽生は、先にそこにちょこんと座っていた子たちをみて、目を丸くする。
「双子ちゃんたちも、いるのか……。
 そういや、この前も、引っ越すとかなんとかいってたな……」
「「……引っ越しは、無事、完了したのです……」」
 酒見姉妹が、声を揃えて返答する。
「……すんげぇ、疲れる引っ越しだたけどな……」
 舎人が、げんなりとした口調でいい添えた。

「……よう、チビ。
 あれから、調子はどうだ……」
 現象は、ガクに体調を尋ねることから、今日の講習を開始した。
「これ以上はない、というくらいに、絶好調だよ」
 ガクは、不適な笑みを浮かべて、答える。
「それに、チビっていうな。
 今だってそっちとそんなに変わらないし、それに、今、伸び盛りだから……お前なんか、すぐに追い越してやる……」
 事実、現象は小柄な方で、背も小さければ、身体も細い。外見だけでみれば、虚弱に見えないこともない。
「それは、結構だ」
 現象は、にやにや笑いを顔に貼り付けている。
「元気がよすぎるくらいの方が、しごき甲斐があるからな……」

 などと挑発し合う割に、実際に教習にかかるとなると、極めて穏当なことしかやらないのだった。
「昨日、笙でやったのと同じ、聞き取りテストだ」
 現象はそういって、ノートパソコンを操作する。土間の上に小さな机が持ち出されており、その上にノートパソコンと少し大きめのスピーカーが置かれている。
「このスピーカーは、特別製でな。市販のものよりもずっと広い音域を出力することができる。
 各自、聞こえる音域、ぎりぎりの音を探り、それを拡張していくところから、知覚の拡大トレーニングをはじめる……」
「昔は、こうした精巧な機械こそありませんでしたが、楽器を使って能力を拡張していくのは、古くからの佐久間の訓練法です」
 と、梢が言い添えた。
「……このぼくが、直々に脳を蹴飛ばしてやったんだ。
 昨日よりもいい結果を出してみせろよ、チビ……」
 と、現象は、再び、ガクを挑発する。

 現象は、昨日、笙を使ってやったように茅たち一人一人の可聴音域を調べることとから開始した。昨日と違うのは、機械を使用することで、発生させる音の制御がより細かくできるようになったこと、それに、検査結果をそのままノートパソコンに、詳細に記録していったこと、だった。
 ガクの可聴音域は、一晩明けただけなのに、格段に広がっていた。




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彼女はくノ一! 第六話(62)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(62)

 そんな雑談をしている折、
「……おっ、にーちゃんっ!」
 と、叫び声をあげて、香也に抱きついてきた者がいた。
 メイド服姿の、ガクだった。
「……こ、のぉっ!」
 楓は、ぎゅーっと香也に抱きついて離れようとしないガクの身体に手をかけ、力ずくで引き剥がそうとしている。
「離れなさい、って……。
 こんな、往来の真ん中で……」
「……ガクちゃん、離れるっ!
 楓ちゃんもっ!」
 反射的に、香也も叫んでいる。
 学校からさほど遠くない公道で、メイド服に抱きつかれたり、同級生がそれを引きはがそうとしている……などという様子を通行人に目撃されても平然としていられるほど、香也も剛胆ではなかった。
 いつにない香也の厳しい叱責を受け、メイド服姿のガクと、制服姿の楓が、ぴょこん、と香也から、離れる。
「……何やってんだ、君たち……」
 そんな時、学校の方から歩いて来た荒野が、その場にいたみんなに、声をかけた。
「こんな、道の真ん中で……」
 荒野も、鞄を抱えている。おそらく、一人で下校してくるところだったのだろう。荒野の声には、「……やれやれ……」というニュアンスが、それはもう、たっぷりと籠もっていた。
 香也と楓は、荒野に返答ができず、ガクは、きょとんとした顔をして、目をしばたいているだけだった。

 合流してきた荒野は、途中、マンドゴドラに顔を出し、マスターに声をかけて全員にケーキを振る舞う。もっとも、甘いものがどちらかというと苦手な香也は遠慮して飲み物だけを受け取り、メイド服を着ていたガクは、マスターと話し合った末、店の前にワゴンを出し、即席の「タイムセール」をはじめてしまった。
 マスター曰く、
「たまには、こういうスパイスもないとな……」
 とのことだった。
 もともと、マンドゴドラのケーキは味については定評があり、多少、値引きをしても、その分、数がはけるので、利益的には十分にもとをとれるのであった。
 ガクも、ものめずらしさも手伝って、嬉嬉として売り子を務めている。こちらは完全にただ働きだったが、普段、ご馳走になっているケーキの代金を考えると、多少働いたくらいでは返せないほどご馳走になっているわけで、ガク本人がいやがっていないのなら……と、誰も止めるものがいなかった。
 香也たちがマンドゴドラの喫茶室でケーキやソフトドリンクをご馳走になっている間に、荒野は茅と連れだって「買い物をしてから帰る」といって、商店街に姿を消した。
 もともと、マスターが思いつきではじめた突発的なイベントであり、ワゴンセール用に供給できる商品も、数が限られていたので、ごく短時間で売り切れてしまった。
 香也たちの方は、三十分ほど店内で談笑した後、表に用意した商品が売り切れたのを機に腰をあげ、ほくほく顔のマスターに土産まで持たされて、帰路についた。

 明日樹は「今日は、大樹も一緒だから……」と、香也が送るのを断ってきたので、香也は、楓やガクと三人で家に入る。
「……おや?
 今日は、三人でお帰りかぁ……」
 オフで家にいた羽生が、そういって出迎えてくれた。
 マンドゴドラに寄った分、いつもの時間より少し遅れていて、テンやノリ、孫子もすでに帰宅しており、夕食の準備も整っていた。
 香也と楓は制服を着替えて、居間に入る。

 食事は、いつもの通り、賑やかなものだったが、香也は他の住人たちが話すことを聞く一方であり、学校での香也自身のことは、今日一日、ほとんど香也と一緒だった楓が語る。
 孫子は、立ち上げたばかりの会社のあれこれについて、テン、ガク、ノリの三人は、シルバーガールズ制作について、楓は、有働のポスター制作打ち合わせの際、香也が何をしたかについて、それぞれ事細かに語る。
 食事が終わると、楓と孫子は、孫子の会社で使うソフトの打ち合わせをはじめ、真理と羽生は、食器の後片づけを行い、香也は風呂を勧められる。テン、ガク、ノリは、やはり外出する予定があるとかで、家から出ていった。
 香也はいわれるままに風呂を使った後、そのままプレハブに移動する。
 灯油の燃料を補給し、火を入れると、画架にキャンバスをセットし、香也はまったく気負いのない姿勢で絵の具を絞り、筆を構えた。
 そうして、何百回、何千回と繰り返した動作を、もう一度繰り返すと、香也の脳裏から、日常の些末事が、すっと消える。絵に集中した香也は、自分が目と手だけになった錯覚さえ覚えながら、ずぶずぶと神経を、頭の中にある、絵の完成図に集中させていく。調子が良い時の香也の脳裏には、完成した絵のイメージがしっかりと固定されており、それに近づけるため、想定したとおりの手順で手を動かしている……自分が、プログラム通りに手を動かす、ロボットかなにかとような、錯覚さえ、覚える。
 このような時、香也の自意識は完全に機能しなくなっており、香也は、自分が「狩野香也である」ということさえ、意識の外に出し、目と手しか、意識しないようになって、ただひたすら、「絵を描く」という行為に没頭する。
 ひさびさに、周囲に他人の視線がない状況であり、何かと騒がしく、ノイズが多いこのごろでは、ようやく香也に訪れた、貴重な忘我の時間だった。
 おそらく……自我さえ意識しなくなる、この状態になるため、香也は、絵を描き続けている……と、香也自身は、思っている。
 この時間さえ、あれば……。

 同じ頃、楓と孫子は、ノートパソコンの液晶画面を睨みながら、散文的なビジネス用途ソフトの、詳細を煮詰めている。会計や人員のスケジュール管理は、既存のソフトを流用したりマクロを組んで機能を拡張したりしているが、孫子は、各個家庭への宅配業務から一歩前に進んで、在庫の管理一括管理や消費傾向の統計データまで、これからのビジネスに活用しようとしている。
 そうしたデータを活用することで、商品の売れ行きの変化や消費量をかなり詳細に把握し、在庫の無駄をなくし、売れ残りを減らせば、あくまで孫子の顧客に当たる商店街にとって、経費の削減にも繋がる。
 加えて孫子は、日々の物流量を正確に測り、燃料の消費や配車ルートに無駄が出ないよう、試行錯誤を繰り返した。まだまだ事業を立ち上げたばかり、ということもあるが、孫子は、出来るだけ経費を浮かせて利益率を上げ、その浮いた分を、ボランティア活動に必要な資金として、充当しようとしている。
 孫子は、通常以上に利益を上げなくてはない……という目標にしており、そのためには、合理化を徹底的に押し進めなければならなかった。
「……例えば、先日出た、分別したゴミを処理場まで運ぶ、という話ししましても、車両はともかく、寄り道した分の燃料その他は、こちらの持ち出しになるわけです。
 一回、二回ならともかく、定期的に……となると……」
 その分、必要な費用も、決して馬鹿にはできない……。
 その分、孫子の会社は、恒常的に利益率を高めなければならない……といのが、孫子の言い分だった。




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「髪長姫は最後に笑う。」  第六章(320)

第六章 「血と技」(320)

「そうか……」
 荒野は、もう一度、繰り返す。
 以前とは、違い……少なくとも茅は、もう独りぼっちではない。三人や現象がそばにいるし、荒野たち、一族の者も、今では周辺に多数、生活している。
 その意味では、かなり気が楽になっている筈、だった。
 荒野にとっても、茅にとっても……心理的には、かなり楽になっている。
 その分、現実的な繁雑さは、増してもいるのだが……。

「……どうしたんだ、今日は……」
 荒野が尋ねると、楓は、珍しく不機嫌な顔を隠そうともせず、
「知りませんっ!」
 と、どなるように答えて、荒野から顔を背けた。
 登校するためにマンションの前に出ると、荒野はすぐに異変に気づいた。
 いつもなら、家の前まで香也を見送りにくる三人の姿が見えない。
 楓は、かなり不機嫌な様子で、代わりに、上機嫌になった孫子が、これみよがしに香也に纏わり付いており、樋口明日樹に「むすぅ~っ」とした表情をさせていた。
 そこまで観察すれば……荒野にも、大体のところは、予想がついたが……。
『……こりゃあ……』
 触らぬ神に、祟りなし……だな、と、荒野は即座に、「この件に関しては、放置する」と決定する。
 香也自身が、明確に誰かを選ぶ……と決めない限り、何かの拍子で、多少バランスが狂うことがあっても……それは、一過性、一時的な変化に止まり、大勢に、影響はないであろう……と、荒野は判断した。
 その実……よほど差し迫った事情でもなければ、そんな、他人の色恋沙汰に干渉する……などという悪趣味で面倒な真似を、荒野は、したくはなかった。

 教室内に入ると、昨日に引き続いて、授業がはじまる前から、教科書やノートを机の上に広げている生徒が多く見受けられた。テスト前……の時期だけに特定した変化なのだろうが……やはり、二年生も終わりに近いこの時期となると、それなりに緊張してくるようだった。
「……ねー、ねー……」
 そんなことを考えている荒野に、話しかけてくる生徒がいた。
「放課後の、例の勉強会、昨日から、佐久間先輩が試験対策の講義をしてるって本当?」
 本田三枝、だった。
 荒野とは特に親しい……というわけではないが、物おじしない性格なのか、荒野がこのクラスにまだ馴染んでいなかった頃から、平然と話しかけてくる。
「うん。本当」
 荒野は、頷く。
「昨日も、クラスのやつらと大勢で押しかけたけど……あれ?
 本田、昨日、いなかったっけ?」
「昨日は、部活があったからね……。
 引退試合が近いし、そんなにちょくちょく抜けたくないし……放送だけ、聞いてた……」
 期末や中間などの試験期間中は、学校側も、流石にクラブ活動を停止しているが……直前のこの時期は、あまりうるさい指導は、していない。
「そっか……」
 荒野は、当たり障りのないことをいって、頷く。
「本田は、バスケ部……だったっけ?
 先輩の、放課後のは……なかなか、評判がいいようだよ」
「みたいだね……。
 他の人に聞いても、評判いいし……そっちの妹さんも、一年で同じようなこと、やっているんでしょ?」
「ああ……。
 そう……らしいね。
 なんか、放送部のやつらが、二人の講義の映像撮って、アーカイブとしてネットで公開するとかいっているし……」
「……妹さんと佐久間先輩……顔とか外見とかじゃなくって……その、もっと……頭がよすぎるところとか、似てるよね……」
 荒野は、まじまじと本田の顔を見つめる。
 そして、苦笑い混じりに、頷いた。
「まあ……とことん、頭がいい人っていうのは、一定の割合でいるもんだよな。
 おれは、あそこまでよくはないけど……」
「そうだね。
 妹さんと加納君は、あんまり似てないし……」
 本田も、頷く。
 書類上、兄弟ということになっている、茅と荒野が「似ていない」というのは、別に、本田だけが感じていることではない。二人が並んでいると、誰の目からみても、歴然と、「似ていない」のだ。そもそも、実際には血のつながりがないから、当然といえば当然、なのだが……。
「……似て、いないね」
 荒野は、本田に向かって頷く。
 二人が似ていないということは、荒野も、自覚している。
「うちも……いろいろと、複雑なんだよ……」
 荒野は、少なくとも嘘はつかなかった。
 実際、荒野や茅を巡る事情は、一口には説明しきれないほど、複雑だ。
 その時、朝のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴ったので、会話は中断され、本田は自分の席に戻っていく。

 その日、一日中上機嫌だった孫子は、実力テストの答案が回収され、一日の授業から解放されると、即座に荷物をまとめて教室を飛び出していった。孫子が、放課後になるや否や、即効で下校する姿は珍しくはないのだが、今日は、いつもに輪をかけて、急いでいるようにみえた。
 ……何か、あるのか……と、荒野は訝しがったが、孫子が急いでいる様子なので、引き留めて事情を聞く、ということはしなかった。
 飯島舞花や樋口明日樹も、孫子の後を追うように帰り支度を整えて、廊下を歩いていった。舞花は、昨日と同じく、一年生の勉強をみに、明日樹は、部活へいったのだろう……と、荒野は推測する。
 放課後といっても、荒野に明確な用事はなく、結局、残って昨日と同じように、校内で勉強をすることにした。学生という現在の荒野にとっては、それなりに順当な放課後の過ごし方だろう、と、荒野は思う。




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彼女はくノ一! 第六話(61)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(61)

 そこには、香也が有働に頼まれて描いた絵の中で、一番大きなものが飾られている。下駄箱で靴を履きかえ、校内に入る時、真っ先に目に入る位置でもあった。
「……こういう絵、廊下のあちこちに飾ってたけど……これ、今度、ポスターになるんだっけ?」
 舞花が、今度は明確に香也に向けて、尋ねた。
「……んー……。
 そう……」
 香也は、頷く。
「その、印刷するためのチェック、今日もしてたんだけど……」
「……ねえ……」
 ちょんちょん、と、背後から手を伸ばして、香也の肩を指先でつついた者がいた。
 振り向くと、二年生の女生徒が、香也の背後に立っていた。香也は、その女生徒の顔と名前を、覚えていない。人の顔と名前を覚えるのが苦手だったので、イマイチ、自信がないのだが……香也にとっては、初対面の生徒だと思う。
「これ……。
 あちこちに張ってあったの、全部……本当に、君一人で、描いたの?」
 その女生徒は、ちょっと、気が強そうな顔つきをしていた。
「……んー……。
 そうだけど……」
 その女生徒が何を香也に伝えたいのかわからなかったが……香也が描いた絵だということだけは、確かだったから、香也は、反射的に頷いていた。
「……そっか……すごいね……。
 一年の、かのう、こうや……で、いいの?
 読みだけだと……そっか、あいつと同じ名前なんだ……」
 香也の返答を聞くと、その二年生は、しきりに頷いてみせる。

 特に香也に用事がある、というわけでもなく、通りすがりにたまたま舞花と香也の会話にいきあって、確認したくなっただけらしい。
「……なんだ、本田……。
 年下狙い?」
 舞花がからかうような口調で、その女生徒に話しかける。舞花とその女生徒は、顔見知りらしい。
「絵描き君……これでなかなかモテまくりだから、競争率高いぞ……」
「……そんなんじゃないよ……」
 その、本田という生徒は、憮然とした表情と口調で、舞花にいいかえした。
「ただ……あんだけ、一人で描いたってのがすごいな……って、思っただけで……」
 舞花は、その生徒を「荒野や孫子、明日樹、舞花と同じクラスの生徒だ」と、紹介する。やはり、香也たちとは、面識のない生徒だった。
「本田は……部活、なんだっけ?」
 明日樹が、親しげな口調で話しかける。
「一応、バスケだけど……今日残ってたのは、そっちじゃなくて、佐久間先輩の方」
「ああ……」
 舞花が、納得したように頷く。
「佐久間先輩の講義、評判いいもんな」
「ここ二、三日で、予想問題の的中率がかなり高いことも、証明されつつあるしねー……」
 本田が、天井に顔をむけた。
「……確実に、点数が稼げるってポイント、明確に教えてくれるんだから……そりゃ、盛況になるよ。
 わたしなんか、今日初めて出てみたんだけど……人数が多いもんだから、あの人、二つの科目、同時に教えてたよ。
 教室の前の黒板と後ろの黒板を使って……前と後ろ、行ったり来たりして……。
 教えて貰う側は、もちろん、どっちか一つだけ、習ってるんだけど……」
 ……あんな人も、いるもんだなぁ……と、本田はため息をついた。
 実は、一年の方でも、茅が似たようなことをやっているのだが……その事実を本田に教えようとするものは、誰もいなかった。

 堺、柏は、校舎の外に出たところで、例によって別れを告げ、駐輪場の方に去っていき、方向が違うという本田とも、校門を出たところで分かれた。
「……これは……」
 しばらく前に進んだところで、楓が、誰にともなく話しはじめる。
「佐久間先輩という前例がいいクッションになって……茅様の印象が、かなり柔らかくなっている感じですね……」
「……あの先輩がいないところに来て、茅ちゃんがいきなり今と同じようなこと、みんなの前でしてみせたら……確かに、もっと、センセーショナルな印象、もたれちゃうな……」
 舞花が、楓のいわんとするところ察して、頷く。
「もっとひっそりと……目立たないよう、息をひそめて、普通の生徒の振りをしながら、通うしかなかったかも知れない……」
「……でも……」
 明日樹が、首を傾げる。
「あの先輩……もともと、優等生で頭がいい人だったけど……あんな目立つような真似、わざわざするようになったの、ここ最近……だよね」
 そういって明日樹は、茅の顔に、意味ありげな視線を走らせた。
「転入したばかりの時、図書室で、先輩に声をかけられたの……」
 茅は、当たり障りのないことだけを、話す。
「……先輩とのおつきあいは、それ以来……」
 荒野と佐久間沙織との間にかわされた密約は、周囲の者にも明かされていない。
「まあ……もう、卒業だし……。
 先輩も、茅ちゃんたちみたいなのが、どんどん転入してきて、もう猫かぶらなくても、あんまり目立たないって思ったんじゃないか?」
 舞花が、取りなすような口振りになって、そんなことをいいはじめる。
「……そっか。
 もう、三学期だし……」
 明日樹は、考え込む顔になる。
「そういうのは、あるかも……。
 あれだけ頭いい人が、周囲に合わせてふつう程度の振りをするのも、それなりに疲れるだろうし……」




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「髪長姫は最後に笑う。」  第六章(319)

第六章 「血と技」(319)

 その後もガクは、それ以外は荒野が危惧したような失態は見せることなく、ただ、確かに以前よりは快活に、やたらと声を立てて笑うようになった。
 常時、ハイになっている……という荒野の感触は、さほど的外れでもないのだろう。
「……どうしたんだ、今日のガクちゃん……」
 その証拠に、いつもの河川敷に到着した途端、飯島舞花が声をひそめて荒野に尋ねてきた。
「昨夜、いろいろあってな……」
 荒野は、茅から伝聞したことを、一般人である舞花にどう説明したものか、少し考えこんでしまった。
「……あー……その……。
 茅! ちょっと来てくれっ!」
 結局、自分自身ではろくな思案も浮かべることができず、荒野は、すぐに茅に助けを求める。
 茅はすぐ、荒野と舞花のそばに近寄って来た。
「分かりやすい例えでいうと……昨夜、ガクは、ちょっとしたドーピング処置を施されたの……」
 荒野と舞花から、疑問の説明を受けると、茅は即座に、滑らかな口調で答える。
「……今のガクは……五感が、今まで以上に鋭敏になっている状態。
 わかりやすい例えでいえば……目や耳、その他の感覚が、より緻密に……それまでの何倍も細かいところまで、感じ取れるようになっているの」
「……それって……」
 舞花は、茅が説明した状態を、懸命に想像しよう試みる。
「特に、慣れないうちは……ものすごく、疲れるんじゃないか?」
「疲れると思うの」
 茅は、即座に頷き返す。
「感覚が鋭敏になるということは、処理系にそれだけ負荷をかけるということだから……ガクのここは、今、必死で処理能力を倍増するため、シナプスの配列が組かかわっている筈……。
 それが間に合わない場合は、ガクは、元通りのレベルの五感に戻ると思うの。
 今のガクの高揚は、身体にかかっている負担をごまかすため、ガクの身体がわざと苦痛をマヒさせている状態……」
「……風邪引くと、熱を出すようなもんか……」
 茅の説明に釈然としないものを感じながらも、舞花は、そういってとりあえず、頷いて見せる。
「そういう状態じゃあ……ガクちゃん、家で寝ていた方がいんじゃないか?」
「ガクの体力なら、大丈夫」
 茅が、力強く、頷いて見せる。
「それに……部屋に閉じこもっていると、外部からの刺激も、少なくなる。
 普段どおりに過ごして、いろいろなものをみたり聞いたりして、できるだけ刺激を受けた方が、ガクの処理系にとってもいいと思うの」
「……今のガク……そういう、状態なのか……」
 いつの間にか茅のそばに近寄って、舞花と一緒に茅の説明を聞いていたノリが、呟く。
「ボクも……こっちにきて、はじめて眼鏡をつくってもらった時、あまりにも近くのものが鮮明に見えるんで、思わず笑い出しちゃったけど……。
 ガクの場合、目だけではなく、五感全部、身体が感じる情報全部が、いっぺんに緻密になっちゃったわけだから……はしゃぐのも、わかるな……」
 そういって、ノリは、楓との組み手を行っているガクの方をみる。
 いつもは、楓に翻弄される一方だったガクは、今日に限って、楓の動きを逐一見切り、逆に楓の方を、翻弄しているようにみえた。
 もっとも、多少、ガクの見切りがよくなっても、よく練られた楓の体捌きは融通無碍であり、何かしらの対抗技を繰り出すので、いきなりガクの優位になったりはしない。
 互角……までは行かなくとも、従来になく、ガクが、楓のレベルに肉薄しているのは、ほんの少し、二人の動きを目で追えば、容易に理解できる。
「……五感の解像度が、いきなり何倍にもなった状態、なんだろうな……」
 ノリと同じく、ガクの変化を心配しているテンも、話しに加わる。
「ボクも……最近になって、どんどん体中のセンサーが、鋭くなっているけど……その変化は、ごくゆるやかなものだったし……」
「……テンの場合は、おそらく、成長に伴う、自然な能力の伸張なの。一時的に、多少の不都合はあっても、時間が経てば、収まるべきところに収まる筈……」
 茅が、テンに向かって頷いて見せる。
「だが、ガクの場合は……」
 荒野が、茅の後を引き取る。
「……外から無理矢理、人為的に引き出した変化だからな……。
 まあ、すぐに、ガクの身体とか情報処理系が、今の状況に対応するとは思うけど……」
 荒野は、ガクと行動を共にすることが多いテンとノリに、
「……しばらくは、それとなく注意してやってくれ……」
 と、告げた。
 それが、当面の結論のようなものだった。

「……ガクの方は、もうしばらく様子をみることにして……」
 朝のトレーニングを終え、マンションに帰り、シャワーを浴びる。
 そして、朝を摂りながら、荒野は、茅に昨夜、聞きそびれたことを尋ねた。
「……茅。
 最近、食事量が増えているだろ?
 茅の方も、徐々に体質が変わってきていないか?」
 荒野にしてみれば、茅を相手に下手な駆け引きを行う必要は、ない。
「徐々に、変わってきているの」
 案の定、茅は素直に認めた。
「持久力やスタミナは、まだまだだけど……。
 瞬発力や、筋力、走る早さ……とか、基本的な能力は、もう、一般人レベルを超えているの」
「それは……もう、一族に、近い……って、こと?」
 荒野は、慎重な口ぶりで確認する。
 茅は、無言で頷いた。
「荒野や楓、それに、あの三人には、まだまだ及ばないけど……」
「……そうか」
 荒野は、呟く。
 半ば予想していたことだったので、感慨はあるが、衝撃はない。
 それに、今朝、テンも「自分の感覚が、だんだん鋭くなって行く」という意味のことを、いっていた。
 三人も、茅も……ひょっとしたら、現象も含めて……新種たちは育ち盛りであり、まだまだ成長の余地を、残しているものらしい……。




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彼女はくノ一! 第六話(60)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(60)

 香也はというと、この日の放課後は、茅の講義にはつき合わず、教室の掃除が終わるとまっすぐに美術室に向かう。ポスター制作が佳境に入ってきた、ということもあったし、それに、茅と沙織の講義は一通り、録画され、公開されるそうだから、リアルタイムで受講する意味も薄くなっている。
 どのみち、家に帰っても一定時間、勉強に向き合うよう、楓や孫子たちにし向けられるのだから、この時間にしかできない活動をしておいた方が、いい……と、香也は、判断した。
 その点、放課後の美術室は、香也と明日樹、つまり、美術部員と、部外者ではあるが、よく訪れる楓くらいしか人がいない。休み時間を利用して狭い机の上に校正刷りの大きな紙を広げるよりは、遙かに融通が効いたし、また、放送部員たちも、自由に出入りすることができた。

 香也と楓が美術室に入ると、すでに有働と二名ほど放送部員たちが、校正刷りの束を机の上に置いて、待ちかまえている。
 昨日と今日の打ち合わせを通して、香也も多少は印刷関係の用語や知識を得てはいたが、何しろ、ポスターの種類が多いから、まだまだ作業は完遂しないのであった。
 明日樹は、諦めたような、呆れたような表情で、自分の絵に取り組んでいる。
 香也は有働のそばにまっすぐに歩み寄り、早速、打ち合わせに入る。有働と相談しながら、校正刷りに次々とチェックを入れ、出来たものから順番に、放送部員に手渡す。放送部員は、それをもってパソコン実習室に向かった。その場で、チェックされたデータを修正するらしい。
 香也は、なんならパソコン実習室に移動して、そこでやりましょうかと提案してみたが、今、実習室は、試験勉強のため、マシンを使用する生徒たちで一杯であり、放送部でも、ようやく一台、確保している状態で、かえって邪魔になる、と、有働に説明される。
 結局、香也たちは美術室に居座って、チェックの済んだ校正刷りは、他の者が持ち運ぶ……という形が、一番効率がいい、ということだった。途中から、楓も放送部員たちと一緒にパソコン実習室に向かい、そこでフォトレタッチ・ソフトの操作を手伝うことになった。
 そんなわけで香也と有働は、ポスターの校正刷りを一枚一枚、見ながら、チェックを続けていく。二人とも、途中から勝手が分かって、どんどん手際が良くなってきた。そのうち、最初の頃にチェックしたものの修正版が、プリントアウトされてもどって来るようになり、そうしたものを優先的に見て、校了版を増やしていった。
 香也が美術室に来た時、かなり大量にあるように思えた校正刷りに、有働が次々と「校了」の判子をついていく。
 帰りの支度をする頃には、有働が持ち込んだ校正刷りのうち、四分の三に「校了」の判子が押されていた。
「……ご苦労様です。
 ありがとうございました……」
 有働が、香也に頭を下げる。
「少し残りましたが……おかげさまで、予定より早く作業が進んでいます」
「……んー……。
 いいけど……」
 香也の方も、慣れない仕事をやって、多少の疲れは感じていたが、代わりに、一人で絵を描いているだけでは得られない充実感も、覚えている。
 他人とこれほど綿密に話し合いながら、作業する……というのは、香也にとっても、ほとんどはじめての経験だった。
 羽生との同人誌の場合、ほとんど香也は羽生の指示通りに描いているだけなので、「共同作業」という感覚は、希薄だった。
 そういう意味では、それなりにいい経験にはなっている……とは、思う。
「それでは、出来上がったものは、印刷屋さんに持っていきますので。
 残りはまた明日にでも、またお願いします……」
 やり残した校正刷りは、美術準備室に保管し、判子が押された紙を両手に抱えて、有働は美術室を出ていく。
「……これも、一応、部活の範疇に入るのかなぁ……」
 有働が出ていったのを見届けると、画材の片づけをしていた明日樹が、ため息混じりにそう呟く。
「一応、絵には関係しているけど……」
 特に非難を含んだ口調ではない。
 呆れを含みながら、ではあったが、明日樹は、香也の経験が広がるのは、いい傾向だ……と、思っている。
 香也は、例によって、「……んー……」とはっきりしない返事をしながら、帰り支度を続けた。
 そうこうするうちに、パソコン実習室に出向いていた楓が帰ってきて、三人で帰宅することになった。

 最終下校刻時刻が近づいた事を告げるチャイムが鳴る頃には、三人は美術室の鍵をしめてその鍵を職員室に返し、昇降口に向け、廊下を歩いているところだったが、そんなに遅い時間になっても、まだ残っている生徒が多かった。いつもはこの時間帯になると、ほとんど部活に出ている生徒しか残っておらず、校舎内はがらんとしているのだが……今は、昼間の休み時間と大差がないような気がする。
 時間が時間だけに、生徒たちはみな、香也たちと同じように帰り支度をして、下駄箱のある昇降口へと向かっていた。

「……やあ。
 そっちも、今、帰り?」
 下駄箱の前で、飯島舞花たちの一行と、ばったりと出くわす。
 舞花の後ろには、栗田精一、堺雅史、柏あんな、樋口大樹などの顔も見えた。
「そちらも、今までやっていたんですか?」
 楓が、舞花に尋ねる。
「うん。
 今日も、落ちこぼれたちの補習。
 なかなか、フォローのしがいがあるよ……」
 そういいながらも、舞花は、特に嫌がっている風でもない。
 基本的に舞花は、面倒見がいい……と、今までのつき合いを思い返し、楓は改めて認識する。下級生の復習につき合う……というのは、時間も手間もかかし、教える側からすれば、わかりきったことを相手のレベルに合わせて反復するわけだから、退屈この上ない……と、思うのだが、舞花は、特にそれを苦にしている様子もなかった。
「そっちは、部活、かぁ……。
 この時期に、熱心だなあ……」
 舞花は、香也たちの顔を見合わせて、感心してみせた。
「わたしは、まともに部活に出られるの、今学期いっぱいだし……それに、狩野君は、ボランティア用ポスターの最終チェック」
 樋口明日樹が、舞花に言い返した。
「ああ、そうか……それで……」
 舞花は、納得した顔で頷く。
「絵描き君も、最近は放送部の連中に、何かと頼りにされてるからなあ……」
 舞花は下駄箱から入ったところに飾られている、大判の絵を指さしながら、そういう。茅に影響されて、舞花も、香也のことを「絵描き」と呼ぶようになっていた。口頭だと、荒野と香也は、紛らわしいから……ということもある。
 そんな立ち話しをしている間に、帰り仕度をした茅が、みんなに合流してきた。




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「髪長姫は最後に笑う。」  第六章(318)

第六章 「血と技」(318)

 テンに背負われていたガクは、帰る途上で目を覚ます。
「……あっ……あれ?」
 ガクには、何故、自分がテンに背負われているのか、まずそれが分からない。
 周囲は、畑が広がる野外。夜。
 どうやら、ガクたちは、農道を歩いているらしい……。
「……気がついた?」
 気づくと、ノリが、心配そうな表情で、ガクの顔を覗き込んでいる。
「ガク、大丈夫?
 気分、悪くない?」
「……き……ぶん……」
 舌が、回らない。言葉が、もつれる。
 ガクの意識は、まだ明瞭ではない。
「……無理してしゃべらないで、いいから」
 ガクを背負ったテンが、背中のガクに話しかける。
「まずは、帰って……一晩ぐっすりと、休もう。
 それとも、このへんで一度足を止めて、休む?」
「……いや……。
 いい……」
 ガクは、力無く、かぶりを振った。
「……このままで、大丈夫……」
 何で、こんな……情けない状態に、なっているのだろう……と、ガクは思い……そして、先程の、現象との一件を、不意に、明瞭に思い出す。
「……意識が、はっきりしてきたか……」
 背負ったガクの身体が不意に緊張して硬くなったことで、テンは、そこことを悟る。
「どう?
 前と……何か、違う?」
 ガクは、首を伸ばして、周囲を見渡す。
「……まるで、違うよ……」
 しばらくして、ガクはそういった。
 まだ、ぼんやりとした口調だった。
「なんか、回りが……鮮明に、なっている。
 見るもの、聞こえるもの、肌に触れるもの……すべてが……どろりと濃くなった感じ……。
 五感すべてが、以前よりも明瞭に……敏感になっているっていうか……例えば、こんな暗くても……今のボクは、この闇の濃淡を、かなり明確に、見分けることができて……。
 センサーの精度が、桁違いによくなった感じ……」
 話しているうちに、ぼんやりとしていたガクの口調が、しっかりとしたものになっていく。
「……そっか……。
 夜って、こんなに優しい光りに満ちていたんだ……。
 前は、黒一色にしか見えなかったのに……。
 テン、ここまででいいよ。
 もう、自分の足で歩ける……」
 そういってガクは、テンの背中から飛び降りる。
 地面に降り立った瞬間こそ、少しよろけたが、ガクはすぐに自分で体勢を立て直した。
「……段違いだよ、本当……。
 世界が、こんなにも濃密で豊饒だなんて……まるで、想像していなかった。
 佐久間の人たちや、テンや、茅さんたちは……こんな世界を見たり感じたり、していたんだ……」
 ガクは、瞳を輝かせて、周囲を見渡す。
「おそらく……今は、現象の操作によって、一時的に五感を鋭敏にされている状態……」
 茅が、ガクにいった。
「……感性の精度が上がっても、まだ、それを処理する機構が、育ってないから……。
 しばらくすると、頭が痛くなるかもしれないの……」
「うん。わかった」
 ガクは、茅の言葉に、素直に頷く。
「そっか……。
 今は、一時的に、無理矢理ドーピングされているようなものだから……。
 この、感覚が増幅されているうちに、脳が、いきなり膨大に膨れ上がった情報量を処理する機構を作り上げられないと……もとに戻っちゃうんだ……。
 そういうこと考えると、確かに、リスクが大きいし、荒っぽい方法だな……」
 そういいながらも、ガクは、不安な様子は一切見せず、それどころか、にやにやとにやけている。
「上機嫌なのはわかるけど……その笑い方、気持ち悪いよ、ガク……」
 ノリが、こわごわと、ガクに話しかける。
 ノリは、よく知っているガクが、いきなり別人になったように感じていた。
「……あれ?
 そうか。
 ボク、今……笑ってたのか……」
 そういってガクは、一度、表情を引き締めるが、すぐにまた、頬が緩んでにやついてしまう。
「……ごめん。
 今……顔に当たるささやかな風の感触とかでも……微細なところまで感じ取れて……そういう、細かい変化を感じ取れる自分の身体を、いちいち、おもしろく思っちゃう……」
 そういいながらもガクは、弛緩した表情をしている。
「……そっかぁ……。
 こんなんだったら……他人の考えていること読めたり、操作したりも……方法さえ覚えれば、できるかも知れない……」
「……今夜は……」
 茅が、口を挟む。
「帰って、もう寝るの。
 ガク……自覚している以上に、自分の身体に、負担をかけている……」
「……うん。
 そうだね……」
 この言葉にも、ガクは、素直に頷く。
「……さ。
 早く、帰って休もう……」
「駄目……」
 茅が、ガクの肩に手をかけて、いきなり駆け出そうとしたガクを引き留める。
「普段とは、違うの。
 今、走るのは、危険。自分で立てるだけでも、奇跡。
 身体への負担が、大きすぎるの……」
 ガクの身体にざっと視線を走らせながら、茅がいう。
「……ゆっくりと、歩いて行くの。
 今のガクは、ハイになっている……。
 酔っぱらっているような、状態……」
 テンとノリが顔を見合わせて、ぶんぶんと頷く。
 確かに……今のガクの状態は、おかしい……。
「……ゆっくりと、歩いて帰ろうな、ガク……」
「それで……帰ったら、早めに寝るんだ……」
 テンとノリは、左右からがっちりとガクの肩を抱え込んで、そういう。

「……順調なのか、それは……」
 マンションに帰り、一連の出来事を茅が報告すると、荒野は非常に複雑な表情をした。
「順調といえば、順調」
 茅は、頷く。
「結果的には……」
 荒野は、深々とため息をついた。
「……つまり、場合によっては、目も当てられない結果にもなりえた……ということか……」
「ガク本人がそれを望めば……制止する理由は、ないの」
 茅は、即座に答える。
「……あー。
 まあ、理屈では……そうなるんだろうけど……」
 荒野は、ますます複雑な表情になる。
「そうか……。
 テンやノリも、止めなかったんだよな……」
 実のところ、誰かが制止する間もなく、ガクや現象がその場の思いつきを実行してしまった形だったが……。
 荒野は、このことに関しては何もコメントしない茅の顔をじっと見つめ、深々とため息をついた。
「……まあ……。
 結果的にせよ、何にせよ……。
 うまいこといって、よかったよ……。
 さあ。
 風呂が、沸いているから……」
 荒野は荒野で、茅の反応から何かしら、察するところがあったらしい。

「……うわぁ……。
 きれいだ……」
 翌朝、マンションの前に集合したガクは、茅に聞いた通り、どこかハイになってはしゃいでいた。
「……朝の光でみると、また、全然違って見えるなあ……」
 どうやら、今のガクには……みるもの、感じるもの、すべてが、新鮮な感動に満ちているらしい。
 ある種の薬物を服用した時の状態に、似ているな……と、荒野は思った。
 確かに、今のガクは……酔っぱらいに近い。
「……茅。
 あいつの体は、もう……」
 荒野が尋ねると、その質問の意図をすぐに察した茅が、即答する。
「……シナプスの活動並びに血流は、正常。
 少なくとも、表面的には、昨夜のダメージは残っていないの……」
「……わかった」
 荒野は頷き、楓とテン、ノリを呼び寄せ、
「ガクが暴れだしたら、すかさず取り押さえるように」
 と、指示を与えた。
 ガクのパワーを持った、酔っぱらい……。
 とてつもなく、始末に悪い存在だ……と、荒野は思う。




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彼女はくノ一! 第六話 (59)

第六話 春、到来! 乱戦! 出会いと別れは、嵐の如く!!(59)

 休み時間中には、有働と玉木、あるいは他の放送部員たちが、入れかわり立ちかわり校正刷りを持参して香也を訪ねてきた。昨日の放課後に、かなり突っ込んだ打ち合わせをしているため、香也も自然と印刷用語のいくばくかを記憶しており、自然と、話し合いは白熱して来る。元版は、経費削減のため、学校のパソコンとソフトを使って作成しているとかで、色合いやロゴのデザイン、大きさ、構図……など、かなり細かい部分にまで、香也に判断を求めてきた。もちろん、おおもとの原版は放送部員で作成するのだが、ヴィジュアル面でのセンスは、香也の方に一日の長があり、問われるままに、「この箇所は、もっとこうした方が……」と香也のがアドバイスを行うと、放送部員たちは一様に感心したように頷いて、帰っていくのであった。
 同じクラスの生徒たちは、もちろん、そうした光景を奇異の表情で見守っていた訳だが、そのうちに慣れたのか、表面上、気にしなくなった。
 ただ……日に何度も、休み時間のたびに、上級生を含めた生徒たちが、入れかわり立ちかわり香也の意見を伺いにやってくる……という事実は、いやがおうでも同じクラスのクラスの生徒たちに、印象づけられる。
 香也は……楓や孫子、あるいは、荒野や茅の陰に隠れているだけの、生徒ではない……と、そのように、認識されはじめていた。

「今日は……現代国語、だったっけ?」
 あっと言う間に昼休みが過ぎ去り、五時限面が終わる。
 その日の最後の休み時間に、柏あんなはげんなりとした声を出した。
「……比較的、点数を取りやすい科目、ではあるんだけどねー……」
 たまたま近くにいた羽田歩が、あんなに同調する。押しが弱いため、委員長などを押し付けられているが、歩もあんなと同じく、あまり勉強は得意な方ではない。
「……昨日も、茅ちゃんの授業、あったんでしょ?
 そっちに参加すればよかったかな……」
 羽田歩は、あくまで気弱な声を出す。
「……今からでも遅くはない……」
 あんなは、歩の手を、がっしりと握った。
「今日の放課後、一緒に残ろう。
 わたしみたいな落ちこぼれにも、誰かしらが懇切丁寧に教えてくれるし、期末試験の対策なんかも教えて貰えるから……」
「……あんなちゃん……」
 羽田歩は、あんなの手を握り返す。
「……死なばもろとも、とか、自分だけが苦労すんのはいやー、とか……そんなこと、考えているでしょう……」
 別に、あんなの気遣いに感動して、手を握り返した……ということでは、ないらしかった。
「………………うん。
 死なば、もろとも……」
 あんなが返答するまで、微妙に間が空いていた。

「……誰だ……。
 現国が、点数取りやすいなんていったの……」
 試験が終了し、答案用紙が回収されると、柏あんなは机につっぷして死んでいた。
「……はいはい。
 あんなちゃん。
 お掃除の邪魔になるから、早く外に出て……」
 さきほどのお返しとばかりに、羽田歩があんなの襟首を持ち上げて、あんなの上体を持ち上げる。
「……掃除が終わったら、ご期待通りにみんなでお勉強、しましょーねー……」
「……何、張り切ってんの?」
 あんなは、うろんな目付きで歩を見返す。
「……ぼちぼち、参加者が多くなったんで……というか、このクラスも、大半が居残ることになったんで、茅ちゃんに仕切りを任されたの。
 掃除当番が掃除している間に、パソコン実習室につきあって。
 あんなちゃん、力があるんだから……」
「……パソコン実習室?」
「茅ちゃんが、休み時間中に、教材をプリントアウトしておいたんだって。
 紙の束って重いけど、あんなちゃんならそれくらい、大丈夫でしょ……」
 歩はあんなを引きずるようにして、教室を出て行く。
 試験期間中は、帰りのホームルームもなかったので、おおかたの生徒が廊下に出ると、香也たち掃除当番が掃除を開始した。

「……確かに、ほとんど全員、残っているし……」
 分厚い紙の束を両腕に抱えたあんなと歩が戻ってきても、クラスの生徒たちは、ほとんどそのまま残っていた。
「まあ……明日のテストとか、期末の予想問題とかも、教えて貰えるっていうし……」
「それに……三日目だよ?
 前日に、残って教えて貰った人が、軒並み、テストでいい感触を得ていれば、それなりに、話題にはなるわさ……」
 交互にそう答えたのは、矢島と牧本だった。
「……ぼおっと突っ立ってないで、いくらかでもこのプリント、持ってよ……。
 これ、意外と重いんだから……」
 歩がジト目になって、二人にいった。
 矢島が、教室内をのぞき込み、前の方の掃除が終わっていることを確認する。
 そして、ちょいちょい、と手招きして、プリントの束を持った歩とあんなを教壇に呼び寄せる。
「重いのなら、いったん、ここに置いたら……」
 と、教師用の机の上を指さした。
「……あくまで、自分では持たないつもりか……」
 ぶつくさつぶやきながら、歩は教室内に入り、よっこらゃしょ、と声をかけて、紙の束を机の上にどさりと落とす。
「……ふぅ。
 重かったぁ……」

「……柏が持ってきたプリントは、こっちの教室に……」
 歩の後をついていこうとしていたあんなの肩を、とんとん、と指で叩き、茅はあんなを隣の教室に誘導した。
「こっちのプリントは、期末対策用。
 羽田が持ってきたのは、明日のテスト対策用……」
 あんなが、プリントを隣の教室に搬入するのを確認すると、茅はそういって、廊下で待っている生徒たちに呼びかけた。
「……掃除が終わったら、希望する教室に別れて、移動するの……。
 茅はこれから、今日のテストの解説を収録してくるから……収録が終わったら、こっちに戻ってくるから……それまで、プリントをみて、静かに自習してて……」
 ひとしきり、大きな声で周囲に告知した後、茅は廊下を小走りにかけて去って行く。

 半時間もすると、先程の告知通り、茅が撮影機材を抱えた放送部員を引き連れて戻ってきた。その頃には、二つの教室がほぼ満杯になって、静かに自習をしながら茅を待っていた。
 放送部員たちが機材をセットしているうちに、茅は、
「……今日のテストの問題の解説を希望する人は……」
 学校のサイトの、しかじかのURLアドレスに動画が置いてあります。自宅にネット接続環境がない生徒は、空いた時間にパソコン実習室にいけば、視聴できます……と、前置きし、茅は、二つの教室を行き来しながら、同時進行で講義を続けた。
「……すげぇ……」
 カメラをのぞき込んでいた放送部員が、うめく。
 相変わらず茅は、黒板も見ずに板書きし、そうしながら、空で、必要な説明をする。それも、滞りがない、滑らかな口調で。
 そして、生徒達が黒板の字を写している間に、隣の教室に移動して、同じことを行い、元の教室に帰ってくると、質問を受け付ける……。
 茅一人で、内容が違う授業、二つを、滞りなく、同時進行させていた。
 そして、その様子を撮影していた放送部員たちは……茅の授業を受けている生徒たちよりは、精神的に余裕がある状態で、茅の行動を評価することができた。
 控えめにいっても……人間技では、ない。




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「髪長姫は最後に笑う。」  第六章(317)

第六章 「血と技」(317)

 茅は、現象の頭部から「不可視の触手」のようなものが、ガクの頭部に伸びて、その先端が、ガクの頭部の中にもぐりこんでいる……ように感じられた。
 触手、というよりも、繊毛か。直径は、わずか数ミクロン、あるいは、それ以下……という、非常に細い糸が、現象からガクにのびている……と、見えたが……むろん、そんなものが実際に「視える」わけはない。
 佐久間の、他の知性に働きかけるチカラを甘受する能力が育ちつつある茅の知性が、その情報を、分かりやすく表示するためのアイコンとして「絡み合う、半透明の繊毛」という像を、選択したのだろう。
 茅は、こうした佐久間の、他の知性体に働きかける能力を、ユング的な共有無意識のモデル……「個人」の意識も、根底では、種族的な共有意識層に接続している……を基にした操作なのではないか、と、仮説を発てている。が、いずれにせよ、そうした「操作」が、半透明の触手や繊毛、という物理的な「物質」として顕現する……ということは、どう考えても、ありえない。
 だから、この「像」は、茅が感じ取った現象の能力を、茅の脳が、視覚的に分かりやすい形で表示している……と、理解するのが、適切だ……と、茅は判断する。
 茅は、瞬時にそんな思考をしながらも、前に進みでて、よろめいたガクの肩を支えている。
「……これが……佐久間の、技?」
 茅と同じようにガクの肩を支えたテンが、呟く。テンの視線は、ガクの頭の上あたり……茅が、細い触手、ないしは、繊毛を「視て」いるあたりに、据えられていた。
 現象の能力が、テンにとって、どう「視えて」いるのか、それは定かではないのだが……。
「……姫様、だけでなく……あなたにも、視えるのですか?」
 梢が、驚きの声をあげる。
 茅も、同じ疑問を持っていた。
 以前は、テンには、そうした「能力を感じ取る」能力が、なかった筈だが……。
「……わたしたちは、日々、成長しているの……」
 茅は、梢に、そう答えた。
 茅自身の経験からいっても……自分たちの身体が、止めなく変質し続けていることは、確実だった。
 ガクの身体が、がくがくと痙攣を繰り返している。
 自身の意志によらず、無理に神経を刺激され、各所の筋肉が震えている……というような、動きだった。
 先程の現象の説明によれば、「脳の内部に操作を加える」ということだった。まさか、物理的にシナプスの配線を変える……ということもないだろうが、梢の反応を思い返せば、かなりリスクが高い、乱暴な方法であることは、まず間違いない。
 茅は、ガクが自分の舌を噛まないか、心配になってくる。
「ノリッ!
 ガクの顎、押さえてっ!」
「わかったっ!」
 ノリは、茅の意志を瞬時に察知し、ガクの前に移動し、ガクの顎を無理にこじ開ける。
 前をみると、現象の額にも玉のような汗が、いくつも浮かんでいる。現象は、両目を閉じて何かを探るような、難しい顔付きをしている。
 現象は「術を施す側にも、施される側にも」かなりの負担がかかる行為だ……と、前置きしている。現象が、どうしてそこまでの負担を自ら引き受けるのか、茅には理解出来なかったが……それでも、今現在、行っていることが、現象にとっても、決して容易な仕事ではない……ということは、すぐに了解出来る。
 時間が経つにつれて、ガクの痙攣はひどくなった。痙攣……というより、ガクの意志によらず、身体の各所が勝手な動きをしているような感じだ。
 茅、テン、ノリの三人がかりで、ようやく押さえ付けている。よりにもよって、ガクは、三人の中で一番、強力な筋力を誇る。指向性を持たない暴れ方であったから、まだしもなんとかなったが……押さえ付けている三人の方も、力が抜けない状態だった。
 ノリは、ガクの口をこじ開け、口の中に指をつっこんでいる。ガクは、よだれを垂らしながらその指を噛もうとしていた。
 ノリの指は、すでに血だらけになっている。

「……終わったぞ……」
 どれくらいの時間が経過しただろう。
 顔中に脂汗を浮かべた現象が、そういうなり、その場にがっくりと膝をついた。
 舎人と梢が、慌てて現象に近づく。
「そいつは……目を覚ませば、少なくとも、視えるようになっている……。
 加納の姫と、そこのツリ目は、今の時点でも視えているようだが……」
 舎人と梢は、左右から現象の肩を支えている。
 ガクは、白目を剥いたまま、ピクピクと痙攣を繰り返していた。
 意識は、とうの昔に喪失していたらしい。
「佐久間の技を、誤解しないでくださいね……」
 現象の身体を支えながら、梢は、不機嫌そうな表情で、茅にはたちに話しかける。
「佐久間の技は、本来ならもっと洗練された、エレガントなものです。
 必要もなく、他の方に苦痛を強要するものではありません。
 現象のは、原理や原則を理解しているだけで……あまりにも、乱暴にすぎます……」
「だから……負担が大きい、と、前置きしただろう……」
 そういう現象も、疲労の色が濃い。いつの場で倒れても、不思議ではないような、顔色をしていた。
「所詮、ぼくのは……我流だよ……」
 息も、弾んでいる。
「……まったく……乱暴なんですから……」
 梢は、困惑した様子で首を横にする。
「そっちのお嬢ちゃんは気を失っているし、現象はこんなんだし……どうやら今夜は、ここまでだな……」
 舎人が、茅たちに頷いて見せる。
「分かったの」
 茅は、頷いた。
「今夜は、ここまで……ということで、いい?」
 ノリとテンも、頷いた。
「……車、出すかい?」
 舎人が、すっかり力が抜けて項垂れているガクを見ながら、そう申し出る。
「……いいよ。
 ガクの一人くらい、ボクらでも、運べるし……」
 テンが、首を振った。
 別に強がりをいっているわけではなく、実際に、ガク一人を抱えて帰るくらいなら、テンやノリにしてみれば、問題にするほどの負担でもないのだった。
「……初日にしては、順調……なのかな?」
 ノリは、そういって首を捻った。
「順調……といっても、いいでしょう」
 梢が、ため息まじりに頷く。
「姫様とテンさんは……視ることができているようですし、そこのガクさんも、目が覚めれば、そうなっている筈です……。
 ノリさんも、ガクさんと同じ処置をして貰いますか?」
「ボクは……遠慮しておく……」
 ノリは、少し考えてから、返答する。
「多少、時間がかかっても、もっと穏やかな方法があるのなら……そっちの方が、いいや……」
「……賢明な判断だと思います」
 梢も、ノリの言葉に頷いた。
「ノリさんは……もっと優雅な方法で、知覚を拡張していくことにしましょう……」

 テンがガクを背負って、四人は現象たちが住む家を辞した。





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彼女はくノ一! 第六話(58)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(58)

 教室までに行く途中の廊下に、何カ所か、香也の絵が掲示されてた。絵の脇には、その絵が描かれた場所の住所と簡単な地図、ボランティア活動の現状説明、参加者の募集告知、サイトのアドレス……などが印字されたプリントアウトも、貼り出されている。絵を描いた香也の氏名も、当然、その紙に、印字されていた。
 ……この調子が、しばらく続くのか……と、基本的に目立ちたくない香也は、少し憂鬱になる。
 しかも、今の時点では、まだ校内にとどまっているが、有働たちが準備しているポスターが完成すれば、校外のあちこちに、香也の絵が掲示されることに予定である。
 このことで、香也の名前と、香也が絵を描いていることは、かなり広い範囲で知られるであろうことは、容易に予測がついた。
 校内でこそ、香也の顔は、「楓たちの一緒にいることが多い、生徒」として知られるようになっている。が、それはいわば「付属物」として、知られている状態であって、香也自身の言動の成果が、知られているわけではない。
 香也が美術部に所属していることを知っている生徒は、それなりにいるのだろうが……実際に、香也の絵を見たり、画風を知っていたりする生徒は、まだまだ少数派の筈だった。そもそも、香也のような、目立たない生徒のことを、いちいち気にかける生徒も、そう多くはない……。
 ところが……ここに来て、香也自身のことが、広く知られる素地が、出来てしまった。
 たかだか、多少、絵が描ける……という程度のことでは、過分に評価される、ということもないだろう。まだしも、楽器をうまく演奏できる、とかいう方が、注目を集めやすい……と、香也も、思う。絵が描ける……というのは、香也たちの年頃の少年少女にしてみれば、あまりにも地味で、魅力の欠ける特技だと。
 しかし……これまでの香也は、そもそも、存在自体、他の生徒たちに、あまり意識される機会に恵まれないくらいに、目立たない一生徒、だったのだが……。

 幸いなこととに、香也と楓、茅が教室に入っても、特にクラスメイトたちに注目される、とか、取り囲まれる、という椿事は起こらず、普段と変わらぬ雑然とした雰囲気が維持されていた。
 玉木や有働が休み時間に頻繁に出入りして、香也に絵の依頼や打ち合わせを行うので、同級生たちにしてみれば、今更、香也の絵が校内各所に掲示された程度では、インパクトに欠けるらしい。
 香也は、自分が同級生たちの注目を浴びることもなく、教室内の空気がいつもと変わりないことに、安堵を覚えたながら、自分の席につく。
「……ねーねー……」
「校内のあちこちに飾られていたね、狩野君の絵……」
 矢島と牧本が、香也の席に近寄ってきた。
「やっぱり、狩野君、うまいから……」
「来年は、面倒見てくださいね、次期部長……」
 この二人は、来年、マン研と美術部の併合を目論んでおり、その目論見は、現状では誰も邪魔する者がいないので、よほどのことがない限り、そのまま、完遂される公算が高い。二人が、来年度のはじめに、美術部への転部を届け出れば、マン研は、そのまま自動的に廃部になる筈だった。
 矢島と牧本は、どうした加減か、年齢不相応の画力を持つ香也を、過剰に頼りにしている。
 ……絵以外のことになると、からきしなのにな……と、香也などは、自嘲混じりに思うのだが……。
「……あー。
 狩野君……。
 思ったよりも、派手なことになっているね……」
 そういって近寄ってきたのは、柏あんなだった。
 こっちは、単純に喜んでいる矢島、牧島の二名とは違い、どことなく心配そうにしている。あまり注目を浴びずにひっそりとしていたい、という香也の思惑を理解しているから、今回のことも、それなりに心配しているのだろう。
 ことに、あんなは、当初、「香也の方が、二人に対して無理なアプローチをかけている」という思いこみを持っており、その後、事実はむしろその逆であることを悟ってからは、香也寄りの視点も持つようになっている。
「……んー……」
 香也は、不明瞭な発音で、もごもごと答える。
「でも……あんな絵なんて、あんまり、気にかける人もいないと思うし……できるだけ、気にしないようにする……」
「うん。そうだね。
 そういう風に考えた方が、いいと思う……」
 あんなは、香也の言葉に、こくこくと頷く。
「なんかあったら、他のみんなにも相談して……って、楓ちゃんとか才賀先輩とかが、黙っていないか……」
 そんなことをいいながら、あんなは一人で頷きつつ、自分の席に戻っていった。
「……た、確かに……」
「次期部長は、強力なガーディアン、引き連れてるし……」
 矢島と牧本は、そんなことを言い合いながら、顔を見合わせた。

 香也と楓、孫子の三人の関係については、転入初期のごたごたを含めた大小のトラブルを経て、少なくとも香也のクラス内では知らない者がない状態となっていた。狩野家の中で繰り広げられたあれこれは口外する者もおらず、多分に憶測が含有した「噂」レベルの理解のされ方なわけだが……その憶測とか噂とかを凌駕した経験を、香也は、何度か現実にしていたりする。
 しかし、純朴な同級生たちが、そのような過激な想像力を持つわけもなく、仮に持っていたとしても、その想像が現実化している、などと思うわけもなく、せいぜい、少年向けラブコメマンガ程度のさや当てがあるだけだろう、というのが、三人の関係に関する、この時点での、校内での平均的な評価であった。

「それでさ……」
「次期部長、あのロリっこメイドは……なんなの?」
 矢島と牧本は、「興味津々」といった感じで、香也の方に身を乗り出してくる。二人のとって、香也は「次期部長」で確定、らしい。四月になれば、「次期」が取れて、「部長」と呼ばれるのだろう。
 二人の真剣な表情をみて、椅子に座ったまま、背をそらして引き気味になる香也。
「……ロリコンは、ビョーキです」
 柏あんなまでもが、目にあやしい光をたたえながら、香也を睥睨しはじめる。
「な、なに……って、その……。
 同居人の一人っていうか……」
 香也は、露骨に動揺しながら、何とかそう答えた。
「狩野君のうちに下宿している三人が、シルバーガールズやっているとか、玉木さんたちとつるんでいるとかいうことは、割れてるの。
 でも……あの三人は、狩野君にとって、何なの?」
 あんなは、香也にとって、非常に答えにくい質問を、さらりとしてのけた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(316)

第六章 「血と技」(316)

「それぐらいのことは、わきまえているの」
 茅が、現象に答えた。
「それでも……対抗手段を何も持たないよりは、ましなの」
「結構だ」
 現象も、もっともらしい顔をして頷く。
「その程度のことも推察できない相手には、教える甲斐もないからな」
「能書きはその辺で終わりにして、さっさとはじめてくれないかな……」
 ガクが、口を挟む。
 すると現象は、ゆっくりと、ガクとノリの顔を眺めた。
「……お前らも、来たのか。
 加納の姫と、そこのツリ目はまだしもわかるんだが……」
 現象のいう「そこのツリ目」とは、テンのことだ。三人組の中で、体質的に、茅に一番近いのは、テンである……という情報ぐらいは、現象にも流されているのだろう。
「……ボクらは、成長中だし、発展途上」
 ノリが、冷静な声で答える。
「今後、どんな能力が発現するのかわかったもんじゃないし……だから、試してみる価値は、十分にあると思うよ」
 梢が、現象の後頭部を、容赦なく、平手でたたいた。
「……気にしないでいいですからね、こんなののいうことは……」
 現象をどついてから、梢は、にこやかな顔で、茅と三人に笑いかける。
「一口に佐久間といっても、多種多様なタイプがいます。
 詳細を明かすわけにはいきませんが……記憶力だけが、能力の指標となるわけではない、ということは、確かです。
 また、一般人の平均レベルの記憶力があれば、基本的な佐久間の技を修得することは、十分に可能です。
 そちらの……ガクさんとノリさんも、人並みの記憶力さえあれば、特に心配する必要は、ありません」
「……記憶力はともかく……」
 そういって、現象は、手にしたものを、自身の目の前にかざす。
 細い竹の管を横に並べ、針金で固定している。長さが不揃いなのと、それに、竹の管の所々に穴が空いているのとで、どうやら「笛」の一種らしい……と、想像することが出来た。
 素朴……を通り越して、人目で素人細工であることが見て取れる。
「ある種の感受性……センサーの精度は、必要となる。
 何をやっているのか関知できない……では、こちらの努力も、徒労に終わろうというものだからな……」
「……それ……楽器のつもり?」
 ガクが、現象が手にした、露骨に、急ごしらえの手作り品にしか見えない笛をみて、軽く眉をひそめる。
「笛ではなく、笙だ。
 それに、演奏を楽しむのが目的ではない」
 現象は、ガクの不審そうな表情には構わずに、続ける。
「音を出し、それを、お前らが関知できるかどうか、調べるために作ってやったんだ。
 一度しか使わないし、所定の周波数の音さえでれば、それでいい。
 例えば……」
 現象は、手作りの笙に口をあて、息を吹き込む。
 ひぃぃぃぃぃー……というもの悲しい、低い音が、あたりに響く。
「……これが、通常の人間の可聴域ぎりぎりの音になる。
 これ以上になると……」
 現象は、もう一度、笙に口をつける。
「……今度は、音が聞こえた者と、聞こえなかった者とに分かれる筈だ。
 聞こえた者、手をあげろ」
 茅、テン、ガク、ノリの四人全員が、即座に片手をあげた。
 現象は、少し驚いた表情になり、舎人の顔をみる。
「……おれには、聞こえなかったぞ」
 舎人は、現象が問いたいことを察し、先回りして答えた。
「……思ったよりは、楽しめそうだな」
 舎人の答えを確認した現象は、納得のいった顔をして、頷く。
「そうでなくては、こちらも、面白くない……」

 それから、現象は、同じように何種類かの音を笙で出してみて、四人に聞こえたかどうか、確認をする……という行為を繰り返した。
 茅とテンは、現象が出したすべての音を聞き取ることができ、ガクとノリは、音によって聞こえたり聞こえなかったりした。
「……お前らの現在のパラメータは、把握した」
 しばらくすると、一通りのことを試したからか、現象は、そういって頷く。
「……確かに、全員……まったく素質がない、ってわけでも、なさそうだ……」
 それで、現象なりの評価のつもり……なのだろうな、と、茅は判断する。
「……次は?」
 ガクが、身を乗り出した。
「ボクたち、まだ何も、教えられてない……」
「……急くな」
 現象は、笑う。
「今のみると……お前が、一番、望み薄なんだが……。
 どうだ?
 少し荒っぽいやりかたでもよければ……お前の頭を、少しいじくってやろうか?」
「……どういうこと?」
 ガクは、軽く眉をひそめる。
「いったとおりだ」
 現象は、肩を竦める。
「佐久間の技で、お前の頭の中を弄くり……潜在している能力を、たたき起こす」
「……危険じゃないの、それ?」
 すかさず、テンが割ってはいった。
「リスクは、それなりにありますが……」
 梢が、前に進み出た。
「……そうですね。
 例えていうならば……ここの配線に、少し、手を加え……ショートサーキットを、作るようなものです。
 失敗しても、何も起きないというだけで……差し障りは、ないでしょう。
 わたしも、見て、これが下手な真似をしようとすれば、即座に止めに入りますし……」
「……まったく、支障はないの?」
 ノリが、露骨に不審な顔になる。
「だったら、最初から、回りくどいことしないで、その、弄くる……っていうのをやるのが、手っとり早いと思うけど……」
「失敗しても、元の黙阿弥になるだけだが……」
 現象は、ノリの顔をまともに見据えて、いった。
「……成功しようが失敗しようが……この方法は、術を施すもの、施されるもの、双方の心身に、多大な損耗を強いることになる。
 本来なら、眠っている能力を、無理矢理ひっぱたいて引き出すようなものだからな。
 一度行えば……通常の者なら、軽く何日か、寝込む……」
 ガクとノリ、それにテンは、しゃべっている現象よりも、現象のそばに控えている梢の表情に注視していた。
「……現象の言葉に、嘘はありません。
 わたしは、そんな強引な方法を取らずとも、もっと自然な学習によって、能力を伸ばすことを強く推奨しますが……」
「……いいよ。
 ボクが、実験してみる」
 ガクが、前に進み出る。
「体力には自信があるし……それに、まだろっこしいのは、趣味じゃない」
「茅も、みているの」
 茅が、ガクの後ろに進み出る。
「現象が、下手な真似をしようとしたら……力づくでも、現象を止めるの」
 茅に続いて、テンとノリも、「……ボクも」、「ボクも」と、進み出た。
「……確かに、加納の姫様なら……現状でも、現象がやることを、ある程度、察知することが可能でしょう……」
 梢は、ため息混じりに、答えた。
 そして、茅が合図すれば……ノリとテンが、現象に襲いかかるのだ。
「……みなさま……危ない橋をあえてわたるのが、お好きなのですね……」
「……それが、そちらの結論……ということで、いいのか?」
 現象が、前に進み出る。
「……意志が決まったのなら、こちらはいつでもはじめられるぞ……」
 その時の現象は、明らかに、この状況を面白がっている顔をしていた。
「……いいよ」
 ガクが、一歩前に進み出て、身構える。
「いつでも、やってみな」
 現象が、目を閉じる。
「……目を、閉じてっ!」
 梢が、叫ぶ。
「最初のうちは……いろいろなものが、見えすぎますっ!」
 ガクが、固く目を閉じる。
 その動作と、ほぼ同時に、
「……うわぁっ!」
 と、小さい悲鳴をあげていた。
 よろめいたガクの肩を、テンとノリが、左右から支える。
 茅とテンは、目を丸くしながら、ガクの頭部の、数センチほど上……何もない筈の空間を、驚きの表情で、凝視している。
「……これが……佐久間の、技?」
 小刻みに震えだしたガクの身体を支えながら、テンが、囁く。




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彼女はくノ一! 第六話(57)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(57)

「……わははははは……」
 マンション前に集合するなり、飯島舞花は、目ざとくガクの格好を発見して破顔した。
「今日のガクちゃんは、メイドさんなのか……」
 似合う、似合う、といいながら、舞花は笑い続ける。
 香也や楓、孫子の後についてきたガクは、メイド服着用の上、香也の鞄も抱えている。
「……そのまま、学校までついてくるつもりか、お前は……」
 荒野は荒野で、頭を抱えていた。
「……茅でも、そこまで無軌道ではなかったぞ……」
「め、目立つことは、確実だと思うけど……」
 樋口明日樹は、ガクから目を逸らす。
「まあ……もう、そういう刺激にも、段々慣れつつあるけど……」
 茅や楓、孫子……といった面々と、毎日、一緒に登校している明日樹である。彼女たちは、容姿以外にも、今では普段の活動によって、注目されるようになっていた。
 孫子は、地元では新進の年少学生経営者であり、茅は、放課後の課外活動の主導者として、校内ではもはや知らぬ者がない。一番地味な楓でさえ、校内のネットワークシステムの基幹部をほぼ一人で構築したことを知っている生徒は、少数ながらも確実にいた。
 つまり、彼女らは、この時点で「外見だけが取り柄」の存在ではない、という事実が、徐々に周知のものになりはじめていて……実際のところ、一緒に登校していても、おなざりでない挨拶の声をかけられる頻度は、日に日に、多くなっている。
 明日樹や舞花、栗田や大樹など、たまたま彼らのそばにいるだけの「普通の生徒」にしてみれば、気分はもはや、「何でもあり」だった。
「……そういや、茅ちゃんも、流石にメイド服で登校したことはなかったなぁ……」
 笑いを含んだ声で、舞花がそういう。いわゆる、「普通の生徒」の中でも、一番鷹揚なのが、この舞花だろう。
「……流石に、それはやばいだろう……」
 荒野が、げんなりとした声で、答える。
「コスプレで登校なんかしたら、先生にこってり絞られるって……。
 ただでさえ、おれたち、目立っているんだから……」
 目立つ……とはいえ、このグループは、生徒としてかなり規範的に振る舞っている。勉強熱心だし、生活態度もいい。茅などは、毎日、遅くまで学校に残って他の生徒たちの勉強を支援しているし、香也や楓は、地域ボランティアに積極的に荷担している。
 そうした実績をつみあげている限り、悪い意味で教師に目をつけられることはない……と、荒野は思っている。
「……目立っているから……ちょっとでも、悪いことをすれば、余計目立つし……」
 そういって、荒野は、ちらりと茅をみる。
 茅は、小声で、
「……わかっているの」
 と、ぽつりと呟く。
 その時の茅は、実に、残念そうな顔をしていた。

「……うーん。
 おしいな……。
 そこまで徹底するなら、髪型もそれらしくすればいいのに……」
 登校中、舞花は、ガクに向かってそう話しかける。
「……その髪……この前カットした時から、延ばしっぱなしだろ?
 そろそろ、美容院にいった方がいいんじゃないか?
 ガクちゃんたちは、元がいいんだから、もっと手を入れないと……」
「……予約する時は、おねーさんの店に連絡してね。
 大勢で押し掛けるんじゃなければ、平日なら、普通に予約取れる筈だから……」 
 明日樹も、舞花の発言に、そう付け加えた。
「ガクちゃんも……だけど、後の二人も、ここ最近で、めっきり女の子っぽくなったよなあ……。
 こっち来たばかりの時は、もっとこう、子供っぽかったのに……」
 舞花がそう続けると、香也と明日樹の動きが、目に見えてぎこちなくなる。テン、ガク、ノリが……女性らしくなった、というか、「女」になった経緯を、この二人は知っていた。楓や孫子も、知っているが、この二人は香也や明日樹よりも、通常の規範に捕らわれていないので、香也や明日樹ほどには、態度に現れていない。
 孫子は平然としているし、楓は、照れたような薄笑いを浮かべているだけだった。
 
「やっはっはっはっは……。
 なになに、今日のガクちゃんは、絵描き君専属のメイドさんなの?」
 途中で合流してきた玉木の反応も、舞花と似たりよったりだった。
「……今日一日は、ボクがおにーちゃんのお世話をするんだもんね……」
 香也の鞄を抱えたガクが、えっへんと胸を張る。
「そーか、そーか……。
 相変わらず、もてもてだなあ、絵描き君……」
 ガクの頭を撫でながら、玉木が香也に意味ありげな視線を送る。
 香也は、努めて平静を装う以上の反応を示さなかった。
「……それはそうと、絵描き君。
 今日の休み時間にも、有働君あたりが、また、昨日の続きで校正の打ち合わせとかいくと思うから、よろしく相手をしてやってくれたまえ……」
 玉木が芝居がかったセリフ回しでそういうと、これには香也も「……んー……」と頷く。
「……君がポスターのために描いてくれた絵は、無事校内各所に、解説付きで展示し終わったから……」
 と、玉木は続けた。

 通りすがりの生徒たちの視線を集めながら、ガクは校門前まで香也の鞄持ちをし、そこで香也に鞄を返しながら、
「……またね、おにーちゃん。
 放課後、迎えに来るから……」
 といって、帰っていった。
「……んー……」
 といいながら、香也は、力なく手を振って、ガクを見送る。
 ガクが好意でやってくるれているのは、確かなのである。
 ……周囲から降り注ぐ視線が痛いほどだったので、積極的にほめたり評価したりする気には、香也は、なれなかったが。
「……おいおい、今のはなんだっ! いったいっ!」
 そんな香也に向かって、突進してきた生徒がいる。
「おま……。
 ただでさえ、美少女独占気味なのに、こんどはぷにゅっとロリメイドか、コンチクショウっ!」
 楓が、香也の前に身体を割り込ませ、孫子が、きつい目つきで、その突進してきた男子生徒を睨んだ
でいたので、その男子生徒……柊誠二は、香也の肩に腕をまわすことができなかった。
「……な、な、な……。
 なんで、お前ばかりっ!
 そんなに、恵まれているんだよぉー!」
 香也への突撃を、楓と孫子に阻まれた柊は、ばっと身を翻して、校門の中に駆けていく。
「……なんだ、今の……」
 舞花が、呆然と呟く。
「柊……校内一のナンパ男、って評判の、バカ……」
 大樹が、もろに嫌悪感を含んだ声をだした。
「欲望がもろわかりなんで、女子には、まともに相手にされてないけど……」
「ルックスは、そこそこだと思うけど……ああも露骨にがっついていると、流石に引くわ……」
 玉木は、そう論評した。
「マジ泣きしてなかったか? 今の……」
 荒野が、呆然と呟く。
 あっけにとられた顔をしていた。
「……一般人も、奥が深い……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(315)

第六章 「血と技」(315)

 街灯の灯りが届かない、暗い場所を選んで、四体の小さな人影が、ひっそりと音も立てずに移動する。暗い場所を選んで移動しているのと、それに、人の形をしながらも、とうてい人には出せない速度で移動しているので、人影の存在に気づいたものはいなかった。
 四体の人影は、すぐに市街地をぬけ、背の高い建物が少なくなってくる。あるのまばらに点在する住宅と農地、見晴らしはかなりいい。四体の人影は、すぐに街灯に照らされた公道を逸れ、ほとんど光源がない農道に入り、そこでようやく足を止める。
「……やっぱり、走れるじゃん……」
 四体の人影のうちのひとつ、ガクが、もうひとつの人影に向かっていった。
「これが、限界なの」
 茅が、途切れ途切れに答える。
「まだまだ、持久力が、不足している……」
 平然としている他の三人とは違い、茅は、この寒い中、額に汗を浮かべ、必死になって、酸素を欲しようとする身体の要求と戦い、自身の意志で呼吸を抑制している。
 狩野家からこの地点まで、最短の道のりを普通に徒歩で移動すれば、健康な成人男性でも、半時間から四十分は優にかかる距離だった。
 が、この四体の人影は、人目を避けるため、人通りの少ない道を選択し、結果、かなりの寄り道を強いられながらも、十分もかからずに移動し終えている。テン、ガク、ノリの三人についてはいうまでもないことだが、茅についても、もはや通常の人間以上の身体能力を獲得しつつあるのは、明白だった。
 その茅は、ハンカチを取り出して、顔や首に浮かんだ汗を、丁寧に拭っている。寒さのおかげもあって、一度拭うと、それ以上、汗を拭う必要はなく、また、汗を拭い終わる頃には、茅の呼吸もかなり整っており、ほぼ平常な状態になっていた。
「行くの」
 ハンカチをポケットの中に収めながら、茅は、茅の体調が回復するまで黙ってまってくれた三人に向け、呼びかける。
「ここまでくれば、もうすぐそこなの」
 そういった時の茅は、もはや、いつもとなんら変わらない様子になっていた。

「おう。
 いらっしゃい……」
 四人の気配を感じ取ったからか、二宮舎人が家の前まで出迎えてくれた。
「こっちだ。
 現象たちが待っている……」
 そういって、生け垣の中に通された。
 かなり広大な庭を歩いて、ようやく玄関にたどり着く。前に話していたとおり、古色蒼然とした、藁葺きの農家だった。玄関をくぐって中に入ると、まず、確実に十畳以上はある土間になっていおり……そこに、現象と梢が、待ちかまえていた。
 その向こうが、ようやく板の間になっており、そこにはなんと、囲炉裏までもがあった。炭火の赤々とした色が、ちらちらと踊っている。
 茅は、家の内部をざっと見渡す。
 広いだけではなく、家の造りが堅実で、しっかりしている。古いが、それだけの星霜に耐えうるだけの堅強な普請。
 この家のもとの所有者は、明治とか大正……近くても、戦前まで、このあたりの土地を治めていた地主かなにかだったのではないのか……と、茅は想像する。住人が何世代もの移り変わっても、なお、手を入れながら住み続けることができる……という家を建築することが可能なだったのは、それだけ十分な身代があった、ということだろう。
 この前の舎人の話しによると、この家を建てた者の子孫は、この土地に根付いて生活する、という選択をしなかったようだが……。
「……まず、何から、はじめるの?」
 まず、茅が、現象たちに近づいて、挨拶も抜きに話しかける。
 佐久間の長との約定で、こうして技の伝授をして貰うことになったわけだが……だからといって、卑屈になる必要はない、と、茅は思っている。
「まず、何種類かの音を、聞き分けて貰う」
 現象も挨拶を抜きにして、幾分、緊張気味の表情で、茅たち四人に向かって、小さな、竹製の楽器をかざして見せた。
「お前らの、現在の能力……感性の精度を、測るところから、はじめる」
 現象にとっても、佐久間の技を茅たちに伝授する……という行為は、緊張を強いられるものであるらしかった。
「だが、しかし……その前に。
 少しだけ、何故、この役目に、このぼくが振られたのか……ということを、考察してみよう……」
 現象は、そう続ける。
「佐久間本家の立場にたってみれば、わかる。
 お前らが悪餓鬼と呼んでいるやつらに対抗するためにも、佐久間の技を、お前らに伝える必要は、ある。ただでさえ数が少ない佐久間の術者をいきなり投入するよりは、リスクが少ないからだ。
 それに……ぼくに対する懲罰、という意味合いも、たぶんにあるだろう。
 だが、それだけではない。
 知っての通り、ぼくに佐久間の技を教えたのは、ぼくの母だ。逃亡生活を続けながら、余裕がない中での教育だった。当然、知識の欠落もあるだろうし、必要な機材が調達できなかった、などのケースも、多々、あったことだろう。
 だから、ぼくの技は、佐久間の本流からすれば、イレギュラーな形になっていると予想される。
 佐久間が、そんなぼくに、お前らの教育係を命じたのは……明らかに、お前らが、強力になりすぎるのを警戒してのことだ。
 ぼくの知識をお前らに伝えれば、それは、劣化コピーの、さらにコピー……ということになる。そのような形であるほうが、佐久間本家にとっては、いろいろと都合がいいんだ……」
 梢は、現象の言葉を否定も肯定もせず、表情ひとつ変えずに、現象の背後に控えている。
「……加えて、そこの梢は、このぼくを見張るために佐久間本家から派遣されている。
 ぼくが、お前らに何を教えているのか……ということをチェックすれば、それは同時に、ぼくが母親からどの程度、佐久間の技を伝授されているのか、という指標にも、なる。
 また、ぼくが、素直に知っていることの全てを、お前らに教えるとは限らない。
 明らかに、嘘を教える……ということは、そこにいる梢が許さないだろうが、知っていることをあえて教えない……ということまでは、そこにいる梢も、制止できないだろう。
 何故なら、そこの梢も、佐久間本家も、佐久間の技について、このぼくが、どれほどの知識を持ち合わせているのか、把握していないからだ。
 そういう状態では、手抜きやサボタージュの意志は、見抜くことが難しい。
 このぼくは……いわば、信用できない教師役、というわけだ……」




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彼女はくノ一! 第六話(56)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(56)

 翌朝、香也は「ごふっ!」と勢いよく息を吐いて目覚めた。
「あっさだよー。
 おっにーちゃん……」
 歌うような節回しでそういう、ガクの声が聞こえた。目を開けると、ガクの顔が、どあっぷになっている。香也の鼻が、ふと石鹸の香りを嗅ぎ分けた。そういえば、よく見ると、ガクの頭は、湿っているような色つやもしている。シャワーでも浴びたのかな、と、香也は思った。
 目が大きいガクに、起き抜けにいきなりこうして顔を近づけられると、香也はかなり、どきりとしてしまう。
 ここ最近の、そう、ノリが帰還した前後からガクは、背も少しづつ延びている。もちろん、一日、二日ではそうとはわからない程度だが、立ってガクと話している時など、ふと目線の位置に違和感を覚え、「ああ、そうか。顔の位置が、少し上に来たているんだ……」と思い当たったりする。
 身長の変化以上に、ガクの身体は、全体に女性らしい丸みを帯びてきていた。こうして上に乗りかかると、ガクの肌との接触している部分から、押し返すような弾力を感じる。加えて、こうしてあらためて顔をみてみると、肌の表面のすべすとしていて、とてもやわらかそうで……。
「……はいはーい。
 起きましょー……」
 香也がぼーっと考えている間にも、ガクは香也の掛け布団を強引にひっぺがす。勢い余って蒲団が宙を舞うが、ガクは気にかけない。
 蒲団を剥いだ中から出てきた香也のパジャマ姿を、特にある一点を、見つめている。
「あっ!」
 すかさず、ガクは香也の上に乗りかかった。そして、パジャマの布地を持ち上げている香也の股間に手を置き、そこの感触を確認するように、撫でさする。
「すごいっ!
 朝からこんなに大きくなってるっ!」
 ……頼むから、耳元でそういうことをはっきり言わないでくれ……と、香也は思った。
 しかし、ガクにしてみれば、男性の生理現象はかなり珍しいらしい。刺激を与えれば、そういう状態になる、というのは、まだしも「機能上の理由」ということで、納得ができる。事実、ガクも、何度かそういう状態になった香也の局部を見たり触れたりそれ以上のことをしたりしたことがある。
 しかし、何にもしないのに、朝起きると、自然とそうなる、というのは……ガクにしてみれば「……変なの」ということになる。
 ガクは、香也の身体の上に馬乗りになって押さえつけた状態で、香也の股間を、すりすりと指でまさぐる。
「……こんなに、ぱっつんぱっつんにしちゃって……」
 ガクは、香也を見下ろしながら、いった。
「苦しそうだね……おにーちゃんの、ここ……」
「……ちょっ、ちょっと……」
 ようやく、香也が弱々しく抗議の声をあげた。そもそも、長身の香也と小さなガクとでは、体格差があるのだから、香也さえその気になれば、ガクの身体をはねのける、ということも、十分に出来た筈である。
 しかし、香也は、そうした直接的な抵抗は、避けている。というか、ガクの大きな瞳に見据えられ、呪縛されたように、動けないでいる。
「そ、そういうの、いいから……。
 そのままにしていても、すぐに、小さくなるし……」
 それでも、香也は、その程度の抵抗はする。
 このままでは、昨日の孫子との一件の二の舞であった。どこかで頑として線を引いておかないと、このままずるずると、全員同時に関係し続けて、どうにも後戻りができないようになってしまうのではないか……という、かなり確かな予感が、香也にはあった。
「……そういうもんなの?」
 ガクは、首を傾げて香也に問い返す。
「いつもみたいに、ぴゅーっとすごい勢いでださなくても、小さくなるの?」
 ……その言い方に関しても、香也としてはいいたいことはいくらもあったが、とりあえずはガクを説得して退いて貰う必要があったので、恐ろしい勢いでがくがくと頷く。 
「……それに、上から退いてくれないと、トイレにもいけないし……」
 ここぞとばかりに、香也が、主張する。
 何しろ、寝起きである。もう一方の「生理的欲求」も、それなりに切実だった。
「……あっ。
 そうか。ごめん……」
 基本的に素直なガクは、香也の言葉に頷いて、退いてくれた。
 香也は、これを幸いとばかりに、ガクの気が変わらないうちに飛び起き、部屋を出る。
 ガクが、その後をちょこちょことついてこようとする。
「……いや、トイレにくらい、一人で行かせて……」
 香也は、振り返ってガクにそう懇願しなければならなかった。

「……ふぅ」
 ようやく用をたしてトイレから出ると、恭しくハンドタオルを差し出された。
 そっちの方をみると……神妙な顔をしたガクが、メイド服を着て、香也にタオルを差し出していた。
「…………」
 たっぷり数十秒、香也は思考をフリーズさせた後、
「……おわぁっ!」
 と、悲鳴に似た声を上げて、その場で飛び上がった。
「ど、ど、ど……どうしたの、それ?」
 細い目を丸くした香也が、動転しながらガクに尋ねる。
「当番のことを話したら、茅さんが、これ、貸してくれて……」
 珍しく、もじもじと恥ずかしそうな身じろぎをしながら、ガクが答える。
「ご奉仕するんなら、この服をって、貸してくれたんだけど……そんなに……この格好、駄目?」
「……んー。んー……」
 香也は、何か追いつめられた気分になりながら、うめく。
 その内心は、冷や汗だらだら。
「だ、だ、だ、駄目、というか……そ、そ、そ、そんなことはないし、む、む、むしろよく似合うんだけど、だ、だ、だ、だからこそ、困るということもあるわけで……」
 やたらとどもりながら、香也はそう答えた。
 正直なところ、自分でも何がいいたいのかよくわからない。
 普段のガクのイメージと、今現在、目の前にいる、スカート姿で恥ずかしそうにもじもじしているガクの様子とのギャップに、香也は軽い目眩を感じた。
 実際のところ……このごろめっきり女らしい雰囲気をまといはじめた、しかし、いまだ未成熟なところも多分に残しているガクが、スカート姿で自分の格好を恥ずかしがっている様子は……不意打ちもあって、香也の精神を、かなりのところ、揺さぶっている。
 ……この子たち、もう……どんどん、子供では、なくなってくるんだ……と、香也は、ごく当たり前の事実に関して、認識を新たにした。

「……ほー。
 そうか。
 今度から、日替わりでメイドさんになるのか……」
 朝食の席で、羽生がしきりに頷いている。
 ガクのメイド服姿について、真理は、「かわいー!」と連呼する以外の反応を示さなかった。
「うん。
 茅さんが、しばらくこの服貸してくれるっていうから、明日はテンで、明後日がノリ……みんなで順番に、ご奉仕するの……」 
 無邪気な口調で、ガクが羽生の答えている。
 楓と孫子は無言のまま朝食を続けており、香也の目には、二人とも、心なしか不機嫌そうにみえた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(314)

第六章 「血と技」(314)

「無論です」
 荒野は、即座に頷く。
「おれは、茅がいたからここに住みはじめて、現象の出現で、自分の身元を周囲の人たちに明かしました。
 どちらも、おれ自身の意志というより……成り行きというか、なし崩しですが……それでも、おれは、その場その場の選択を、間違ったものだとは思っていません」
「き、きっぱりと、そういいきれるのが……か、加納様の、良さだと思います。
 で、でも……か、加納様は、ま、周りの大人たちを、もっと頼っても、いいと思うのです……」
 静流は、柔らかい語調で荒野に告げる。

 鞄と買い物の荷物を抱えて静流の家を辞した荒野は、そのまままっすぐにマンションに向かう。結局、ふと立ち寄った静流の家に二時間近くいた勘定になり、日はすでに暮れていた。お互いの身体をまさぐっていた時間よりも、その後の、静流とお茶を飲みながら、差し向かいで、かなり率直な意見を交換できたことの方が、荒野の心情的には収穫と手応えがあったくらいだが、だからといって、茅への疚しさが消え失せるわけでもない。
 最終下校時刻ギリギリまで学校にいる茅たちが帰宅してくる時刻まで、もういくらもない。静流とのことは茅にも了承を得ており、今日のことも茅に内緒にしておくつもりはなかったが、だからといっていきなりばったり出くわしても、何かと気まずい。
 荒野の方に、まだ心理的な準備が整っていなかったの、ごく短い時間であっても一人になる時間を作って、荒野自身の心の整理をつけておきたかった。
『……案外……』
 静流など、自分とは違った立場からの意見に耳を傾けるのも、これからの荒野にとっては、必要の度合いが増してくるかも知れないな……と、荒野は思いはじめている。
 ここ最近、荒野は、今の自分に、一体、何が出来るのか……ということを、真剣に考えている。考えている、というより……実のところ、もう、結論は出ているようなものなのだが……その、荒野自身が選択するであろう方法を実践するためには、多種多様な人々に会い、話し……根気よく、利害を調整する作業が必要となる。
 静流のように、自らの意志で進んで考えてくれる者がいつも相手だと、いいのだが、そうでない場合は……。
『まず、相手を話し合いや交渉のテーブルに着かせるところから、はじめないといけない……』
 そのためには、武力その他の示威行為で、相手を従わせるなければならないパターンも、生じるだろう……。話しを聞く耳を持たない相手に、無理に話しを聞かせるためには、力ずくで椅子に座らせる必要も、でてくる。
 根気が必要な交渉事は、気と寿命が長い、加納の領分だった。
 荒野は、一族の保守的な勢力や悪餓鬼どもに対して、一世一代……というより、一生をかけて、「共栄共存」というテーゼを、説こうと思いはじめている。
 そのためには、まず……相手に見くびられないだけの、「力」を蓄えなければならない。
 そのための準備は、荒野の「仲間たち」が、すでに着手しはじめている。荒野がこれから成すべき事は、その仲間たちの努力が無駄にならないよう、道をつけることだ……と、荒野自身は、判断している。

 マンションに帰り、買ってきた物を冷蔵庫に収納し、米を研いで炊飯器のスイッチを入れる。
 着替えてコーヒーメーカをセットし、コーヒーができあがるまで、考え事をしているところに、茅が帰宅した。
 茅は着替えてキッチンに来ると、荒野の前に自分用のカップを差し出した。
 荒野はいれたてのコーヒーを無言で茅のカップに半分ほど、入れる。
 茅はそれを一口飲んで、「……苦っ」と小さく呟き、冷蔵庫から牛乳の紙パックを取り出してきて、カップの中になみなみと注ぐ。
「……さて、茅。
 今日、帰りに静流さんに会って……」
 荒野は、ついさっきの出来事を、何の隠し立てもせずにゆっくりとした口調で話して聞かせ、そして、静流との会話と荒野の考えについても、茅に話して聞かせる。
 夕食後、茅は現象たちのところに佐久間の技を伝授して貰いに行く予定だったので、途中から二人で料理を作りながらになる。
 ここ数日、ともに夕食を摂っていた酒見姉妹は、引っ越しの準備とかで今日は茅の護衛役から外されていた。下校時は楓と、これから現象たちのところに向かう時はテン、ガク、ノリの三人が一緒だから、荒野はまるで心配していない。
 茅は、時折、口を挟んでより詳細な説明を求める時以外は、黙って荒野の話しを聞いており、そうして一通り、荒野の話しを聞くと、
「いいと思うの」
 と、反応した。
「荒野なら、そういうと、思った。
 この複雑な状況、この複雑な世界に……荒野なら、逃げずに向かっていくだろうと……そう、思っていたの」

 荒野との食事が終わると、茅は外出の仕度をし、マンションを出た。
 マンション前でテン、ガク、ノリと合流する。
「いよいよだね」
 テンがいった。
「いよいよなの」
 茅が答えた。
「地図でチェックしたけど……現象たちの家、本当、町外れもいいところだったよ」
 ノリが、いう。
「遠いけど……ちょっと走れば、すぐだよ」
 ガクが、茅に顔をむけていった。
「隠そうしているようだけど……茅さん、実は、もうかなり、走れるでしょ?」
 ガクは、悪戯っぽい笑顔を茅に向けている。
「走れるの」
 茅は、頷く。
「でも……」
「わかっているよ」
 テンが、茅の肩を、平手でとん、とん、と叩く。
「もうしばらくは、茅さんは戦力外……ていうことにしておいた方が、何かと都合がいい」
「かのうこうやは知っているの?」
 ノリが、茅に尋ねる。
「まだいってないの」
 茅は首を振る。
「でも……荒野なら、もう気づいていても、不思議ではないの」
「鈍いんだか鋭いんだか、わからないからなあ、あれも……」
 ガクが、もっともらしい顔をして、茅に頷いて見せた。




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彼女はくノ一! 第六話(55)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(55)

 家に帰ると、そうそうに風呂を勧められた。楓と孫子は、着替えると真理を手伝うため、すぐに台所に移動し、三人娘と羽生は、まだ帰宅していなかった。
 夕食の支度が整うまでのわずかな時間では、プレハブに籠もっても出来ることはたかがしれているので、香也は真理の勧めに素直に従い、ひさびさに一番風呂を使うことにする。制服をラフな部屋着に着替え、すぐに風呂場に向かう。湯加減を確認してから脱衣所に戻り、服を脱ぎ、かかり湯をしてから湯船に入り、手足を伸ばす。
 すぐに下校中に冷えた身体が暖まり、萎縮した毛細血管が弛緩し、手足の隅々まで血流が駆け巡る感覚に、香也はながながとため息をつく。
 ふと、香也は……どんなに周囲の状況が変化しようが、こういう感覚だけは、変わらないな……などと思い、周りがどんなに変わっても、自分自身は、何にも変わっていないよな……とも、思う。
 昨年からいろいろなことを経験したが……香也自身は、実のところ、あまり変わっていないような気がする。
 楓や孫子は……変わっていない部分と、変わった部分がある。
 楓は、以前よりも素直な笑顔をみせることが多くなった。以前、この家に住みはじめた当時の楓の笑顔には、どこか陰があったように思う。その陰が、時間が経過するにつれ、どんどん薄れてきている……というように、香也の目には映った。
 孫子は……変わった、といえば、孫子が一番、変わった。当初、香也のことを露骨に警戒し、敵視していたように見えた孫子は……今では、香也の前では、異常に思えるほど、べたべたしてくるようになっている。
 テン、ガク、ノリの三人に関していえば……変化がどうこいうことができるほど、香也は三人とのつき合いは長くない。だが、変化や成長……というよりも、ごく短期間のうちに、この周辺の環境にうまく適応しているように、見えた。
 彼女たち、それぞれの個人的な変化だけではなく……彼女たちや荒野、茅などの存在が、周囲に及ぼす影響が……今では、誰の目にも、無視できないものになっていた。
『……これから……』
 自分たちは、いったい、どうなってしまうのだろうか……と、香也は思う。
 僅か半年前の香也に、現在の香也の姿が想像できなかったように、現在の香也には、僅か数ヶ月後の自分の……自分たちの姿が、よく想像できなかった。

 香也が風呂から上がったのと前後して、羽生とテン、ガク、ノリの三人が帰宅し、普段通りの賑やかな食事になる。
 三人組は、相変わらず、シルバーガールズの準備に余念がないようだ。ここ数日、今の時点でできる撮影とか、将来の下準備とかの話題がよく話題に登る。羽生が時折、質問をはさみ、真理は、おだやかに微笑んで、かわるがわる昼間の出来事を話す三人をみつめている。
 その三人組は、夕食の後、そろって外出をする予定だという。それも、今夜だけではなく、しばらくは、続くという……。
「……今日も?
 昨日も、そんなこといって、ご飯の後、三人でていったろ……。
 撮影かなんかだと思ったけど……それ、例の、カッコいいこーや君がらみのか?」
 不審に思った羽生が、尋ねる。
「そんな感じ。
 ……っていうか、正確にいうと、かのうこうやがらみというより、佐久間がらみなんだけど……」
 ガクが、元気よく答える。
「佐久間さん……っていうと、日曜に来た、現象君とか梢さんのところ?」
 真理が、首を傾げる。
「そう。
 茅さんと一緒に、あそこに、佐久間の技を習いにいってるの……。
 ボクたちは、実際にやってみないとモノになるのかどうかわからないけど……茅さんとテンは確実に修得できるだろうって、いってた……」
 ノリが、真理に答える。
「……そう。
 佐久間さんたちのお家に、お邪魔しているの……」
 真理は、思案顔になる。
「……もっと早くにいってくれれば、何か用意したのに……」
「……あー……」
 どうやら真理が、連日、夜中におしかけていくこと心配しているらしい……と、悟った羽生が、助け船を出す。
「買ってきたものを渡すより、手作りの総菜かなんかのが、かえって喜ばれるんじゃないっすか?
 向こうさん、確か、寄り合い所帯とかいってたでしょ? 食べ物は、いくらあっても邪魔にならないと思いますけど……」
「……それも……そうね……」
 真理も、羽生の言葉に頷く。
「日曜には、あの大きな人に、おいしいものいっぱい作って貰ったし……今日のところは、冷蔵庫の中の作り置きを詰めて、持っていって貰いましょうか……」
 人数も多く、不意の来客も頻繁にある狩野家では、年少の住人たちの料理の練習もかねて、普段から日持ちする総菜を、かなり余分に作り置きしてある。
「で……その、佐久間さんたちのうちって、近いの?」
 羽生が、三人に尋ねた。
「住所でみると……ここから、結構あるみたいだけど……」
 三人を代表して、ガクが、答えると、羽生は、即座に真理に尋ねた。
「じゃあ……真理さん、車、借りられますか?
 この寒い中、みんなでとぼとぼ歩いていくことないよ……」
 どうやら、運転手を買ってでるつもりらしい。

 夕食後、ほどなくして茅が玄関に姿を現す。
 それを機に、羽生は車庫を開けて車を出し、三人組は冷蔵庫にあった総菜をタッパーに詰めて抱えて、外出した。
 香也は、それと前後してプレハブに向かう。今日は、放課後に学校でかなり時間を割いていたので、帰宅後の勉強は放免されている。つまり、これから寝るまでの時間、香也は、絵に専念できた。
 灯油ストーブに火をいれてしばらくすると、昨夜の同じように、すぐに荒野がプレハブにはいった。荒野は、一声、香也に声をかけてから、香也の邪魔にならない位置に移動し、そのまま香也の背中を見守りはじめる。
 荒野に続いて、風呂上がりの楓や孫子もやってきた。二人は、荒野の姿をみてももはや驚くことはなく、それぞれ、壁に立てかけてあったパイプ椅子を広げ、後ろに下がってそれに座った。
 三人とも、なんとなく定位置というものが出来はじめていた。
「……茅も、あの三人も……まだまだ、成長の途中だ。それに加えて、全員、学習意欲は高い。貪欲といってもいいほどに、高い」
 誰に聞かせるでもなく、荒野が語りはじめる。
「……おれは……最近まで、自分が何をやりたいのか、よく理解できていなかった。
 でも、最近、こう思うんだ。
 彼ら、新種や一族……それに、悪餓鬼どもや、一般人……。
 それぞれに、微妙に異質な部分を持つ人たちの摩擦を緩衝し、間に入って調整するのが、おれのすべき仕事なんじゃないかな、って……」
 しばらくは……誰も、荒野の言葉に答えることが出来なかった。
「……でも、それは……」
 しばらくして孫子が、この少女には似つかわしくない、妙に沈んだ声で、荒野の言葉に反応した。
「とても……困難な仕事ですわ。
 ほとんど、不可能といってもいいくらい……」
「……わかっている」
 荒野は、首を振る。
「わかっているよ。
 だけど、おれは……」
 ……できるだけ、いい結果を出したいんだ……と、荒野はいった。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(313)

第六章 「血と技」(313)

 静流は荒野の上に崩れ、そのまま荒い息をついている。
 どうやら挿入以前の段階で、軽く達してしまったらしい。
「か……加納様は……」
 静流が、荒野に顔を近づけながらいった。
「ご、ご自身が……どれほど、慕われていのか……ち、ちっとも、わ、わかっていらっしゃいません……」
 涙声、だった。
「それって……その……」
 荒野は、若干白けが入った、複雑な心境になる。
「……一族がらみで、ってこと?」
 荒野にしてみれば……こんな個人的な場面で、そういう関係性を持ち出しては欲しくなかった。
 性行為の現場……は、これ以上はないほどに、「個人的」な場面であろう。
「わ、わたしの目がこんなのとか、ろ、六主家の本家に生まれるとか……そ、そういうの……じ、自分では、選べませんから……」
 荒野の声に籠もったニュアンスを敏感に感じ取って……静流は、寂しそうに笑う。
「わ……わたし……。
 そういうのに、生まれてからずっと囚われていて……。
 で、でも……この先も、ずっと囚われっぱなしなのは、いやで……。
 だ、だから……と、父様が止めるのも聞かず、だ、誰も教えてくれないから、ち、小さい頃から、じ、自己流で、か、身体を鍛えて……。
 そ、それでも……め、目のことがあるから、どこにも行けなくて……そのまま、こんな年齢になっちゃって……。
 そ、そんな時に、か、加納様が、い、一族でも、堂々と、普通に暮らしていいって規範を、公然と、示してくださったのですよ……。
 そ、そういうのに……あ、憧れるの、お、おかしいですか?
 か、加納様が、さ、最初の一歩をまず踏み出してくれたから……わ、わたしは、他のみんなも、ここにいられるのですよ……」
 しゃべっているの間にも、静流は、どんどん涙声になっていく。
「……あっ。いや。その……」
 途端に、慌てふためく荒野。
 裸で同衾している時、いきなり相手の女性に泣かれて動揺しない男は、いまい。
 ましてや、荒野の場合、若年者で人生経験も浅く、最近になって関係する女性の人数は増えたものの、お世辞にも女性の扱いがうまい、というタイプでもない。
「……こ、この程度のことで、慌てないでくださいっ!」
 両肩に手を置いた静流が、そのまま、荒野の上に体重をかける。
「か、加納様は……わ、わたしたちの、希望なんですっ!」
 静流が興奮するところをはじめて目の当たりした荒野は、目を丸くする。
「し、静流さん……。
 そういうの……重いよ……」
 しばらくして、荒野は、ふと、低い声を漏らす。
 それから、いきなり何かに気づいた口調になり、
「あっ。いやっ!
 重いってのは、静流さんが、ってことじゃなくて……そういう過度な期待が、ってことで……」
 などと慌てて言い直すあたり、荒野もなかなかに情けなかった。

 少し間をおくと、裸で抱き合ってそんなことを話し合っていることを、どちらともなく自覚しだし、二人は身体を離した。
 雰囲気的に、それ以上の行為は続行できそうにもなかったし、それに、男性経験のない静流に対して、性急に事に及ぼうという気が荒野にもなかったので、それで問題はない。
 というか、二人とも、そんな気分ではなくなってしまった。かといって、嫌気がさした、というわけでもない。
 泣き顔になっていた静流の気分が落ち着いた時点で、いきり立っていた荒野のモノも小さくなってしまっていたし、荒野のソコの状態を確かめたわけではなく、荒野の前で取り乱してしまった照れ隠しで静流が、
「す、すいませんっ! こ、こんな時に、こんなこと、いってっ!」
 とかいって、荒野の上からぱっと離れ、どちらからともなく、照れ隠しの笑い声を小さく上げはじめた。
 しばらく穏やかなに笑い合うと、もう、二人には性交を続けようという気分には戻れなかった……というだけの話しだ。
 二人はどちらともなく、「今回は、ここまでで……」といいはじめ、背中を向け合って、もぞもぞと服を身につけはじめる。時は二月後半、暖房器具とは名ばかりの火鉢のか細い暖気だけがある室内で、興奮も運動もせずに、長時間、全裸で居続けるには、あまりもの寒い時期だった。

「……それで、せっかくなんで、真面目な話しをしますと……」
 服を身につけてから、静流がいれ直してくれたお茶を飲みながら、荒野が話しはじめる。
「おれ……さっきもいったけど……おれと茅……それに、身の回りの何人かの人たちと平和に暮らしたいって……ただ、それだけを望んで、その場でその場でいろいろ選択してたら……いつの間にか、今のような状況になっていた……って感じで……正直、静流さんとか他の一族のやつらのこととかまで、考えている余裕、あまりありませんでした……」
 ここ数日、落ち着いてはいる……とはいうものの、荒野は荒野なりに、イッパイイッパイなのであった。
「そ、それは……ここに来て、よく理解できました」
 静流は、荒野の言葉に頷く。
「か、加納様は……こ、ここに来るまでは、もっと凛とした、非情な方かと思ってましたが……」
 この発言には、荒野はコメントを返しづらかった。
 つまり……実際に会ってみた荒野は、静流のイメージしていた荒野よりももっと間が抜けていた、ということである。また、この土地に来るまでの荒野の行状を思い返してみれば、そのようなイメージを醸成するに足る十分な素地がある。
 また、時に、非情な判断を躊躇なく下す側面は、現在の荒野からも、決して失われたわけではない。ただ……現在のような生活をしていると、そういう荒野の側面を、表面に出す機会がないだけだ。
「……それはそれで、いいんですが……」
 結局、荒野は、当たり障りのない返事をする。
「おれが、その場その場で場当たり的な選択してしまって……その結果、想像以上にことが大きくなってしまって……。
 特に……静流さんをはじめてとして、想定外に、大勢の人たちを巻き込んでしまったことについては……おれ自身、かなり戸惑っています」
「そ、それでも……」
 静流は、荒野に向かって、柔らかく、微笑みかける。
「……か、加納様は……今までの選択を、間違ったものだとは、思っていらっしゃらないのでしょう?」




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彼女はくノ一! 第六話(54)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(54)

 結局、その日は、時間的にも半端になってしまったということで、香也も明日樹も部活をやらず、そのままずるずると勉強にいそしむことになった。周囲に顔見知りが大勢いて、がやがやと話したり教えあったりしていたせいで、とりたてて「強制されている」とかいう固っくるさは免れているわけだが、それにしても、勉強嫌いの大樹やあんなが、意外に嫌がることもなく、むしろ、積極的に取り組んでいる姿が、香也には印象的だった。
 結局……勉強そもものが嫌い……というよりも、学校の授業の雰囲気が嫌い……なんだろうな……と、香也は、二人について、思う。なんだかんだで、周囲の者がつきっきりで説明してみると、二人とも、飲み込みはそれなりに、いい。決して、理解力に劣るわけではなく……長時間、じっとしているのが、苦手なのだろう。だから、こういう賑やかな雰囲気の中でなら、嫌がる理由もない……。
 そこいくと、香也自身は、「勉強嫌い」というより、「勉強より好きなことがあって、そっちを優先させている」た結果の不登校であり、学力低下だった。
 保護者である真理が放任主義だったため、やりたい放題だった、と、言い換えてもいい。
 しかし、ここに来て、孫子や楓という強力な「準保護者」が丁寧な物腰で「絵を描く」という香也にとっての逃避先の意味を理解した上で、なおかつ、「それでも、最低限の知識は必要」と理詰めで迫ってきたので、香也は消極的に従っている。彼女たちの意向に逆らうと、結果的に、香也にとってかなり不本意なことになる……と、学習していたからだ。
 正直、最初のうちは、かなりいやいやだったのだ。しかし、今では……それなりに、面白くも、思いはじめている。
 基礎知識が充実してきたおかげで、授業の内容がかなりわかるようになったから、でもあるし、また、香也にもそれなりに好奇心というものがあり、知識が増大することに対する喜びというものがあったからだった。
 つまり、最近の香也は、それまで感心がなかった様々な事柄に、感心を持ちはじめている。
 何しろ、ごく身近にいる、自分と同じような年齢の少女たちが、学校に、あるいは、地域社会に……現に、少なからぬ影響を与えはじめている。
 香也は、その成果について、「彼女たちの特殊な能力」が原因である、とは、考えない。
 香也には、彼女たちは、その能力がどうあれ……やはり、自分と同年配の少女たち……としか、認識できない。その……年端もいかない……本来なら、保護者が同伴していなくては、かなり行動を制限される年齢の少女たちが、大人顔負けの活躍をしているのを間近に見るうちに……香也は、絵を描く以外、何の取り柄もない自身を省みて……まあ、その、ぶっちゃけ、香也自身は、かなり見劣りするよな……と、思いはじめている。
 多少の努力をしても、香也を慕ってくれる同居人の少女たちのうちの誰であれ、とてもではないが、釣り合うようになれるとも思わないのだが……せめても、もう少し、「普通」に歩み寄ってみよう……と、最近の香也は思いはじめている。
 思えば……香也は、ごく数ヶ月前まで……絵、しか、重要に思わなかったし、家族以外の知り合いも、ほとんどいない状態だった。
 それが気が付ば……。
『……みんなが、いるし……』
 香也は、教室内にいる友人たちを、そっと見渡す。
 わずか半年前の香也は、今の香也の状態を、想像できただろうか?

 そのまま、割と賑やかに全員で勉強しているうちに、下校を即すチャイムと校内放送が流れ出す。みんなでそそくさと荷物を片付けはじめ、下駄箱のあるエントランスまで降りる。
 家が少し遠く、自転車通学をしている堺雅史と柏あんなとは、校舎を出たところで別れを告げた。
「ほとんど、登校の時と同じメンバーだな……」
 飯島舞花が、ぽつりと呟く。
 放送部の用事でもう少し後まで残っている玉木を除けば、登校時の面子が全員、揃っていた。
「……茅とか楓経由で人が集まると、こういう構成になりがちだよな……」
 荒野も、頷く。
「今日のは、登校の時に話しをしていたから、余計に……ではなくて?」
 これは、孫子。
「でも……水泳部の人たちも、途中から大勢来ましたよね……」
 と、楓。
「いや……それ……。
 うち、ほとんど、まーねーか柏目当てで入部してきたやつらが多いから……それに……皆さんも、アレだし……」
 こめかみを指で掻きながら、栗田が楓に応じる。
「今日のも……出来るだけ、伏せておいたんだけど……やっぱ、実際に集まっちゃうと……ねえ?」
 栗田は語尾を濁して、舞花に話しを振った。
「……あー……」
 舞花も、栗田の言葉に頷く。
「わたしらのはともかく……でも、多いよな。
 放課後、茅ちゃんとか佐久間先輩が目当てで残っているやつら……。
 これで、ソンシちゃんとか楓ちゃんまでついてくる、って前評判があったとしら……まあ、確実に、収拾がつかなくなるだろうから……事前に情報伏せていたのは、正解だよなあ……。
 楓ちゃんはパソコン実習室にいけばたいているけど、放課後のソンシちゃんは、レアキャラだし……」
「……れあきゃら?」
 孫子は耳慣れない単語に、一度、首を傾げてから、すぐに意味の見当がついたのか、一人で頷き、ついで、軽く眉をつり上げた。
「レア……はともかく、わたくし、キャラではなくてよ」
「そう、それ。
 ソンシちゃんはあれだな、少し怒ったくらいの表情のが、魅力的だよな……」
 飄々とした口調で、舞花がいなす。
「……飯島……。
 才賀に軽口叩けるの、この学校ではおれを除けばお前くらいなもんだと思うぞ……」
 荒野が、呆れたような感心したような口調でいう。
「まーねーは、あれ、昔っから、こう、剛胆なところ……でっ! でっ!」
「……余計なこという子は、この場で締め落としちゃうぞー……」
 口を挟もうとした栗田の首を、舞花が背後から羽交い締めにする。
「……死なない程度にしておけよー……」
 荒野が気の抜けた声で注意しておいた。
 舞花のほうが栗田よりも三十センチほど背が高いので、加減を知らないと確かにしゃれにならない。
 幼少時の舞花の行状を知っている明日樹と大樹が、どこか畏怖を含んだ視線で、じゃれ合っている二人をみていた。
 舞花に抗弁しようとしていた孫子は、話しの接ぎ穂を失って、どこか残念そうな顔をしている。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(312)

第六章 「血と技」(312)

 荒野が静流の上に身体を軽く乗ると、静流は、下から腕を回して荒野の首を抱きよせた。荒野は、静流に体重をかけ過ぎないよう、畳に手をつく、腕の力で負担を調整しながら、正面から向き合った形で、静流の上に重なった。
 静流は、ただただ、荒野の口唇を貪ってくる。
 荒野は、それに応じながら、静流の乳房を掌で包む。少し指に力を込めて揉みしだくと、しっかりと押し返してくる弾力。
「……んっ」
 と、静流が鼻息を吹き、片足を荒野の太股に絡ませてくる。
 荒野は静流の下肢の間に自分の身体を割り込ませるようにして密着させる。そうすると、静流の股間に荒野の硬直が、直接、触れるようになる。また、静流もそこを刺激されることを望んでいるようでもあった。
 荒野は、自分でも気づかないうちに、静流の上にのしかかったまま、ゆっくりと身体を上下させている。
 いきりたった荒野の分身が、静流の恥丘に擦りつけられ、静流が「……んっ……あぅっ……」と鼻にかかった吐息を漏らす。
 いつの間にか、静流の手が、荒野の背中に回されている。
 荒野は、静流の腿に手を回し、軽く、静流の腰を持ち上げ気味にしながら、静流の秘裂に、自分の分身を擦りつける。そこからわき出てくる液体で、周囲の陰毛と荒野の硬直とが濡れていて、密着した状態で前後に動いていても、滑りがいい。
 静流は感度がいいだけではなく、愛液の量も多そうだ……と、荒野は、一瞬、今までに経験してきた女性たちの例を思い起こそうとして、すぐに思いとどまった。
 さっきも静流に叱られた通り、こうなっている時に、他の女性のことを考えるのは、いくら何でも無礼だろ……と、荒野自身も、そう思う。そこで荒野は、静流の反応も良好なようだし、せっせと接触している部分が摩擦するように腰を動かす。動かしている間に、静流のそこからしみ出てくる愛液は多くなり、潤滑がスムースになった。
 同時に、静流の秘裂が自然にめくれあがって、その上を滑る荒野自身が、静流の中心に半ばのめり込むようになっている。荒野の硬直が静流の入り口付近を浅く出入りしながら前後している形だが、そこに男性を受け入れたことがない静流は、その程度の刺激でも十分に感じるのか、すでに恍惚とした表情で荒野の背中に回した手を忙しなく動かし、軽く喘いでいる。
 本格的に挿入する段になると、また、違った反応が返ってくるのだろうが……。
「……静流さん、こういうの、気持ちいい?」
 荒野は、尋ねてみる。
「……そ、そういうこと……んっ!」
 答える途中で、静流が呻く。
 少し腰の動きを変えた拍子に、荒野の亀頭が今まで以上に深く入り込んでしまったのだ。
 荒野は慌てて腰を引いたが、静流が両脚を荒野の腰に廻して、それまでの行為を中断しないで続けるよう、荒野に促す。
「……はぁ。
 聞かないで……や、止めないでください……」
 静流は、耳まで真っ赤にして、小さな声でそう呟く。
 気のせいか、摩擦している股間が、今まで以上に湿ってきているように感じた。
「……おれので、静流さんのここを擦られるの、そんなに気持ちいいですか?」
 故意に、荒野は恥ずかしい質問を静流にぶつけてみた。
「……やっ!
 そ、そんなこと……聞かないで……あっ!
 あっー! あっー! あっー!」
 静流が答えている途中で、荒野は下腹部に手を回して、静流の陰核を指で軽く圧した。そうしながらも、襞に割り込むように硬直を動かすのも止めない。
 静流が、細い、尾を引く声を発しはじめる。
 すぐに静流は、荒野の首にむしゃぶりつき、荒野の口唇を貪って、自分の喉から出てくる声を無理に消した。
 荒野は、一度、動くの止め、静流の身体に腕を回して、ごろりと横に転がり、静流が自分の上に乗るよう、二人の体勢を入れ替えた。もちろん、荒野の硬直は、静流の股間の下にある。
 荒野は、静流の身体が倒れないよう、両手の掌を静流の双丘にあてて支えている。静流の乳首が、掌の中で硬くなっている感触。
「この体勢で、好きなように動いてみてください」
 荒野は、静流にいった。
 静流は、最初のうち戸惑っているばかりだったが、すぐにぎこちない動きで荒野の硬直に自分の股間を擦りつけはじめる。最初のうち、遠慮がちだった動きがすぐに早くなり、一度落ち着きかけた静流の息や鼓動も、すぐに早くなっていく。
「……はぁっ……あぅっ……」
 静流はすぐに、息を弾ませながら、荒野の上でリズミカルな動きをするようになった。
「……自分一人でやるのと、どっちが気持ちいいですか?」
 静流が興に乗ってきたところで、再び、荒野は意地の悪い質問をぶつけてみる。
「……やっ。
 ……そんな……」
 静流は、いやいやをするように首を振りながらも、リズミカルに動くことを止めようとしない。
「正直にいわないと、今日はここで止めちゃいますよ」
 荒野は、再度、静流を追求すると、静流は、
「……ふぁっ!」
 と、少し大きな声を出して背を仰け反らせた。
「……こ……こっち……。
 一人でするのより……こっちの方が、ずっと気持ちいいですっ!」
 そして、それまでよりよっぽど大胆な動きをしはじめる。
 静流の未開地は、襞が完全に捲れあがっていて、挿入こそしていないものの、荒野のモノを半ば飲み込んでいる状態だった。その周辺は、静流の中心が出した液体でぐっしょりと濡れている。
 今や静流は、完全に、感じていた。
「……まだ、未経験なのに……こんなになるなんて……」
 荒野は上体を起こして、静流の身体に腕を回し……顔を、静流に近づけて、囁いた。
「静流さん……見かけによらず、いやらしいんですね……」
「……ちが……違うのっ!」
 静流が、荒野の腕から逃れようとするかのように、大きな動きで首を左右に振る。
「か、加納様だから……ずっと加納様のこと、考えてたから……」
 そう叫ぶと、静流は、いきなりがっくりと身体の力を抜いた。
 崩れそうになる静流の身体を、荒野は、慌てて回していた両腕で支える。




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彼女はくノ一! 第六話(53)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(53)

「あ……。
 それ……似たようなこと、茅様にも相談されていましたけど……」
 楓は、荒野の提案に対して、そのように答えた。
「……教材の整備が一通り終わってから、取り組む予定でした……」
「……そうか」
 荒野は、あっさりと頷く。
「やっぱり、その程度のことは、考えているよな……」
「……それ……作業量が、膨大になりません?」
 二人の会話を聞いていた孫子が、近寄ってくる。
「生徒の一人一人に対応する……ということになると……労力的なコストがかかりすぎのではなくて?」
「……そうでも、ないですよ。
 今の構想では、プロトタイプのフォーマットをつくって、何人か選考試験してみて……それで良さそうだったら、後は、利用者が自分で入力したり、あるいは、ザーバから供給される小テストをやってみて、その成績で達成度を判断されたり、で……。
 作業量的なことでいえば、むしろ、今までの、三学年分の全教科の教材をデータベース化する方が、大変なくらいですが……でも、もう、それも、終わりに近づいていますし……」
「そうそう……」
 今度は、堺雅史が、話しに加わってくる。
「スキャナーとかOCRソフトをフル活用したにせよ、三学期の半分くらいの期間で、あそこまで取り込めるとは思わなかった……。
 データ取り込みの単純作業に、自発的に取り組んでくれた生徒が意外の多かったのと、それと、茅さんとか佐久間先輩の二人が全体像把握して、要所要所で必要なチェック入れてくれたんで、作業量が膨大な割には、スムースに進んだよね……」
 部活でパソコン実習室に詰めていることが多い堺は、その辺の実態をつぶさに観察する機会に恵まれている。
「……今の話し聞くと、要するに、個々人向けにどこまで覚えているのかチェックして、その結果をデータベース化するってことでしょ?
 だったら、一番面倒くさい部分は、もうクリアしちゃっている、ともいえるし……最初のチェックシート作りが少し手間がかかりそうだけど、それも茅さんとか楓ちゃんがテンプレ作ってくれれば、なんとかなりそうだし……。
 現在運用中の、携帯連動の単語帳だって、個々のユーザーの成績を記憶していて、ランキング表示する機能、ついているわけで……それを、多少複雑化するってだけのことでしょ?
 今の段階で単語帳のシステムが問題なく動いているってことは、全教科にまで発展させても十分にいけるってことだと思うけど……」
「そういう……もんなのか?」
 ことなげに請け負ってみせる堺に向かい……荒野は、呆気にとられた表情で頷き返す。
「……データもあるし、ノウハウもある程度持っているから……それに加えて、茅さんや楓ちゃんがいてくれれば、うちの部でも、もうそれくらいのことはできるようになってます。
 まるっきり、初体験のシステムってわけでもないですから……」
 堺は、平然と荒野に頷いてみせた。
「……いつの間にか……凄いことになっていたんだな……この学校のパソコン部……」
 荒野は、呆然と呟く。
「そりゃあ……普段から、鍛えられていますから……」
 堺は、平然とした顔をして、肩を竦めた。
「……学校のマシンも、ここに来てようやく、有効に活用されはじめたんじゃないですかね。
 今までは、そこにあるだけで、ろくに使われてなかったし……」
「……しれっといってますけど……」
 孫子も、荒野と同じく、若干、呆気にとられた顔をしている。
「それだけ規模のシステムの……外部に発注でもしたら、相当な開発費が必要になりますけど……。
 少なくとも、学校の部活でさっらとやるレベルではないのでは……」
「……周囲に、もっと凄い人たちが、ごろごろいるので……まあ、感化されているわけです」
 堺は、相変わらず平然とした顔をして答える。
「だって、あんなちゃんや樋口君……大樹君が、わざわざ勉強するために居残る、なんてこと、以前なら、考えられませんよっ!」
「……そーゆーところで人の名前だすなーっ!」
 柏あんなが、堺の肩口を、掌で、ぺしっと叩く。
「……まあ、いいんじゃないか、いい影響なら……」
 今度は、飯島舞花が、近寄ってきた。
「あれ、放送部の連中は、今日撮った映像も、ネットで見られるようにするとかいっていたし……」
「ああ……そういや、玉木たちも、今朝、そんなこと、いっていたな……」
 荒野も、呆然と頷く。
「茅ちゃんたち、あのルックスだから……内容そっちのけで、個人のファンとかが、学校外でできたりして……」
「……あー……。
 そういうのも……ありうる、のか……」
 気の抜けた表情で、荒野が呟く。
「……いや、もう……。
 どんどん、様々な事態が……おれの認識できる範囲内から飛び出していくような……」
「……情けないこと、いわないっ!」
 孫子が、うなだれた荒野を一喝する。
「物事が、常に自分の思い通りに、動くものですかっ!」
「……そうそう」
 舞花が、孫子に同調して頷く。
「おにーさんは……あれだ。
 自分自身で何とかできることが多いから、わたしらみたいに、何も出来ない普通の学生の気持ちが、よくわからないんだな……。
 自分の周囲のことを、自分の意志でコントロールできない……なんて、わたしたちにしてみれば、ごく当たり前のことだし……それを不安に思えるっていうのは……やはり、おにーさんは、恵まれているんだと思うよ……」

 荒野たちがそんな話しをしている間に、楓は、自分が話せることから話題が逸れたと判断し、香也のもとに近寄って、香也がつまっている方程式の解き方について、丁寧に説明しはじめた。



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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(311)

第六章 「血と技」(311)

「……変な匂いが、します」
 荒野のジッパーを下げた途端、静流が軽く鼻に皺を寄せる。
「……ああっ、と……それ、おれの臭いです……」
 荒野が、反射的に、申し訳のなさそうな声を上げている。
 野呂の者には、五感が鋭敏な者が多い……静流の嗅覚が、とかいう話しは聞いたことがなかったが、それでも、視覚の不備を補完する意味で、他の感覚が鋭敏になっている可能性は、否定できなかった。
「……か、加納様の……」
 静流は、自分の指でジッパーの中から荒野のモノをとりだし、指で輪郭を探ったり、顔を近づけて、臭いを嗅いだりしている。
「ここれが……だ、男性の……」
 どうやら、ソコの臭いに不快感を持っているわけではなく、一時的に違和感を覚え、その後、好奇心が勝っているだけのようだ……と、荒野は思い、少しほっとする。
「ど、動物みたいな、臭いがします……。
 に、人間も、動物の一部ですから、あ、当たり前ですよね……」
 ……荒野は、「静流の中の世界」をチラリと想像して、軽い目眩を感じた。
『……おれ……嵐呼と同列に見られているのかな……』
「まあ、人間も、動物ですから……」
 荒野は内心の動揺を押し隠して、静流の下着の中に入れた指を、静流の秘裂に添って、軽く動かす。
「……んぅ、ふっ……」
 と、静流が軽く鼻息を漏らした。
 静流のそこは、十分に湿っていて、陰毛と荒野の指を濡らしていた。だから、痛みはないだろう……と、荒野は判断すし、十分に濡れて滑りがよくなった静流の恥丘に指をすりつけるように、前後させる。
「……あっ。はっ。はっ……」
 すぐに、静流は息を荒くして、荒野の肩にもたれ掛かってきた。
 むき出しの静流の乳房が、荒野の制服に押しつけられ、ひしゃげている。
「静流さん……感じやすいんですね……」
 荒野が素直な感想を口にすると、静流は、
「……やっ!」
 といって、よりいっそう、荒野に体重をかけてすがりついて、首を振り、「……はぁ、はぁ……」と荒い息をつく。
 ……本当に、初めてで、こんなに……と、荒野は一瞬、不審に思い、それからすぐに、あることに気づいて、素直にその疑問を口にしてみた。
「……そっか……。
 静流さん……結構、一人でやってて……刺激に慣れているんだ……」
 静流は、荒野にしがみつき、口唇をきつく閉じながら、「んんっ、んんっ」と、激しく左右に首を振って、回答を拒否する。
 少し、想像すれば……容易に、想像できることだった。
 静流は、その障害故に、一人で家に籠もっている時間が、普通よりも長い。だから、自然と自慰をする機会も増えただろうし、そうなれば、性感も、自然と開発される……。
 静流は半裸のまま荒野にしがみついていたが、荒野は構わず静流の股間にあてた手を、動かし続ける。
 ぐちょぐちょという水音が大きくなり、口のきつく閉じながらも、静流の喉からくぐもった声が漏れた。
 ……このまま、一度、行くところまで行かせた方が、いいかな……と、荒野は、判断する。
 ここで中断して破瓜の痛みを与えるよりは、一度、静流を到達させ、快楽を覚えさせた方が、いいように思えた。
 荒野は、静流の「男性経験がない」という言葉を、疑っていない。荒野は別に処女性に幻想を抱いているわけではないが、静流がそんな嘘をつかなければならない必然性、というのが、荒野には、思いつかなかった。
 荒野は指の動きを激しくし、しばらくすると、静流は、
「……んっ! はぁっ!」
 と、大きく息を吐いて、背中をのけぞらせた。
 荒野は、静流が倒れ込む前に、腰に回した腕に力を込めて支え、ゆっくりと静流の上体を畳の上に倒して、仰臥させた。
 静流の全身から、ぐったりと力が抜けている。
 それをいいことに、荒野は、静流のジーンズと下着を、静流の下肢から抜いた。静流は、もはや覚悟を決めたのか、荒野の動きにあわせて、軽く腰を浮かせたりして、荒野が静流を丸裸にする動きに協力する。
 やがて、荒野の目に、静流の裸体が現れた。
 脱ぎ散らかした衣服の中に、白磁の肌が、横たわっている。白い肌のところどころが、ピンクに染まって、うっすらと汗を浮かせており、胸郭が、忙しく上下している。
 まだ、静流の呼吸は整っておらず、呼吸は速かった。
「……静流さん……」
 細身だが、胸と腰回りは肉付きがよく、ほぼ理想的なプロポーションだ……と、荒野は思った。
「……きれいだ……」
 荒野の本心からきた、言葉だった。
「そ、その……き、きれいっていうの……わ、わたし……わからないのです……。
 わ、わたし……みんなとは、違いますから……」
 静流は一瞬、泣きそうな顔になり……しかし、すぐに微笑んでみせる。
 ……静流さんは……と、荒野は思った……あのサングラスをかけていると、隠れるけど……あれがないと、随分、表情豊かな人なんだな……と。
「……か、加納様も……」
 息を整えながら、静流が、囁く。
「じょ……女性の身体の扱い方、知りすぎです……」
「いや……茅とかに、鍛えられてるし……」
 反射的に荒野が返答すると、静流は、荒野の太股を指で摘んで、つねりあげた。
 思わず、荒野は、太股の肉をつまみ上げている静流の手の上に、掌を重ねる。
「……痛いよ、静流さん……」
 荒野が、情けない声を出した。
「……こ、こうしている時に、他の女性の名前をだすのは……ま、マナー違反です……」
 そういわれてしまえば「……それも、そうか……」と、納得してしまう荒野だった。
 若年で、経験に乏しい荒野は……そうした機微には、どちらかというと疎い方だろう。
「すいません。
 思慮が足りませんでした……」
 荒野は、素直に頭をさげた。
「……い、いいです」
 とかいいながらも、全裸で寝そべっている静流は、荒野から顔を背けている。ひょっとすると、恥ずかしいから、そうしているのかも、知れないが……。
「それより……か、加納様も、もう、脱いでください……。
 わ、わたしだけが、こ、こんな恥ずかしい格好、しているの……ふ、不公平です……」
 静流は、荒野の制服の、股のあたりの布地を指で摘んで、そういった。
 荒野は、「不公平」という静流のいいように、一瞬、吹き出しかけけたが、あやういところで自制して、
「……わかりました」
 と、真面目な口調で、頷く。
 荒野は、寝そべったままの静流から少し離れ、ざっと見渡したところ、ハンガーも見あたらなかったので、着ていたものをすべて脱いで、丁寧に折り畳んで、部屋の隅に置いた。
「蒲団、敷きますか?」
 全裸になった荒野は、静流に近づいて、そう尋ねる。
「こ、このままで、いいです……」
 静流は、そういって、顔を荒野の方に向ける。声のする方に、振り向いたのだろう。
「そ、それよりも……は、早く、そばにきて……か、加納様を、感じさせてください……」




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彼女はくノ一! 第六話(52)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(52)

「……このポスターも、そのうち、町のあちこちに貼るわけだしぃ……それに、春休みには、商店街のシャッターに絵を描くことも約束しているんよ、この子……」
 玉木は、香也について、そう説明を続ける。
「この子は、もう、あすきーちゃんだけが囲っていた子じゃないしぃ……それに、いろいろな人とつきあった方が、この子にとっても、いい筈だしい……」
「……この子、この子、って連呼しないでよ……。
 下級生といっても、一年しか違わないんだから……」
 明日樹は、憮然とした表情になって、小声でそう返した。
 香也が、自分の手から離れていくように、明日樹が感じている……という、玉木の観測は、おそらく、正しい……と、そばで二人のやりとりを見ていた楓は思う。
 そうなると……明日樹から香也を遠ざけたのは、他ならぬ、楓たちだ……ということに、なるわけだが……玉木がいうとり、それは、決して悪い傾向ではない……と、楓も、思う。
 明日樹も、それはわかっていて……わかっていても、ただ……寂しいのだろう……。

 その時、玉木と楓、それに孫子の携帯が、着信音を響かせた。三人は、それぞれの、携帯を取り出して、受信したメールをチェックする。
「……撮影班から連絡。
 今日のテストの解説は収録し終わったって。
 沙織先輩も茅ちゃんも、そのまま期末試験の予想問題解説、はじめたそうだけど……。
 わたし、ちょっと今まで収録したデータ、取りに行って、それもってパソコン実習室にいって、編集作業にはいる……」
 と、玉木はいい、立ち上がった。
「……あっ。
 それじゃあ、ぼくも、校正が終わった分、印刷屋さんに持っていきます。
 狩野君。
 今日は、ご苦労様でした。続きは、またの機会に……」
 有働も、立ち上り、携帯を取り出した。
「……撮影班の中から何人か、放送室に呼び戻しましょう」
「……こっちは、柏さんからですね……。
 勉強のお誘い……というより、一緒に地獄に堕ちよう、とか、いってますけど……」
 これは、楓。
「飯島からです」
 孫子がいった。
「加納……もう一人の荒野と一緒に、二年生有志で、一年生の勉強をみているそうです。そちらの、加勢を頼まれました……」
 孫子は、明日樹に話しかける。
「そちらの弟さんもつき合わされているそうですし……この時間から部活というのも、半端でしょう……」
「……そう……ね……」
 明日樹は、不承不承、といった形で、頷く。
「それでは、参りましょうっ!」
 楓が、香也の右腕をがっしりと掴んだ。
「参りましょうっ!」
 明日樹も、香也の左腕をがっしりと掴む。
 二人がかりで持ち上げられ、椅子から立たされた香也は、そのままずるずると引きずられて、放送室から出ていく。当然のように、孫子も、その後についていった。

「……で、結局……いつもの面子か……」
 香也が取り巻きの女生徒たちを引き連れて、というか、取り巻きの女生徒たちに引きずられて指定された教室に入ると、開口一番、荒野はそうぼやいて見せた。
 二年生の教室を、適当に選んで使わせてもらっているらしい。
「こっちは、見たとおり……茅の解説を聞いても、ちんぷんかんぷんだった連中を連れてきて、面倒見ている。
 あれだ。基礎を覚えてないから、かなりさかのぼって教えなくちゃならない連中、ってことだが……。
 ま、二年生が何人か来てくれて、助かったよ……」
 柏あんなと樋口大樹が、飯島舞花と栗田精一、それに、堺雅史に囲まれて、頭を抱えている。
 舞花は頻繁に席を外して他の一年生の様子も見に行ったりしているが、栗田は大樹に、堺はあんなに、ほとんどつきっきりになっていた。
「……状況は、把握しました」
 周囲を見渡して、孫子は頷き、早速鞄から筆記用具を取り出して、手近にいた一年生の集団に近づいた。
 明日樹も、大樹と栗田に近づき、栗田の向かって、
「どーもー……。
 うちのバカがお世話かけちゃったみたいで……」
 とかなんとか、話しかける。
 香也と楓は顔を見合わせ、とりあえず、顔なじみのあんなと堺の隣に陣取った。
 堺が、
「あんなちゃん、これまで、ちょっとさぼりすぎ……」
 とかなんとか、しきりにぼやいている。
 楓と香也が、ごそごそノートとか教科書を広げていると、荒野が近寄ってきた。
「……まあ、あれだな。
 生徒によっては、茅の解説も理解できないくらいに、基本的な知識を覚えていない連中がいるってことで……しかも、どこまで何を覚えているのか、っていうのが、一人一人、ばらばらだから、こうして個別に見てやった方が結局は、効率が良かったり……」
 ……こうしてみると、先生の苦労が忍ばれるよ……と、荒野は、大仰な動作で天井を仰いで見せた。
「好きだの嫌いだのいう前に、消化すべきタスクとして、淡々と消化していけばいいのです。
 量的に、少しは多いとはいえ、三年間で修得すべき知識は有限のですから、計画的に学習していけば、そうそう困ることはありません」
 いつの間にか、こちらに近寄ってきた孫子が、荒野に向かっていう。
「おれ……よく知らないけど、日本の学校っていうのは、そういう計画性とかいうのも、生徒に教えているのか?」
 荒野が、孫子に尋ねた。
「……そういう学科は、ありませんわね……」
 孫子が、軽く眉をひそめてみせる。
「いわれてみれば……そう。
 そういうのは、生徒各自の才覚とか自主性に、任されています……」
「……なるほど……」
 荒野が、ため息をついた。
「マニュアルと目標は与えるけど、途中の過程は、自分で制御しなけりゃならないのか……。
 それじゃあ……生徒の生まれ育った家庭環境とかで、かなり有利不利が決まってしまうんじゃないのか?
 プランニングとかのノウハウ、教えてくれる人が周囲にいる環境の生徒と、そうでない生徒には、かなり差があると思うけど……」
「そう……ですわね。
 格差が世代を越えて、確定する……ということも、最近、いわれはじめています」
 孫子は、肩を竦める。
「親の年収が高い人ほど、学歴も、収入も高くなる傾向がある……というのは、案外、その辺に理由があるのかも知れません」
 実のところ、孫子は、ここに越してくる以前は、庶民の家庭環境や暮らしぶりについて、知る機会も持たなかった。なので、その辺の事情については、書物などから間接的に知った表層的な知識しか持たない。知識はあっても、実感はない……という点では、どっこいどっこいだった。
「……そんな、感じか……」
 荒野は、少し考え込んだ。
「なあ、楓。
 スケジュールやタスク管理のソフトって、組めるかな?
 いや、専用のソフトでなくても、表計算ソフトのマクロ程度でいいと思うんだけど……。
 学校の教科を、適当な単位に区切って、生徒ごとに達成度とか、表示できるようにする、とか……。
 そうすると、各生徒ごとに、進行度や理解度がチェックできるし、それに、自分のペースで学習できるだろ……。
 才賀がいったとおり、この学校で覚えるべき知識の内容や総量は、あらかじめ確定しているんだから……後は、どうやって効率的に、そいつを覚えていくか……って、ことだろ?」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(310)

第六章 「血と技」(310)

「つ……続けて、ください……」
 静流は、そう答える。
「か、加納様は……そっと触るので、こ、怖く、ないです……。
 な、慣れていると、思います……」
 真面目な顔でそう返されたので、荒野は、はたして静流が、今ではそれなりの経験がある荒野を揶揄しているのか、それとも、本心からそういっているのか、判断に迷った。
「……無理は、しないでください。
 焦る必要は、ないですから……」
 しかたがなく、荒野はそういって、再び静流の口を貪る。
 先ほどまでの柔らかい口づけとは違い、静流の口の中を、歯の裏側から歯茎の合間まで、時間をかけて、舌先で丹念にたどってみた。
 ようやく荒野が顔を離すと、唾液が糸を引いて、二人の口を繋ぐ。
「……こういうの、嫌いですか?」
 荒野は、尋ねてみた。
「わ、わかりません……」
 静流は、素直に答える。
「た、ただ……すごく……興奮、してます……」
 静流はそういって自分の服の中にもぐり込んでいた荒野の手首を掴み、わき腹のあたりに置いてあった荒野の掌を、自分の鳩尾に持ってくる。
「……ほ、ほら……。
 こ、こんなに、ドキドキして……」
 確かに……荒野の掌に伝わる静流の鼓動は、かなり早くなっている。
 それに……肌がじっとりと湿っていて、かなり熱くなっている……ように、荒野には、思えた。
「……脱がして、いいですか?」
 そう聞きながら、荒野は、服の中の手を、少し上にずらして、静流の胸の谷間に置き……静流の下着に、手をかけた。そのまま、静流の返事を待たずに、ブラのフロントホックのを外した。
「や、やっぱり……加納様……な、慣れています……んんっ!」
 荒野の指先が乳首に触れると、静流は、少し大きな声を出す。
「慣れているのは……いやですか?」
 荒野は、また聞き返しながら、静流の耳たぶを甘噛みした。
「……やっ!」
 未知の刺激に、静流は、荒野の下で軽く背を反らせる。
 荒野は構わず、静流の服の中に手を突っ込んで乳房を弄びながら、静流の首筋にまで舌を這わせる。
「い……い、いやというより……ふぅんっ!
 あっ!
 は、恥ずかしいのです……」
 静流の反応をみて、「……感じやすい……」と、思ってしまう。
 それに、相手が恥ずかしがる……というのも、荒野にとっては、新鮮だった。茅にせよヴィにせよ、少なくとも、荒野が相手をする時には、あまり羞恥心を見せない。
 荒野は、防寒の観点からいえば実用的だが、色気に欠ける静流の綿入れの中を探るようにして、静流の背中に腕を回し、静流の上体を起こし、静流のセーターを捲り上げる。静流れは、両腕を上げて荒野の動きを助けてくれた。
 静流の上半身が裸になると、荒野はすぐに抱きついて、静流の乳首に口つける。先ほど感じた通り、服を着ている外側からみた印象よりも、かなり豊かな乳房だった。「……ヴィよりは小さいけど、茅や酒見たちよりはよっぽど大きいな……」などと、無意識に今まで触れたことがある女性たちの大きさと比較していることに気づいて、荒野は内心で自分を叱責し、目の前の静流の乳首に集中しようとする。
 荒野が軽く歯を立てながら、舌を使って舐め回したり音をたてて乳首を吸ったりすると、静流は「んははははっ」と鼻息を荒くしながら背をのけぞらせ、震える。
「静流さん……。
 初めてなのに、感じすぎ……」
 静流の背に腕を回して支えながら、少し静流の胸から顔をあげてそういうと、静流は荒野が顔を離した僅かな隙間に手を差し込んで、自分の胸を抱くように両腕を身体の前に交差させ、荒野に背を向けた。
「……か、加納様が……上手ぎるのです……」
 そういう静流のうなじから耳にかけてが、真っ赤に染まっている。
 荒野がそのうなじに口をつけると、静流の背が、くねった。
「か、加納様も、脱いでください……」
 胸を両腕で隠しながら、静流が、こちらに向き直る。
 荒野は、静流の肩を抱き寄せて、再び口唇を塞ぎながら、静流の手をとって、自分の股間に導いた。
「……あっ……」
 荒野の制服越しに、股間の硬直に触れた静流が、一瞬、荒野から身を離す。
「こ、これ……だ、男性の……」
 荒野は再び、静流を抱きすくめて、裸の乳房に顔を埋めて、その乳首に歯を立てた。
 静流が身をすくめて、
「……んんんんんっ!」
 と、明らかに感じている声を出す。
 荒野は、静流の身体を抱きしめながら、静流の手を、再び自分の股間に導いて、
「脱がせてください……」
 と、囁く。
 そして、静流の腰に手を回し、ベルトのバックルに指をかけた。静流は、パンツ姿であることが多い。この日も、洗いざらしのジーンズを履いていた。
「……やっ……あっ……」
 今度は静流もあらがわずに、布地の上から荒野の盛り上がったソコの形たどるように、ぎこちない動作で、指先を動かす。
「か……硬い……です。
 そ、それに……そ、想像していたより、大きい……」
 最初の気恥ずかしさを突破すると、今度は好奇心の方が勝るのか、最初のうち、おずおずと触れていた静流は、そのうち、段々と大胆に荒野のソコをまさぐるようになっていく。
「こ、これ……こんなになって……い、痛くは、ないんですか?」
 一通り、布地を突き破らんばかりに膨れ上がっているソコを指でたどった後、静流は、無邪気な口調で、荒野に尋ねる。
「痛くはないですけど……いい加減、窮屈です……」
 荒野は、いいながら、静流のベルトを弛めて、ジーパンの中に素早く指を入れた。
 静流は、身体を震わせたものの、特に抵抗することなく、荒野の動きを受け入れる。
 荒野の指先は、適度に弾力はあるが平坦な下腹部の上を滑り、静流の下着の中に潜り込む。
 静流は、
「……んっ!」
 とうめいて、身体を硬くした。
「緊張しないでください」
 荒野は、静流の耳元で囁いた。
「それとも……もう、やめておきましょうか?」
 荒野の指に触れた静流の茂みは、生暖かく湿っていた。
「……ああっ。
 ……んっ……」
 荒野はそのまましばらく指を動かすことはなかったが、静流は、半裸で荒野に抱きつかれながら、下着の中を探られている……という状況自体に、興奮している。
 荒野は、そこに指を触れたまま、特に動かすことはなかったが……それでも、荒野の指が触れている部分に触れる湿り気は、じんわりと多くなっていくように思えた。
「……ここ……」
 静流の熱い息が、荒野の首筋に、かかる。
「きゅ……窮屈、なんですか?」
「見ての……いや、触った通りの状態です」
 荒野は、丁寧な口調で、静流に応じる。
 最初のうち、ためらいがちだった静流も、今では、しっかりと荒野のソコに指を置いている。
 荒野は、静流の喉がゆっくりと上下して、固唾を飲んだのを、視認した。
「……あっ、あの……だ、出した方が、ら、楽に、なれますよね……」
 静流が、意を決したような口調で、いう。
「楽にも、なりますが……それ以上に、静流さんに、直に触ってもらえると、気持ちがいいです」
 荒野は、相変わらず、真面目な口調を崩さずに、いう。
「……さ……触られると……き、気持ちが、いいのですか……」
 そういって、少し首を傾げてから……静流は、荒野のジッパーを手探りつまみ、下に押し下げはじめる。




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彼女はくノ一! 第六話(51)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(51)

 その日の休み時間、放送部員たちが中心となり、その他のボランティアの生徒たちも加わった生徒たちが、校内を徘徊して、香也の絵を各所に据え付けはじめた。その絵のそばには、決まって絵を描いた香也の氏名、並びに、絵に描かれた場所の番地名、香也がこの絵を描くようになった事情の簡単な説明、ボランティア活動のサイトアドレスや問い合わせ先メールアドレス……などがプリントアウトされた紙が、一緒に貼り付けられている。
 楓や柏あんな、それに、牧田と矢島なども「ボランティア要員の一員」として、その日の休み時間中は、校内を回って、手分けして香也の絵を飾って歩いた。
 当の香也は、教室内で有働が持ち込んだ校正刷りと格闘している。紙のサイズが大きい、ということの他に、種類や枚数も多かったので、それら大判の紙を一枚一枚めくってチェックしていくのは、思ったよりも時間がかかり、傍目には、やはり「格闘」しているようにみえた。茅や、その他、近くにいた生徒たちが香也に同情をして、大判の紙の束を扱うのを手伝ってくれた。

 そんな感じで授業時間が過ぎ、最後の時間に行われた実力テストも終わる。
 香也と楓が掃除当番としての仕事をしているところに、孫子が顔を出した。
「……今日は、わたくしが香也様のお世話をする日ですから……」
 といって、香也の手から箒をもぎ取り、香也の代わりに教室の掃除を行おうとする孫子を、香也は慌てて押しとどめ、謹んで辞退させて貰う。
 そうでなくても、今日は「目立っている」のだ。この上、上級生の女子……それも、孫子のような目立つ生徒に掃除当番を代わって貰ったりしたら、他の生徒たちに何をいわれるかわかったものではない。
 すでに手遅れかも知れないが、香也としては、これ以上、目立つのは避けたかった。

 教室の掃除が終わると、廊下で待っていた生徒たちが、待ちかまえていたかのようにどやどやと中に入ってくる。大半は香也と同じクラスの生徒たちだったが、その他に、他のクラスの一年生、それに、カメラや三脚などを抱えた放送部員たちの姿もみえた。
 茅による、実力テストの「規範解答と解説」……を、目的に集まってきた生徒たちだった。
 二年生のどこかの教室で、沙織を中心として、同じような光景が展開されているに違いない……と、香也は思った。
 そして、手近にいた放送部員を掴まえて、香也は、「今朝、有働に頼まれた校正を返したいのだが、どうすればいいのか?」と尋ねる。
 その放送部員は、すぐに仲間を集め、茅に一言断りを入れて、何人かで紙の束を運ぶのを手伝ってくれた。香也自身と楓、それに孫子も、もちろん、その荷物運びに加わる。
 何人かの放送部員たちはその場に残って、カメラやマイクなど、録画作業に必要な機材の据え付け作業を行っていた。

 荷物を抱えて放送室に入ると、有働と玉木が中にいた。机の上に、なにやら書類を散乱させ、打ち合わせの最中らしかった。他の放送部員は、茅と沙織の録画作業のため、出払っているらしい。
 香也たちが校正刷りの束を抱えているのがわかると、二人は香也を丁重に迎え入れてくれる。
 放送部員たちは荷物を置くとすぐに元いた場所にきびすを返し、楓と孫子はその場に残った。
「……んー……。
 一応、全部、みてみたけど……勝手が分からないので、これでいいのか、わからないです……」
 と香也はいい、有働や玉木と一緒になって、持ち込んだ校正刷りの束を一枚一枚、再チェックしはじめた。
 香也自身は、このような不慣れな作業に手を煩わされることを、決して歓迎はしていないのだが、それでも、乗りかかった船である。それに、印刷関係の作業についても、多少は興味がある。
 香也は、羽生の同人誌を何度か手伝っているが、いつも時間ぎりぎりで入稿するのと、それに、原稿に送りつけたら、そのまま製本までやってくれるところに頼んでいるので、校正作業に関わったことはない。
 香也の意図と興味を察した有働と玉木が、一枚一枚校正刷りをめくって、校正をするさい、どういうところを見ていくのか……ということを解説しながら、チェックを入れていく。
「……まあ、低予算でやって貰っている手前、あまりうるさいことは、いえないんだけどね……」
 と、玉木はいい、有働に、
「……ここの色、もっと赤味を強くした方が、見栄えがいいんじゃあ……」
 とか、話し合いながら、校正刷りの紙に赤のサインペンで書き込みを行う。
 印刷されて戻ってきた香也の絵は、やはり色味的には、元の絵とかなり違っていたがどこまでが技術的な限界で、どこまでが発注した側の意図なのか、香也では判断できない。ことに、今回は、香也の絵を一度画像データとして取り込んで、それにレタッチ作業を加えている可能性もあったから、なおさらだった。
 最初のうち、二人のやりとりを見ているだけだった香也は、二人の会話から、「絵をポスターに加工する」という作業の具体的な意味を知ると、次第に自分の意見もいうようになってくる。
「どうしたら、効果的に人目を引きつけることができるのか?」という視覚的な演出については、やはり香也は、それなりの意見と見識を持っていた。
 それで、次第に、三人で白熱した意見交換を行うようになってくる。

「……あっ、あの……」
 楓が、自分の携帯の画面をのぞき込みながら、遠慮がちに香也に声をかけた。
「樋口さんが、今日は部活にこないのか……って、いってますけど……」
 香也は、慌てて時間を確認する。
 いつの間にか、放課後になってから、二時間以上が経過していた。

「……まっ……いいけどね……」
 といって、放送室に入ってきた樋口明日樹は、そういいながらも口唇を尖らせた。
「でも、そういうことなら、メールかなんかで、ちょっと知らせてくれてもいいんじゃない?」
 そういわれて、香也は決まり悪そうな様子でごもごもと不明瞭に謝罪の言葉を述べ、頭を下げる。
 明日樹は、沙織の解説を一通り聞き、美術室にいってしばらく一人で部活をしていたが、香也がいっこうに姿を現さないので、香也に問いあわせのメールを送った。それにも返信がないので、しかたく、楓に同じような問い合わせのメールを送った……ということだった。
 もちろん、楓が明日樹のメールに気づいてから、香也は慌てて返信したわけだが……。
 しきりに恐縮している様子の香也と、どこか拗ねたような様子の明日樹を見比べ、玉木が、
「……あはははははっ……」
 と、唐突に笑い出す。
「かわいいーなー、あすきーちゃんは……」
「……何、いきなり……」
 いきなりそんなことを言い出した玉木に、明日樹は、露骨に警戒心を込めた視線を送る。
「……いや、こっちのこーちゃんが、どんどん自分の手から離れて、寂しくなるのはわかるけど……。
 今、こっちのこーちゃん、どんどん、みんなのこーちゃんに、なっていっているところだから……」

 玉木の言葉と認識は、決して間違っていなかった。
 今や、香也の絵は、その氏名とともに、校内のどこででも目につくようになっている。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(309)

第六章 「血と技」(309)

 しばらくそうして、静流の胸に顔を押しあてて泣いた後、荒野は、むっくりと身を起こし、決まりの悪い顔になった。
「……なんだか……静流さんに、決まりのわるいところを、みせちゃったな……」
「……わ、わたしは……」
 静流は、冗談めかした口調で応じる。
「これ……ですから、み、見ることは、出来ないんですよ……」
「……そう、でした……」
 不用意なことをいってしまった……と、しょぼくれる荒野に、静流は笑いかける。
「わ、わたしは……この通り、見えませんけど……それでも、そ、それ以外のことには、敏感です。
 か、加納様は、いつも……は、張りつめて、おります……。
 い、いつ、ぷっつりっ、お、音を立てて切れてしまわれても、おかしくないくらいに、張りつめていらっしゃいます……」
「……そんなこと、いわれたの……はじめてだ……」
 荒野はゆっくりと首を横に振りながら、少しあきれの混ざった口調で、答える。
 寝そべったままの静流は、手を上に延ばして、荒野の頬に触れた。
「か、加納様は……い、いつも、無理をして、微笑んでいらっしゃるから……。
 か、加納様ご自身も、含めて……その微笑みに、誤魔化されて、しまうのです……」
 ……加納様のその笑顔は、本当の笑顔ではありません……。
 静流は、そう断言する。
 荒野は少しの間、彫像のように硬直し、考え込んだ。
「おれ……茅に、笑って欲しいと思った……」
 ややあって、荒野は、ぽつりと語りはじめる。
「それから……茅が笑うためには、おれも、その他のみんなも、笑わなけりゃ……笑えるようにならなければ、いけない……とも、いわれた」
 荒野はさらに続ける。
 静流は、黙って荒野の言葉に耳を傾けている。
「でも、それって……難しいよ。
 すっごく、難しい。
 それこそ、おれの手になんか、ぜんぜん負えないくらいに、難しい……」
「か、加納様は……全部、一人で、背負い込みすぎるのです……」
 しばらく、荒野の言葉に耳を傾けていた静流が、ようやく、口を開く。
「……だ、だって……加納様は……いくら優秀でも、ま、まだ、年端もいかない、子供なのですよ?
 ど、どうして……子供が、そ、そんなに……な、何でもかんでも、せ、背負おうと、するのですか……。
 な、泣いたって、わめいたって……周りの大人に、もっとすがったって、いいではないですか……」
 か、加納様は……何でも、一人で、しっかりしようと、しすぎなのです……と、静流は続ける。
「……子供、かぁ……」
 荒野は、呆然と呟いた。
「おれ……まだまだ、ガキ……かぁ……」
 そう呟いて……荒野は、気が抜けた反面、すっと、肩の力が、抜けたような気がする。
「そ、そうです……」
 静流は、頷く。
「も、もともと……じ、自分たちの世代の不始末を、後代の者に押しつけて、責任をとれという大人たちが、図々しいのです。
 だ、だから……か、仮に、何かしくじっても……か、加納様が、気に病む必要は、ないのです……。
 そ、そんな……何もかもがうまくいく……という可能性は、だ、誰がやっても、きょ、極端に、ひ、低いわけですし……」
 一般人社会との共存。
 それに、すでに生まれてしまった新種たちの扱い。
 どちらか一つだけでも、頭に「超」がいくつもつく難事業だ。
 失敗して、もともと……程度の認識を持て、という静流の忠告は、客観的に考えても、公正な意見だと思う。
 荒野だって……今の荒野の状況だって、いくつもの偶然に助けられて、ようやく成立しているようなものだった。
 ……だけど……と、荒野は思う。
「……今となっては……失敗した時、失うものが、大きすぎる……」
 がっくりと肩を落とし、荒野は静流に告げた。
 ここに来て……おれは、弱くなった……と、荒野は思う。
 この土地に来る以前は……躊躇せずに、いくらでも、危ない橋をわたれたのに……。
「……だ、だから……」
 静流は、延ばした腕を荒野の首に回し、下方に、荒野の頭を引き寄せる。
「つ、使える大人は……す、すべて、利用して、やればいいんです。
 特に一族の大人は、無理を承知で、自分たちのツケを、か、加納様に、おしつけているわけですから……」
「……あっ……ああ……。
 そう……だな……」
 再び、静流と顔が近づいてきたことに気づいて、荒野は、動揺しはじめる。
間近でじっくりとみると……抜けるような白い花肌に整った顔立ちの静流は、かなりの美形だった。
「今度から……少し、図々しいくらいのことを、要求していくよ……」
 荒野は、柄にもなく、自分がどぎまぎしていることを、自覚する。
「……ど、動悸が、早くなりました……」
 静流が、焦点のあわない瞳で、荒野の顔をじっと見つめる。
「か、加納様……。
 な、何を、か、考えていますか?」
「た、多分……静流さんと、同じこと……」
 荒野がそう答えると、静流は、目を閉じる。
「……か、加納様が、したいように、してください……」
 荒野は、再び、静流の上に覆い被さる。

 経験がない、という静流を驚かせないように、ついばむような口づけをしばらく続けた後に、長く口唇を重ね、さらにその後、ようやく、静流の口を開けて、その中に舌を入れた。
 静流は、終始目を閉じて、荒野がするがままに身を任せていた。
 体中が細かく震えているのは、おそらく、怖がっているのだろう……と、荒野は思う。
 荒野の自由にさせてくれるし、いやがっている様子もないが……それと、未知の行為に対する恐怖心とは、また別の話しなのだろう。
 荒野が静流の口の中に舌を割り込ませた時、びくん、と静流の身体が大きく震え、少しして、荒野が静流の服の中に手を入れると、再び静流の身体が、大きく震えた。
 異性に肌を触れられるのが、初めてなのだろう……と、荒野は推測する。
「……今日は、やめておきますか?」
 気をきかせたつもりで、荒野はそう尋ねてみた。




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彼女はくノ一! 第六話(50)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(50)

「……狩野君っ!」
 教室内にはいっていくらもしないうちに、有働が大判の紙を丸めたものを両手に抱えて香也たちの教室の中に入り、大股でまっしぐらに香也の席に歩いてくる。
 クラスメイトたちが、大柄な上級生の朝からの来訪に一瞬、ぎょっとして注視するのだが、すぐに進入してきた生徒が、顔を知っている有働であることに気づき、驚愕はすぐに好奇心にとって変わる。
 有働が放送部に所属していることは全校的に知られていたし、ことにこのクラスでは、香也や楓、茅がらみで出入りすることが多い。
 今度もまた、何か……という好奇心を持って、教室内にいた香也の同級生たちは、香也と有働の動きに注目した。
「……これ、昨日いっていた、ポスターの印刷見本です。
 チェックして、色とか修正した方がいい箇所があれば、いってください……」
 有働が、抱えてきた紙の束を香也の机の上に広げ、勢い込んで香也にそう声をかける。
「……んー……」
 ……どうしようか……と、香也は本気で悩んだ。
 そもそも、香也は、印刷見本の見方とは、修正の仕方とか……そういう知識が、まるでない。
 香也にしてみれば、「どうしようかな」、というより、「どうすればいいのかな?」というのが、まず、わからない。
「これ、随分……大きいんですね……」
 とりあえず、香也は、有働が広げたポスターの見本を指さして、当たり障りのないことを、いってみる。
「ええ。
 一番、大きいものは、全版になります……」
 有働は、そういって頷くのだが……香也には、その「全版」という用語からして、わからない。
「その……全版、って何?」
「紙の大きさの、規格です」
 有働が、すらすらと答える。
「A版とB版があって……その、キャンバスノートは、A4版になります。教科書は、一回り小さいB5版」
「……ええっ……と……」
 香也が、鈍い反応を返すと、有働はさらに続けた。
「つまり、この、B全版を、五回、半分に折り畳むと、教科書の大きさになります。
 A版とB版では、立てと横の比率が微妙に違うのです……」
 机の上からはみ出す大きさのポスターを、手で延ばすようにして広げながら、有働がいう。
「そ、それで……」
 身を乗り出して説明する有働に半ば圧倒されながら、香也は、肝心のことを尋ねる。
「ぼくは……何をすれば、いいの?」
「はい」
 有働はおおきくかぶりを振った。
「これ見て、色とか修正したいところがあったら、今のうちにいってください」
「あの……」
「……ちょっと、いい?」
 二人のやりとりをみて事情を理解した牧野と矢島
が、香也に声をかけてきた。
「よかったら、その……」
「下の方の見本、よかったら、こっちにも、みせてもらえる?」
 香也は、下の方にある身本の紙を、適当に掴んで二人に渡した。どのみち、香也が今すぐ目を通せる量ではない。
 牧野と矢島は、香也から受け取った大判の紙の束を、せがまれるままにみんなに手渡していく。
 楓や茅が手を伸ばしたのを皮切りに、有働が持ち込んだ見本は、瞬く間に教室内にいた生徒たちに回覧される。
「……あの……」
 楓が、遠慮がちに、有働に尋ねた。
「これ……印刷に出すというと、それなりに、お金がかかると思うんですけど……。
 それ、どうしているんです?」
「ええ、それです」
 有働が、頷く。
「半分くらいは、玉木さんのつてで、商店街の協賛、という形にして貰いましたが……。
 ほら、隅の方に、宣伝が入っているでしょ?」
 有働が、玉木の実家やその他の商店のロゴや電話番号が印刷せれている部分を指さす。
「でも、その程度では、ぜんぜん追いつかなくて……結局、才賀さんに立て替えて貰ってます。
 いずれ、シルバーガールズの方で利益がでる予定ですから、後で、そっちの方で補填するつもりのようですが……」
「……これ、原版は、フォトレタッチで作ったんですか?」
 続けて、楓が有働に質問する。
「だったら……そのまま、カラープリンターで出力しちゃう方が……」
「それも、考えました」
 有働は、またもや頷く。
「だけど……計算してみると、印刷屋さんに出す方が、結局、安上がりになったんです。
 枚数や発色の問題がありますし……それに、大判がプリントできるプリンター、確保するのも大変で……。
 それに、原版までこちらで作ってしまうので、意外にお金はかかっていないんですよ。
 印刷屋さんには、かなり無理をきいていただいているわけですけど……」
 近所の小さな印刷屋さんに発注しているのだが、そこへは、商店街のイベント関係も含めると、玉木経由からの仕事をコンスタントに出していることになる。いわば、お得意さんなわけで、そのこともあって、それなりに無理をきいてくれる……という話しだった。
「単価はともかく……ポスター数種類、というと、それなりの枚数になりますからね。
 あ。
 ボランティア関係の会計は、才賀さんの発案で、ネット上で公開しているので、そこにアクセスすれば、誰でも、見ることができます……」
 もちろん、現在のところ、支出ばかりがかさむ一方で収入源がないから、赤字が累積するばかりである。
「……はぁ……」
 いつの間にか香也の席に近づいてた委員長の羽田歩が、楓と有働の会話を聞いて、ため息をついた。
「なんか……知らないうちに、すごいことになっているんですね……。
 みなさん……行動力が……」
「……知らないうちに、ですか……」
 有働は、苦笑いを浮かべて羽田に答えた。
「ボランティア活動も、まだまだ、広報努力が足りませんね……」
「あっ。
 いえ……そういうつもりでは……」
 大きな体の有働が、いかにも悄然とした様子をしたので、羽田が慌てる。
「いえ。
 勉強会ほど、みなさんの関心を引く活動ではないですから、今の時点ではこんなものでしょう……」
 有働が大きく頷いた時、始業五分前を告げる予鈴が鳴った。
「……あっ。
 では、狩野君。
 これは全部見本だから、修正した方がいい箇所は、直接そのむね、書き込みをいれてください。できれば、赤字がいいです……」
 有働は早口で説明をして、足早に教室を出ていく。

 楓が、牧野と矢島の二人と一緒に、どたばたと教室中を駆けめぐってポスターの見本を回収して回った。
 三人が回収した見本を香也の机の上に集めた時、始業のチャイムが鳴り、ほぼ同時に、担任の岩崎先生が教室に入ってくる。
 日直が号令をかけ終わると、岩崎先生は、不審そうに尋ねた。
「……狩野君……。
 その、机の上のは……」

 香也は、しどろもどろになりながら、ホームルームの時間に、級友たちの前で、そのポスターやボランティア活動について説明するはめになった。




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