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2007-03

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(263)

第六章 「血と技」(263)

「つまり……」
 荒野は急いで頭を回転させ、現象の言葉の意味を咀嚼する。
「一般人社会との共存、というおれたちの目的が……お前にとっては、一族というカテゴリを解体する、という目的のための、手段となるわけか……」
「……相変わらず、舌と頭は良く回るようだな……」
 現象は、相変わらず薄笑いを顔に張り付けている。
「加納。
 ぼくは、基本的にお前が嫌いなんだけど、その察しがいいところだけは評価してやってもいい。他の理解力に劣る愚鈍どもと話すのは、これでなかなか疲れるから……」
「おれも、たった今、お前が嫌いになった……」
 荒野は、その場にいた他の者には意味不明の答えを返す。
「それこそ……今、うちにあるカレーを腹一杯ごちそうしたくなるくらいに……」
「……なんだかわからないけど……」
 羽生は、ケーキをとりわけ、フォークを添えた小皿を皆の前に配る。
「食事の時間までまだ間があるから、とりあえず、これで間を持たせてな。紅茶はティーパックのしかないから、茅ちゃんがいれたのほどおいしくはないと思うけど……」
「……あっ。
 わたしも、運ぶの手伝います……」
「……やっ。
 お客さんは、そこにいていいから……」
 梢が恐縮した様子で立ちあがりかけるのを、羽生が制した。
「……じゃあ、ボクが手伝うよ。
 難しい話しは、ボク向きではないし……」
 代わりに、ガクが立ち上がって、羽生の後をおいかけて台所にはいった。
「……梢さんといったっけ?
 君は……というより、佐久間本家は、この現象の思惑を理解した上で、こいつをここに送り込んだのか?」
 荒野は、梢に向かって聞いた。
「まさかっ!」
 梢は、小さく叫ぶ。
「わたしは……監視と、できれば現象を更正させろ……としか、命じられていません……。
 それに、本家は……というより、長は、本気で現象を立ち直らせようとしていますっ!
 わたしがみる限り……という、主観的な心証、ではありますが……」
「そんなところだろうな」
 荒野も、頷いた。
「できるだけ早く、こいつの真意を伝えた方がいい。場合によっては、すぐにでも現象を送り返す事になるか知れないけど……」
「連絡は、いわれるまでもないですが……」
 梢は、思案顔で荒野に答えた。
「強制送還、の方は……どうでしょうかね?
 長は……現象の更正を、第一に考えているような節もみえますし……でなければ、よりによってここに送り込んだりしないでしょう……」
「目の届く範囲に置いて飼い殺しにするのが、一番合理的な判断だけど……それを、していないもんな……」
 荒野も、梢の言葉に頷く。
「まあ、こんなのでも身内のうちってことか……」
 現象には過去に苦労をかけられただけあって、本人を目の前にして、言いたい放題であった。
「わたしも、こんな面倒なのを野放しにするのは、どちらというと反対なんですがね……」
 梢は、肩を竦めた。
「その他にも、どちらかというと反対意見が多かったのにも関わらず……たとえ、監視つきでも外に出したってことは……多少のリスクは覚悟しているってことで……」
「……とりあえず、現象とおれえたちの利害は一致するところが大きい、というのは理解できたけど……」
 荒野は、ゆっくりと首を振った。
「これはこれで……難儀なやつだなぁ……」
 佐久間、ないしは一族への復讐……という動機を理解してみれば、確かに、現象の言動は首尾一貫している。
 悪餓鬼どもに荷担して、学校襲撃の先兵となったのも、荒野への協力を約束したのも……ともに、「一族全体を弱体化させる」という側面から見れば、納得できるのだ。また、現象の生い立ちを考慮すれば、この動機に関しても、十分に信憑性がある。
「まあ……基本原理さえ押さえておけば、かえってつきあいやすいか……」
 現象を動かしたい時、どういう餌を目の前にぶら下げればいいのかわかったのは、収穫だ……と荒野は思った。
 そんな会話をしているうちにも、羽生とガクがケーキとティーカップを配りおえ、再び炬燵に足をいれた。
「加納は、手温いんだよ」
 現象が、再び口を開いた。
「一族と一般人の共存を考えるんなら……どうして、もう一歩進めて、一族の能力を広く解放することを考えない?
 今すぐは無理にしても、一族を一族たらしめている遺伝要素を解析し、一般人に移植する……という研究を、今すぐはじめ、その成果や経過を含め、全世界に向けて公表するべきだ。一族の能力を、全世界規模で解放すれば、何世代か後には一般人全体の能力が底上げされる。
 そうなれば、もはや共存うんうんで悩むこともないし、一族が肩身の狭い思いをする必要もない……。
 多少、時間はかかるだろうが……お前ら加納は、そういう長期戦は得意とするところだろう?」
 自身、遺伝子操作実験の成果である少年が、恍惚とした表情で、語る。
『……単なるテロリストよりも、よっぽどやっかいな……』
 と、荒野は、現象について、そう思う。
 一般人の側を一族に近付けることによって、両者にある垣根を取り払う……という案は、それなりに魅力的に聞こえるからこそ……なおさら、たちが悪い……と、荒野は感じた。
「その案を実行すると……」
 荒野は、ゆっくりとした口調で、反論する。
「その課程で、何十年か何百年かしらないが、かなり長期にわたってかなりの大混乱になるぞ……。
 実験データを丸投げすれば、最初に飛びつくのは現在の軍事大国、その次に恩恵を受けるのは、企業と金持ちだ。実験データを他に先じて実用段階まで持っていけるのは、潤沢な資金や技術力を持った連中だからな。
 いずれにせよ、持てる者と持たざる者の格差が広がり、前者が後者を虐げる構図が、しばらくは定着する。
 ……すでに相互監視のシステムが確立し、機能している一族とは違い、何の歯止めもない状態で、一般人社会のごく一部だけが、一族と同等、あるいは一族以上の能力を手に入れたとしたら……そんな社会は、とても不公正で抑圧的な姿になるんじゃないのか? この世界全体が、殺伐としてものになるんじゃないかな?」
「……だったら、資金源その他を整備して、貧しい者、病める者から順番に恩恵を受けられるよう、こちらからコントロールすればいい」
 現象は、なおもいい募る。
「どのみち、ぼくたちの遺伝子を解析し、実用的なレベルに落としこむのにも、かなりの年月がかかるんだ。その間に同時進行で準備を進めればいい。
 いつまでも一族だけを特権的な強者にしておくよりは、よっぽど公平だ……」
「……現象、って……」
 しばらく、黙って話しを聞いていたガクが、口を開いた。
「今まで、悪役だと思ってたけど……」
「ぼくは、一族キラーを自認しているから、一族の側からみれば、完全に悪役だよ」
 現象は、ガクに微笑みかける。
 しかし、その微笑みは、どこか痙攣っていて、いびつだ。
「お前たち三人や加納の姫は、エデンの記憶を持っている。が、ぼくはそうじゃない。
 ぼくは、エデンを追放されたところから出発した。
 幼い頃は、脅迫神経症に侵された母につれられて各地を転々としたり、その母が、のたれ死にする様を間近でみた経験が……お前らには、ないだろう?」




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彼女はくノ一! 第六話(4)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(4)

 その日の放課後、樋口明日樹はいつになく緊張していた。孫子が、美術室の後に陣取って文庫本を開いていたりするからだ。楓がたまたま手が空いた時、美術室に入り浸ることはあまり気にならなかったが……孫子にこれをやられると、迫力とか威圧感が違う……ような、気がする。
 そこで明日樹は香也の腕を引いて美術準備室に移動し、内緒話しをはじめる。
「ねえ、彼女……どうしちゃったの?」
 明日樹は、美術室の方、つまり、孫子がいる方向を指さしながら、こそこそと小声で香也に囁く。
 明日樹も、孫子が会社の設立とかなんとかで忙しい身であることは、知っている。事実、ここ数日、授業が終わると即座に帰っていたわけだし……。
「……ん……」
 香也は、端的に答えた。
「今日の、当番だって……」
「当番?」
 明日樹は、いそがしく瞼を瞬かせる。
「何の?」
「……ぼくの……」
 三秒ほど、明日樹は沈黙した後、盛大にため息をついた。
「それで……今週にはいってから、いれかわりたちかわり……もぅ……どうなってんの……狩野君のうちは……」
「……いや……あのままだと、混乱するばかりだからって……」
「それは……何となく、わかるけど……」
 明日樹は、もう一度ため息をついてから、香也の腕を強く引っ張る。
 不意に引っ張られて、香也は前につんのめり、明日樹に顔をぶつけそうになる。
「……ねぇ……」
 そのまま、明日樹は香也の首に腕を回した。
「このまま、キスして……」
 明日樹がしゃべると、香也の頬に熱い吐息がかかる。
「……え?」
 香也が、硬直した。
「……昨日、あんなことしたんだし……他のみんなとも、もっと凄いことしてるんでしょ……。
 責任とって、キスして……」
 明日樹は、上目遣いで香也の表情の変化を観察している。
 ……これは、つまり……。
 と、香也は思った。
 昨日のあれで心理的に不安定になっているので……香也が、どの程度本気で、昨日、明日樹とああいうことをしたのか、確認しておきたいのかな……と、香也なりに推測する。
 香也が躊躇しているうちに、明日樹は目を閉じて香也に顔を近付けてくる。口唇がふれると、明日樹の身体が細かく震えているのが、わかった。
 結局、香也はそのまま抵抗せず、明日樹にされるがままにしていた。
「……んっ」
 長々と口唇を重ねるだけのキス続けた後、明日樹はようやく顔を離した。
「……香也君の……硬くなっている……」
 明日樹は香也の首に腕を回したまま、うっすらと微笑んだ。照れ隠しのようにも、はにかんでいるようにも、見える。
 その時、なんの前触れもなく、いきなり美術室と準備室を繋ぐ扉が開き、明日樹は「きゃっ!」と可愛い悲鳴をあげて香也のそばから飛びのいた。
「……なんだぁ、お前ら……」
 旺杜教諭は、じろりと香也と明日樹を一瞥し、面白くなさそうな顔をして、私物のカメラケースを抱えた。
「……いちゃつくのは構わんが、他の先生方にはみつからないようにしろよー。
 おれ、面倒なのいやだからなぁ……」
 そういって、旺杜教諭は、後も見ずに準備室から出ていく。
 明日樹が呆然とし立ち尽くしているうちに、旺杜教諭と入れ違いに孫子が準備室に入ってくる。
「……今……何をしていましたの?」
 後ろ手にドアを閉じながら、孫子は、明日樹にきつい視線を送る。
「な、何をしていても……」
 明日樹は、孫子の気迫に負けまいと、声を大きくした。
「才賀さんには、関係ないでしょっ!」
「……そう……」
 答えた時には、孫子は明日樹と香也の間に自分の身体を割り込ませている。
「では……わたくしも……」
 孫子は、明日樹の顔を一瞥して、ふっ、と思わせぶりに微笑み、香也の首に素早く腕を回して抱き寄せ、香也に抵抗する間も与えず、口唇を奪った。
「……あっ。あっ。あっ……」
 明日樹は、目をまんまるに見開いてそんなうめき声をあげる。
 ……明日樹は、口唇を重ねただけだったが……孫子は、完全に香也の口唇を割って、香也の口の中に舌を割り込ませている。それどころか、スカートの裾がめくれるのにもかまわず、立ったまま腿を大きくあげて香也の腿に絡め、香也の腰を自分の方に密着させた。そのまま、香也が逃げられないように顔の両脇を手でホールドし、孫子は、わざと音を立て、香也の唾液を啜る。
「……はぁ……」
 ようやく、顔を離した孫子は、完全に恍惚とした表情を浮かべていた。
「……香也様のここ……苦しそう……。
 今、楽にしてさしあげますわね……」
 そんなことをいいながら、二人の密着している下腹部のあたりに手を下げ、ちぃー、と香也のジッパーをさげる。
 スカートが完全にまくれ上がっているので、白い孫子の腿と下着が、そこから視線をはずせないままだった明日樹の目に入った。
 明日樹がみつめていることも意に介さない様子で、孫子はジッパーの中からすっかり硬直した香也のものを取り出す。昨日もみた香也の性器から明日樹は目を逸らそうとしたが、その前に……。
「……ちょっ、ちょっと……。
 いくらなんでも、学校で、こんな……」
 とか、狼狽した声を出してしまう。
「学校にふさわしくないことを先にしたのは、そちらでしょう……」
 孫子は、明日樹の方をみようともせず、香也の前にひざまずいた。
「それに……こんなになったら……一度小さくしないと、他のことができませんし……んんっ!」
 香也の先端を口の中にいれ、孫子はそのまま深くくわえ込んでから、ゆっくりと口を抜き、今度は先端の部分を舌の先で舐めはじめる。
 香也が、
「……んんっ!」
 とうめいて、軽く背をのけぞらせる。
 ……ああいうことされると、気持ちいいのかな……と、明日樹は思うが、明日樹には男性の性感はうまく想像できない。
 それよりも、孫子が制服姿のまま香也に奉仕している様子が、妙に生々しかった。同じようなシーンは昨日、さんざん見ているはずだが、見慣れた準備室の中で、こんな大胆なことをやっている……という認識が、明日樹の興味を刺激する。孫子は、どこで覚えたのか、香也のモノをくわえたまま、じゅびじゅび水音を立てながら、首を前後させはじめた。
 オラールセックス、という言葉こそ知らなかったが、それが実際の性行為を真似た行為であることは、明日樹にも容易に理解できる。
 こんな場所、こんな格好のままで……という、日常の場で日常から逸脱した行為をすることによる倒錯性と、普段は気丈できつい性格をしている孫子が香也の前に膝をついて奉仕している、それに、そのすぐ横で、明日樹自身がみている……という二重、三重の異常な状況に、明日樹は、目を離せないようになっている。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(262)

第六章 「血と技」(262)

「……で、肝心の、お前らの方は、どうなんだ?」
 荒野は、今度は、テン、ガク、ノリの三人に向かって、問いかける。
「……どう、って……」
 ガクが、きょとんとした顔をして、尋ね返した。
「……こいつと、うまくやっていけそうか?」
 荒野は、現象を指さす。
「やっていけそうもなかったら、教師役は断ってもいいんだぞ……」
「……仮に、現象を断ったとして……」
 テンが、荒野に向かって質問した。
「代わりに……他の人、手配してくれるかな?」
「……それは……どうかな?
 佐久間も、あれで人が足りてないそうだから……」
 荒野は、大仰な動作で、首をゆっくり左右に振る。
「……一応、問い合わせてみることは、可能だけど……。
 向こうにしてみれば、門外不出の技を部外者に教えてくれるってだけでも、大幅な譲歩の筈だし……」
「現象を断るのは自由。
 でも、代わりの人が来てくれるかどうか、わからない……って……事実上、選択肢、ないじゃんっ!」
 ノリが、大声をあげる。
「ボクらは……何が何でも戦力を増強して、勝率を上げたいんだから……」
「……さらに、いうと、だ……」
 荒野は、ゆったりとした口調で、続ける。
「佐久間の長は、現象が更正することを、ご所望だ。
 で、現在のところ、多くの一族が公然と住みはじめたこの土地が、そのリハビリの為に最適の環境だという事実は、動かない……」
「つまり……ボクたちが、現象を拒んだとしても……現象が、ここに住むことまでは、阻止できない……」
 ガクも、思案顔で頷く。
「……力ずくで追い出すっていうんなら、話しは別だけどな……」
 と、荒野は肩を竦める。
「……それをやると、佐久間と全面的に対立する事になるから、おれはおすすめしないな。
 やるんなら、おれは荷担しないから、お前らだけの独力でやってくれ。
 おれは、佐久間と事を構えたくない」
「……ずるい言い方をするな、かのうこうや……」
 テンが、眉間に軽く皺を寄せた。
「そんな言い方をされたら……ボクらの気持ちがどうあれ、現象を受け入れなけりゃどうしようもない、って思っちゃうじゃないか……」
「現象を受け入れたくなかったら、受け入れなくてもいい」
 荒野は、したり顔で頷く。
「ただ……気にくわない相手だからって、そいつをスポイルしても、実は何の役にも立っていない、ってことは、覚えておけ。
 で、今回の現象の場合、スポイルするよりは、こっちの目的のために利用するだけ利用した方が利口だとは、思うけど……」
「……そうだね……」
 ガクが、頷く。
「好意の有無はともかく、現象は、まだボクたちの役に立つ。だから、利用するだけ利用する。
 そう考えればいいんだ……」
「……はぁ……」
 佐久間梢が軽くため息をついた。
「これが……加納の交渉術ってやつですか……」
「これほどのこと、交渉ってほど大げさなもんでもないですが……それより、そちらもしっかりと問題児の手綱を握っておいてください」
 荒野は、梢に向かっていう。
「現象が学校を襲撃した時とは、かなり状況が違ってきています。
 野呂、二宮、姉崎……などの各血統が、この地に数多く流入し、それらのものは、一般人との共存を望んでいます。
 今後、そちら様に属する者がなにかしら問題を起こせば、加納のみならず、他の六主家を敵に回す可能性が増大することも、お含みおきください……」
「ご衷心、痛みいります」
 梢も、荒野に向かって頷き返した。
「もちろん、当方も現象の暴走をこれ以上、許すつもりもなく、すでに処置済みでございます」
「……処置……ですか?」
 荒野が、眉を上げる。
「ええ。
 今の現象は、他人様に危害を加えられないよう、長自らの手によって、禁則事項を書き加えられております」
「……それは……また……」
 荒野は、現象に視線を移した。
「現実的ではありますが……苛烈な処置ですな」
 他人に危害を加えることができないよう、佐久間の技により、強い暗示をかけている、ということなのだろうが……。
「……質問っ!」
 テンが片手をあげた。
「その暗示って、絶対大丈夫なの?
 ロボット三原則って、矛盾がだらけの法則だと思うけど……」
「……ロボット三原則?」
 二宮舎人が、怪訝な顔をする。
「二十世紀の作家が考え出した、架空のルールだよ。
 ひとつ、ロボットは、人間に危害を加えてはならない。
 ひとつ、ロボットは、人間の命令を聞かなくてはならない。
 ひとつ、人間に危害を加えたり、命令に背かないかぎり、ロボットは自分の身を守らねばならない……って、簡単にいえば、そんな内容だけど……佐久間の長が、現象に、他人に危害を加えてはいけないって命令を書き込んだのだとすれば、今の現象は、この三原則のロボットになったみたいなもんでしょ?」
 テンが、早口にまくしたてる。
「……ま……部分的には、そうなるな……」
 数秒考えてから、舎人も、頷く。
「でも……その、どこが問題なんだ?」
「……わかんないかなぁ……」
 テンは、珍しくいらついた声を出した。
「この三原則には、後の時代になるほど様々な欠陥が指摘されてくるんだけど……最大の欠陥は、人間とロボットの境界線をどこに設定するのか、っていうのが、曖昧なこと。
 今の現象の場合も、実際に、他人に危害を加えてはならない、という暗示が存在したとして……現象自身が、他人と認識する範囲を限りなく狭めていったら……この暗示は無効になる。
 例えば、現象自身が、自分自身に暗示をかけて、目に入る人物すべてを『人間の形をしたただの物体だ』と認識するように暗示をかけたら……後はもう、やりたい放談だ……。
 佐久間の技を使えば、そういうのも可能だよね……」
「……可能だな」
 それまで会話に参加しなかった現象が、即答した。
「ぼくは……佐久間としての技を封じられたわけではないし、確かに、自分自身にそういう暗示をかければ、長がかけた暗示をキャンセルできる……」
「……考えるだけにしておくんだな」
 荒野が、ひどく静かな声で、いった。
「これでもおれは、お前のことをぶちのめしたくてうずうずしているんだ。
 おれの目の届く範囲でお前が暴れれば……おれに、お前を潰させる、いい口実になるぞ……。
 それに……さっきもいったように、今ではおれたち以外にも、お前を取り押さえるための人員は、ここいらにごろごろしているんだ……」
「……しないさ、そんなもん……」
 現象は、荒野の危惧を鼻で笑った。
「ぼくがぶっ潰したいのは、ぼくとぼくの母を虐待した佐久間の家だ。ついでに、佐久間を内包する一族全体も、その範囲にいれてもいい。
 だが……その目的を達成するためには、今では、闇雲な暴力よりも、もっと効率的な方法がある。
 加納。
 他ならぬお前が、その素地を用意したんだ……」
 現象は、
「……ここでの共存実験が順調に進み、一族の存在が白日の元に晒されれば、一族が一族である、との自己認識を可能とする、アイデンティティが崩壊する……」
 と、指摘した。
「……完全に身元や能力を晒して、なおかつ、平然と一般人と暮らせるようになったら……そんな者は、もはや一族ではない。
 自分が忍であると公言する忍がどこにいる?
 一族と一般人が共存できる社会では、一族も多少毛色が変わっているだけのただの人だ。
 そんな社会を作るってことは……加納っ!
 ようするに、お前がやっていることは、一族が存在するための基盤を、自分でつき崩しているようなもんだ。
 傑作じゃないかっ!
 お前のやろうとしていることは、このぼくが目指している、一族潰しという目的と、完全に一致する」
 ……だから、ぼくは……ぼく自身の意志によって、お前らに協力する……と、現象は断言した。
「……たとえ動機は違っても、目的が一致しているのなら……協力するのは当然だろう?」
 現象は、にやにや笑いを浮かべながら、荒野に向かってそういった。




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彼女はくノ一! 第六話(3)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(3)

 二宮舎人をプレハブの中に招き入れて、ノリと羽生は相談の末、母屋に入った。ノリも舎人とは初対面だったが、ガクやテンから「ガクが暴走した時、自体を収拾するのに協力してくれた人」として話しを聞いている。その舎人とあの「梢」と名乗った少女の二人なら、つまり、無意味に高圧的な少年を除いた二人なら、信用できそうな気がする……というのが、二人の一致した意見だった。
 もとより、あのプレハブの中には、膨大な、過去、香也が描いた絵と、順也が放り込んでいったキャンプ用品くらいしか置いてなく、仮になにがしかの被害が発生しても、たいした損害ではない、と判断したのも、三人を放置する一因になっている。こと香也は、描く課程に重きを置いているので、一度描き上げた絵がどうなろうと頓着しない傾向があった。万が一、香也の絵が破損した場合、香也本人よりも楓や孫子、荒野などの周囲の人々が本気で憤りそうな気がしたが、現象という少年もかなり深い興味を持って香也の絵を一枚一枚みているわけで、あの様子ならあそこで暴れ回る、ということはないだろう……という見解を羽生がしめし、ノリもその意見に賛同した。

「……向こうにお茶、差し入れに行こうか?」
 母屋に入ると、羽生はノリにそう、お伺いを立ててみる。
「いや……。
 お客っていっても、こちらから招いたわけでもないし……それに、灯油ストーブの火、付けてきたから、飲み物がほしかったら、自分たちで勝手にやると思うけど……」
「……それも、そうか……」
 羽生は、頷いた。
 あの現象という少年が、学校襲撃事件の実行犯の主犯だ、ということは、頭では理解しているのだが……この二人は、その件については伝聞でしか耳にしておらず、いまいち、実感がわかないのであった。
 しばらく話し合った後、「ガクやテンが合流してくるまで、放置して様子をみよう」という結論が出た……と、思ったら、玄関の方で、「「……たっだいまー……」」と、いうテンとガクの声がした。
 羽生とノリは顔を見合わせて玄関に急行し、その場でかくかくしかじかとプレハブに来訪した三人について説明する。もともと、二人が知っている事実自体がそうは多くないので、その説明もすぐに終わる。
テンとガクからも、二人が知っている範囲内で情報を提供して貰う。とはいっても、二人とも、現象については、顔はみていてもまともに会話したことがなかったので、専ら、既知の人物である「二宮舎人」についての話しになる。
 その舎人について、「あのおじさんは、信用できる」ということで、テンとガクの見解は一致していた。あのおじさんがついているのなら、大きな間違いは起こらないだろう、と。舎人は、何か問題が起こりそうになったら、身体を張ってそれを止めてくれそうだ、と。
「で……どうする?」
 羽生が尋ねると、テンが、
「……かのうこうやに連絡しよう……」
 と、携帯を取り出す。
 気づくと、すでに終業の時刻をいくらか過ぎていた。
「……ボク、あの三人を呼んでくる……」
 ガクが、腰をあげる。
 ガクと舎人とは、奇妙な因縁があったから、ちょうどいいのか知れない。暴走が収まった後、すぐに病院に運ばれたので、ガクはまだ舎人にあの時の礼をいっていなかった。

「……起こった、というか……来た。
 ……佐久間から……ボクたちの先生が……。
 ……どこって、うちだよっ!
 うちの、居間っ!
 そこに、佐久間現象と二宮舎人のおじさんが来てるのっ!」
 テンの説明は、珍しく要領を得なかった。
 何度か荒野が聞き返して、それに答える……という状態が、テンの言葉からも推測できる。
 ……この子でも、慌てることがあるんだな……と、羽生は感心した。テンについては、「冷静な判断力を持って、計算高い子」というイメージを持っていた羽生は、軽い驚きをもってテンを見守る。
 この前、自分たちを窮地に陥れた佐久間現象が、今度は、自分たちを助けてくれるために現れた……ということに、テンは、面白いほど動揺しているようにみえた。
 いくら頭が良くても……閉鎖的な環境で育ってきた三人は、こと、対人関係に関しては、経験値が圧倒的に足りない。
 年長者はうやまえ、とかの、一面的な基本原則は弁えていても、今回のような複雑なパターンになると、どういう態度をとったらいいのか、判断に迷うのかも知れない……と、羽生は思った。

「……絵なら、後でいくらでもじっくりみれるし、あれ描いたおにーちゃんも、後しばらくすると帰ってくるから……」
 とかいいながら、プレハブの三人を引き連れてガクが居間に入ってきて、そのすぐ後に、マンドゴドラの包みを抱えた荒野が来訪した。荒野は、学校帰りに直行してきたのか、制服姿で鞄も抱えていた。

 マンドゴドラの包みを羽生に預け、荒野は早速、事情聴取を開始した。
 まず荒野は、荒野にとって初対面である佐久間梢について質問し、梢が、「佐久間の末端で、現象の監視役と、現象とともに、技の指南役として派遣されてきた」といった意味のことを答えると、感心したような、呆れたような表情をした。
 荒野たちとは因縁のある現象が教師役と派遣されたことについては、複雑な表情で、
「佐久間の長も……随分と意地の悪い人選をなさる……」
 と、感想を漏らした。
 呆れ、驚いているようだったが、現象に対して憤りや恨みを感じている表情ではない……と、羽生は、荒野の態度をみて、そう観測する。
 むしろ……呆れつつ、この状況を、面白がっている風でもあった。
 それから、現象の首のギプスを指さし、
「……まさか、この怪我……。
舎人さんがやったんじゃあ……」
 と水を向けると、舎人は、
「……違う、違うっ!
 第一、おれはたった今、合流したばかりだっ!」
 と、かなり強硬に否定する。
 可哀想になるほど小さくなった梢が、現象の怪我は、佐久間の長の仕業であることを説明すると、
「……ええっと……長が?
あの、佐久間の、長が?」
 と、大仰に驚いてみせた後、しげしげと現象をみつめながら、
「お前……人を怒らせる才能だけは、たっぷりあったんだな……」
 やけに感心した口調でいった。
 どうやら、荒野にとって、その「佐久間の長」という人と、現象に加えられた体罰の後とが、イメージ的に噛み合わないらしい……と、羽生は思う。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(261)

第六章 「血と技」(261)

 校門から出てしばらくいったところで、携帯が震えた。
「……テン?」
 液晶で呼び出してきた相手を確認すると、荒野は電話にでる。
「……荒野だけれど、なに?
 またなんか起こったか?」
 電話にでるなり、荒野は開口一番、そういった。
『……起こった、というか……来た』
「……来たって、何が?」
 荒野が、訝しげな声を出す。
 テンにしては……妙に、歯切れが悪い話し方だった。普段のテンなら、もっと「わかりやすい」話し方をする。
『……佐久間から……ボクたちの先生が……』
「……何?」
 確かに、茅や三人に佐久間の技を教える人間を派遣してもらう……という約束は、佐久間の長に取り付けておいたが……あれから音沙汰がなかったし、何故、荒野のところではなく、テンたちのところに姿を現したのか……まるで、見当がつかない。
「……テン、今、どこだ?」
 詳しい事情は、直接聞かなければ埒が明かないようだ……と、荒野は判断する。そこに「佐久間の先生」がいるというのなら、荒野が急行して話しを聞いた方が早いだろう……と、荒野は思った。
『……どこって、うちだよっ!
 うちの、居間っ!
 そこに、佐久間現象と二宮舎人のおじさんが来てるのっ!』
 ……なんなんだ、それは……と、荒野は呆れた。

 荒野が羽生に案内されて狩野家の居間に入ると、そこにはテン、ガク、ノリの三人と、佐久間現象と小柄な少年(少女?)、それに二宮舎人が差し向かいになって炬燵に当たっていた。
 テン、ガク、ノリの三人は緊張した面もちで向かい側の三人を睨んでいる。
 佐久間現象は、何故か、首にギプスを巻いた姿で、対面している三人から不自然に視線を逸らしていて、二宮舎人は大きな背中を丸めて湯呑みを傾けている。その二人の間に挟まれた小柄な子は、いかにも居心地が悪そう様子で、縮こまっていた。
「……ども……」
 居間の様子をざっと点検すると、荒野は声をかけて炬燵に入った。
「旧知の人物二人に、新顔さん一人、か……。
 新顔さんもいるから一応自己紹介しておくけど、おれが、加納荒野です……」
 現象と舎人の間に挟まれて小さくなっている子に向かって、荒野が頭を下げる。
「……あっ、どうも……。
 存知あげております。
 加納の若様は、有名人ですから……」
 と、その子が声を出して挨拶を返したので、女性だということが判明した。きれいなアルトだった。
 ガクが、
「……でたよ、かのうこうやのたらしが……」
 と、小声で呟いたが、当然のことながら、これは無視する。
「……それで……これはどういうことなのかな?
 誰が説明してくれるの?
 できれば、そっちの現象君とは二度とお目にかかりたくはなかったんだが……」
「……あっ!
 はい……」
 真ん中の子が、慌てて説明をはじめる。
「おっしゃること、もっともかと思います。
 ですが、長の命により……」
「……その前に……」
 荒野は、その子の説明を遮った。
「君は、どういう立場の人なのか……という説明を、先にして貰えるかな?
 両脇の二人は旧知の人物だけど、君のこと、こっちは知らないわけだし……」
「……そ、そうですね。うっかりしてました。
 わたしは、佐久間梢。これでも佐久間の末端になります。
 長の命により、この現象とともに、皆様に佐久間の技を伝える為に参じました……」
「……この、現象とともに?」
 びくん、と、荒野の眉が跳ね上がった。
「佐久間の長も……随分と意地の悪い人選をなさる……」
「同感です」
 梢、と名乗った少女は、荒野の言葉に頷く。
「こんな性根がひん曲がった者は、一生座敷牢にでも放り込んでおくべきです……」
 まんざら、芝居や謙遜だけでもなく、真面目な顔をして梢が頷く。
 この梢という少女も、現象にはあまり好意的ではないらしい……と、荒野は判断し、脳裏に書き留めた。
「……佐久間本家でも手に負えなくて、体よく放逐されましたか?」
 にこやかに微笑みながら、荒野は確認した。
「……似たようなもの、ですね……」
 梢も、にこやかに笑いながら、荒野に答える。
「更正と再教育の必要あり、ということで、厳重な監視下のもと、しばらく、一般人社会の中で生活させることになりました……」
 ……だんだん、話しがみえてきた……と、荒野は思った。
「……それで、その監視役というのが……」
「……ええ」
 梢が、頷く。
「このわたしと……」
「……おれだぁ。
 ま、まったくの初対面よりは、こいつと面識があるもののほうがやりやすいだろう、って判断だろうが……。
 今度は、正真正銘の、佐久間本家の依頼だな……」
 二宮舎人が、ごつい顔に太い笑みを浮かべる。
「……こいつがへましたら、思う様どつきまわしていいって話しになっているんで、それなりにやりがいはあるかな、っと……」
 荒野は、現象の首のギプスをまじまじと見つめた。
「……まさか、この怪我……。
 舎人さんがやったんじゃあ……」
「……違う、違うっ!」
 舎人は、慌てて否定する。
「第一、おれはたった今、合流したばかりだっ!」
「……あ、あの……」
 梢が、申し訳なさそうに顔を伏せて、小声で説明した。
「現象の、この怪我は……長がやったもので……。
 現象が、長に無礼なことをいったので……その、しばき倒された次第で……。
 本当は、もっと重傷だったのですが、ようやく動けるようになったので、こちらに来た次第で……」
「……ええっと、あの……長が?
 あの、佐久間の……長が?」
 荒野が、目を丸くすると、梢はますます小さくなってしまった。
「……いや、話しはわかった。
 佐久間って……頭脳派だと思ったけど……長ともなると、荒事の修練にも手を抜かないらしい……」
 それから、現象を見つめて、しみじみとした口調で、付け加える。
「お前……人を怒らせる才能だけは、たっぷりあったんだな……」




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彼女はくノ一! 第六話(2)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(2)

「……誰かいるの?!」
 プレハブの中に声をかけながら、ノリがパーカーのポケットから折り畳んだままの六節棍を取り出し、ぶん、と一振りした。
 この時間、通常であれば、香也たちは授業を受けている。留守中にこんなところに入り込んでくるのは、やはり不審者とみなしても、差し支えないだろう……と、羽生も思った。
「……何かを産み出し続けている……っては、貴様か?」
 しかし、中から聞こえたのは、その場にそぐわない悠然とした声だった。まだ幼さを残す少年の声……にもかかわらず、その声質にそぐわない、不遜な口調……。
 羽生は、ノリの肩ごしに、その声の主を認めた。
 声の調子から予測できたように、まだ年端もいかない子供だった。傲慢な口調とは裏腹に、首にギプスをはめたり頬に大きな絆創膏を貼ったりしていて、見るからに痛々しい。
 羽生の目には、その少年は、「さんざん、痛めつけられながらも、なおかつ虚勢を張っている」……と、いうように、見受けられた。
「……お、お前……」
 そんな少年を、ノリは、「お前」呼ばわりする。
「泥棒が、そんな、威張り散らしていいのかよ……」
「……こっちの質問に答えろっ!」
 少年は、ノリの言葉はスルーして、質問を重ねた。
「無から有を創り続けている……破壊とは逆の能力を持っているのは、お前かと聞いているんだっ!」
 痛々しい格好とは裏腹に、口調はあくまで偉そうだった。
「……あー……いいかな?」
 羽生が、おずおずと口を挟む。
 このままでは、いつまでたっても話しがかみ合わない。
「……君は……つまり、この絵を書いたのは、ノリちゃんか、って聞きたいん?」
「……そうだ……」  
 少年が、はじめてノリの背後にいた羽生に気づいた風で、頷く。
「加納のやつが、前にそんなやつがいるって、ちらりといってたからな……。
 気になって、寄ってやった……たっ!」
 途中で、ゴン、とかなり大きな音がするほど勢いよく、少年の後頭部をはたいた者がいた。かなりの力込めていたらしく、大きな音がした。
 少年の首が、前に傾いでいる。
「……君ねー……」
 少年と同年輩に見える、ジーンズにジャケット、という軽装の少女だった。声をだしたことで、はじめて「少女」だと判別できた、ボーイッシュな外観をしている。
「……駄目でしょ。
 勝手にお邪魔した上、そんな偉そうな態度では……。
 どうもすいません、これ、先天的に、えらそーな態度で……」
「……い、いや……。
 先天的にえらそーなんは、ソンシちゃんとかトクツー君とかで慣れているから別に構わないんだけど……。
 君たち……誰?」
「……これは、申し遅れました」
 少女が、深々と頭を下げる。
「……この恥知らずは、佐久間現象。
 それがしは、佐久間梢と申します。長の命により、こちらの皆様方に佐久間の技を伝えるべく、馳せ参じた次第にございます……」
 容姿に似合わず、何故か時代劇口調だった。
「「……佐久間……」」
 ノリと羽生は、同時にそういって、顔を見合わせる。
 少し前の学校襲撃時、ノリは不在だったし、羽生も直接、現象と顔を合わせていない。
 故に、これが初対面となった。

 それからが、また、一騒動だった。
「……そういうことなら、すぐにカッコいいこーや君に連絡しないと……」
 と羽生が慌てれば、佐久間梢が、
「……それって、加納の若のことですか?
 いえ、それには及びません。当方には、皆様に危害を加える意志もなく、わざわざ学校を早退して貰うなどと、お手間をとらせるわけにも……。
 それに、若のところには、後ほど改めてご挨拶にいく予定で……」
 と、丁寧な口調ではねのける。
 それでは、荒野への連絡は後回しにし、ノリはとりあえず、テンとガクをメールで召集した。
「……その話しだと、うちの三人の先生をしてくれるってことだろ?
 なら、せめて母屋にでも……」
 と案内をしようとすると、佐久間現象が、
「……ぼくは、まだ、ここの絵を見ていたい……」
 とゴネる。
「……お気持ちはありがたいですが、現象から目を離すわけにはいかないので……」
 佐久間梢もそういって、プレハブの中から動こうとはしなかった。
「こいつ、まだまだなにをやりだすかわからないし……」
 とかいいながら、現象を軽く睨む。
 梢は、行動を共にしているといっても、どうやら現象を完全に信用しきってはいない……いや、もっと端的にいって、完全に不信感を持っているようだった。
 ……この二人、どういう関係なんだろう……と、羽生は、軽い興味を覚える。
 そんな押し問答をするうちにも、現象は誰に断ることもなく、室内に積み上げられている香也の絵を、次々に目の前にかざして見入っている。梢の携帯が鳴り出し、「……ちょっと、失礼」と羽生たちに断りを入れてから、しばらく話し込む。
「……あ。
 はい。
 若のマンションの隣の、大きな平屋の家です。そこの庭にある、プレハブの中にいます……」
 とかいって、梢は通話を切った。
「……まことに勝手ながら、もう一人、現地……この土地で待ち合わせをしている方が、ここに来ます。
 本来なら、皆様方におかれましては、すべての人員が合流してから、ご挨拶に向かう手はずでしたが……この恥部が勝手に動くもので……。
 いや、どうも。
 躾がいきとどきませんで、申し訳ない……」
 梢は、しきりに羽生たちに向かって申し訳がなさそうな素振りを見せているが、現象の方はそれにはまるで感じいることがなく、相変わらず好き勝手に動いている。
 ……本当に、この二人……一体、どういう関係なんだろう……と、羽生は思った。
「……あー、じゃあ、せめて、お茶でも……」
 と、羽生はノリに目線で合図をして、プレハブを後にする。ノリと、この梢という子を残しておけば、そんなに大きな間違いはないだろう。現象という子も、態度こそアレだが、今のところ、香也の絵にしか、興味を持っていないらしいし……。
 佐久間梢の、「どうか、お構いなく」の声に見送られ、羽生がプレハブをでると、そこにぬっと大男が立っていたので、羽生は「……ひっ!」と、声を上げてしまった。
「……あっ。これはどうも。
 驚かせてしまって、申し訳ございません……」
 大男は、羽生に向かって深々と頭を下げる。
 身長百八十クラスは、飯島舞花や有働勇作で羽生も目に馴染んでいるのだが、この男は、それよりもさらに一回り大きい。それに身長だけではなく、厚みも相当なもので、全体に、どことはなく迫力があった。
「……この家の方が、ご在宅とは思いませんで、勝手に侵入して申し訳ありませんでした。
 決して怪しいものでは……って、いっても、この有様じゃあ、説得力ねーか……。
 ああ。とにかくっ!
 こちらのプレハブに、餓鬼二人が来ていると聞きまして、そちらに用事があってきました。
 おれ……じゃなくって、自分は、二宮舎人というケチな野郎でござんす……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(260)

第六章 「血と技」(260)

 気づけば、三学期も後わずかになってきている。来週に業者が行う実力試験があり、その次の週に期末試験があり……それを過ぎると、試験休み、終業式、卒業式……と、なり、この年度が終わる。少なくとも、荒野が聞いている範囲では、そういう流れになっている。
 何かと慌ただしく、数々の強制イベントをクリアしているうちにここまで来てしまった……というのが、荒野の率直な意見であり、通い初めてそろそろ二ヶ月になろうとする学生生活に馴染んできているかどうか、というのは、本人には、客観的に判断できない……ので、あるが……。
「……と、いうことで、圧倒的多数決により、来年度の料理研究部の部長は、加納荒野君に決定いしたしましたぁ……」
 現、部長がそう宣言すると、他の部員たちが、拍手とともに、
「……わぁあぁ……」
 と、盛大な歓声をあげる。
 この時、荒野は「……おれに拒否権は、ないのか……」とか、「この人員構成で多数決とったら、おれ、絶対に不利じゃん……」とか考えつつ、この世の理不尽とか不公正さを呪っている。
 かといって、「荒野以外は全員女子」、というこの場で本気で憤るわけにもいかず、半ばあきらめの境地を持って、荒野は諾々とこの決定を受け入れていた。いや、受け入れざるを得なかった。
「……週末のチョコ講習も様になっていたし……」
「あれ、さまになっていたしねー……」
「やっぱり、男子の方が押しが利くし……」
 などなど。
 荒野の複雑な胸中もしらず、料理研の女生徒たちは、好き勝手なことをことをいってざわめいていた。
「……ええっ。
 それでは、時間的にまだ早いですが、本日はこれで解散したいと思います……」
 現、部長がそういうと、部員たちはきゃぴきゃぴと黄色い声でざわめきながら、帰り支度をはじめた。
 荒野も、釈然しない思いを抱えながら、調理実習室を後にする。

「……加納君っ!」
 なんとも形容のしがたい敗北感にさいなまれながら、背を丸めてとぼとぼ校内の廊下を歩いていると、背中から声をかけられた。
「今、帰り?」
 振り返ると、三年生の佐久間沙織、が立っていた。
「……ども……」
 荒野は、沙織に気の抜けた返事をする。
「どうしたの?
 覇気がないっていうか、元気がないっていうか……」
「……いや、今さっき……」
 荒野は、荒野自身の意志とは無関係に来年度の部長を押しつけられた経緯を、沙織に説明した。
「……ありがちなことね。
 部長なんて、誰もやりたがらないから……」
 一通りの説明を聞いた沙織は、そういってころころと笑い、その後、
「……まあ、文化部の部長なんて、たいてい名前だけでそんなに仕事がないから、あまり深刻に考えない方がいいわよ……。
 せいぜい、月に一度の定例部長会議に出席することくらいかな、決まった仕事は……」
 とか、慰めてくれる。
 生徒会長を二期、勤めていただけあって、そのあたりの事情には詳しいようだ。
「……それより……今度の土曜日、お宅にお邪魔しても構わない?」
 沙織とは、祖父の源吉との密会の場所として、時折、荒野のマンションを提供している。
 密会、というのは、記録上、源吉はすでに死亡していることになっている人間なので、あまり大っぴらに合うことが出来ない、という理由による。沙織自身の受験に関しては、全然心配がなかったが、同学年の生徒がナーバスになっている中、それに、源吉のことを知らされていない沙織の家族の手前もあって、入試試験の前からこれまで、自粛していた、という。
「……えっと……今のところ、予定はありませんが……。
 あ。でも、土曜日は、茅がいないので、お茶が出せませんけど……それでよかったら、どうぞお気軽に……」
 何事か、突発的なアクシデントが起こって荒野が席を外すかも知れない、というのは、二人とも当然の前提として話しを進めている。また、茅が不在のマンションに沙織が訪ねてきても、実際には源吉と待ち合わせをしているわけだから、荒野と二人きりになる可能性もない。
「……茅ちゃん……お出かけ?」
「いや、昨日、ヴィ……シルヴィとか三島先生とか、その他にも女性が何人かうちにきて、ファッション談義になりまして……。
 それで、今度の週末、みんなで春物の服を買いにいくことになったようです」
 荒野がそう説明すると、沙織は、「……相変わらず、賑やかね、そっちは……」と、微笑んだ。

 沙織と別れてからも、校門を出るまで、何人かの生徒に声をかけられる。そうして声をかけてくる中には、荒野の側はあまりよく知らない生徒もそれなりの割合で含まれていて、荒野は、この学校という環境で、自分が受け入れられている、という事実を噛みしめる。
 例の学校襲撃の一件以来、荒野の正体は、かなりのところ割れている訳だが、クラスや部活で接することが多い他の生徒たちは、荒野が当初予測していたように、反感や差別感情を、露わにはしていない。むしろその逆に、昨日のバレンタインで明らかになったように、一部の生徒たちは、荒野を羨望のまなざしでみているような風潮もある……ようだ。
 そのへんの「計算違い」に関して、荒野は「日本は……平和だ」という感想を持っている。以前ほど景気がよくない……とはいわれているが、現在と比較されるべき、「景気がよかった時期」というものを、荒野たちの世代は、直に経験していない。ただ、その「景気が悪い」現代日本にしても、それで治安が極端に悪化したりしないあたり、基本的に、なかなか平和な国なのではないだろうか?
 景気どころか政情が不安定で、市街地が戦場になりかねない土地に住んだことがある荒野にしてみれば、やはり日本は「住みやすく、平和だ」ということになる。
 荒野が想定してた差別や偏見が、今のところ、表面化していないのは、例の件で正体を隠しきれなくなった時、こちらから情報をかなりオープンしたことと、それに、この国、この地域住人の「穏やかさ」が要因として大きく作用しているのではないか、と、荒野は想像する。
 この国、あるいはこの地域が、もっと厳しい状況下にあり、住人が常時強いストレスに晒されている状態なら、そのストレスを発散するためにエスケープゴートを必要を必要とする。
 得体の知れないストレンジャー、というのは、そういった「エスケープゴート」に仕立て上げるのに格好の素材であり、だから荒野は、現在日本の「生ぬるさ」に対して感謝の念を持った。




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彼女はくノ一! 第六話(1)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(1)

「……二月も、後半っと……」
 羽生譲はカレンダーの前で日付を確認すると、ぶるっと肩を震わせた。
「……まだまだ、寒いなあ……」
 この日、ファミレスのバイトはオフだった。羽生は週末や休日に積極的に出勤するように心がけているため、必然的に、オフは平日となることが多い。そして、オフの日、羽生はたいてい昼近くまで寝ている。
「……流石に、この時間だと、誰もいないか……」
 居間にある柱時計は、正午までまだ一時間余りの余裕があることを示している。それに三人組も、最近では、徳川の工場に入り浸っているようで、昼に帰ってくるのかどうかも定かではない。
 羽生は、そんなことを考えながら、台所へ向かう。
 冷蔵庫の中に、ラップにくるんだ総菜が用意されていた。これと冷凍庫にあるご飯をレンジにかければ、一食分の食事になる。誰かが、気を利かせて羽生の朝食を用意してくれたのだろう。
 交代で分担して、炊事洗濯なども家事もこなしてくれるし……基本的に、みんないい子だよな……などと思いながら、羽生は冷蔵庫の中の皿をレンジに放り込んで暖めた。
 続けて、冷凍庫の中の常備品から、茶碗一杯分づつラップに小分けしてあるご飯を取り出し、それもレンジで暖め、それに漬け物や冷蔵庫の総菜を適当に出して、遅い朝食をとる。総菜、といっても溺愛のものを買ってきてそのまま、というわけではなく、大半は少し多めにつくって小分けして食べているので、なんだかんだで食材の品目も多くなっているし、食生活的には、この家の住人はかなり恵まれているのではないか、とか、思う。
 現在は、香也以外の住人が競うようにしてレパートリーを増やしているところだった。そのおかげで、ここ最近、今まで常備していなかった香辛料や食材が台所に入り込んでいる。
 だから、この日の朝の、羽生の食事も、一人きりとはいえ、特にわびしいとかは感じなかった。仕事に出ている時は、狭い控え室で、職員割引の賄い食を短い休憩時間中にかき込まなければならないわけで、そうした慌ただしい食事に比べれば、かなりましな内容だと思う。
 テレビをつけ、奥様向けの情報番組をみるとはなしに目を向けながら、ゆっくりと時間をかけて食事を摂る。どのみち、この日も、特に用事があるわけではない。まとまった時間が取れたので、ひさびさに自分の絵を描こうかな、とか、思っているが……。
 ……こーちゃん、本当……どーするつもり、なんだろう……。
 自然と、思考は昨夜の香也とのやりとりのことになってしまう。
 結局、さんざん考えた末、香也はやはりはっきりとした結論を出さなかったわけだが……。
 ……こーちゃんには、まだ荷が、勝ちすぎるのかな……とか、羽生は思った。

 食事を済ませた後、羽生は着替えて庭に回り、スーパーカブにまたがった。天気も良かったし、一日中、家に籠もっているのも気が滅入るので、適当に買い物をしてくるつもりだった。

 商店街のはずれで適当にスーパーカブを止め、商店街をぶらつく。イベントが終わったせいか、昨日までほどの人出はなく、極端に人が少ないような気がしたが……それは、慣れによる錯覚というもので、平日の駅前は、以前から、だいたいこれくらいは閑散としていたものだ。
 まばらにしかいない買い物客の間をぬって、廃材を満載した二トントラックが、徐行しながらアーケードの外に出ようとしてくるのにいきあった。どうやら、メイド喫茶などの期間限定のお店の内装を解体したものを、撤去しているらしい。
 店舗のシャッターも、半分以上が降りている。駅の乗降客自体が、最盛期の半分以下になっているそうだから、この程度が「正常」な姿なのだろう……と、羽生は思う。 
 地元の住人も、大半が車両で移動する生活にシフトしているし、イベントがなければ、本当に「ご近所」の人たちしか買い物に来ないような、そんな場所だった。
 見慣れないつなぎの制服を着た大学生くらいの若い男女が、商店街のそこここでゴミを集めて大きな袋にいれたりしている。制服の背中に大きく「才賀グループ」のロゴが入っていたので、どうやら孫子の会社がすでに稼働しているらしい、と見当がついた。資金は孫子自身がかき集めていたようだが、社会的な信頼性を考慮して、才賀系列の会社、という形にしたのだろう、と、羽生は予想する。その方が、備品類も調達しやすいだろうし……。
 そんなことを考えながら、商店街を歩いていると、
「……ゆず先輩っ!」
 と、声をかけられた。
 振り返ると、袴の上に上着を羽織った柏千鶴と野呂静流が立っている。
「……おー。
 ちづちゃん……と、グラサンのおねーさんっすか……。
 なに、その格好。これから、道場いくん?」
 羽生は、片手をあげながら、そう返事をする。
 学生時代からの知り合いである柏千鶴が、幼少時から継続して合気道を嗜んでいることは、仲間内では有名な事実だったし、道場にいく途中でなければ、町中で袴姿でいる理由もない。
「ええ。
 野呂さんが興味があるとかで、これからお師匠さんにご挨拶にいくところで……」
「で、伝統武術にも、ま、学ぶべきことが多いと、知る機会がありまして……」
 いつものように、白い杖にサングラス姿の静流が、羽生に向かって会釈する。足下には、大きな犬が相変わらず当然のような顔をして鎮座していた。
 ……この人、カッコいいこーや君の話だと、「かなり強い」ってことではなかったっけ? あの人たちの中で「かなり強い」っていったら、大変なものだと思うけど……それ以上を求める意味、あるのかいな……などと、疑問に思いもしたが、その疑問を口にする前に千鶴が、「……今度、静流さんのお店をお手伝いすることになって……」などと別に話題をだして、軽く立ち話しをしてすぐに別れた。
 その後、ぶらぶらと商店街を歩きながら適当に食材を調達し、スーパーカブの荷台に買ってきた食料を乗せて帰路につく。
 帰って少し休憩した後、適当に自分の絵に取り組んで、その後、たまには夕食を作っておこう……などと考えながら……。

 庭にスーパーカブを入れたところで、「にゅうたんっ!」と、声をかけられた。
「……おー、ノリちゃんかぁ……。
 なに? 今日は、みんなと一緒じゃないの?」
「にゅうたんに聞きたいことがあって、先に帰ってきた。今日、にゅうたん休みだし……」
 ノリは、羽生の腕からビニール袋を取り上げながら、答える。
「……あのさ、マンガみたいな絵の描き方なんだけど……」
 と、いいかけたところで、ノリはぴたりと動きを止める。
「……ん?
 どったの?」
 羽生が、訝しそうな顔をして、プレハブの方を向いたまま凍りついているノリに尋ねた。
「……あそこに、誰か、いる……」
 ノリは、一度受け取った荷物を羽生の胸元に押しつけ、ずんずんとプレハブの方に向かった。
「……お、おい……」
 荷物を抱えた羽生が、声をかけようとすると、
「……しっ! 静かにしてっ!
 にゅうたんは、ここで待ってって……」
 ノリは、羽生を足止めして、プレハブの戸をがらりと開いた。




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第五話 登場人物紹介

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!
 登場人物紹介

狩野香也
 何故か人気がある主人公。
 本シリーズのメイン・ヒロイン(あながち、間違いでもないと思う)

松島楓
 ようやく目立ってきた。

才賀孫子
 何かと便利なキャラだよな、この子……。

加納荒野
 なんだかすっかり面倒見のいい保護者キャラになってしまっている。
 彼が本気で活躍するのは、これからか?

加納茅
 何気に、地味なキャラになりつつある。
 これから、ちゃんとヒロインしてくれよ……。

三島百合香
 香也たちが通う学校の、養護教諭。香也や大半の生徒は、この人に苦手意識を持っているらしい。
 なんだかんだで、しぶとく出番が減らない。

酒展天(テン)
 ようやく登場、三人娘その一。
 情報支援型妹。

茨木岳(ガク)
 ようやく登場、三人娘その二。
 強襲近接戦型妹。

羅生門法(ノリ)
 ようやく登場、三人娘その三。
 高機動遠距離支援型妹。

羽生譲
 香也、楓、孫子の同居人。
 飄々とした言動とは裏腹に、結構、保守的な価値観の持ち主。

樋口明日樹
 香也の常識人な先輩。
 最近、楓や孫子に対する対抗意識を強くしている。

柏あんな
 香也のクラスメイト。
 ちょっと短気で単純なところがある。
 彼氏の堺とはいいコンビ。

堺雅史
 柏あんなの幼なじみで彼氏。 香也の友人。
 意外に冷静に物事を見ているところがある。性格は、温厚。

飯島舞花&栗田精一
 栗田君が舞花に逆らえないことは、周知の事実になっている。とはいえ、この二人の意見が割れることは滅多にないので、当人たちもそれでよしとしている。

樋口大樹
 樋口明日樹の弟。
 とある理由で、これから出番が増える予定。

二宮浩司(荒神)
 最近、学校ともう一つの本業を忙しく行き来しているので、ほとんど家には寄りつかない。たまに寝に帰る程度。

大清水潔
 教師。
 荒野と孫子のクラスの担任。

岩崎硝子
 教師。
 香也、楓、茅のクラスの担任。
 ……出番がないのに人気投票がいいのは、何故?
 みんな、「女教師」という記号が好きなのか?

シルヴィ・姉崎 幼少時、荒野が預けられていた家庭で姉代わりをしていた人。
 彼女は、活躍というより暗躍することのが多い。
 とりあえず、もう媚薬ネタはいい加減、やめよう。便利すぎるから、あれは……。

佐久間沙織
 岩崎先生と並んで出番が少ない割には票を集めている。もうすぐ卒業。

玉木珠美
 放送部部長。
 最近、トラブルメーカーとしての出番はめっきりへって、なかなか役に立つ存在になっているが……まだまだ、油断できませんよ。

有働勇作
 口数が少ない大柄な放送部の男子生徒。玉木と行動を共にすることが多い。

徳川篤朗
 特定の分野に特化したタイプの天才児。囲碁将棋部所属。
 沙織の計らいで、孫子と囲碁勝負することに。
 本人より姪とか猫とかのほうが重要なキャラ、という説もある。

徳川浅黄
 篤朗の姉の娘。現時点で四歳。篤朗の姉が留守をする時には、篤朗が預かることになっている。
 茅と意気投合し、いい友人になる。
 「奉仕戦隊メイドール3」という特撮番組のファン。

狩野真理
 もうすぐ帰ってくる予定。

柊誠二
 ナンパが趣味、異性命、な男子生徒。でも、特定の女生と親しくしているところは目撃されたことがない。
 香也のクラスメイト。

羽田歩
 香也のクラスメイト。押しが弱い性格が災いして、クラス委員を押しつけられている。
 この子の出番も、これからですよ。

牧野と矢島
 香也のクラスメイトの女生徒。マン研所属。羽生譲を師匠と仰いでいる。楓と仲がいい。

旺杜臨
 美術教師。美術部の顧問でもある。
 絵を描くことよりも写真に凝っている。部活はほとんど放任状態。

佐久間現象
 白昼堂々、手勢を引き連れて学校を襲撃した。
 荒野と交戦後、捕らわれて、佐久間に引き渡される。

二宮舎人
 自称、「二宮の端くれ」。
 暴走したガクを捕らえることに協力してくれた。

斎藤遥
 パソコン部員。
 放送部の活動との橋渡し役をよくする。

二宮中臣
 六主家のひとつ、二宮のナンバー2。

野呂竜齋
 六主家のひとつ、野呂の長。
 商店街で大暴れしたことも。

佐久間静寂
 六主家のひとつ、佐久間の長。

佐藤君と田中君
 最初に接触してきた「流入組四人衆」のうち、二宮系の二人。
 堅物のなのが佐藤君で、軽いのが田中君。

鈴木君と高橋君
 最初に接触してきた「流入組四人衆」のうち、野呂系の二人。
 おたふく顔で地元大学に通っているのが、鈴木君。
 テン、ガク、ノリと同い年の少年が、高橋君。

野呂静流
 野呂本家直系。視覚障害者。流入組。
 術者としての教育を一度も正式に受けていないのに、将来の資質だけで「パーフェクト・キーパー」の異名を取るほどの働きを見せる天然さん。


酒見姉妹
 双子の術者。流入組。
 姉が「純」、妹が「粋」という名だが、第三者には見分けがつかない。
 ちょっと策士気取りだが、意外と抜けている。

仁木田直人
 テンとガクに挑戦してきた六人組のリーダー格。
 顔色が悪く、目つきが鋭い。

敷島丁児
 テンとガクに挑戦してきた六人組の一人。
 幻術を操り自分の身体を同時に何体も出すことが出来る、性別不明の麗人。

駿河早瀬
 テンとガクに挑戦してきた六人組の一人。
 全身に剛毛が生えた獣人。
 優れた身体能力を持つ、という設定だが、それを発揮するまもなく轟沈。

丸居遠野
 テンとガクに挑戦してきた六人組の一人。
 骨格も含めて身体を軟化させることができる、ゴム人間。
 ただし、そうすると常人以下の身体能力になる。

睦美左近
 テンとガクに挑戦してきた六人組の一人。
 体内で高圧電流を生成することができる。
 ただし、先天的に頭が弱い。

刀根畝傍
 テンとガクに挑戦してきた六人組の一人。
 気配絶ちを得意とし、暗殺に特化した技をみせる老人。

甲府太介
 荒野の噂を聞いて、家出同然で駆けつけてきた少年。

小埜澪
 雪が降った日の朝、楓、テン、ガクらに接触してきた二宮のナンバー3。
 実は、荒神の腹違いの妹。

東雲目白
 小埜澪についてきた、軽い性格の青年。
 佐久間系の術者らしいが、詳細は不明。

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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(259)

第六章 「血と技」(259)

 決着がつく前、すなわち、賭が成立する前に荒野が孫子と静流を止めたことに関して、ギャラリーから不満の声があがったが、荒野は気に止めることもなかった。こんなところでどちらかが潰れるまでやり合っても、何のメリットもない。
 それよりは……。
「才賀。
 今のの、感想は?」
 荒野は孫子に、声をかける。
「打突中心はいいのですが……攻撃が直線的で、単調すぎます。いくら速度があっても、軌道が読めれば捌きようはいくらでもあります……」
 答える孫子は、息を乱してもなかった。
 静流と組み合いを開始してから荒野に制止されるまで、一分にも満たない短時間の出来事であったとはいえ、運動量的にはかなり激しかった筈だが……その程度では、孫子の息はあがらないらしい。
「……それじゃあ、今の静流さんの攻撃、捌ける自信がある人……」
 荒野は、今度は孫子に背を向けて、賭を中断されたことに抗議の声を上げていた一族の者に、尋ねた。
 荒野がそういった途端、それまで騒がしかった連中が、しーんと静まり返る。
「……ったく……。
 これだから……」
 荒野は、小声で悪態をついた。
「……国内の術者の水準、思ったよりも落ちてるじゃねーのか……」
 もちろん、わざと聞かせるために、いっている。
「……太介や高橋君あたりも、駄目か?」
 三人組と同年輩のこの二人は、今集まっている術者の中でも、最年少にあたる。
「……早すぎて、避けきれません……」
 高橋君が、悄然とうなだれて、答えた。
「……目で追えるから、何とかブロックはできると思いますが、それ以上のことは……」
 甲府太介は、「受け止めるので精一杯だろう」といった意味のことを答える。
「……酒見たちは?」
 今度は、荒野は、酒見姉妹に水を向けた。
「「……二人一緒でなら、反撃も可能です……」」
 双子は、声を揃えて返答する。
「……いいかえると、単独だと手も足もでない、ってことだな……」
 荒野は、双子の返答を、言い換え、ひとしきり頷いた。
「……お前ら、先天的な能力に頼りすぎ……。
 例えば……」
 ふっ、と、荒野の姿が消えたかと思うと、荒野を取り囲んでいた一族の者が、一斉にばたたばたと倒れはじめる。
「……今、後ろに回り込んで足払いをかけていっただけなんだけど……今のおれの動き、追えた人、いる?」
 少し離れた場所に出現した荒野が尋ねると、楓、茅、テン、ガク、ノリが片手をあげる。
 飯島舞花や栗田精一は「……えっ? えっ? えっ?」と疑問符を顔面にイッパイに張り付けた表情で目を見開き、孫子は、手こそ挙げないものの、自信がありそうな表情で見守っている。
 孫子の場合、たとえ目で動きを追えなくても、自分に近づいてきたものに対して、身体が適切な反応することを、確信しているのだろうな……と、荒野は思った。技を練り上げる、というのは、そういうことだし、また、そうでなくては、先ほども、静流の動きを対応できない。
「……楓……。
 ご苦労だが、今日は、時間いっぱい、こいつらを投げ飛ばしてやれ……。
 茅も、その動きをみるだけで、十分な学習になるし、初日ならそこまでで十分だろ。
 茅は、見学して分析した結果を、才賀と静流さんに出来るだけ詳細に報告。三人組も、それをよく見ておいて、後で分析して、自分らなりに対策なり応用なりを練ること……。
 あっ。
 三人組と酒見姉妹は、楓の真似ができるんなら、楓を手伝ってもいいぞ。返り討ちにあっても知らないが……」
 荒野は、楓にも自信を付けさせておきたかったので、そう命じた。普段、荒神の相手をしている楓にしてみれば、今ここにいる連中は、いくら人数が多くても、ものの数ではない筈だ。

 そんなわけで、その日の朝、河川敷の空には、大量に人間が舞った。

「……いやー。
 今朝は、すごい見物だったな……」
 登校中、飯島舞花はしきりにそう繰り返した。
「……玉木あたりにいったら、撮影したがるんじゃないのか、あれ……」
「……撮影するのは、いいけど……あいつ、朝弱そうだから、出てこれないんじゃないか?」
 荒野はそう答えておいた。
「それに、ああいうのは多分、今日だけだよ。
 今日は、うちの軟弱なやつらに活を入れるために、楓に派手なパフォーマンスして貰っただけで……」
「……確かに、あの方々、もって生まれた身体能力を頼りすぎる傾向は、ありましたわね……」
 孫子も、荒野の言葉を肯定した。
「あの場では……六主家の出ではない楓が派手にやることが、効果的であったと思います……」
「……ああやって身体で思い知らされれば、いやがおうでも認識を改めるだろ……」
 荒野としては、一族の関係者の慢心を諫める効果さえあれば、それでいい……と、思っている。実際問題として、ある程度、練度をあげておかないと、「その他大勢」の手駒としても利用できない。
 悪餓鬼ども、みたいな得体の知れない連中を相手にするには、やはり相応に信頼できる駒を揃えておきたかった。
「……茅も……見ているだけでも、十分、得るところはあっただろう?」
 荒野は、今度は茅に水を向ける。
「荒野は……速度や筋力など、基礎能力が高い相手に対抗する手段を模索しているの」
 茅は、そういって頷いた。
「孫子や楓のように……先天的な資質をカバーするために、技を極める、というのも、有力な選択肢……」
「……方法は、それだけではないと思うけど……」
 荒野は、頷く。
「なにも、バカ正直に、相手が得意とするところで勝負することはないし……。
 もっと相手の情報がつかめれば、バックアップ組織を叩いたり、資金源を絶つとか……直接やり合わなくても相手を弱体化したり無力化する方法なんて、いくらでもあるんだけど……」
「苦戦するとわかっている相手と直接戦うよりは、相手の弱い部分をじりじと追いつめていくのは常道ですが……その、情報収集の方は、どの程度進んでいますの?」
 孫子が、荒野に疑問を投げかける。
「今のところ、全然、成果があがっていないね。
 昨夜、もっと捜索の手を広げるように、手配しておいたところだけど……何らかの結果が得られるのは、もう少し時間がかかるだろう……」
 荒野は、孫子にそう答えた。
「話しを聞いていると……なんだか、本物の戦争みたいだな……」
 飯島舞花が、ため息まじりにそんなことをいった。
「……戦争っていうよりも……カウンター・テロ、なんだけどね……」
 荒野は、そう答えておいた。
「現実的にいうと……これだけ手がかりが乏しい相手に、暴発しないように注意しながら警戒を続ける……って、長期戦になればなるほど、こっちが消耗していくだけし、それに、慢性化すると、警戒体勢もどうしてもだらけていくだからさ。
 早いところ、敵の姿や目的をはっきりと把握したいんだけどねー……。
 こっちとしては……」
 そうした事柄がはっきり把握できないと、荒野としても、せいぜい、警戒を強める……といったことくらいしか、することがないのであった。
「……でも、まあ。
 ようやくこっちからアクティブに探りを入れられる体勢になってきたわけだし……そうそう悲観的な材料ばかりでも、ないかなってところで……」
 気づくと、舞花だけではなく、その場にいた全員が、荒野に注目していた。
「……なに?」
 荒野がいぶかしげな声をあげると、
「……いえ……」
 孫子が、前に向き直って、答える。
「……無為無策のようにみえて、これでなかなか、いろいろなことを考えているのだと、感心したところです……」
 他の連中も、孫子の意見に同意なのか、いっせいにうんうんと頷きだす。
「……お、おれ……そんなに、なにも考えていないように見えるか?」
 荒野が、てきめんに狼狽した声をだした。
「荒野は、それでいいの」
 茅はそういってくれたが、後に続く言葉も考慮すると、あまりフォローになっていないような気も、する。
「……人の上に立つ人は、どっしり構えていればいいの。
 後はなにもしなくても……」




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彼女はくノ一! 第六話(0)

第六話 春、到来! 出会いと別れは嵐の如く!!(0)

「……へっ!
 おれを解放したことを後悔させてやるぜっ!」
「……ったく……。
 自分の立場ってもんが、理解できないのかな? 君は……」
 拘束具が解かれた途端、少年が悪態をつくのを、少女は冷ややかに見おろした。
「……そんな拘束具でどうにかなるようなら、術者としてはかなり半端だし……そんなもん、所詮、飾りだってこと、わかってないのかな……。
 君、一応、本家筋なんでしょ?」 
「……へっ! こんな飾り、いつでもぶった切れたが、警戒が厳しいからおとなしくしていたまでよっ!」
 少年が、吠える。
「今は、何故か知らないが、見張りの気配が消えているし……こんなくそったれな家、おれがぶっ潰してやらぁっ!」
「……あー、あー……。
 ほんの数日、閉じこめられただけでこんなに柄が悪くなっちゃって……」
 少年の拘束を解いた少女が、大仰な動作で天を仰ぐ。
「……こんな恥部、外に出しちゃっても本当に大丈夫なのかな……。
 いい?
 見張りがいなくなったのは、君をこれから別の場所に移すことに決まったから。必要がなくなったから、別の任務についただけ。
 君は、これからわたしと一緒に、別の場所に移るの……」
「……なんとでもいっとけっ!」
 拘束具で締め付けられ、痣になった部分を揉みながら、少年が、吠えた。
「自由になりさえすれば、こっちのもんよっ!」
「君……可愛くないっ!」
 少女が、少年に向かって、厳しい声を出す。
「……お役目じゃなけりゃ、こんなガキ、とっくにしばき倒してるわ……」
 後半は、ぼやく口調になった。
「……容赦なくしばき倒しても、ええで……」
 暗い室内に、もう一人の女性が入ってくる。
「しつけの行き届いてないお子をわざわざ外に出すんは、このお子の性根を叩き直すためでもありますさかい……。
 ……梢。
 あんさんなら、このお子とも年齢が近いし、気性もしっかりしてはる。加納のぼんとの約束もやが、このお子の性根もしっかり叩き直してやりぃな……」
「……ここまでひねくれてると、正直、あまり自信がないっすけどね……」
 その女性に、梢、と呼ばれた少女は、大仰に肩を竦めた。
「……わたし……まだまだ未熟者ですし、人の教化とか再教育とか、そういう柄じゃないっすよ……」
「……知っての通り、このお子は、あんはんには逆らえんように書き換えております……」
 その女性は、少女に向かって柔らかく微笑みかける。
「……同じくらいの子らの中では、あんはんが一等しっかりしてはるし……それに、他にも手助けを手配しておます。
 現地には、一族のもんもぎょうさんおるようですし、このお子にとっても、あんはんにとっても、いい経験になりまっしゃろ……」
「……はっ!」
 ゆらり、と床に座り込んでいた少年が、立ち上がった。  
「……よくも、のこのこ顔出せたもんだなっ!
 このばあぁっ!」
「……なんやて……」
 少年が発した最後の言葉……「ばばあぁっ!」に、その女性は顔色を変えた。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(258)

第六章 「血と技」(258)

「……あのー……」
 楓が荒野に近寄ってきて、確認してきた。
「……本当に、好きにやっちゃっていいんですか?」
 茅の体術講習のことだ。
「……学校や日常生活に支障がでない程度になら、好きにやって構わない」
 荒野は、そう条件をつけただけだった。というのも、荒野が他人にその手のことを習ったのは荒神に直接稽古をつけられた幼少時のことだけであり……その時の経験からいえば、この手の修練はしょっしゅう半死半生になるもの、という意識が、荒野の中に抜きがたく根付いているからだった。
 まさか、荒神が昔、幼い荒野にしたような荒っぽい真似を、楓が茅にするとも思わなかったが……一応、注意だけはしておく。
「……あ、あの……」
 静流が、荒野と茅に近づいて声をかける。
「で、できれば、わたしも、ご、ご一緒させて欲しいのですが……」
「……ええ、っとぉ……」
 楓は、困った顔をして荒野の方をみた。
 現状でも二つ名を持っている静流に、楓が教えることなど、もはや……というのが、楓の感覚である。
「……静流さんは、我流で……一度、基礎から学びたいそうだ……」
 荒野が、軽くため息をついてから、そう補足した。
「まあ……茅のついでに、初歩の初歩から、教えてやれ……。
 お前も、一応、最強の弟子なんだから……」
「……それでは、ついでに……わたくしも……」
 今度は、孫子が名乗り出てきた。
「一族の体術に、興味があります。
 シルヴィは、そちらの方は教えてくださらないので……」
 楓がますます困惑顔になり、周囲に集まっていた流入組が、ざわめいてきた。
 これは……少し整理しておかないと、楓の手には負えないか……と、荒野は判断し、
「……それじゃあ、こうしよう。
 まず、静流さんと才賀に、軽く手合わせして貰おう。
 まあ、お互いの自己紹介も兼ねて、ってことで……」
 と、提案する。
 静流と孫子は、荒野の提案に特に反対することなく、少し離れたところに移動して、向き合う。
「……あ、姉崎から、少し指南されているそうですが……見切りは、わ、わたしを相手にする場合、い、意味はないのです……」
 静流が、白い杖の端でこつこつと自分のサングラスのフレームを軽く叩く。
「わ、わたし……これ、ですから……」
「……心配、ご無用……」
 孫子は、構えながら余裕のある口ぶりで答える。
「才賀も、才賀なりの体術を伝えておりますので……。
 こちらも、手加減をする気はありません……」
 視覚障害者……という触れ込みの静流だが、孫子は、静流の障害がどの程度のものであるのか、聞いていない。
 普段の態度からみても、日常生活にまるで支障がいないようだし、そもそも野呂は、時折、鋭敏な五感の持ち主が生まれることで知られている。視覚に多少の障害があっても、それを補って有り余るほど、他の感覚が鋭い、という可能性もある……と、孫子は予測している。

「……おいおい、おにーさん……」
 今度は飯島舞花が、荒野に声をかけてきた。
「大丈夫なの? あの二人……」
「……二人とも、この程度のじゃれ合いでどうにかなるタマではないよ……」
 荒野は、のんびりとした口調で答える。
「それに、なかなか、面白いガードだと思うよ。
 ほとんど、その手のことを学習しないで、天然の素質だけでやってきた静流さんと、ああ見えて、努力の積み重ねでここまで来た才賀と……」
 この組み合わせは……ぶつけてみれば、それなりに学び合うところがあるのではないか……と、荒野は思う。
 例えば、楓は……努力の累積で現在の位置まで来た、という点では、孫子に似ている部分も、ある。しかし、静流は、真に「ユニーク」な人材だった。
 実際に対戦する二人、だけではなく……この対戦をこの場でみる者にも、それなりに影響を与えるのではないだろうか……と、荒野は思い、茅の方をちらりと見た。
 特に、見聞したことを、後で何度でも回想できる茅やテンにとっては……見ているだけでも、いい経験になるだろう。テンは、自分で咀嚼したことを、後でガクやノリにも伝えるに違いない。
「……そうか……。
 天然と努力の対戦なのか……」
 舞花が、そういって頷く。
 以前、荒野と静流が対戦した時のことを、思い出しているのだろう。
 一族の流入組は、「どちらが勝か?」で賭を開始していた。
 当然のことながら、野呂系の術者は静流に賭けている。二宮系の術者は、対抗上、孫子に賭けている。野呂系、二宮系に限らず、バイトの世話をしている孫子は、流入組にも受けが良かった。

「……あっ」
 と、舞花が驚きの声を上げた次の瞬間には、瞬時に間を詰めた静流が、孫子に投げ飛ばされている。そして、孫子に地面に叩きつけられたかに見えた静流は、次の瞬間には孫子の背後に立っていた。
「……この組み合わせだと……流石に、取っ組み合いにはならんか……」
 荒野が、誰にともなく、そういう。
 孫子の背後に回った静流は、杖を、孫子の背中に向かって突き入れる。
 背中に手を回し、杖の先を掴む孫子。
 杖を掴んだまま振り返り、回転する勢いを乗せて静流の手首を横に蹴る。
 杖を放し、身をかがめ、孫子の軸足を払う静流。
 孫子は綺麗に横転し、受け身と取ってすぐに身を起こす。
 孫子の行動を予測したように、起き上がろうとする孫子の脳天に向け、静流は勢いをつけて、踵を振り下ろす。
 孫子は二の腕を額の上に置き、頭骨に直撃する直前で、それを阻止する。孫子はそのまま静流の足首を掴み、自分の脇の下に引き込む。
 そのまま、孫子が、静流の足首を極めるかに見えたが……次の瞬間、静流のもう一本の足が、孫子の水月に当たっていた。
 静流の蹴りが本格的に入る寸前に、孫子は、持っていた静流の足を離して、背後に飛んでいる。
 静流は、横になったまま地面に落ち、腕を地面についてすぐに身を起こす。
 すぐに、二人は距離を置いて、向き合う形になった。
「……そこまでっ!」
 これ以上、やる必要はないな……と、判断し、荒野はそう声をかける。




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彼女はくノ一! 第五話(341)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(341)

 その夜も、香也は明日樹を送っていった。遅くなる時や狩野家で明日樹が夕食をご馳走になった時はいつもそうしているので、二人には「この日だから、特別」という感情もない。
 強いていえば、あんなことがあったばかりなので、二人とも口が重かった。
「……ねぇ……」
 結局、しばらくして先に声をかけたのは、明日樹の方だった。どちらかといううと内向的な香也は口が重く、放置しておけばいくらでも黙りを続ける。
「さっき、の……いや、だった?」
「……んー……」
 香也の第一声は、いつもと変わらなかった。
「いや……っていうよりも……その……先輩に、大変なことしちゃった、って……」
「……先輩、って……」
 明日樹は足を止めて香也に向き直り……少しして、前に向き直った。
「……あの……あんな成り行きっていうのは、あれだったけど……。
 わたし、後悔してないからっ!」
 明日樹は少し強い語調で宣言して、ずんずんと大股で前に進みだす。
「……あの……」
 いきなり歩速を増した明日樹を追いかけながら、香也が声をかけた。
「その……身体、大丈夫?」
 香也が視線を下にむけたので、明日樹の頬が少し赤くなる。
「……大丈夫っ!」
 と、叫んでから、少し声をひそめて、明日樹は付け加えた。
「その……まだなんか入っているみたいだけど……」
「……あっ……」
 香也も、少し頬を赤くした。
「そ、そういうことじゃなくて……いや。そういうことも、大事なんだけど、その……。
 あれ、中に出しちゃったし……」
「……あっ」
 明日樹の頬が、ますます朱色を濃くした。
「……だ……。
 その……もうすぐ生理だし……たぶん、大丈夫なんじゃないかな……って……」
「……そ、そう……」
 そういうことに関する知識がほとんどない香也は、「明日樹がそういうのなら」と納得するしかない。
「その……勢いでやって、ごめん……」
「謝らないでよっ!」
 再び、明日樹が声を大きくし、それから、すぐに声をひそめる。
「そんな風に謝られたら……わたしの主体性ってものが……。
 第一、抱きついて離れなかったの、わたしの方だし……」
「……そ、そう……」
 香也の方は、そんな風にしか答えられなかった。もともと、多弁でも機転が利く気質の持ち主でもない。
「それから……あ、あの……」
 明日樹は、香也の腕を掴んで強引に引っ張り、自分の方に向き合わせた。
「……わたしは……これで、楓ちゃんたちとも対等だからっ!」

 明日樹を送って帰ってくると、居間では楓と孫子がそれぞれのノートパソコンを開いて何やら熱心に打ち合わせをしており、その横で羽生が湯呑みを傾けていた。香也が居間に入っていくと、羽生が、「こーちゃん、ちょっと……」と手招きし、香也を自分の部屋に連れて行く。
「……あのー。
 基本的に、こういうこと、あんまいいたくないんだけど……」
 羽生の部屋につくと、羽生は香也に座布団を勧めてから、そう切り出した。
「……今日のアレは、ちょっと……やりすすぎだろ?
 真理さんが帰ってきた時、今の状態じゃ……正直、やばいよ。
 言い訳のしようがないし……」
 羽生の諫言は、もっともだし、香也が予測した範囲内のことでもあった。
 だから、申し開きも反論もするつもりはなかったのだが……。
「……んー……」
 ……そういう風に正論をいわれても、対処法を思いつかない香也は、困ってしまった。
「……それは、わかるけど……。
 逆に……どうやったら、彼女たち、止められるのか……羽生さん、わかる?」
 香也は、真顔で羽生に尋ねた。
 本当に、羽生でも他の誰でも、「彼女たち」……楓、孫子、三人組の暴走を止められる方法があるのならば……是非、謹んで聞いてみたい。
「……そ、そりは……」
 正面で向かい合った香也にそういわれ、羽生もぷいっと目を逸らした。
「……こーちゃんがいっても駄目なら、わたしがいってもいうこと聞くわけないじゃん……」
「……んー……。
 やっぱり……」
 その返答を半ば予期していた香也は、がっくりと肩を落とした。
「……あ、いや。
 あ、あれだな。あの子たちも悪き気あってやっているわけではなくて、いやいやその逆に、こーちゃんへの好意が高じて時たま暴走するってわけで、知っての通り、普段はむしろ出来すぎといってもいい子たちなんだけど、何かの拍子にぽろっと対抗意識が過剰に燃え上がるっつーか……」
 香也の落胆ぶりをみて、香也を諫めていた筈の羽生がぱたぱたと両腕を振り回しながら香也を慰めはじめた。
「……んー……。
 でも、それって……ようするに、ぼくがいる限り……解決しないってことで……」
「……あー……」
 羽生は、香也から目を逸らしてポリポリとこめかみをひとさし指で掻きはじめた。
「……解決方法……ないことも、ないんだけど……」
「……んー……。
 なに?」
 香也は、顔をあげて羽生を見据えた。
「……こーちゃんが、あの子たち全員、きっぱりとふっちゃうこと。
 それか、誰か一人に絞って、本格的につき合っちゃうこと……」
 羽生も、香也を見据えて答える。
「……あの子たちも、こーちゃんのことを第一に考えているから、こーちゃんが真剣に考えて結論を出せば、それ以上ちょっかい出してくることはない……と、思う……」
「……んー……。
 んー、んー、んー……」
 香也は、その場で凍り付いて、だらだらと脂汗を流しはじめる。





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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(257)

第六章 「血と技」(257)

 その後の食卓は、割合に和気藹々としたものだった……と、思う。より正確にいうのならば、荒野を抜きにした女性陣が、勝手に盛り上がっていた。
 三島とシルヴィが盛り上げ役、茅と静流は聞き役で、酒見姉妹はその場の雰囲気を敏感に察知して柔軟に話題に乗る、といった感じで、あれこれと荒野には興味が持てない話題……例えば、ファッションとかメイクとか……に興じている。視覚に障害があるせいで、その手の知識に疎い静流や、現在の環境に移ってから日が浅い茅、それに、三島やシルヴィよりは年少の酒見姉妹などが、興味津々といった感じでかなり真剣に話し込んでいる。
 荒野を取り巻く女性たちが仲良くしてくれるのは、その逆にいがみ合っているよりは、よっぽどいい。実は、現在の荒野の生活は、微妙な均衡の上に成り立っており、その脆弱さを荒野も痛いほどに認識していたので、不安要素は少ない方がよかった。異性関係については経験の少ない荒野にしてみても、単一の男性が複数の女性と関係を持つことの微妙さ、難しさは、一般的な知識として知ってはいる。
 例えば、昔、仕事中に知り合ったあるムスリムの男性は、二人の妻と生活していたのだが、「……どうしても、若い方との回数が多くなっちゃってね。年上の妻から焼き餅を焼かれるんだ……」などと年若い荒野にまで愚痴っていたものだ。合法的に複数の女性と結婚できる文化圏でも、やはり人付き合いの難しさというのは変わらないわけで……荒野たち、一族の規範からいえば、当事者同士の承諾さえあれば、複数の異性と同時に関係を持つことも、特に忌避されることもないのだが……特に非難されないといっても、人間関係や男女間の微妙さが単純化するわけでもない。
 だから……たとえ、現時点での表面的な、部分だけの穏やかさ、ではあっても……女性たちが良好な関係を築きくことは、平和でいいことだ……と、荒野は思う。何せ荒野は、年始の初詣の時に「世界平和」をわざわざ祈願したほどの、自称平和主義者なのだから。
 荒野がそんな話題に入っていけるわけもなく、食事が終わると食器を集めて洗い物を済ませ、そそくさとキッチンから退出し、別室に籠もって教科書やらノートやらを開いた。茅ほど完璧な記憶力を持たない荒野は、こうして隙間の時間をみつけては学校の勉強をしておかないと不安になる。時間をかけさえすればそれなりに記憶できる……ということは、経験からいっても分かっているのだが、荒野の場合、いつ不測の事態が生じ、大幅に時間を取られるかわからないので、計画的に学習をする、ということが、事実上、許されない身である。だから、細切れの時間も出来るだけ有効活用するようにしている。

 そうして荒野が自分の勉強に集中していると、茅が、「みんなが、帰るの」と荒野を呼びに来た。時計を確認すると、すでに十時を回っている。荒野が熱中している間に、女性たちはおしゃべりに夢中だったっらしい。
 荒野は、茅と一緒に玄関まで行き、女性たちを送り出した。
 三島とシルヴィはいつもの通りだったが、普段は大人しい静流や、荒野の前ではかしこまっていることが多い酒見姉妹までもが実にリラックスした様子で機嫌良さそうに帰って行ったのは、荒野にとっても印象的だった。
 静流は、その生い立ちからいっても、あまり同性、同年配の人とつき合う機会が少なく、かりに接触があったとしても、それは一族の関係者であって、「野呂本家の娘」として静流に接していた……ということは、想像に難くない。酒見姉妹は、それこそ物心ついた時分から一族の「現場」で働いてきた少女たちだから、やるからられるか、騙すか騙されるかといった殺伐とした環境で育っている。三島やシルヴィの図々しさ……もとい、屈託のなさが、静流や酒見姉妹の緊張をほぐし、いい影響を与えているのかな……と、思いかけ、その後すぐ、「……あの二人に影響を受けすぎるのも、考えものなんじゃないか……」と、荒野は思い直す。特に三島。
 来客を送り出し、茅とともにそんなことを話しながら、一緒に風呂に入ると、すぐに就寝の時間だった。
 昨夜は寝ていなかったこともあり、荒野と茅は、その夜、ベッドの上で横になると、すぐに眠りに落ちた。

 翌朝の目覚めは、すっきりしたものだった。
 睡眠時間はいつもと同じだったが、おそらく、徹夜明けの翌日だったため、その分眠りが深くなったのだろう。あるいは、まだまだ安心はできないものの、荒野を取り巻く環境が、徐々に良い方向に向かっている……という手応えを感じてきているため、精神的な負荷もそれだけ軽くなっているのかも知れない……と、荒野は思った。
 茅と一緒に手早くトレーニングウェアに着替え、マンションの外に出て行く。
 バレンタイン・デーであった昨日、また何事か騒動が持ち上がったのではないのか、と、荒野は心配したのだが、楓、孫子、それに三人娘の狩野家の住人たちはいつも通りの様子だった。少なくとも表面的な態度に出てくるほどの出来事は、起こらなかったらしい……と、荒野は、とりあえず安心をする。孫子はテンともかく、その他の三人は、程度の差こそあれ、内面の動揺が表に現れやすい気質であり、その彼女らが平然としている。ということは、昨日のうちに何かが起こったのだとしても、少なくとも関係者に壊滅的な痛手を残すほどのことはなかった、と判断できた。
 代わりに、少し遅れて出てきた飯島舞花と栗田精一の顔色が、やけに優れていなかったが……これは、何か問題があった、というよりも、二人の中が良すぎて睡眠不足になった、とみていいだろう。こいつらに関しては、まあ、いつものことだ……と、荒野は考える。

 入念にストレッチを行った後、冷たい空気を切って、いつもの通りに河原へと向かう。目立ちすぎるのを懸念して、町中にいる時の合流を禁じたので、河原で流入組の一族の有志が合流してくることになっていた。荒野の許可が出たので、この日から茅の体術の指導が本格的にはじまることにもなっていた。基本的には、茅の指導は楓に任せるつもりだったが、初歩的な段階では誰が教えても大差はないので、酒見姉妹や河原に居合わせる一族の者も何かと口を出してくるかも知れない……と、荒野は予測している。そうなるにしても、まずは楓の教え方を確認してから、のことになるだろうが……とも、思っているが。
 楓は、「最強」の荒神のたった二人しかいない弟子の一人なわけで、そのステータスは、一族の中ではかなり強烈に意識される。その事実についてあまり頓着していないのは、当の楓本人だけだろう。本人はまるで意識していないが、楓は、三人組と並んで、流入組の注目を浴びる存在なのだった。
 河原につくと、二十人前後の一族の者に混ざって、野呂静流や酒見姉妹も来ていた。
「……わ、わたしも……」
 荒野が近づいていくと、静流はそういった。
「いい機会ですから……か、茅様と一緒に、基本から学びたいのです……」
 視覚に障害がある静流は、体系的に一族の体術を教えられていなかった。つまり、我流で「パーフェクト・キーパー」の異名を取る、特異なポジションを占めていられるほど、元の素質が高かったわけで、今更、体系的に再履修をする必要性などどこにもないような気もしたが……だからといって、荒野は、静流の行動を制限する気もなかった。




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彼女はくノ一! 第五話(340)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(340)

「……そもそも……性交したのかしないのか、ということを、生化学的に判断するのは難しいと思いますけど……」
 ……少し冷静になって考えれば、それくらいわかりそうなものなのに……と、孫子は付け加える。
 明日樹はひどく納得のいった表情をしていたが、楓は、その場で立ち上がって、なわなわと全身を震わせながら、孫子を指さし、パクパクと金魚のように口を開閉させている。
「……楓ちゃん……」
 またか、と思いつつ、羽生は念のため、楓に声をかけておいた。
「気持ちはわかるけど……その、今は食事中だからな。
 気合いのはいったお話し合いなら、また後でじっくりするべ。
 な。
 この場は、腰をかけて落ち着いて……」
 ……ここしばらく、落ち着いていたと思ったが……楓と孫子の関係は、これでなかなか、根本的なところで、緊張をはらんでいる。最近では、お互いに信頼しているような雰囲気も、それなりに感じてはいたが……ことに孫子の方が、楓に有形無形のちょっかいを出している。
『たしかに、楓ちゃん……いじりやすいキャラ、しているけど……』
 素直すぎるくらいに素直な楓の性格は、たしかにからかい甲斐があるよな……と、思いつつ、それに加えて、「楓は、孫子よりも先に、香也に手を出していた」という事実が、二人の関係を複雑なものにしている……と、羽生は、考える。
 孫子も楓も、お互いの力量を認めあっている節はあるのだが……とくに、楓ほど素直ではない孫子は、香也を間に挟むとそういう好意を素直に表明できない傾向があるようだった。
『……また、喧嘩になるんかな……』
 羽生に注意され、不承不承、といった態で座り直した楓も、今にも噛みつきそうな顔をして、孫子をにらんでいる。
 もちろん、この二人が本気でどつきあったら、羽生が介入できる余地は、まったくなくなる。仮にそういうことになったら、二人を止められるのは、それこそ、荒野ぐらいのものだろう。
 食卓をざっと見渡してみると、この場の緊張状態に気づかぬ風で、のほほんと食事を続けているのは香也とガク、それに孫子の三人、明日樹とノリは、完全にビビりがはいって萎縮しているし、テンは、いかにもおもしろそうな顔をして、楓と孫子の様子を観察している。楓は、時折、孫子の方に険悪な視線を送りながら、忙しく箸を動かしはじめていた。
『……しっーらない、っと……』
 一応、羽生は、家庭内の雰囲気は険悪になって欲しくない……という立場だが、男女間のことや楓や孫子の暴走に関しては、完全に、羽生の手には余る。

 食事が終わった後、三人組は風呂に入りに行き、楓と孫子は食事の後片づけ、香也は明日樹を送るために、二人で外に出ていった。
「……才賀さん……」
 肩を並べて食器を荒いながら、楓が、やけに真剣な声で孫子に話しかける。
「なんで……あんな嘘、ついたんですか?」
「なんなことでもしなくては……」
 孫子は、淡々とした口調で答える。
「永遠に、あなたとの差が、縮まりませんわ……」
 いち早く香也との距離を縮めている楓に対し、孫子が、心穏やかではいられない……という心境にあることは、楓は、まるで気づいていない。
 そうした楓の無頓着さも、孫子を苛立たせる一因となっているのだが……。
「……そ、そんなことでっ!」
 楓が、孫子の方に向き直って、大きな声を出す。
「あなたにとっては、香也様とのことは……そんなこと、程度の価値しかないのですか?」
 孫子が冷静に返答すると、楓は言葉を詰まらせた。
「わたくしは……香也様のためなら、喜んで手を汚します」
 事実、あんな姑息な手段を弄さなくては、孫子は、楓と香也の間に、割り込むことができなかったのだ。だから、薬物とペテンいう姑息な手段に訴えたことを、孫子は後悔していない。
 例えば、強引な手段に訴えて、香也に自分を抱くようにし向けた最初の時も……ああでもして割り込まなくては、香也と楓の距離は、あのまま自然に縮まって、すぐに付け入る隙もない有様になってしまっただろう……と、孫子は思っている。
「……だ、だからって……」
「……それとも、あなたはっ!」
 楓が、なんとか孫子に反駁しようと試みるのを、孫子は、ぴしゃりと遮るように言葉を重ねる。
「目の前で、他の誰かが、香也様と深い関係になっていくのを……指をくわえてみていることができるのですかっ?!」
 孫子が、楓を見ていらいらするのは、こんな時だった。
 楓は……あまりにも、善人で……邪気が、なさ過ぎる。
 無茶なこと、汚いことをしなければ、自分が欲しいもを手に入れられないとしたら、孫子は、平然と自分の要求を満たすために、いくらでも汚い真似が出来るが、楓は、そうではない。
 一族の関係者にはあるまじき、まっとうな倫理感の持ち主である、といえるが、楓を使う荒野の側にしてみれば、かなり使いづらい人材なのではないだろうか? ……と、孫子は思う。
 いくら、その他の能力が秀でていたところで、判断力に難があれば、単独での行動はかなり制限される。精神面での脆弱さと肉体面でのずば抜けた能力が同居している楓は、そのアンバランスさ故に、使いどころが難しい人材になっている……と、部外者である孫子でさえ、そう思う。
 荒野、並びに、楓をここまで鍛えた一族の上層部は、かなり口惜しい思いをしているのではないか?
『……それでも……』
 最後の最後に、自分の欲しいものを手に入れてしまうのは、楓のような、邪気がなく、善良な性格の人間なのではないか……とも、孫子は思いはじめている。
 孫子や荒野のような特殊な人間が、なりふり構わず力ずくで構築した地平を、何の疑問も持たずに享受し、その成果を一番に味わうのは、結局のところ、何の後ろめたさも感じることのない、「善人」たちなのだ。不公平なことだ、とは思うが、孫子や荒野は、苦労する分、「強者」として相応の待遇を得てきているので、それなりに帳尻があっては、いる。
 しかし、楓は……能力的には、一般人よりも孫子や荒野に近いのだが、心情的には、一般人に近い場所に立っていた。
 孫子も、一般人と仲良くすること自体を否定するわけではない。が……それでも、やはり……一族や自分たちと一般人には、根本的な部分で、違うところがある。
 これは、否定しようがない事実であり……しかし、楓は……この溝の存在を、あまり意識しているようには見えない……。
 明らかに一般人以上の能力を持ちながら、一般人としてしか物事を判断することができない楓は、そのうち大きなしっぺ返しを食らうのではないか……と、孫子は、そうした、漠然とした予測も、した。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(256)

第六章 「血と技」(256)

「……そんで、話しを元に戻すけど、グラサンのねーちゃんは結局のところ、どうするんだ? ん?」
 三島が、豚汁を啜ってから荒野に尋ねる。
「だから、それは茅の意向次第だって……」
 荒野は、それまで一方的に聞き役に回っていた茅に話しを振ると、三島は小声で、
「……もうすっかり、尻に敷かれてやんの……」
 と呟く。
『……一度、無理矢理口をこじ開けて、昨日の極辛カレーのルゥ、たっぷりと詰め込んでやるかな……』
 と、荒野は考えたが、とりあえず他の者たちの手前、聞こえないふりをして聞き流した。昨日、茅がやけになって作ったカレーは、結局、全員なんとか一皿を完食するのがやっとだったので、残りはタッパーに入れて冷凍庫に放り込んでいる。
 捨ててもよかったが、食べ物を粗末にすることに抵抗があったし、それに、取っておけば何かの罰ゲームの時にでも、使いようはあるだろう。
「静流との繋ぎを強化すると……荒野は嬉しい?」
 茅は、すぐに返答する代わりに、荒野に尋ねかえす。
「嬉しい、ってよりも……野呂本家とのパイプが太くなれば、やりやすくなるってのは、あるかな……」
 荒野は、考えながら、慎重に返答した。
「……前にもいった通り、例の悪餓鬼どもの追跡調査に信頼できる術者を確保したいところだけど……それ、現状だと、しばらくは難しいわけで……その点、野呂本家が紹介してくれる人なら、そういうの、安心して任せられるだろうし……」
 もともと、単独での動くことを好む野呂は、そうした漠然とした手がかりしかない状況からの地道で根気のいる追跡調査、というのを得意とする血族だった。
「……ヴィにもやって貰っているけど、姉崎と野呂とでは、同じ調査でも方法論が違うし、それに、一刻でも早く向こうの状況を把握しておきたいから、人手は多ければ多いほど、いい……」
 ……さらにいうと、姉崎の捜索班と野呂のそれとで競争意識が発生すれば、荒野にとっては理想的な状態になる……と、思ったが、流石にこの考えは、この場では口にできない。それに、シルヴィと静流なら、その程度のことはいわずとも察しがつく筈だ、とも、思った。
「……ひ、姫様……」
 静流が茅に話しかける。
 一族の関係者の間では、茅のことを「姫」ないしは、「加納の姫」と呼称することが多かった。
「……そ、その件について、協力することは、な、なにも異存はないのです。
 の、野呂に、優秀な加納本家の血を入れる代償と思えば、や、安いものなのです……」
 静流がわざわざ、荒野や茅にとってのメリットを説明しなかったのは、恩着せがましい印象を持たせたくはないためだろう、と、荒野は予想する。それと、あんまり静流が荒野を希求していることを強調して、茅の嫉妬心に火をつけるのを、警戒して……ということも、あったのかも知れないが。
 いずれにせよ、静流が「野呂本家の一員」として判断し、交渉しよう、という姿勢をみせていることは、確かだった。
 そうであれば……仮に、この先、野呂が荒野に協力するとしたら、先に手を着けている姉崎への対抗上、それなりの腕利きを揃えてくることが、予想できた。
『……おれみたいな、ガキ一人でも……』
 それなりに、交渉材料にはなるもんんだな……と、荒野は、他人事のように思った。
 荒野自身の実力が買われたわけではなく、荒野の血筋を信用して……という取引だから、荒野の思考は冷めきっている。種馬扱いされて喜べるほど、荒野は鈍感ではなかった。
「……いいと思うの……」
 茅は、しばらく何かを考え込んだ後、あっさりと頷いた。
「茅と荒野に、デメリットはない取引のようだし……」
 そのあと、茅は声を出さずに口を動かす。その口唇の動きを、荒野は、「……他の女に触れると、それだけ茅にもさわってもらえるし……」と読んだ。
 ……シルヴィとそうなった時の、二倍から三倍の約束は、ここまで有効になるのだろうか……と、荒野は思い、内心で慄然とした。
「……あ、ありがとう、ございます……」
 静流は、茅に向かって顔を向け、頭を下げる。
 年下である茅を公然と立てるあたり、静流もそれなりの器だな……という印象を、荒野は持った。
「……わ、わたしも、ここでの生活を、な、長続きさせたいので……ほ、本家の肝いりで、腕の利くものを、そ、揃えるのです……」
 荒野と静流がそういう関係を持つ、というのは、野呂本家を動かすいい口実にはなるか……と、荒野は思い、それから、静流の申し出そのものが、公然と荒野へ助力するための口実なのではないか、と、疑問を持った。もっとも、この疑問については、静流を問いつめてもとぼけられるだけだろう、とも思ったが。
 いずれにせよ、荒野にしてみれば、相手が完全に体勢を整える前に尻尾を掴みたい、という強い希望があったので、ここであえて静流に乗せられるのが、得策なのだ。
 静流を抱くことで、野呂の一流の術者たちの協力を得られるのであれば、それは荒野にとっても、かなり「お得」な取引というべきであり、感謝はしても文句をいう筋合いはないのだった。
「……そうすると……五人の女の間を、ローテーションでやりまくるわけか……」
 三島は、ぐるりとその間にいる人たちを見渡して、そういった。
「……うひひっ。
 役得だな、荒野……」
「……いや……。
 それなりに、大変だと思いますけど……」
 三島にそういわれた荒野は、珍しく少したじろいだ。
 考えてみれば……荒野は、そもそも、まともに異性とつき合った経験があまりない。表面的には、合意が取れているとはいえ、これだけ癖の強い女性たちと同時に関係を結んで、うまくバランスをとって、継続的につきあい続けることができるかどうか……はなはだ、心許なかった。
『……今度、隣りの香也君に、うまくやるコツでも聞いておこう……』
 と、荒野は思った。
 彼のことだから、「うまくやろう」と考えたり身構えたりすることなく、自然体で捌いている……という可能性が強かったので、尋ねたとしても、身のある助言は得られないかも知れないが……。
「……パツキンだろ、グラサンだろ、ロリ双子だろ、そんでもって、本命の茅だ……」
 荒野がそんなことを考えている間にも、三島は言葉を続ける。
「……よりどりみどりのやりたい放題っ!
 男の本懐だなっ! 荒野っ!」
 ……この人は……人の気も、知らないで……と、荒野は思う。
「……本懐は、いいですけど……」
 荒野は、その場で、深々と頭をさげた。
「おれ、正直、女性の扱い方とか、そういうのよくわからないっすけど、何か失礼なことしたら、なるべくなおしますから、すぐに指摘してください……」
 ただでさえ、不確定要素が多く、綱渡りに近い関係なのだ。
 下手にでて協力を引き出す方が得策だし、自分の気も楽だ、と、荒野は考える。
「……ん?」
 三島が、何かに気づいた顔をした。
「……こ、これは……全員年上の、おねーさんハーレムなのではないかっ!」
 三島がそういうと、荒野以外の全員が、顔を見合わせる。
「……当然、年上……」
 シルヴィが、片手をあげた。
「……お、同じく、年上なのです……」
 静流が、片手をあげる。
「「……外見に反して、年上です……」」
 酒見姉妹が、声を揃えた。
「……実は、年上なの……」
 茅も、片手をあげる。
「……お前さん……。
 これで、おとーと属性だったんだなぁ……」
 三島が、何故か感心した声をあげる。
 荒野は「属性」という語彙に込められた意味が理解できなかったので、なんとも返答のしようがなかった。





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彼女はくノ一! 第五話(339)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(339)

 香也は、明日樹の上にのっかてビクビク背筋を震わせた後、しばらくそのままの姿勢で荒い息をついていたが、やがて明日樹の横にごろんと寝ころんで、口を大きくあけてあえぎはじめた。孫子とノリに挿入した時も射精にまでは至らなかったため、発射した回数こそ本日これで二度目なのだが、最初の楓が騎乗位で動いてくれたのを除けば、後は香也が一方的に動いていたので、運動量はかなりのものになる。普段の運動不足もたたって、香也は全身を汗まみれにしてもはや指一本動かすのもおっくうなほど、甚大な疲労を感じていた。射精直後の陰茎だけが、元気に半勃ちになっている。
 ぜはぜは空気を吸い込んであいでいると、隣に寝そべっていた明日樹が、すぐに横になったまま香也の首にすがりついてきて、楓、孫子、テン、ガク、ノリの五人もそれに習って寝そべり、香也に身体を寄せてくる。面積的に、それだけの人数が一度に香也に寄り添うことは不可能だから、香也の隣のポジションを争って静かなもみ合いがはじまったりするのだが、香也は疲労の度合いがひどく、そうした闘争に関心を向ける余裕も、もはやない。
 そのまま目を閉じて、新鮮な酸素を血中に取り込むのに忙しかった。

『……またなんかあったかな……』
 そのころ、羽生譲は食材の入ったビニール袋をスーパーカブに満載して、帰路についていた。あたりはすでにどっぷりと日が暮れている。
 普段なら、日中のうちから三人組あたりから、「晩ご飯の支度できているよ」メールがあるのだが、今日に限ってそれがない。
 家事に関しては、普段から羽生は楽をさせて貰っている身なので、まったく用意できてなくてもいいのだが……そんなこと以上に心配なのは、彼女らがまた緊急事態に遭遇している、という可能性だった。
 念の為、三人組と楓、孫子の五人に安否を確認するメールを打っておいたが、そろっていまだに返信がない。
『……何もないと、いいけど……』
 といいながら、羽生はスーパーカブを庭にいれ、ヘルメットと食材の入ったビニール袋を両手に抱え、玄関に回った。
『……なんや、全員、いるやん……』
 玄関に整然と並んでいる靴をざっと一瞥して確認し、羽生は、
「……たっだいまーっすっ!
 今、帰りましたですよぉっ!」
 とか声をかけながら玄関をあがり、廊下を通って、居間へと続く障子を、両手が塞がっていたので足で勢いよく開き……。
 中の光景を見て、硬直した。
 羽生の前の畳に、どさどさとビニール袋とヘルメットが落っこちる。
「……な、な、な……」
 羽生は、素っ裸になって絡み合っている旧知の人たちに向かって、叫んだ。
「……ナニをやっとるんですかっ!
 君たちはっ!」
 いや、周囲に乱雑に脱ぎ散らかっていた衣服と、全員、けだるげに汗に濡れている様子、それに、全員が全裸でかさなりあっていることなどから、「ナニをやっているのか」は一目瞭然なのだが……羽生としては、そう叫ぶよりほか、ない。
 羽生が一括すると、楓、孫子、明日樹はその場でぴょこんと起き上がり、正座をしてビシッと背筋を伸ばし、テン、ガク、ノリの三人も、のろのろと身を起こす。
 その全員の下にいた香也だけが、すっぱだかのまま畳の上に寝ころんで、羽生の方に顔を向けた。羽生に反応したいのだが、気力と体力が尽きかけているので、ヴァージン・キラーなちんこを隠す余裕もない……といった風情だった。
『……ああ』
 香也の様子をみて、どうやら想像通りのことが、起こったらしいな……と、羽生は思う。
 今までの経緯を考えれば、そういうことは十分に興り得る、と思っていたが……明日樹までもがここにいるのが、羽生は不思議だった。
『……詳しいことは、後で聞こう』
「……あすきーちゃん、楓ちゃん、ソンシちゃんは、死にそうに疲れているこーちゃんをお風呂場につれていってきれいにする。その間、えっちなのは禁止っ!
 残りの子たちは、この部屋の空気を入れ換えて、きれいに掃除。その後、ご飯の支度っ! わたしも手伝うから……」
 羽生がそう指示と、誰も逆らわずにテキパキと動き出す。
 居間の中の空気は、冬だというのにむっとするぐらいに暖まっており、同時に、妙に動物臭い男女の体臭が充満している。
 香也が楓たちに抱えられて連れ去られると、手早く服を身につけた三人組が、窓を開けはなち、炬燵を隣の部屋に動かして、本格的な掃除をはじめた。
 羽生も、三人組に混じって手伝いをはじめる。
 こうして身体を動かして、具体的な作業に没頭していれば、よけいなことを考えずにすむ。
『……だけど……』
 この後の事情聴取とその後の対処のことを考えると、羽生は気が重かった。
 ……何で、真理さんが留守の時に限って、こういうことになるのか……。いや、真理さんの目が行き届いていれば、そもそもこんなことは起こらないか……。
 羽生は、彼女らの「お目付け役」としては、自分の貫禄が全然足りないことを、しみじみと実感する。

「……だいたいの経緯は、理解した……」
 後片づけと夕食の準備が終わり、一通り説明を聞いた羽生は、そういった後、盛大にため息をついた。
「しかし、まぁ……他の子はともかくとして……あすきーちゃんまでこーちゃんとやっちゃうとは……」
 明日樹はそれに答えず、箸を休めてうつむいている。耳まで真っ赤で、おそらく、自分がしたことを思い返して、改めて恥ずかしい思いをしているのだろう。
 ……この子も……なんだか、なぁ……と、羽生は思う。
 明日樹の態度をみていれば、以前から香也に気があるのは、みえみえだったわけだが……ここまで思い切ったことができるほど、果断なところがあるとは、羽生は思っていなかった。
「……でも、あの……それは……仕方がない部分もあって……」
 真っ赤になってなにもいわない明日樹に代わって、楓がおずおずと「えっちをしないと死んじゃう薬」について説明し、「たまたま冷蔵庫に入っていたチョコにその薬が入っていて、それを明日樹や楓が食べたため」香也というこう事をしなければならなかったのだ、と、真面目な顔をして、羽生に説明する。
「……あの……楓、ちゃん……」
 羽生はしげしげと楓の顔を見ながら、楓に素朴な疑問をぶつけてみた。
「……えっちをしなければ、死んじゃう……って、今の人類の科学で、そんな微妙な条件付きのお薬、作れるもんなの?
 水虫の特効薬ひとつ、ろくに作れないのに……」
「……え?」
 ここで初めて、楓は、「その薬」について、深く考える。
 えっちしたら、解毒されるって……どういう機序で、そうなるんだろう?
 ……そもそも……えっちしている状態と、していない状態……を、薬は、どうやって判別するのか……。
 性的興奮によって、体温の上昇やホルモンの変化はあるのだろうが……本番した場合とそうでない場合、つまり、自慰や挿入なしの愛撫で興奮した場合とを、体内の変化だけで見分けることは……果たして、可能、なのだろうか……。
 今まで、楓は深く考えていなかったが……いわれてみれば、「えっちをしなければ死んじゃう」という条件は、どっからどうみても、不自然だった……。
「……ああ。
 あれ……」
 楓が硬直して顔色をなくしていると、孫子は、しれっとした顔をして、こうのたもうた。
「……そんなもの、嘘に決まっていますわ。
 わたくしが調達してきたのは、強力な媚薬……服用者を、強制的に性的興奮状態にするお薬です……」
 楓と明日樹が、孫子の顔をみつめる。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(255)

第六章 「血と技」(255)

「……そんなわけで、遺伝子提供者としての加納は、一族の中ではかなり人気があるんだけど……」
 三島に向かってそう説明したのは、シルヴィだった。
「際限なく、他の血族と混血していった加納は、結果として、様々な因子を潜在的に内包しているわけだから……。
 子供にどういう資質が受け継がれるかは、運任せのロシアン・ルーレットね。例え、本人の能力が劣っていても、加納の血を引いているというだけで、性能のいい子が生まれる可能性は、格段に向上する……」
「……もともと、加納、姉崎、佐久間は、六主家の中でも身体能力に頼らない……どちらかといえば、知恵や経験で勝負する方だったから……」
 空になった茶碗を茅に差し出しながら、荒野も、説明を付け加える。
「……そのうちでも、特に加納は……長生きとしぶといのだけが自慢の、能なし……なにもできない加納、とかいわれてたんだけどね……」
「……佐久間は、個体として強力な頭脳を備えている。姉崎は、個体の特性に頼らず、コネクションとか蓄積した知識で勝負する。加納は……弱いけど、しぶとい……。
 個体の寿命が極端に長い、ということは、それだけおおくの事例を……失敗例を蓄積できるということだから……」
 シルヴィは、肩を竦めた。
「……で、何百年か何十世代かかけて、必死になって異質な種族と混合してたら、結果として様々な因子を内包した、オールマイティな存在に……何でもできる加納に、なっていた、と……」
「「……現に、加納様は……」」
 酒見姉妹は、箸を休めて声を揃えた。
「「……たいていの二宮よりも力が強く、野呂よりも速いのです……」」
「……身体的な能力値が高くても、あまり極端なアドバンテージにはならないよ……」
 荒野は、茅におかわりを受け取りながら、ゆっくりと首を横に振った。
「特に、現代では……一般人が作った道具の方が、どんな術者の能力よりも、よっぽど性能がいいわけだし……それに、そういう道具は、使い方を学びさえすれば、誰にでも扱える……」
「……そ、それでも……」
 今度は、静流が、口を挟む。
「……有能な者同士を掛け合わせる、という原始的な手段は、それなりに効果があったのです。
 弊害も、それなりにあるわけですが……」
 そういって静流は、こんこん、と指先で自分のサングラスの縁を軽く叩いた。
「……近親婚が続けば、エラーがでる率も多くなる、か……」
 三島も、頷く。
「昔っからそういうことやっているのなら、その程度のリスクは、経験則で予測できた筈だが……そのリスクを押して、なおかつ、子孫の能力を延ばす、って、メリットを取ることを選択した、ってことだろ?
 人間ブリーダーだな……」
「「……そうです……」」
 酒見姉妹が、同時に、三島の言葉に頷く。
「「……少なくとも、野呂と二宮の二家に関しては……その通りなのです……」」
「……そんでもって、お前のところの加納が、その六主家の吹き溜まり、っと……」
 三島が、今度は荒野の方に顔を向けた。
「……茅とかあいつら三人の新種どもも、どうやらハイブリッドらしいいけど……お前も、たいして変わらんな……。
 ハイテクかローテクかってところが違うだけだ……」
「……否定はしませんけど……」
 荒野は、口に含んだ塩鮭とごはんを、豚汁で喉の奥に流し込んでから、答える。
「それでも、おれら加納は……六主家のうち、佐久間と秦野の血は入っていない筈です。あそこらは排他的で、よそとは血を混ぜませんから……」
「……加納は、個体数が少ないんだったな……」
 三島は、何やら考え込む表情になる。
「……濃くなりすぎた六主家の血を攪拌するほどには、数がいないか……」
「それは……おっしゃるとおり、人数的に無理です」
 荒野も、三島の言葉に頷く。
「加納に、様々な因子が吹き溜まりはしていますが……加納は、外部に対して影響を与えるには、数が少なすぎます……」
「……こ、濃くなりすぎた血を、か、攪拌、ということなら……」
 静流が、荒野の言葉尻を引き継いだ。
「むしろ、一般人という、広大な遺伝子プールがありますから……」
「……そっか……」
 三島も、静流に向かって頷き返した。
「必ずしも、一族同士で子供を作るとも限らないわけだ……」
「子供だとか家族だとかは、術者のモチベーションに直接関わってきますからね」
 荒野は、三島に向かって説明する。
「結婚とか家庭を作るっていったら、やはり、当事者同士の意志が一番優先されます。そこは、一般人とさしてかわらない。
 ただ、優秀な子が欲しくて配偶者以外の者と子供を作って育てることはあるし、政略的な婚姻を結んおいて、よその異性と子供を作る……あるいは、未婚者が、何人も子供を作る……とかいうことも、結構おおっぴらにやる。誰も面倒がみれない子供の育成に関しては、かなり充実した専用の施設が用意されてますから、その分、親の心理的経済的負担は、かなり軽くなってます。
 そういうの、娑婆の感覚からいえば、乱暴でいい加減な印象を受けるかも知れませんが……一族の色恋や子造りは、オープンな分、一般人社会の男女関係よりもよっぽどさばさばしている、ともいえます……。
 こういうの、一般人社会の倫理感とは、ずれがあるかも知れませんが……」
「……そっか……特定の親の子供……というより、血族とか一族全体が扶養するシステムも、整備されているから……」
 三島が、感心したような声を出す。
「そうです。
 一族全体、という視野から見ても……どんどん、次世代を作って貰った方が、都合がいいんで……」
 荒野は、三島に頷いてみせた。
「……するってぇと、ナニだな……」
 三島は、ひどく真面目な顔をして、荒野の目を見据えた。
「お前さん……公然とハーレム三昧いつでも中出し可な女体天国モテモテ王国を作れるわけだな……」
「……まず、第一の前提として……おれ、茅の許可がない時は、他の女性を抱きたくないです」
 ……荒野は、三島の脳天を思いっきり叩きたい衝動に駆られたが……もちろん、実際にはそんなことをせず、静かな口調でこういった。
「第二に、おれ、まだ父親になりたい年齢でもないし……。
 それに、仮に、茅がそういうのをいいっていってくれたとしても……相手が誰であるにせよ、おれの子供が出来る可能性は、かなり低いです……」
「……ヴィは、コウと子供を作るのを条件に、姉崎の機構を使っているわけだけど……」
 すかさず、シルヴィが指摘した。
 これは、三島への説明……というより、他の女性陣への牽制だろう。
「「……わ、わたしたちだって……」」
 酒見姉妹が、同時に、がたん、と椅子から立ち上がった。
「「……加納様のお役に……心の底から、誠意を持っておつかえしたいと……」」
「……わ、わたしは……」
 静流は、顔を伏せながら、いう。
「こ、こんな身体ですから、ぜ、贅沢をいえる身分ではありませんが……わ、わたしよりも強くて、その気になれる、と、殿方って……ほ、ほとんど、いないわけですし……。
 こ、これでも……野呂本家の、一員なのです。
 ほ、本家の血を絶やさないため……そ、それと、わたし自身の気持ちとを、同時に満足させることの出来る方は……そ、そうそう、いやしないのです……」
「……よかったなぁ、荒野……。
 やっぱりモテモテのウハウハで……」
「……なんで、そこで……先生が、嬉しそうな顔をするんですか……」
 荒野が半眼で三島を見つめながら、指摘する。
「そいつは、気のせいだ」
 三島は、しれっとした顔で、荒野に答える。
「わたしは、だな。
 嬉しいじゃなくて、お前さんの境遇を他人事だと思って面白がっているんだ」




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彼女はくノ一! 第五話(338)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(338)

 香也が根元まで明日樹の中に入りきった時、明日樹は、自分でも知らないうちに香也の背中に爪をたてていた。香也が入っているソコだけではなく、下半身全体がじんわりと痺れているようで、感覚がない。おそらく、痛いのだろうとは思うが……今は、そこの感覚が麻痺している。ブレーカーが飛ぶように、痛みの上限を突き抜けているので、明日樹の体が痛覚を一時的に遮断しているのではないか……と、明日樹は、冷静に思考した。自分にのしかかってくる香也の重みと体臭だけが、やけに現実的だ。香也は、明日樹を気遣ってか、動きを止めて明日樹の顔を見つめている。香也と一体になっていっている今になってこういうのも何だが、明日樹がこれほど至近距離で香也と見つめあうのは初めてのことであり、現実に結合しているという事実よりは、香也の存在をこれほど間近に感じる、ということに、明日樹は戸惑いと気恥ずかしさを感じる。
「……動いて……いいよ……」
 半ば照れ隠しで、明日樹は香也にそういった。
 黙ったまま至近距離で香也と見つめあっていると、そんなことでもいわなければ間が持たなかった。
「……んー……」
 香也は、明日樹の顔に手を添えて、指先で目尻を拭った。そうされてはじめて、明日樹は自分が涙を流していることに気づく。
「……無理しなくて、いいから……」
 そう聞いた明日樹は、ひどく複雑な心境になる。
 香也の気遣いがうれしかったが、同時に、イッパイイッパイでわけがわからなくなっている自分と違い、随分と余裕がありそうな香也の態度に理不尽な怒りも感じる。
『……何だって、年下の癖にそんなに余裕があるかな……』
 という疑問は、すぐさま、
『……そりゃ……経験値に、天と地ほどの開きがあることは、わかっているけど……』
 と、多分に嫉妬の混ざった解答となって明日樹の胸を刺激する。
 結果、明日樹は口をへの字型に曲げ、
「……いいから、動くっ!」
 と、不機嫌な声を出してしまった。
 そう口に出してしまってから、明日樹は、
『……今のわたし……かわいくない……』
 と、軽い自己嫌悪に陥る。
 香也は、
「……本当に、大丈夫?
 駄目そうだったら、すぐにいって……」
 と前置きして、ゆっくりと明日樹の中を往還しはじめる。
 香也が動きはじめると、すぐ、明日樹は余裕がなくなった。香也の動きからすぐに快感を引き出した、ということではなく、香也が動くたびに、それまで収まっていた激痛に襲われ、口唇をきつく結んで声を出すのを堪えるのに懸命だった、ということである。自分の方から香也に「動け」といった手前、今更香也を制止するのも気まずかった。香也はかなりゆっくりとした動きで動いていたし、明日樹の顔を観察しながら、時折、
「……やめる?」
 と尋ねてきたが、もはや、半ば意地になっていた明日樹は、悲鳴をかみ殺しながら香也の背中に回した腕に力を込め、「このまま、続けろ」と合図した。自分よりも小さな身体で同じ痛みに耐えてみせたノリへの対抗心も、あった。
 時間が経過するほどに背中のひっかき傷が増えたので、香也にしてみれば、明日樹が必死になって破瓜の痛みに耐えていることは明々白々ではあったが、下手に明日樹の意志を無視しても、明日樹の機嫌を損ねてしまいそうな気がしたので、そのままゆっくりと動き続ける。
 香也の体が上下するたびに、明日樹は、
「……んふっ! んふっ!」
 と鼻息を荒くした。
 最初、香也が往復しているそこは、びりびりと痺れるばかりで、それに加えて香也が動くたびに激痛が走ったが、しばらく、それに耐えて続けていると、出入りする香也の周辺が、随分と滑らかになってきた。明日樹も、気持ちがいい、とまではいかないものの、内部の擦れている箇所から、くすぐったいような微妙な刺激を受け取るようになっていく。
 最初のうち、荒いばかりだった明日樹の鼻息は、香也の動きが滑らかになるにつれて、明らかに痛みをこらえる為意外の吐息をつくようになっていった。
 未だ、じんじんと痺れるような痛みを感じてはいるのだが……それと同時に、明日樹の中で、香也がある箇所に当たるたびに、明日樹の身体が軽くぴくりと動くようになっている。香也がゆっくりと辛抱強く、単調な動きを続けていると、明日樹は、次第に、苦痛以外の感覚に襲われて身体を震わせる頻度が多くなっていた。断続的に、小刻みな痙攣をしていた明日樹は、次第次第に、苦痛以外の刺激に即されて甘い吐息を漏らし、身震いするようになっていく。
「……んっふぅっ! はぁあっ! んんっ!」
 気づくと、明日樹は、自分でも「……はしたない……」と、思えるような鼻声を、あげるようになっていた。
 自分で聞いても、明らかに……感じている……と、判別できるような、吐息だったが、止めようとする明日樹の意志とは裏腹に、明日樹がたてる音は大きくなっていく。
「……ああっ! んっ、ふぁっ! ひゃっ!」
 明日樹が香也にしがみついているのは、もはや苦痛を堪えるためではなかった。最初、さざなみほどだった快楽が、今では、明日樹の中で大きなうねりとなっている。
 香也が、自分の中を往復するたびに、快楽のうねりの振幅は大きくなり、明日樹の理性はそのうねりに呑まれていった。
「……ひゃふぁっ! やんっ! ふぁっ! んっ!」
 ……などという甘い声を、下からしがみつかれた状態で耳元で囁かれるのだから、香也の方も盛り上がってくる。
 そろそろとした動きではじめて、今では、香也は、明日樹の太股を両腕で抱え、明日樹の腰とお尻を持ち上げ気味にして、かなり激しく腰を突き動かしている。
 明日樹の中も、今ではどろどろになっていて、香也の分身が中を往復する動きを助けていた。
 今の明日樹の中は、熱くて、きつくて、よく締め付けてきて、滑りがいい。加えて今では、香也のモノを求めるように、ヒクヒクと痙攣もする。
「……あぁはぁっ! あぁはぁっ! あぁはぁっ!」
 もはや明日樹は、香也が突き入れるたびに大きな声を上げるようになっている。おそらく、自分では、声をあげているという自覚もないのだろうな、と、香也は思った。
 そういう香也も、明日樹の反応につられて、一気に高まってきている。
「……も、もうっ!」
 香也は、せっぱ詰まった声で、射精が近いことを明日樹に伝える。明日樹は、香也のいう意味を理解しているのか、いないのか……よりいっそうの力を込めて、香也に抱きつく。
「……だめっ!
 出ちゃうっ! 出ちゃうってっ!」
 明日樹の中を激しく往復しているモノも、ビクビクと震えていた。明らかに限界が近づいていることを告げても、明日樹は香也にしがみつくのをやめなかった。

 結果、香也は、明日樹に抱きしめられながら、
「……出ちゃうっ! 出ちゃうっ!」
 と叫んだ後、長々と射精した。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(254)

第六章 「血と技」(254)

「……ま。
 お前も、もう一人のコウヤなみにはモテるようになってきた、ってこったな……」
 というのが、夕食の支度をしながら、荒野の説明を聞いていた三島のコメントだった。
 ……いや、あっちは全員、損得勘定抜きの純粋な好意だし……といいかけ、昨夜、その手の言動がもとで女性陣の機嫌を損ねたことを思い出し、荒野は口を噤む。
 そこで荒野は、実際には口に出しては、
「……まだまだ、向こうの足下にも及びませんよ……」
 とかいって、謙遜してみる。
「……そういや……向こうも、今日は大変そうだな……」
 窓の方に顔を向けて、荒野はそう付け加えた。
 狩野香也の、バレンタイン……ちょっと想像しただけでも、いかにも無事ですまなさそうな気がする……。
「……とはいえ、お前さんも、他人の心配していられる身分じゃないだろ?」
 三島は、キッチンの墨に置かれた「チョコレートの山」をおたまで指さして、指摘する。
「……それの始末もあるし、今、ここに集まった人たちのこともある……」
「……いや、チョコは、甘いもの、嫌いじゃないんで、少しづつ片づけるつもりですが……」
「流石に、あれだけの量をいっぺんに食うと、血糖値が上がりすぎてあぶないからな……って、そういうこっちゃなくてっ!」
 荒野のぼけに、三島が律儀につっこみをいれた。
「……わかっているんだろ、お前も……。
 自分の足下にも、火がついてきているってことは……」
 三島は、にやにやと笑いながら、荒野に追い打ちをかけてきた。
「先生……。
 楽しんでますね?」
 荒野は、真顔で確認する。
「無論だ」
 三島は、即座に頷いてみせた。
「他人の不幸は蜜の味。
 というか、面白がらなくては、正直やってられん。
 お前の悩みというのはだな、一言でいえば、モテすぎて困るってこったぞ?
 ノロケか? イヤミですかそれは?」
「……そういう先生だって、昨日、喜んでチョコ作ってた癖に……」
 荒野は、うろんな目つきで三島を見返す。
「……先生、シルヴィの薬、どっぱどっぱ入れてましたよね……」
 荒野は、キッチンの隅に置いてあるチョコの山に視線を向けた。そこの中にある三島の特大チョコには「Oh! 義理!」とホワイトチョコで大書きされている筈だった。昨日、三島は、その「特大義理チョコ」とは別に、通常サイズのチョコを作っていたのを、荒野は確認している。そして、三島がシルヴィの薬をどっぱどっぱ入れていたのは、義理チョコではない方だった。
 まさか、自分で食べるものに、そんな薬を盛るとも思えないので……荒野は、三島からチョコを貰うことになった「被害者」に、心から同情する。
「……にひっ。
 にひひひひっ……」
 荒野が指摘すると、三島は気色の悪い笑い方をした。
「……そらぁ、もう、威力絶大でな。
 やつも、まだ若いから立ちは問題ないんだが、保ちと回数に少々難があってな。おかげで昨夜はひさびさにしっぽり堪能してずっぽりと腰が立たなくなるまで抜いてやったわ……」
 三島の隣で鍋をみていたシルヴィが、ぐっ! と、三島に親指を立ててみせる。
 ……可哀想に……早速、犠牲者がでたのか……と、荒野は、ぼんやりとそんなことを思った。
 ……三島みたいなのに捕まった男も、災難だよなぁ……と。
 そういえば、今日の三島は、荒野たちが徹夜明けで憔悴しているのとは対照的に、気のせいか肌がテラテラと精気にあふれ、輝いている。
 ふと、テーブルに座っている静流を見ると、心持ち頬を赤らめて、うつむいていた。
 ……この中では、静流が一番純真なのかな……と、荒野は思う。今まで親元にいたわけだし、気軽に遊びに出かけられる身でもなし……荒野を頼りにするくらいだから、おそらく、静流は生娘なのだろう……。

 その晩、三島が用意した献立は、塩鮭の焼き物に大根下ろしを添えたもの、ポークソテー、揚げ出し豆腐、アスパラガスの和え物、ほうれん草の煮びたし、しじみの味噌汁、だった。
 塩鮭は人数分あったが、普段でも人の三倍はふつうに食べる荒野がいるので、他の品目もかなり多めに作って大きめの器の盛り、取り分けるようにしていた。主菜がポークと塩鮭の二種類用意されているのは、三島以外は全員、徹夜明けでくたびれた顔をしていたからだろう。十分に栄養をとって休養しろ、という、三島なりの気配りなのだと、荒野は解釈した。
 こちらの食料の備蓄まで心配して買い出しにいってくれたり、こうしてなにかと料理を作ってくれたりするあたり、なにかと気が利くのだが……。
『……他の性格がなぁ……』
 と、三島について、荒野は思う。
 この人につき合わされているその男性というのも、さぞかし振り回されて迷惑しているのだろう……と、荒野は改めて想像する。
「……センセイの作るごはん、おいしいね……」
「……ほ、ほんと……」
 シルヴィと静流が、そんなことをいいあっている。
「「……い、意外なのです……」」
 酒見姉妹が、そう声を揃えた。
 全員、今までに三島の料理を口にする機会があった筈なのだが、そういう時はたいてい宴会のさなかであり、今回のように改めて、三島が作る場面をじっくりとみて味わう、という機会は、確かになかった。
「……茅も、先生に料理の基本、習ったんだよな……」
 荒野はマイペースで箸を使いながら、そんなことをいう。塩鮭は、ごはんが進む。みると、他の者たちも、荒野ほどではないにせよ、旺盛な食欲をみせていた。
「「……そうなんですか……道理で……」」
 酒見姉妹が、納得したように頷く。
 味付けが似ている……とでも、思っているのかも知れない。
「……それはともかく、だな……」
 三島が、荒野に向き直って、尋ねた。
「シルヴィに聞いたが、昨日はかなりお盛んだったそうだし、今日はこうしてグラサンのねーちゃんが来てる。
 お前らの一族ってのは、こういうの、ハーレム状態っての、アリになっているのか?」
「……あー……」
 荒野は、部外者の三島に分かりやすい説明の仕方を、少し考えた。
「……基本的には、当事者同士の意志が優先されますが……おれたちは、あれ、体や遺伝子も、資本ですから……」
「……自分たち自身の、ブリーダーを兼ねているようなもね……」
 シルヴィも、肩を竦める。
「……強くて優秀な子孫を得ることが出来れば、それだけ次世代以降が強化されるわけだし……」
 そう説明した後、「姉崎は、個体の能力をあまり重視してないけど……」と、付け加える。
「……文字通り、体が資本ってか……」
 三島が頷く。
「「……そうです……」」
 三島の言葉に、酒見姉妹が頷く。
「「六主家でも、特に加納は……本質的に、複雑なハイブリットですから……」」
「……どういうこった?」
 三島が、眉をひそめた。
「……先生には、詳しく説明してなかったけか……」
 と前置きしてから、荒野は説明を続ける
「……加納は、出生率が極端に少ない。
 受精率もかなり少ないし……仮に受精したとしても、その子供が加納の特性を受け継いで生まれる確率は、さらに少なくなる。結果として、今では加納は、絶滅寸前にまで人数が減っている……」
「それは、前にも聞いた」
 三島も、頷いた。
「で……その対策として、ご先祖様は、ばんばん縁組みとか種付けとかしてきたわけだ。加納の特性を受け継いだ子供が産まれなくても、縁組みとかが増えれば、それだけ加納の地盤は安泰になる。
 だから、一般人よりは、他の有力な血族との婚姻を重ねる……」
「……ああ……」
 三島は、ようやく納得がいったのか、大きく首を縦に振った。
「つまり加納は……結果として、何代だか何十代だかに渡って……他の一族の血を混ぜ合わせ、濃くしてきた、っと……」




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彼女はくノ一! 第五話(337)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(337)

 ついに、香也が明日樹の上にのしかかってきた。畳の上に手をついて、自分に体重をかけまいとしている香也の様子をみて、「……慣れているな……」と、明日樹は、複雑な気分になる。明日樹が異性の肌を身近に感じるのは、もちろん、これがはじめてのことだが、香也にとっては、たった今、目撃した通り、そうではない……。
「……んー……」
 明日樹にのしかかってきた香也が、明日樹の顔を覗き込むようにして、いう。
「……本当に、いいの?」
 香也は、心配そうな顔をして、明日樹にそう尋ねてきた。
「……あの……できれば……その……キス、とか……」
 香也の顔が、明日樹に近づいてくる。
『……あっ……』
 明日樹がドギマギしている間に、香也がさらに覆い被さってきて……気づくと、香也の顔がすぐそこに、ほんの数センチしか離れていないところに、あった。
 怖くなった明日樹は、反射的に目を閉じていて、その後、なま暖かいものが口唇に触れ、香也の吐息が頬をくすぐった。
『……あっ……』
 明日樹は、香也の首に腕を回し、下から香也にしがみつく。
 下腹部に、すっかり硬くなった香也の感触を感じると、自分でも自覚できるほどに、体が火照ってきた。特に、香也の硬いものが当たっている下腹部の、茂みの部分が、自分でもわかるくらいに、熱を持ってきている……。
『……やっ、やだ……』
 明日樹は、内心の狼狽をごまかすように、香也の首に回した腕に力をこめ、さらに、両足まで香也のこそに絡めて、香也と体を密着させる。
 全身で……正面から向かい合わせになった形で、胴体を密着させた。乳房が、香也の胴体と自分の胴体とで挟まれて、ひしゃげ、上半身の肌が密着して、香也の体温を、直に感じた。乳房が香也の正面と接触したことで、明日樹は、自分の乳首が硬く勃起していたことを自覚し、一人で恥ずかしい思いをする。
「……ふっ!」
 照れ隠しに、明日樹は強引に顔をそむけ、香也から口を離す。
 すると香也は、明日樹の顎に口をつけた。
「……あっ!」
 と、予想しなかった香也の挙動に明日樹が声をあげると、その隙を逃さず、香也が明日樹の口の中に、舌を入れてくる。
『……やっ!』
 口の中に侵入してきた香也の感触に、最初、明日樹は戸惑い身震いするが、すぐに目をきつく閉じたまま、香也の舌に自分の舌を絡めるようになる。
『……あっ! あっ!』
 明日樹は、香也の体に絡めた腕と足に、さらに力を込めて密着した。体の全面と口の中、今では、明日樹と香也の体は、これ以上はないというくらいに密着している。もはや明日樹は、自分の体温があがり心拍数が増えていることも、よく自覚していない。頭がぼうっとして、ただただ、もっと全身で香也のことを感じたかった。明日樹は、香也の首に腕を回し、口を吸いながらもぞもぞと身じろぎする。そうすると、熱くて硬い香也の分身が、自分の股間に擦りつけられて、奇妙な気分になる。そこの感触によると、香也のソレは、明日樹が漠然と想像していたのよりはずっと硬くて大きい、ということがわかった。
『……こんなのが……』
 長々と口を吸いあい、唾液を交換した末、ようやく明日樹は香也の口から顔を離す。
『全部……入る……自分の中に……』
 顔を離した明日樹の顔は紅潮し、目は霞がかかったように潤んでいる。この段階で明日樹は、理性と思考能力の大半が性的刺激と興奮により麻痺しており、「もっと香也を感じたい」という動物的な欲求につき動かされるだけの存在と化している。薬物とこれまで楓らに加えられた刺激によってたかぶったところに、香也と裸で抱き合っている、という今現在の境遇がだめ押しになって明日樹の正常な思考能力を奪っていた。明日樹は、もぞもぞと腰を動かし、自分の股間を香也の局部に押しつけ、そこの感触を楽しんでいたが、そうした事実でさえ、本人はあまり明確に意識していなかった。
「……んー……」
 ほんの少し顔を離した香也が、明日樹にいった。
「本当に……いいの?」
 ……明日樹は言葉で答えるのが恥ずかしかったので、照れ笑いを浮かべながら下に手を伸ばし、香也のモノを指でそっと掴む。明日樹がソコに触れると、香也はビクリと小さく体を震わせた。もちろん、明日樹は、勃起した男性自身を触れるのは、これが初めてである。初めて触れる香也のソコの表面には太い血管が走り、どくどくと脈打っており……ひどく、熱い。
 明日樹がしようとしていることを察した香也は、軽く腰を浮かせて協力してくれた。おかげで、明日樹が香也の根元をそっと摘み、その先端を自分自身の入り口に当てる作業は、かなりスムースに行われた。恥ずかしいことに、香也の先端にあてがわれたそのあたりの陰毛は、明日樹の中から出てきた液体で湿って濡れている。
「本当に……いいの?」
 香也が複雑な表情をして、再度、明日樹に確認する。
 明日樹は、やはり言葉で答えるのが恥ずかしかったので、小さく頷いて目を伏せた。
 それを了解の意味とみたのか、香也が明日樹の上で、少しづつ体重をかけてくる。
「……んんっ!」
 明日樹は、香也が自分の肉を割って入ってくる感触に、自分でも気づかないうちに大きな声をあげていた。
「……あっ!
 ああっ!」
 メリメリと肉を割って香也が入ってくる感触。
 痛いとか痛くないとかいう以前に、自分がそこから股裂きにでもあって、力任せにまっぷたつに引き裂かれてるような感触だった。
 どこかで、楓が「体中の力を抜いて」とかなんとか、明日樹にいっている声が聞こえるが、今の明日樹には、かなり遠くからの声のように感じる。
「……やめる?」
 気づくと、香也が動きを止めて、明日樹に尋ねていた。
 明日樹は目尻に涙をためながら口を堅く閉じ、いやいやをするように首を左右に振る。
 自分でも、このまま続けて欲しいのか止めて欲しいのか、よくわからない。それに、香也がわざわざそう聞いてくる、ということは、まだ全部入っていないということで……。
 明日樹は、ちらりと視線を自分の股間に走らせ、確認した。
 香也のソコは……まだ大部分、外にでていた。つまり、まだほんの先っぽが入っているだけであり……。
 明日樹は、下唇を噛んで、香也の肩に抱きつく。
 そして、香也の耳元で、
「……このまま、最後まで……」
 と、小さな声で囁いて、香也にしがみついた。
 香也にぎゅっとしがみつかなければ、自分がすぐさま逃げ出してしまうような気がした。

 香也は、明日樹にしがみつかれながら、ゆっくりと体重をかけて明日樹の中に侵入してきた。
 明日樹は、自分でも気づかないうちに「……ああっ! あーっ、あーっ、あーっ! ……」と絶叫をあげながら、力一杯、香也の背中にしがみつく。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(253)

第六章 「血と技」(253)

「……ええっと……」
 荒野は言葉を濁しながら、ちらりと壁に掛かった時計の針を読む。茅たちが帰宅する時刻まで、まだかなりの時間があった。
「いや……お気持ちは、うれしいっすけど……」
 荒野は、対面している静流の顔を見ながら、しどろもどろに答える。
 これが、例えば、荒野のことを「加納本家の跡継ぎ最有力候補」としか見ないような相手なら、あるいは、荒野の容姿だけをみて言い寄ってくるような女性なら、まだしも適当なあしらいようがある。
 しかし、静流は、現在、顔を赤くしながら荒野の返答を待って畏まっている様子をみても……そのどちらでもない、と断言できた。
 そもそも静流は、その出自こそ野呂本家、ではああるが、生まれながらの障害によって、最初から出世レース的には「番外」扱いになっている。また、視覚に障害がある静流が、荒野の「容姿」を気に入る可能性も、皆無に等しい。
 つまり……どうみても、静流は本気だった。
「……お、おれには……その、もう、茅がいるし……」
 荒野は、かろうじてそう続ける事が出来た。
 自分でいれたコーヒーと静流のお茶を立て続けに飲んだばかりだというのに、喉がからからだった。
 これまで、その手の、男女間の駆け引きについて、ほとんど経験らしい経験もない荒野は、こうした局面に極端に、弱い。
「そ、それは、知っていますが……」
 静流は、その程度では引かなかった。
「あ、姉崎さんや、酒見さんたちはよくって……な、何故、わ、わたしが、駄目なんでしょうか?」
『……もう、伝わっているしっ!』
 荒野は内心で絶叫する。
 シルヴィとのことはともかく、酒見姉妹との具体的に「関係」したのは、つい昨晩のことである。その「情報伝達速度」は、まさしく「驚異」の一言につきたが……荒野は、女性同士の噂話しネットワークの効率について、著しい過小評価をしていた。ましてや、「情報」を扱うのに長けているのは、一族共通の性質であり、さらにいうと、荒野は自分で意識している以上に、この土地に流れ込んできた一族の者の注目を浴びている……。
 じわり、と、荒野の額に、冷や汗が浮かんだ。
「……えっと、それは、その……」
 返答に詰まった荒野は、話題を変える。
「し、静流さん、さあ……。
 野呂の中で、縁組みとかそういう話しなかったの?
 例えば、ほら、のらさん……良太さん、なんて、年齢周りからいっても、実力からいっても、十分に野呂本家の跡継ぎになれると思うけど……」
 野呂良太は、早くに両親を亡くして以来、その素質を見込まれて、野呂の本家で育てられていた……と、荒野は、聞いている。
 おそらく、「将来的には」静流との縁組みも、考えていたのだろう。そこまで考えいなかったら、わざわざ本家で引き取る、ということもなかった筈だ。
 一族は多数の養成所を運用しており、甲府太介がそうであったように、一族の縁者で孤児になったものは、通常はそこに預けられるシステムになっている。その程度の厚生福利も整備できなければ、安心して危険な任務につけない。
「……に、にいさまは……き、嫌いではないですが、か、家族同然に育った間柄ですし……い、いまさら、そ、そういう気持ちにならないのです。
 そ、それ以前に、ああいう人ですから……しょ、しょっちゅう姿をくらましちゃう、ふ、風来坊ですし……」
 ……そういえば、あの人……この一ヶ月前後、全然、連絡つかないよな……と野呂良太の近況を、荒野は思い出す。
 例の三人組が来て以来、荒野は野呂良太に渡された連絡先に何度か接触を試みているのだが、今まで、まったく反応がなかった。
「……いわれてみれば……本家の跡取り、って柄ではないか……あの人……」
「……こ、困ったことに……に、にいさまみたいな人が、野呂の中では、デフォルトな多数派なのです……」
 独立独歩の気風が強い、といえば聞こえがいいが、ようするに「自分勝手で、組織への帰属意識が薄い」のが、大多数の野呂の心証だ。
 竜斎のような男が長をしていられるのも、実力があることは当然の条件にしても、あれで「長としての仕事」は恙無くこなしているから……という理由が大きい。
 個体数が絶対的に少ない加納や佐久間に比べ、潤沢な人員はいても、組織としてとりまとめる中枢の人材が極端に乏しい……というのが、野呂の、慢性的な「問題」だった。
「……か、茅様のことは、わ、弁えているのです……」
 静流は、どもりながらも、まっすぐに自分の意志を荒野に伝える。
「そ、それでも……は、半端な殿方よりは、こ、荒野様の方が、す、数倍ましなのです……。
 あ、姉崎さんと同じく……せ、せめて……こ、子供だけでも……」
「……あー……」
 荒野は、進退窮まった気分になった。
 実は、「血を残すための、より強い子孫を残すための、かりそめの縁組み」というのは、一族の中では、決して珍しい風習ではない。
 ことに、個体数が激減している「加納」という集団のことを考えると、荒野がタネをばらまいて、子供を作る機会を増やすことは、歓迎こそされ、非難されることはない、と、断言できる。そうまでしても、加納の因子を受け継ぐ子供ができる可能性は、かなり低いのであった。
 しかし、個人的な心証として、まったく納得のいかない荒野は、さんざん、断る理由を頭の中で探したあげく、
「……茅に相談してみます……」
 などと、尻切れトンボの結論しか出せないのであった。
 静流に女性としての魅力がない、ということではなく、荒野自身の気持ちでいえば、「……これ以上、ややこしい状態になりたくないぞ……」というところであった。

 そんなやりとりとしているうちに、インターフォンが鳴る。
 荒野は、どこか救われたような気分になって、玄関に向かった。
「……よう、荒野」
 荒野が玄関を開けると、三島とシルヴィが、各種食材の入ったビニール袋をぶら下げて、突っ立っていた。
「喜べ、感謝しろ。
 シルヴィに、昨日、ここの冷蔵庫を空にしたって聞いてな。気を効かせて買い出しに入ってきてやったぞ……」
 三島は、そんなことをまくし立てながら、荒野が招き入れたわけでもないのに、ずかずかと室内に入ってきた。
「……おやっ?」
 キッチンにまで侵入して、そこではじめて、ちょこんとテーブルについている静流を発見し、テーブルの上に置かれたチョコの包みと静流を等分に見る。
 三島は、ゆっくりと荒野を振り返り、意味ありげに「にひひいひひっ」っと、笑った。
 荒野は、これ見よがしにため息をついた。
「……先生が何を想像しているのか、かなり具体的に想像してますが……。
 ……いや、まあ……。
 その想像も、かなりのところ、当たっているのといえば、当たっているんですが……でも、それでも違っているところがあって、特に、おれ、疚しいことなんて一切してなくて……」
 途中でどう説明したらいいのか、混乱してきた荒野は、
「……ああっ!
 もうぅっ!」
 と叫んで、
「……そもそも最初から、詳しく説明します。
 ほら、食料冷蔵庫にしまって、席についてっ!」
 と、いった。

 一通りのことをシルヴィと三島に説明し終わった時、茅が酒見姉妹を伴って帰宅した。
「……久しぶりに、腕を振るってやっか……」
 と三島が立ち上がり、その場にいた全員で、その日の夕食を囲むことになる。
「……何が食いたい?」
 と三島がリクエストを求めた時、荒野は、
「超極辛のカレー以外なら、なんでも」
 と即答する。
 酒見姉妹が、荒野の言葉にこくこくと懸命に頷いていた。

 みんなで手分けして食事の支度をしながら、荒野は茅に向けて、三島とシルヴィにした説明を繰り返す。




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彼女はくノ一! 第五話(336)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(336)

 こうして明日樹と香也は、お互いの性器を晒して向かい合わせとなった。明日樹は性的な興奮のためであり、香也は慣れない運動にいそしでいたから、とそれぞれ理由は違っても、二人とも、息が荒いことには代わりはない。明日樹の方は、矢継ぎ早に性的な刺激を矯正され、はやまともな思考ができない状態にあった。香也の亀頭を目前に突きつけられても、自分がそれを恐怖しているのかどうか判断できないほどに思考が麻痺している。いや、怖いことは、怖いのだが……。
「……ほら、おにーちゃん、ここ……」
 ガクがそういって、明日樹の陰唇を指で押し広げ、背後からは「……香也様にして貰わないと、死んじゃうんですよぉ……」という、クスクス笑い混じりに声が聞こえてくると……なんだか、今、自分が置かれている状況自体が、ひどく馬鹿げた夢であって、とにかく、現実離れしているように思えてきた。
 悪夢というか、淫夢というか……。
「……んー……」
 非現実的なこの場面の中で、香也だけの態度だけが、いつもの通りだった。たとえ、全裸で完全に勃起した陰茎を振り立てていたとしても……香也は香也なのだ。
「そう、いわれても……無理矢理にするのは、駄目だと思うし……」
 香也は、のんびりとした口調でそういって、明日樹に背中を向けようとする。
「……あっ……」
 明日樹は、反射的に背中を向けようとした香也に向かって、手を延ばそうとする。この時の明日樹は多人数で押さえつけられている状態で、当然のことながら、香也の体まで手は届かなかったわけだが……。
「……あれ? おねーちゃん……」
 テンが、めざとく、弱々しく香也に向かって手をあげた明日樹の動きを見つけ、指摘する。
「……ひょっとして……おにーちゃん、欲しいの?
 駄目だよ、ちゃんといわないと……ボクだって、まだやってないんだから……」
 そういいながら、テンは立ち上がり、香也の背中にもたれ掛かる。
「……ね……おにーちゃん……。
 今度は、ボクにして……。
 ボク一人だけ仲間外れなんて、やだよぉ……。
 まだ、こんなに硬いし……大丈夫だよね……」
 後半は、香也の目をまともに覗き込みながら、香也の股間に手を延ばしながら、かすれた声で、香也に懇願する口調になっている。
「……ほら……」
 その時、孫子の囁き声が、明日樹の耳元で、した。
「……欲しいものは欲しいといわないと……他人に、取られちゃいますわよ……」
 明日樹は、孫子の吐息がくすぐったいのと、自分が何を欲しているのか明確に意識をすることを忌避して、いやいやをするように首を横にする。
「……このまましないと……樋口さん、死んじゃうんですよぉ……」
 今度は楓が、後ろから明日樹の耳元に囁いた。
「それとも、明日樹さん……香也様とするのが、いやなのですかぁ……」
「……ここ……こんなにしている癖に……」
 ガクが、自分で押し広げた明日樹の中心に指を添え、すうぅっと下から上に向かって、動かす。押し広げられた「中」を経由して、最後に上部にある硬くなった突起にガクの指が触れると、明日樹の全身がびくりと震えた。
 そうこうしている間にも、テンは香也の前にひざまづき、香也の股間あたりで頭を前後させはじめる。香也がこちらに背中をむけているので直にはみえないが、ぴちゃぴちゃと水音がするので、テンが口で香也の奉仕をしているのだろう……と、容易に想像がついた。
 直接目にみえない分、つい先ほど、ノリが同様のことをしていた光景を思いだし、明日樹は自分でも知らない間に身震いしている。
「なに、物欲しそうな顔して……」
 ガクが、明日樹の中心を指先で上下に刺激しながら、そんなことをいう。
「本当は、あすきーおねーちゃん……おにーちゃんが欲しいんでしょ……」
 明日樹は硬く口を閉じ、「……んんっ!」とうめくだけで、明確な返答を拒んだ。
 その時、香也の股間にとりついていたテンが、「……ぷはぁっ!」と口を離した。
「……きれいになったし、元気になったぁっ!」
 といいながら、テンは立ち上がり、香也に抱きつく。
「……おにーちゃんっ!
 あすきーおねーちゃん、おにーちゃんとするのがいやだっていってるから、ボクにしてっ!」
 テンのその言葉を聞いた途端、明日樹は「……あっ!」と、声をあげていた。明確に、テンの言葉に対する反発、ないしは、非難の響きが籠もっている、「……あっ!」だった。
「……ほら、素直にならないから……」
 再度、孫子が囁く。
「いつまでもそうしていると、永遠にあなたの番は回ってきませんわよ……」
 悪魔の囁きだ、と、明日樹は思う。
 明日樹だって、これまでに香也とそうなることを、まったく夢想しなかったわけでもない。
 しかし、このような状況は……まったくの、想定外だった。
 もっとロマンチックな雰囲気で……とは、いわないまでも……そういうことは、最低限、二人きりでするものなのではないだろうか?
「……おにーちゃん、無理矢理はいやだっていっているし……ほら、このままだと、次はテンになっちゃうよ……」
 香也に抱きついたテンは、身長差があるため、香也の首に抱きつくようにして、長々と口唇を重ねている。口唇も重ねながらぞもぞとした動いていることで、ただのキスではなく、舌を入れあっているのがわかった。
 明日樹は、自分でも知らずに固唾を呑んでいる。
「……ほ……欲しい…」
 誰かの、かすれた……というより、嗄れた声が、聞こえた。
 聞き覚えのある声だ、と、よくよく思い返してみると、それは明日樹自身の声だった。
「……欲しい。欲しい。欲しい。欲しい……」
 一度口にしてみると、後は堰を切ったように、そんな言葉が自分の口からとどめなく出てくる。
 香也に、抱きしめてもらいたい……口を吸ってもらいたい、それ以上のこともしてもらいたい……と、これまで必死で押さえつけてきた自分の欲望が、心の奥底からあふれ出てきた。
「……狩野君っ!」
 明日樹は、束縛を逃れて、香也の足下にすがりついた。
「……わたしにも……して……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(252)

第六章 「血と技」(252)

 樋口大樹をリビングに通すと、荒野はチョコのはいった紙袋をテーブルの上に置き、コーヒーメーカーをセットしてから別室に引き上げ、手早く着替えてからリビングに戻った。
 リビングでは、大樹がチョコを紙袋からだ出してテーブルの上に並べ、数えている最中だった。
「……これ、全部食うんですか?」
 着替えてきた荒野に気づくと、大樹は顔をあげてそう尋ねる。
「食べるしか、ないだろう」
 荒野はそう答えてから、
「……これだけの量だと、いっぺんに、っていうのは、無理だけどな……。
 まあ、少しづつでも……」
 と、付け加える。
 荒野は、甘い物は好きな方だが、血糖値が急激に上がりすぎるのは、実はかなり危険だったりする。
 そんなことをいいあいながら、ちょうどできあがったコーヒーを二人分、マグカップに注ぎ、大樹と自分の前に置いてから、荒野は持参したレポート用紙に、今日、チョコをくれた女生徒たちの中で、名前を知っている者のリストを書き出しはじめる。一年生と二年生に関しては、かなりの人数、学校に転入前にチュエックしているので、顔と名前程度を覚えている生徒は、多かった。それにくわえて、チョコ講習に参加した生徒についても、だいたい名前を覚えている。荒野は、一度でも面識がある人物については、出来る限り、顔と名前を記憶するようにしていた。
「……こんなに……」
 荒野の手元をのぞき込んで、荒野が何をしているのか察した大樹が、そういって絶句している。
「……お返しをする習慣があるとは思わなかったんで……こんなことなら、名前を知らない子は、貰う時に確認しておくんだったな……」
 荒野は、なんでもない口調でそんなことをぼやきながら、カリカリとレポート用紙を埋めていく。
 しばらくその作業に没頭して、不明分が多少残ったとはいえ、大部分のチョコの送り主を特定することができた。
「……だけど、本当に、すごい数っすねぇ……」
 荒野がその作業をしている間にも、大樹は、リストとチョコの山とを見比べて、何度も同じことをいって感心している。
「この人数だと……うちの女子の、七割以上じゃないっすか……」
「大部分は、義理とかその場のノリとか……流行に乗り遅れまいって、感じじゃないのか?」
 荒野は、冷静にそう分析する。
「おれ、目立つし……玉木経由で、いろいろやったし……」
 あんな目立ち方は、もう二度したくはない……と、荒野は思っているわけだが。
「……そういや、未樹ねーのチョコには気をつけた方がいいっすよ」
 大樹が、不意に真面目な顔をしていった。
「去年、おれが貰ったチョコには、唐辛子と豆板醤が練り込まれてて、ひどい目にあいましたから……」
 ……未樹がそんないたずらをするのは、弟相手の時に限るのではないか……と、荒野は思ったが、賢明にも、この件については何もコメントしなかった。

 そんなことをしているうちに、インターフォンが鳴る。
 荒野が玄関で確認すると、犬を連れた野呂静流が一人で立っていた。
「……よかったら、そのワンちゃんも一緒にどうぞ……」
 荒野はすぐにドアを開け、静流を中に招き入れる。
「その子に、ミルクでも持ってきましょうか?」
「お、お構いなく、です……」
 静流は呼嵐を玄関に置いて、「お、おじゃまします……」と一礼してから、室内に入っていった。

「……こ、コーヒーの香り……で、でも……冷めかけているのです……」
 荒野がサングラスをかけて白い杖をついた若い女性を伴ってリビングに帰ってきたので、大樹が立ち上がりかける。それを手で制して、荒野は静流にいった。
「そうです。
 お湯を用意しますか?」
 荒野は、静流がいいそうなことを予測し、先回りをして、そういった。
「お、お願いします……。
 そ、それから、そこの、お、お友達も、よかったら一緒に……」
「本当に、お邪魔じゃないっすか?」
 静流にもそういわれ、一度立ち上がりかけた大樹は、複雑な表情で座り直す。
「まあ、お茶くらい、飲んでいけ」
 荒野は、お湯を沸かす準備をしながら、大樹に向かって、そういった。
「きっと、びっくりするから……」

「……えっ!」
 静流が慣れた手つきで用意したお茶を一口、口に含んだ途端、大樹は、椅子の上で数センチほど飛び上がった。
「……これ……本当に、お茶なんですか?」
 目を見開いて、本気で驚いていた。
「……こ、今度、お店を出すのです……。
 よかったら、どうぞ……」
 静流は、すかさず大樹の前に、ポケットから出したチラシを置く。
「もうそろそろ、開店ですか?」
 荒野が、静流に聞いた。
「お、おかげさまで……」
 静流が、頷く。
「さ、才賀さんが、いろいろ動いてくれたおかげで、じゅ、準備も、だいぶん、はかどりました……」
 孫子は、近郊の料亭や茶道家元、少し高級な客層の料理店などを静流に紹介し、結果として静流はかなりの固定客を掴むことになった、と話した。
「て、店頭売りは、ゆっくり時間をかけて、客層を開拓していくしかないですが、そ、その前に、いくらかの収入源を確保できたのは、お、大きいのです……」
「いや、いくら才賀でも、扱っている品物がよくなければ、口利きもできないでしょうから……半分以上、そこまで準備をしていた静流さん自身の功績ですよ……」
 荒野は、謙遜する静流にそう答えた。
「お店は……商店街の、ちょっと裏にいったところっすね……」
 大樹が、たった今、貰ったばかりのチラシを見ながら、確認する。
「……は、はい……。
 つ、都合よく、空いているお店がありましたので……。
 しょ、商店街のイベントも、今日までだそうなので……明日から、か、開店にむけて、ほ、本格的な改装工事に、入ります……」
 吃音はあるものの、静流は流暢に答える。
「商店街、今まで騒がしかったでしょ?」
 荒野が、そんなことをいう。
 荒野は以前、静流が、「店の二階が住宅になっている、古い建物を借りた」と聞いていた。犬もいることだし、その方がなにかと都合がいいのだろう。
「……は、はい……。
 で、でも……ああいう賑やかさは、嫌いでは、ないのです……」
 静流は、そういって、頷く。
「そ、それに……お店をはじめる以上、そ、そういうのには、な、慣れないといけませんから……」

 静流のお茶を飲み終え、大樹が、
「……それじゃあ、おれ、そろそろ帰ります……」
 と腰をあげる。
 遠慮している、というのも多少はあるのかもしれないが、大樹は大樹なりに、一族方面の人や出来事には、出来るだけ深入りしないように心がけている節がある。今までの大樹の挙動をみていれば、その程度のことは、容易に推測がついた。荒野の態度から静流も「そちら方面の人らしい」とあたりをつけて、早々に退去することにしたらしい……と、荒野は予想する。荒野は、そうした種類の慎重さを、むしろ好ましく思う方だったので、黙って大樹を見送った。

「……それで、ご用件は、なんなんです?」
 玄関まで大樹を見送って戻った荒野は、いよいよ本題を切り出す。
 静流がわざわざ足を運んだ以上、相応の用件がある、と考えるのが、普通だった。
「……そ、そう、畏まられても、こ、困るのですが……」
 荒野が改めて切り出すと、静流はせわしなくあたりを見渡し、挙動不審になった。もちろん、強度の弱視である静流が、何かを見るとか探すとかで首を巡らすことは、ない。
 つまり、静流は、珍しく動揺していた。
「……あ、あの……こ、これを、あげるのです……」
 静流は、腰のポーチから、ラッピングされた小箱を荒野の前に差し出す。
『……静流さん……も、か……』
 完全に虚をつかれた荒野は、その場でしばらく硬直した。
 まるで、予想していなかった展開だった。




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彼女はくノ一! 第五話(335)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(335)

「……ノリちゃん……大丈夫?」
 締め付けのきついノリの中に侵入しながら、香也はノリを気遣う。前に、ガクの貞操を奪った際に感じた、罪悪感にも似た気持ちを、香也は思い起こしている。いい加減な気持ちで女性を、それも、年端も行かない少女を抱くことに、香也はかなり強固な抵抗を感じているのだが……。
「……大丈夫じゃないけど……」
 ノリは、涙をためた目で、香也を見上げた。
「……おにーちゃんの方が、痛そうな顔をしているし……それに、ボクだけ仲間外れなんて、いやだし……」
 ……結局、香也が懇願に負けた形だった。
 仮に、今回、なんとかやり過ごしたとしても……彼女たちは、いずれ機会を伺って、香也と関係を持とうとするだろう。彼女らの誰かと本気でつき合う覚悟ができないうちは、出来るだけ逃げ回るべきだ、という方針を変えるつもりはなかったが、だからといって、ここまで追いつめられた状態から拒否するのも、なんだか相手を傷つけるようで、香也は気が進まなかった。
 女性でない香也は、性行為によって自身から失われるものは、あまりない……と、考えている。逆に、彼女たちは、何を失っても、香也との絆を深めることを、欲している。何故か、という動機の部分は、香也に理解できる領域ではないが……その真剣さ、切実さは、感じ取ることが出来る。
 で、あれば……香也の側も、真剣に対処しなければならない……という思いに、香也はかられていた。
 香也は、畳の上に寝そべったノリを、正面から指し貫き、体重をかける。めきめきと音をたてているのではないか、と思うくらい、ノリのそこは硬い。硬いノリの中を、硬度を保ったままの香也がゆっくりと侵入していく。香也は、例の薬の作用もあるのだろうが、孫子との交合の際も射精にいたらず、息も絶え絶えに孫子が離れてからも、まだ余裕があった。
 香也の侵入が深くなるにつれて、香也の体の下でノリがうめき、身をよじる。

 そんな様子を……明日樹は、すぐそばで見ていた。楓、孫子、ガク、テンの四人がかりで体の各所を同時に刺激され、かなり呼吸と鼓動を早くしているのだが、本人にはその自覚はない。いや、自分の体に変調が起きているのは十分に感じているのだが、それを薬物のせいにしている……というべきか。
 必死に理性を保とうとする明日樹も、股間にとりついたガクが陰唇を押し広げ、その中に舌を差し込んで舐めあげると、流石に声を上げて、首を後ろに反らしてのけぞった。
「……あぅっ。あぅっ……」
 とか、喘ぎ声をあげている自分の声を、どこか他人事のように聞きながら、明日樹は、薄目を開けて、ノリの上でゆっくりと上下する香也の姿を、見逃すまいとした。
 香也は、動きやすいようにするためか、ノリの腿の上に両手を置き、体重をかけて押し広げていたので、ノリの白い体の中心、薄い陰毛の中に、そこだけ別の生物のような香也の分身が出入りする様が、よく観察できた。
 香也の動きは、ノリを気遣ってか、最初のうちごくゆっくりとしたのものだったが、途中からノリが、
「……動いてっ! おにーちゃん、ボクを壊してっ!」
 と叫ぶと、途端に、凄い勢いで、ノリの上で上下に動きはじめた。
 ノリは、
「……うわぁっ!
 うわぁぁぁっ……」
 と悲鳴を上げ、泣きながら、それでも、下から香也の背中にしがみつく。
 ノリが香也にしがみついたので、結合部は明日樹の視界から隠れたが、香也の動きはますます激しくなり、ノリは、苦悶の表情を浮かべながらも、
「……もっとっ! もっと、ボクの中で暴れてっ! ボクをおにーちゃんのものにしてっ!」
 とか、叫ぶ。
 そのううちノリは、
「……壊れちゃうっ! 壊れちゃうっ! ボク、おにーちゃんに壊されちゃうっ!」
 とか、叫びながら、香也の背中に回していた腕の力を緩め、ぐったりと動かなくなった。
 香也は、それ以上、ノリを攻めようとはせず、ノリの中から分身を抜いて、膝立ちになる。
 ノリの中から出て来た香也の分身は、若干の血と透明な液体にまみれ、湯気を立てて、そそり立っていた。
 香也は、膝立ちになったまま、荒い息をついている。

 それらの情景をつぶさに観察しながら、明日樹は、特になんの感慨も持たなかった。というより、何かを考える余裕が、今の明日樹にはない。
「……んんっ! あくっ! ふぁっ! や、やめっ!」
 股間にガク、乳房に孫子とテンがとりついて、口と指とで明日樹を責め立てていた。
 香也から目線をはずさないようにするだけでも、かなりの意志の力を必要とする状態で、事実、明日樹は、せわしなく身悶えし、責め立てられる快楽から理性を守ろうと、冷静になろうと意識を傾けるのに精一杯で、「何かを考える」という余裕がある筈もなかった。
 明日樹はもはや、本当にこの状態を止めさせたいのか、それとも、いつまでも続いて欲しいと思っているのか、にわかに判断できないほどに、意識を溶解させている。
 明日樹は、ぐったりとしたノリから体を離した香也が、しばらく息を整えてから、自分の方に向き直るのを、混濁した意識の中で、他人事のようにぼんやりとみつめていた。
 香也は、血のついた陰茎を立てたまま、複雑に絡まっている明日樹たちの方に近づいてくる。
「……あっ! 香也様……」
 最初に香也の接近に気づいたのは、明日樹自身を除けば、明日樹の背中を支えている楓だった。
「まだ……足りませんか?
 それなら、わたしが……」
 首や耳にかかる楓の息が、熱い。
 今では、明日樹も、楓が香也に貫かれる期待に火照っている、ということが理解できた。経験のない明日樹にとって、そういう……貫かれている状態、というのは、想像の域でしかないのだが……明日樹は、そそりたった香也の陰茎から、目が離せないでいる。
「……わたくしも、香也様を、まだまだ欲しいのですけど……」
 すぐ耳元で、孫子の声がした。
 孫子の声は、冷静なようでいて、どこかねっとりとした、湿ったような質感も伴っている。
「ここは、樋口さんの番では、ないでしょうか? わたくしたちと同じ立場になれば、ここでのことを口外できなくなりますし……」
 ……もっとも、本人がそれを望めば、ですが……と付け加え、孫子はクスクスと笑った。
「……おにーちゃん……おねーちゃんのここ、もうすっかり準備できているよ……。
 ほら。
 おにーちゃんの欲しがって、ひくひく動いている……」
 明日樹の股間にとりついていた、ガクが身をどけて、明日樹の股間を香也の目に晒す。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(251)

第六章 「血と技」(251)

「才賀、頼みがある」
 放課後になると、荒野は真っ先に孫子に声をかけた。
「持ちきれないチョコ、囲碁将棋部の部室に保管させてくれ」
 帰り支度をしていた孫子は、たっぷり三十秒、荒野の顔をまじまじとみつめる。
「……そんなに……」
 ……いっぱい貰ったのか?
 という後半部を省略して、孫子は眉間に皺を寄せた。
「……少なくとも、おれのロッカーと机の中には、はいりきらなくなってきた……」
 荒野は、真面目くさった顔をして答えた。
「……あれだな。
 たぶん、おれという存在の物珍しさもとか、面白半分でくれた人が多いんだろうけど……。
 あと、この手のものって、包装紙とかが、意外にかさばるのな……。
 こういうもんは、くれた人の気持ちが籠もっているわけだから、気軽に捨てたり人にやったりするわけにもいかないし……」
「……それこそ……」
 孫子は軽くため息をついた。
「……手持ちの子分どもを呼びつければ済むのではなくて?
 一声、声をかければ、荷物持ちの程度の雑用、喜んでやるような手下には事欠かないでしょうに……」
「いや、おれ、必然性がないのに人に命令すんの、嫌いだし……」
 荒野は、ゆっくりと首を振る。
「……それに、こんな私用で他人を使う、っていうのもなぁ……」
 非常時ならともかく、平時に他人に命令をする、ということに、荒野はいつまでも馴染むことが出来ないでいる。
「……ねー、加納君……」
 自分の携帯をチェックしていた樋口明日樹が、荒野の方に振り向いた。
「それじゃあ、わたしも荷物持ちしようか?
 どうせ、帰り道、一緒だし……」
「……え?
 そうして貰えると、助かるけど……」
 予想外のところから援助の手を差し伸べられて、荒野は、今度は明日樹の顔をしげしげと見つめる。
「樋口……今日、部活は?」
「……んー……もう一人の方の狩野君が、体調悪いから直帰するっていうから、今日はお休み。
 一人で美術室いってもつまらないし……。
 あ。どうせなら、大樹も呼んで荷物持ちさせよう……」
 明日樹は、携帯に向かってメールを打ちはじめる。
「どうやら、その案件は片付いたようですわね……」
 孫子は、そういって自分の鞄を持って教室から出て行こうとした。
「わたくし、これから商店街の方で所用がありますの。
 いくらあなたでも、三人で持ちきれないほどのチョコは貰っていないでしょう?」
「……おっ、おう……」
 荒野は、曖昧に頷く。
「バラのままだと持ちにくければ、三島先生にでも相談すれば、ありあわせの紙袋くらい分けて貰えると思いますわ。
 それでは、ご機嫌よう……」

 孫子のアドバイスに従って、荒野は保健室に赴いて三島に適当な紙袋を分けて貰ってから、教室に戻る。その往復の間も、何度か女生徒(必ず、単独ではなく二名から数名の小集団だった)に呼び止められ、チョコを渡される。荒野はこの学校での自分の心証を好くしておきたかったので、にこやかに礼をいって受け取ると、三島から分けて貰ったばかりの紙袋の中に落とした。
 そんな感じで教室に着くと、
「……また、貰ったの……」
 と、樋口明日樹が、呆れた顔で出迎えてくれる。
「……あと、加納君がいない間に、義理チョコ、何人か置いていったから……」
 と、荒野の机の上の指さす。
「……荒野さん。おれの予想以上にもてますねぇ……」
 荒野がいない間にこの教室に来ていた樋口大樹が、感心した声を出した。
「まあ、目立つからな、おれ……」
 荒野は軽くいないして、樋口大樹に紙袋を渡す。
「そういうわけで、お前にもチョコを持たせてあげよう……」
 三島に貰った大きめの紙袋、五つを使って、なんとか全てのチョコを持ち運べる形にする。明日樹に一つだけ持たせ、荒野と大樹が両手にひとつづつ持った。重量的にはたいした荷物でもなく、いざとなれば荒野一人で軽々と持てるくらいなのだが、目立つ荷物を山盛りにして下校すれば、間違いなく見せ物状態になるので、樋口兄弟が自発的に協力してくれたことは、素直にありがたいと思った。

「……しかし、すごいっすね……」
 よほど驚いたのか、下校中も、大樹はしきりにそういっていた。
「どれくらい集まったんすか?」
「いちいち、数えてない。途中から、数えるのやめた」
 荒野は、憮然とした顔で答える。
「でも、ほとんど義理だよ。
 例の手作り講習に来た人たちが、お礼がてらにくれたのもあるし……」
「……ほとんどが義理にしたって、数が多すぎると思うけど……」
 明日樹は、曖昧に言葉を濁す。
「これ、ホワイト・デー、大変だね……」
「……ホワイト・デー?」
 荒野は、首を捻る。
「……あっ。知らない……っか……」
 明日樹はそういった後、大樹と顔を見合わせ、簡単に説明した。

「……なるほど……そういう日もあるのか……」
 一通りの説明を聞いた後、「……奥が深いぞ、日本文化……」と思いながら、しきりに頷く。
「わかった。
 そっちの始末は、その時に考えよう……」
「いや、でも……そのあたりは、学校休みだし……先輩たちは卒業しちゃっているし……そんなに真面目に考えなくてもいいかなぁーって気はするけど……」
 明日樹が慌てて付け加えた。
「全部義理なら、それでもいいんだけど……」
 荒野は、紙袋を両手に提げたまま、軽く肩を竦めた。
「ラブレターとか入ってたら、それなりに誠意のある対応しなけりゃ、やばいだろ……」
 妙なところで義理堅いところがある、荒野だった。

 マンション前で「コーヒーでも」と誘ったが、明日樹は何やら用事があるとかいって、そのまま紙袋を大樹に押しつけて帰って行き、残った大樹と荒野とで、マンションに入った。
 荒野にしても、昨夜のことがあったので、第三者がマンションにいてくれると何かと安心ができるのであった。





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彼女はくノ一! 第五話(334)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(334)

「……ほらぁー……。
 我慢しなくってもいいんですよぉー……」
 楓が乳首を摘みあげたので、明日樹は我知らず、声を上げている。
「……やっ!
 んっ!」
 自分の声は必ずしも嫌がってはおらず、むしろ、自然な媚態を含んでいるように聞こえたので、明日樹は内心でかなりドキリとする。
「……あすきーおねーちゃん、感度いいんだね……」
 それまで、大きく広げた明日樹の太股の内側に手を当て、まさぐっていたガクが、明日樹の内心を見透かしたようなことをいって、いよいよ茂みの中に指を這わせてきた。
「今でこんなのだと……ここを触ったりしたら、どうなっちゃうんだろう……」
 ガクが、明日樹の茂みの中に入れた指先を、陰唇の淵にそってなぞるように動かす。
「……んんんんんっ!」
 と、思わず明日樹は声を上げてしまう。
 そんな場所……明日樹は、自分自身でも、めったに触れない。
「……駄目っ!
 お願いっ! そんなとこっ! だ、駄目だってっ!」
 背中から楓に羽交い締めにされている明日樹は、じたばたと両足を動かしてガクを制止しようとするが、当然のことながら、明日樹が多少暴れたくらいでは、ガクの力で押さえつけられた明日樹の両足はびくともしない。
「……駄目っていったって……ほら。
 ちょっと開いただけで、とろーっと……」
 ガクは、両肩に明日樹の足を乗せ、顔を明日樹の股間に近づけ、半泣きになりながら「駄目っ!」とか「いやっ!」とか叫ぶのにも構わず、二本の指で明日樹の花弁を左右に開く。
「……ほら、中はすっかり濡れているし……」
 ガクの言葉通り、明日樹の中はすっかり湿っている。
 ガクが明日樹の局部に顔を近づけてしげしげと観察しだしたので、ガクの吐く息が、明日樹の内部、負担は外気に当たらない部分に当たる。
 ただそれだけの刺激で、明日樹は「……うひっ!」と小さな悲鳴を上げて、首を仰け反らせた。
『……あっ。あっ。あっ……』
 明日樹は楓とガクに絡みつかれて身動きがとれないまま、ノリが香也の男根を舐めあげる様をみる。ガクが頭を明日樹の股間に近づけたので、香也の目から明日樹の大事な部分が隠れたのが、せめてもの救いだった。
 しかし、明日樹の方からは畳の上に座ってノリに口で奉仕されている香也の全身は丸見えなわけで……ノリの唾液に輝いてそそりたつ香也の硬直は、明日樹の目からはかなりグロテスクにも見えるのだが、何故か、目が離せないのであった。
『……ノリちゃん……。
 あんなに、おいしそうに……』
 ノリは、恍惚とした表情を浮かべ、根元までくわえ込んだり、先の方を舌先でチロチロと舐めたり……と、香也の逸物を縦横に舐め続ける。慣れている……というより、夢中になっていろいろ試している、という感じだった。
 香也のモノを口で愛撫しながら、ノリ自身もかなり興奮しているらしく、ノリの頬から首筋にかけて、肌をピンク色にして紅潮させていた。
『……この子も……』
 しばらく見ない間に、ぐっときれいになったな……と、興奮でぼーっとした頭で、明日樹は思う。
「……樋口さんのお肌……すべすべ……」
 楓が耳たぶに息を吹きかけるようにしてそんなことを囁いてくるし、
「……ここんところを……こう、すると……気持ちいいんだよ……」
 ガクはガクで、明日樹の敏感な部分を、いよいよ本格的に弄りはじめるので、明日樹はどんどんまともな思考が出来なくなる。背中に当たる楓の乳房の柔らかさは、同性の明日樹にとっても心地好いものだし、耳元に息を吹きかけられたり、自分自身でも、今まで触れたことがないような「奥」にまで指でまさぐられる、ということによって、明日樹の余裕はどんどんなくなっていく。
 気づくと明日樹は、あられもない姿を香也に見られている、ということも意識しないようになり、「……あーっ! あーっ! あーっ!」と叫び声を上げながら首を左右に振りはじめ、それからすぐにびくびくと全身を痙攣させ、全身からぐったりと力を抜いた。
「……ありゃ? もう終わり?
 まだ全然、弄ってないのに……」
 ガクがいかにも物足りなさそうな顔をして、楓にもたれかかるようにしてぐったりとしてしまった明日樹を見上げる。
 ガクは、他人の体は……ことによったら、自分自身の体も……とりあえず、いろいろやってみて反応を楽しむためのオモチャ、くらいにしか認識していないのかも知れない。
「……だから……もぉ……駄目だってぇ……」
 目を閉じてぜはぜは荒い息をついていた明日樹は、薄目を開けて応じる。
「これ以上……は、怖いし……」
 自分の体が示した未知の感覚を真剣に恐れ、明日樹はかなり怯えている。
「……樋口さぁーん……。
 最後まで頑張ってくらさいねー……」
 楓が、ぐったりとした明日樹の体を抱き、髪に顔を埋めながら、呂律の回らない口調で励ます。
「……最後までやらないと、死んじゃうそうですからぁ……」
「……最後……まで……てぇ……」
 楓の言葉に反応した明日樹が薄目を開けると、いつの間に近づいたのか、香也が自分の上に覆い被さってくるところだった。
 真っ正面から完全に勃起した香也の陰茎を間近に見て、明日樹は「……ひぃっ!」と悲鳴をあげる。
「……口止めの必要もありますし……それに、香也様も、もう、収まりがつかないようですし……」
 香也の隣にいた孫子が、冷静な口調で説明し、香也のモノを手で持ち上げて、明日樹の股間に導こうとした。
「……やっ、やっ……こなんの、いやっ!」
 明日樹は、がたがた震えながら、首を左右に振って訴えた。今では肉の壁に囲まれているので、逃げることはおろか、身動きすることもままならない。
「……そっかぁ……じゃあ、あすきーおねーちゃんは、この次ねー……」
 そういってチョコを咥え、ガクが明日樹に近づいてくる。
 明日樹の首を両手で固定し、口移しで媚薬入りチョコを明日樹に飲ませてから、背後に振り返る。
「そういうことだから、ノリ、先に……」
「……うん。
 もう……んんっ!
 お……おにーちゃんの大きいのが……あっ! あっ!」
 明日樹の見ているすぐ目の前で、今度はノリが、香也に組み敷かれているところだった。
『……あっ……あっ……あっ……』
 明日樹は、至近距離でノリの性器の中に香也の性器がゆっくりと埋没していく様子を、目撃することになる。




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(250)

第六章 「血と技」(250)

「……荒野さんは、いっぱい貰いそうだな……」
 樋口大樹が、そう断言する。
「あんたは、全然駄目そうだけどね」
 大樹の姉である明日樹が、にべもない口調で続けた。明日樹は、身内である大樹には、意外にきつい。
「わたしと未樹ねーからの義理チョコだけだと思うよ、今年も……」
「……未樹ねーといえば……」
 大樹は、鞄の中からラッピングされた包みを荒野に差し出す。
「これ、預かってました。
 またお店に来てくださいね、って伝言つき……」
「……お礼、いっておいてくれ……」
 荒野は、自分の鞄の中にその包みをしまう。
 それから、誰にともなく、
「……あっ。
 これ、学校に持ち込んでも、大丈夫かな?」
 とか、言い出した。
「……もう今日は、持ち物検査ないよ。例年の調子だと……」
 飯島舞花が、請け負った。
「学校側も、本気でチョコ没収したいわけではなく……一種の、ポーズだな。
 あんまり浮かれるな、っていう……。
 先生の眼に止まるようなことがあれば、別だけど、普通に隠し持っているだけなら、わざわざ検査されたりしないから……」
「……そんなもんか」
 荒野は、なんの気なしに頷く。
 もとより、何気なく尋ねてみただけであり、本気で疑問に思ったわけでもなかった。
「そういや……そっちは、学校が引けてから?」
「そう」
 舞花は頷いて、栗田精一を指さす。
「チョコ渡すだけではつまらないから、これ、うちに泊まらせる」
「まーねーが何か言いだしたら、おれには拒否権ないんです」
 栗田もそういって頷いた。
「……ほとんど毎週末、舞花のマンションに泊まりにきているのに、よく飽きないな……」と、荒野は内心で思い、それから、「いや、それがつき合うということか」と、思い直す。
「……わたしらよりも、一年の堺と柏の方がすごいよ」
 荒野の顔に考えていたことが幾分なりともでていたのか、舞花がそんなことを言いだした。
「向こうは、家がお隣り同士で、ほとんど生まれた時から、ずーっと一緒にいるわけだし……」
 ……これでなかなか、飯島は人の表情を読むのが巧いし、細かいところに気がつく性格だよな……と、荒野は思う。
 少し離れたところでは、孫子と玉木が、「義理チョコ不合理論」で意気投合していた。この二人は、こと、経済的なことが絡む事柄については、よく意見が一致する。規模としては雲泥の差があるとはいえ、自宅が商売をしているので、自然とそういう方面に、敏くなってしまうのだろう……。
 荒野たちにとって、一晩中乱痴気騒ぎを経由しての朝だったわけだが、他の連中にとっては普段と何らかわることのない、ありふれた普通の朝だった。ただひとつ、いつもとの違いがあるとするのなら、その日が二月十四日、すなわち、聖バレンタインデーに当たっていたことだろう。一緒に登校する連中も、しきりにそのことを話題にしていた。
 荒野自身といえば、「……所詮、自分には縁遠い世界の話題だな……」とかいう認識で、適当に同行者たちの話しを聞き流したり口を挟んだりしている。
 もちろん、この荒野の認識は、間違いだった。そのことは、登校してすぐから思い知らされる。
 荒野には、どちらかというと、周囲に目を配ることに夢中になって、自分自身のことを意識からはずす、という奇妙な習性があった。
 知力体力、ともに、一般人はもとより、一族の水準からみても、かなり上回る潜在能力を持つ荒野は、たいていの窮地は、その場の判断で切り抜けられる、という、見ようによってはかなり傲岸不遜な自負を、ごく自然に保持している。だから、「自分の為に用心をする」という習性がない。また、荒野の前半生、つまり、荒野が、「この土地に来る前」の経歴も、その荒野の自負が正しいということを、証明してしまっている。
 しかし、従来の荒野の経験や判断力がまるで役に立たないタイプの危機があることを、荒野はすっかり失念していた。

 まず、学校に到着し、靴をはきかえようとして下駄箱を開けると、どさどさと色とりどりの包装紙やリボンに包まれた包みが、荒野の下駄箱の中から降ってきた。
 不意を突かれた荒野は、その場で硬直する。
「……わぁ……」
 樋口明日樹が、呆れたような声をあげる。
「すごいね、これ……。
 ええっと、ざっと一ダース以上、あるんじゃないかな?
 これ……」
 そんなことをいいながら、床に落ちたチョコを拾い集めにかかる。
「……茅ちゃんには、いわない方がいいな……」
 小声で硬直したままの荒野に囁いてから、舞花も明日樹の後を追うようにして、チョコを拾い集める。
「でも、人目というものがありますから……」
 そんなことをいいながら、孫子もチョコ拾いに参加した。
「……遅いか早いかの別はあっても、いずれ、あの子の耳に入ると思いますが……」
 ボランティアや自主勉強会の関係で、人前にでる機会が増えているため、今では茅も、全校規模の有名人だった。いや、知り合いの人数でいったら、今では荒野よりも茅の方が多いくらいだろう。
 ここで荒野は、ようやく硬直を解いて周囲を見渡した。荒野と目が合いそうになり慌てて視線を逸らした生徒たちが、二十名前後。
 二年生の下駄箱の前だったので、茅に直接、目撃されることはなかったものの……噂が流布するのをくい止めることは、事実上、不可能だろう……。
 古人曰く、「他人の口に、戸は建てられない」。
「……まあ、後で考えて、何とかするよ……」
 荒野はそういって鞄の口を開き、その中に、拾い集めたチョコを入れて貰った。
 鈍感というか、不用心というか、この時まで荒野は、「バレンタイン」なる行事に、自分自身が深く関わる可能性を、これっぽっちも想定していなかった。

 下駄箱での一件はまだまだ皮切りに過ぎず、荒野の受難はまだまだ続く。
 まず、教室に入って、鞄の中の教科書やノートを写そうと机の中を探ると、そこにもラッピングされたチョコが一ダースばかり入っていた。隠して持ち歩ける量でもなく、荒野は周囲の同級生たちの好奇の目に晒されながら、机の中のチョコを教室後部に設置されている、私物入れのロッカーへと移送する。その際、「……ここまで来ると、隠しても無駄だな……」と判断し、鞄の中のチョコもロッカーの中に放り込む。
 徹夜明けのせいだけでもなく、がっくりと疲れはてて自分の席に着くと、今度は「……他のクラスの女子が呼んでるぞ……」と、クラスメイトに声をかけられた。
 荒野がのろのろとした歩みで廊下にでると、三人組の女子が、きゃーきゃー黄色い声を発しながら荒野を出迎え、ひとしきり騒いだ後にようやく、三人同時に、きれいに包装された小さな包みを荒野の胸元に押しつけて逃走した。三人とも、クラスが別、ということ以上に、荒野とはあまり交渉を持つ機会がほとんどない生徒たちだった。小さな学校だから、流石に顔くらいは見覚えがあったが、その彼女たちとまともに口をきいた記憶というのが、荒野にはまるでない。
『……バレンタインって、確か、好意を持った異性にチョコをあげる行事では……』
 と、荒野は首をひねった。
 荒野の感覚でいえば、ろくに口を聞いたことがないのに、わざわざ手渡しにくる……という事実が、よく理解できない。
 荒野が苦笑いを浮かべながら、その包みもロッカーに放り込もうときびすを返すと、その背中に、声がかけられる。
 今度は、三年生の女子、五人組だった。その子たちは、
「……わたしたち、もう卒業だけど……」
 などといいながら、やはり荒野にチョコを押しつけて、キャーキャー騒ぎながら去っていった……。

 そんなことが、その日一日、ほとんど休み時間のたびに繰り返され……荒野は、その日、精神的に疲弊しきった。
 しまいには、昼休みに校内放送で保健室に呼び出され、そこで三島とシルヴィから特大チョコを押しつけられたりもした。

 そんなわけで、荒野にとって、その日、聖バレンタインデーとやらは、厄日というか天災というか……ともかく、非常に疲れる一日となった。




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彼女はくノ一! 第五話(333)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(333)

「……あっ、あの……」
 自分の胸元とか股間とかを懸命に手で隠し、できるだけ香也の下半身、つまり、「下」にとりついているノリから眼をそらしながら、明日樹は香也に話しかける。
「……その……いつも、こんなこと……」
「な、ないっ!」
 香也は力一杯否定した。
「こんなこと、滅多に……ここ数日だけのことだからっ!」
「……でも……狩野君、その……楓ちゃんや才賀さんと……それに、今だった、ノリちゃんが……」
「……んー……」
 香也は、天井を仰いだ。
「……ぼくが……本気になった彼女たちに、抵抗できるかというと……」
 実に説得力がある、しみじみとした口調だった。
「……できないよね……。
 普通の人は……」
 明日樹が頷こうとした時、
「あっ!
 元気になったっ!」
 と、ノリが大声をあげたので、明日樹は反射的に視線を下げ、完全に勃起した香也のものと、そこから顔を上げようとしていたノリの顔を、モロに見てしまう。
 明日樹は、すぐに顔をそむけて視線を逸らした。
「……あすきーおねーちゃん、やらないの?」
 ノリが怪訝そうな表情を浮かべる。
「おねーちゃんがやらないのなら、このままボクが先にやっちゃうけど……。
 この前、試してみた時は、ボクのほうがきつきつ過ぎて、まるで入らなかったけど……」
 ……この前、試してみた時は……って……と、明日樹は、かなりの不信感を覚える。
 やはり……この家では、頻繁にこんなことが起こっているのだろうか……。
 と。
「……ひっぐっちっさぁーん……」
 いぶかしがる明日樹の背中に、汗に濡れた、熱い肌がしなだれかかってくる。
「……だめ……れすよぉ……。
 え、えっちしないと……死んじゃうんですよぉ……」
 楓だった。
 しかも、呂律が回っていない。
「……この子……」
 少し離れたところで、ぐったりと明日樹にもたれかかった楓をみた孫子が、呟く。
「この間の時も、ひどく興奮していたけど……薬が効きやすい体質なのかしら……」
 孫子が冷静に解説する間にも、楓は「……んっっふっふっふっ……」と含み笑いをしながら、明日樹のそこここを撫で回す。
「……樋口さんの肌……白くてきめ細かくて、さわり心地がいいですぅ……」
「……わっ!
 ひゃっ!」
 明日樹は、たまらず声をあげた。
「……ちょ、ちょっと……楓ちゃんっ!
 そんな……んっ!
 やっ! 駄目っ!」
「……えーっ!
 なんでれすかぁ……」
 楓は背中から手を回して、ふにふにと明日樹の乳房を揉みしだく。
「……んふっ!
 樋口さんのおっぱいって、適度な弾力があって気持ちいいですね……。
 わたしのなんか、ふにふにでー……。
 あっ。
 なんか、先っぽが、硬くなってきましたよぉ?
 最初のうち、「……ちょっと、楓ちゃん」とか、「駄目だって、本当に」とか、いいつつ、楓にあらがっていた明日樹だが、そのうち、楓を振り払おうとする動きが緩慢になり、すぐに動きを止め、「……あっ! んっ! だ、駄目……」などと口だけの抵抗となる。
「……なるほど……」
 テンが、したり顔で頷いた。
「こういうのが、ラリっている、という状態なのか……」
 明日樹にセクハラしている楓のことなのか、それとも、楓の愛撫に応じはじめた明日樹のことを指すのか、よくわからない。
 おそらく、両方のことをいっているのだろう。
「……あーっ!
 おにーちゃんの、また大きくなってるぅっ!」
 ノリがまた、無邪気に声をあげた。
 すぐ目の前で身近な少女二人がいやらしい絡み合い方をしている以上、年頃の男子としては健全な反応なのだが、ノリに大声で指摘されると、とたんにいたたまれなくなる。香也は当然、その場から逃げ出そうとするのだが、ノリは香也の太股に抱きついてそれを許さない。
 楓は楓で、周囲の反応は眼に入らない風で、
「……大丈夫ですよぉ……。
 最初は痛いけど、こちらの準備をしておけば、ある程度緩和出来ますからぁ……」
 などといいながら、明日樹の股間に手を延ばしている。
「一度、例の薬を服用した以上、すぐに異性と性交しないと死んでしまう」と信じきっている楓にとって、明日樹と香也を交合させようとすることは、立派な救命行為であり、なによりも優先されることなのであった。
 明日樹の方も、同性とはいえ、これだけの大勢の目の前で……それも、香也も含んだ大勢の眼の前で、公然と性感を刺激される……という異常な体験により、涙目になりながら、急激に興奮していった。
 そもそも、「他人の手で秘処をまさぐられる」などということ自体、明日樹ははじめての経験である。
「……やぁっ……こんな……いやなのに……んんっ!」
 荒い息の合間に、途切れ途切れに、そんなことをいうようになるまで、いくらも時間がかからなかった。
「……ボクも、ボクもっ!」
 明日樹の反応をみて、面白いと思ったのか、ガクまでもが楓に習って明日樹の体にとりついた。楓は後ろから手を回して明日樹の胸や股間をこねくりまわしていたが、ガクは直接、明日樹の股間の前に陣取り、強引に膝を割る。
「……わぁっ!
 あすきーおねーちゃん、下まで滴っているぅっ!」
 明日樹の太股を大きく開くと、ガクは大きな声で事実を指摘した。
 その言葉通り、明日樹の陰毛と楓の指を伝わって、明日樹の愛液が畳の上に点々と痕をつけている。
「……やっ!
 あっ……あっ……」
 羞恥で顔を、いや、体中を真っ赤にした明日樹は、弱々しい動作でいやいやをするように、首を振った。
 そして、不意に、すぐ目の前にいる香也が、自分の股間をじっと見つめていることに気づき、
「……いやぁっ! 駄目ぇっ! 見ちゃだめぇっ!」
 と絶叫し、腿をあわせて自分の股間を香也の眼から隠そうとする。
「……なんで駄目なの?」
 しかし、きょとんとした表情で、ガクが明日樹の太股を押さえつけ、明日樹の秘処を香也の眼に晒し続けた。
「ほら……。
 おにーちゃんのおちんちんも、おねーちゃのここをみて、あんなに喜んでいるんだし……。
 隠す必要、ないよ。隠したら、おにーちゃんしょぼーんとしちゃうよ……」
「……んっっふっふっふっ……」
 恍惚とした表情で香也の分身を口で愛撫していたノリが、含み笑いをしながら、そう告げる。
「凄いよ、おにーちゃんの……。
 こんなにビンビンに、今にもはじけそうになっちゃって……。
 もう、全然、お口の中に入りきらないし……」




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「髪長姫は最後に笑う。」 第六章(249)

第六章 「血と技」(249)

 荒野は機械的な動作で、上下に重ねた双子の穴を自らの男根で交互に突き続ける。単一の女陰をピストンする時よりよほど緩慢なテンポになった筈だが、その分、刺激も少なく、たった今開通したばかりの姉妹の穴にはちょうどよかったのかも知れない。常に荒野によって塞がれているわけではない「もどかしさ」も、いいスパイスになったのか、酒見姉妹は、未発達な性感にも関わらず、いい具合に暖まってきた。
 頃合いをみて、香也は、上の酒見と下の酒見の間、つまり、腹と背中の隙間に自分の硬直を差し込み、長々と射精した。
「……あっ。あっ!」
「熱いっ! 若様のがっ! 熱いっ! 熱いっ!」
 自分谷たちの体の間にほとばしったものの熱と臭いに感応してか、それなりに盛り上がっていた姉妹も、感極まった声を上げてビクビクと体を震わせる。
 荒野が双子から逸物を引き抜くと、すかさずそばに控えていた茅が荒野のものをくわえ、口で清めはじめる。シルヴィも、すぐに茅を真似た。
 小柄でいかにも東洋人然とした茅と、この国では「ガイジン」にしか見えない金髪青眼のシルヴィとが荒野の前にひざまづき、膨らみかけの乳房と豊満な乳房を並べて、競うようにして荒野の男性を舐めあげている。
「……んふっ……」
 すっかり「スイッチの入った」表情になった茅が、普段の様子からは想像できない淫らな笑みを浮かべる。
「……荒野の……まだまだ……」
「……Yes……」
 シルヴィも荒野のものを舐めながらほほえんだが、茅の笑みと比べると、もう少し攻撃的な印象を与える笑みで……なんか、肉食獣が弱った獲物を目の前にした時のような、獰猛な微笑みだった。
「この硬さだと……まだまだ、いけるね……。
 今度は、カヤとコウとヴィの組み合わせで……」
 顔を近づけて一緒に荒野のものを舐めながら、シルヴィは時折、茅とも舌同士を接触させたりしている。スイッチの入っている茅も、あらがうことなく、シルヴィに応じている。
「……って!」
 もちろん、荒野は抗議の声をあげた。
「そっちは交代で休んでいるからいいけど……こっちは休みなしだしっ!」
「茅……まだまだ、満足してないの……」
「……これくらいのことで根をあげるなんて……。
 コウ……そんなに柔なわけ、ないね……」
 もちろん、荒野の抗議は、即座に却下される。
 実際の話し……荒野の体力からいえば、四人を相手に一晩中やりつづけても、まだ余裕があるほどなのだが……。
 この時は、まさか……実際にそうすることになるとは、思ってもいなかった。

 ということで、気がつくとそれから乞われるままに順番に女たちを抱いていると、時間はあっというまにたち、すぐに夜があけて朝になった。実際に荒野が相手をするのは、物理的にみても、せいぜい一人か二人が限度だから、体が空いた女たちは順番に仮眠をとったり冷蔵庫に有り合わせのもので料理作ったりしている。荒野も何度かシャワーを浴びたが、誰かしらが同伴して浴室内でいしゃつく。また、その夜、荒野が睡眠をとることは、当然のように許されなかった。
 毎朝かかさないランニングの時間になっても、茅が主要な仲間たちにメールで今日は休む旨、連絡し、結局、荒野が解放されたのは、登校する時間の一時間ほど前……だった。
 気づけば、約十二時間ほど、とっかえひっかえ誰かしらと交わっていた勘定になる。
『……人並み以上に体力がある、というのも……』
 考えもの、だよな……と、荒野は思った。

 時間がきたので、酒見姉妹はマンションから去り、荒野はざっとシャワーを浴びて、シルヴィと茅が用意した食事を平らげた。荒野の場合、睡眠不足には比較的耐性があるが空腹にはまるで耐性がない。ことに、夜通し肉体労働をした直後とっては、いくら食べ物があっても足りない気分だった。
「……もう、冷蔵庫、空っぽなの……」
 荒野の食欲をみた茅が、申し訳なさそうな顔を見せる。
「同じマンション内に、いい相談相手がいるじゃない……」
 シルヴィは携帯電話を取り出し、「……ハーイッ! 
 グッモーニン、センセイッ!」などとまくし立て、十分もしないうちにおかもちを持った三島がマンションを訪ねて来た。
 来るなり、おかもちの中から作りおきの総菜を次々と出しながら、三島は荒野の顔をみて、「いひひっ……」と意味ありげに笑う。
「……ゆうべは、かなりお盛んだったようで……。
 なんだ?
 同時に二人相手か?」
 その時の三島の笑い顔を見て、荒野は「品のない笑い方だなぁ……」と思った。
「……さっきまで双子がいたから、四人同時なの」
 茅が、恬淡と事実を告げる。
「……おおっ!
 四人同時の5Pかぁ!
 ついこの間まで、チェリーだったやつが、やるなぁっ!」
 三島が、おおげさな驚き方をしてみせる。
「……で、シルヴィ……。
 例の薬の効果か、これは……」
 三島は、今度はシルヴィに向かって小声で囁いた。
「それもあるけど……コウ、もともとタフネスだから……」
 シルヴィも、小声で囁き返す。
「……そっか……薬の効き目プラス、体力か……そうだな、基礎体力が乏しいと、欲望があっても体がいうこと効かないしな……」
「……センセイ……。
 あのチョコ、渡す相手、いるね?」
「……失敬なっ!
 わたしだって、セフレの一ダースや二ダース、いるもんねっ!」
 三島とシルヴィがそんなやりとりをしている最中にも、荒野は冷蔵庫に備蓄されていた食糧と三島が持参した総菜とを、黙々と平らげていく。

「……ごちそうさまでした……」
 荒野が手を合わせたのは、登校する時間の十五分前だった。
「……Stop!」
 そのまま、制服に着替えようと立ち上がる荒野を、シルヴィが止める。
「コウ……顔色悪いねっ!
 軽くメイクするっ!」
 そんなことをいいながら、シルヴィは自分のバッグを取り出した。
「……ええっと……」
 荒野が辞退する口実を思いつく前に、シルヴィは荒野の前に移動し、テーブルの上に化粧品を並べはじめる。
「顔色を誤魔化すための軽いナチュラルメイクね……」
 シルヴィは有無をいわさず、荒野の顔を「加工」しはじめた。

 五分後、仕上がった荒野の顔をみて、三島と茅が「……ほぉ……」とか、感心したため息をつく。
「……そんなに違うか?」
 荒野は手鏡をとって、加工後の自分の顔をしげしげと見つめる。
「いつものお前と全く違わないから、凄いんだ」
 三島が断言すると、茅もこくこくと首を縦に振った。
「……このメイク、したことで……その前の荒野が、ひどい顔をしていたことが、わかったの……」
 まあ……あれだけの重労働と徹夜、くわえて、おびただしい量の体液放出……を考えれば、無理もないか……と、荒野も納得する。荒野は、昨夜、自分が何回射精したのか、覚えていない。といより、あまりにも際限がないので、途中で数えるのをやめた。
 茅やシルヴィは、途中で休憩したり仮眠をとったりする余裕があった分、荒野よりはだいぶましな様子だった。
 荒野は、茅がシルヴィに化粧の仕方を習いたい、とか、いっているのを背中で聞きながら、制服に着替えるために別室に入った。ドアを閉じる間際に、
「……オーライ。
 わたしたち、もう、familyだもん……」
 というシルヴィの声が聞こえる。
『……family、ねぇ……』
 と、荒野は思った。




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